第一話

「おはよう、涼宮さん。最近嫌な事件が続いてるのね」
あたしが朝教室に着くなり阪中さんが話しかけてきた。
「おはよ。なにそれ?どんな事件?」
そう返事すると少し驚いたような顔をして教えてくれた。
「知らないの?最近この辺りで女子高生が誘拐される事件が続いてるのね。犯人はまだ捕まってないし…怖いのね…」
えっ?そんな事件があったなんて全然知らなかったわ…これは気になるわね…
「涼宮さんも気をつけた方がいいのね。それじゃあまたなのね」
そう言い残し自分の席へと戻って行った。
それと入れ替わるようにキョンが教室に入ってきた。
「おう、ハルヒ。おはよう。…どうした?」
ボーッと考え事してたからだろうか、あたしの顔を覗きこむようにたずねてきた。
…って顔近いわよっ!
「キョン!大事件よ!」
さっき聞いたばかりの事件をキョンに話した。
「ああ、その事件なら俺も知ってる。昨日のニュースでもやってたしな。
嫌な話しだぜ…」
なんだ、知ってたんだ…それなら話は早い!
「いい?これは放っておけない大事件だわ!早速今日の放課後からSOS団で調査開始よ!」
あたしは椅子の上に立ち上がり、しかめっ面をしたキョンへと高らかに宣言した。
「おい、ハルヒ!バカな事言うな。警察でも探偵でもない俺達に何ができる?」
むっ…なに呆れた顔してんのよっ!
「もし事件に巻き込まれたらどうするんだ…危険な目にあうかもしれないし…俺は…嫌だぞ、ハルヒがいなくなったりするのは…」
とつぶやくのが聞こえた。
「え…それってどういう―」
「と、とにかく事件のことは警察にまかせておけよ。わかったな?」
「わ、わかったわよ…」
急に話を終わらせたキョンにしぶしぶと答えるとちょうど岡部が入ってきた。
「みんな、おはよう。ホームルーム始めるぞ。それとハンドボールはいいぞ!」
岡部の戯言が耳に入らないくらいあたしはドキドキしていた。
さっきの言葉、どういう意味だったのかな…もしかしたらキョンもあたしのこと…好き、なのかな?
いつか…この大好きって気持ちをキョンに伝えたい。今週の不思議探索の時に…頑張ってみようかな…
その日あたしは授業中もずっと一人でにやけていた。かなり危ない人みたいね…今日はすごくいい日だわ!記念日にしてもいいくらいに。
そんなことを考えているとあっという間に放課後になった。
「キョン!掃除なんてさっさと終わらせて部室に来なさいよ!遅れたら死刑なんだから!」
「はいはい、わかってますよ。団長様」
いつもみたいな会話をして、一人で部室に向かった。
そして勢いよく部室のドアを開いた。

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「あ、涼宮さん。こんにちわー」
あたしが部室に入るとメイド服姿のみくるちゃんがお茶の準備をしようと立ち上がる。
「ヤッホー、みくるちゃん。あれ、有希と古泉くんは?」
「えっと、二人ともクラスの用事で遅れるそうです。さっき部室に来て涼宮さんに伝えておいてくださいって言ってましたよ」
温度計とにらめっこしながらみくるちゃんが答えてくれる。
「そうなの。…ん?」
机の上に置いてあるものに気づく。編みかけの…マフラーかしら。
「みくるちゃん、マフラー編んでるの?あっ、もしかして好きな男の子に?」
冗談めかして言ってみる。
「え?あぁっー、そ、それは…その…」
んー、顔を真っ赤にしたみくるちゃんも可愛いわね!
「実はキョンくんにプレゼントしようと思って…この前新しいお茶の葉をくれたからそのお礼に。このお茶がそうなんですよ」
瞬間的に思考が凍りついた。
嬉しそうな顔したみくるちゃんがあたしの机にお茶を置く。
ちょっと待って…キョンが?みくるちゃんに?いつのまに…?
自分の中で黒い嫉妬が生まれるのがわかる。
「えへへ、マフラー渡す時にキョンくんにわたしの気持ちを伝えようかなって、ふふ、そう思ってるんです」
その言葉を聞いて、さらに黒い嫉妬は叫びをあげる。
「そん……対……許……わよ」
「はい?どうしたんですか?涼宮さん?」
聞き取れなかったのだろう、みくるちゃんが側に来る。
「そんなの絶対に許さないわよっ!なによ!こんなお茶いらないわ!」
机の上に置かれたお茶を思いっきり床へ叩きつけた。 
ガシャーーンと陶器が割れる音が狭い部室に響きわたる。
「な、なにするんですか!せっかくいれたお茶なのに…」
泣きそうな顔でみくるちゃんが睨んでくる。
「SOS団は団内恋愛禁止なのよ?それを…あんたは!」
自分の感情を抑えきれなくなりみくるちゃんに掴みかかる。
「しかも…キョンだなんて…絶対に認めないわ!キョンはあたしのものよ?あんたなんかよりあたしの方がずっとキョンにぴったりだわ!諦めなさい!これは団長命令よ!?」 
「わ、わたしだってキョンくんのこと大好きなんです!諦めたくありません!それに…わたしの気持ちなんだから涼宮さんには関係ないじゃないですか!」
思ったより強い力で突き飛ばされあたしは尻餅をついた。
なによ…みくるちゃんのくせに!
目の前が怒りで真っ赤にそまる。
そして気がつくとあたしはみくるちゃんを思いっきり突き飛ばしていた。
「あっ…」
みくるちゃんが後ろに倒れると椅子に強く頭をぶつけ、ガンッと鈍い音がした。
しばらく苦しそうにうめいていたがやがて動かなくなる。 
ハッと一気に現実に戻った私は目の前の光景を見つめた…
「み、みくるちゃん?…嘘でしょ…?目を…開けてよ…」
震える手でみくるちゃんをゆさぶる…
でも…ぴくりとも動かない。
「そ…そんな…い、嫌…嫌あああああああああああああああああああああああ!」
叫び声が響き渡る。
どうして…どうしてこんな事に…どうすればいいの…
その時、ノックの音がして、部室のドアが開いた。
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「うー、寒い寒い。っ!おい!ハルヒ…なにやって…」
部室に入ってきたキョンが目を見開いてあたしをみつめる。
最悪…よりによってキョンが入ってくるなんて…
「なんで朝比奈さんが倒れてるんだ?なにがあったんだよ!なあ!ハルヒィ!」
大声で問い詰められて身体の震えがいっそう激しくなった。
どうしよう…このままじゃキョンに嫌われちゃう。嫌だ、嫌だ!そんなの嫌だ!
「脈がない…死んでる、のか…」
キョンがみくるちゃんの脈を確かめながらつぶやく。
「あ、あたしは悪くない…みくるちゃんがキョンの事好きだって言うから…つい…カッとなって…」
「…お前がやったのか?どんな理由があるにしろお前が朝比奈さんを殺したことには変わりないんだぞ!」
すごい顔をしながら睨んできた。
「だってだって…嫌だったもん!キョンがとられちゃうの嫌だったもん!」
必死になって言い訳を並べる…きっとあたしは泣きそうな顔してるんだろうな…
もうおしまいね…二度と今までの日常には戻れないだろう。
しばらく沈黙の時間が続く。やがて、
「…ハルヒ、聞いてくれ。俺がにいい考えがある…だから安心しろ」
さっきとはうってかわって ものすごく優しい声でキョンが言った。
最初キョンの言っている事がよく理解できなかった。てっきり怒鳴られてすぐ警察につきだされると思ってたのに…
「それって…あたしを助けてくれるって、意味…?」
「そうだ…こんな時だけど…俺はハルヒが好きなんだ!だから…離れたくない!」
「あたしも…嫌。大好きなキョンと離れたくない…ずっと、ずっと一緒にいたい!」
我慢しきれず涙がこぼれる。
「絶対俺がなんとかするから。頑張って二人で乗り越えよう。な?」
そう言って優しく抱きしめてくれた。
「うん…うん。二人で…頑張る!」
あたたかいキョンの腕の中で、あたしは泣いた。
こんな状況だけどすごく幸せで嬉しかった。
だってそうでしょう?ずっと好きだった人と両想いだったことがわかったんだから。
でも、この時あたしは気付いていなかった。自分の犯した罪の重さを、そして、どんな結末が待っているのかを…
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「とりあえず…もうすぐ長門と古泉が来るから急いで死体を隠さないとな」
キョンは辺りをみまわしながらいろんな所を探ってる。
「よし、掃除道具入に隠しておこう。後でもっとわかりにくい場所に移動させれば大丈夫だ」
キョンがみくるちゃんの死体、かばん、制服などを掃除道具入につめこみ、床にちらばった茶碗の破片を片付けた。
「これでよし…っと。ハルヒ、二人が来てもいつも通りふるまうんだぞ?」
「うん…わかった。」
私は団長机へ、キョンはいつもの場所へと座る。すると、
「いやあ、遅れてすみません。」
「……………」
相変わらず笑顔の古泉君と無言の有希が部室に入ってきた。
「おう。遅かったな。今日はどのゲームにする?」
「おや、あなたから誘ってくるなんて珍しい。そうですね、今日は―」
キョンの向かい側の椅子に座る古泉君。有希は窓辺に座って読書を始める。
私はネットサーフィンでもしようとパソコンの画面に集中する。けど、どうしても視線は掃除道具入へといってしまう。
「涼宮さん?さきほどから落ち着かない様子ですが、どうかされました?」
キョンとチェスを始めた古泉くんが聞いてくる。
「ああ、こいつ朝から体調が悪いみたいなんだ」
「そう、そうなのよ!でも平気だから気にしないで」
キョンのフォローで助かった。
「そうでしたか。ところで朝比奈さんの姿が見当たらないようですが、どこへ行かれたのでしょう。先程部室に顔を出した時にはいらっしゃったのですが」
いきなりみくるちゃんの話題が出て思わず息をのむ…
「あ…えっと…」
「朝比奈さんならお前らが来る前に用事を思い出したとかで先に帰っていったぞ」
またもキョンがフォローしてくれる。
でも、少しずつ身体が震えてきた…
「なるほど。…涼宮さん?本当に大丈夫なんですか?震えていますが…風邪ですか?無理なさらないほうが…」
心配そうな顔をした古泉くんが話しかけてくる。
「うん。そうね…今日はもう帰るわ。このまま解散にしましょ」
「おう。わかった」
「かしこまりました」
「……………了解」
それぞれに答えみんなが帰り支度を始めた時、
ガタッ…!
掃除道具入から音がした。 
っ…!なんで…!こんな時に!
みんなの視線がいっせいに掃除道具入へとむけられる。
気になったのか有希が立ち上がり掃除道具入の扉に手をかける。
どうしよう!まずい、まずいまずいまずい…
もう、ダメだ…諦めて目をつぶった時、
「長門、中のホウキが倒れただけだろ。気にするな」
有希を止める声が聞こえた。
「………………そう」
有希はほんの少し怪訝そうな表情を浮かべたが、やがて扉から手を離した。
それを見てあたしは気づかれないように息を吐き、そのまま椅子にもたれかかった。
本当に危なかった…キョンが止めてくれなかったら今頃…
「それじゃあお先に失礼いたします」
「………お大事に」
二人が先に出て行くと部室には私とキョンだけが残った。
「ふー、なんとか誤魔化せたな。大丈夫か?ハルヒ」
「う、うん…大丈夫…ありがと」
キョンは掃除道具入を開けて中を覗きこんだ。
「死体を運べるくらい大きなバッグを探してこなきゃな。ちょっと待っててくれるか?」
そう言うとキョンは部室を出ていこうとした。
「キョン!なるべく…早く戻ってきてね」
「ああ。わかってるよ。すぐ戻るからおとなしく待ってろよ」
キョンを見送って一人になると今さらながら自分のしでかした事に頭を抱える。
これから一体どうなるんだろう…
誰にも見つからないでうまく隠せるのだろうか…
私は椅子に座ったまま目を閉じた。

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最終更新:2020年08月17日 07:25