第5話 危機 『ハルヒ』と『神』

 

同級生に命を狙われ、『妖怪』同士の対決を見せられて、さらに夜には『妖怪大戦争』をリアルタイムで経験した翌日。

 

俺が、眠い目を擦りながら、机の中をみると、かるい既視感(デジャ・ビュ)を感じることとなった。

つまり、また、ハルヒが席にいないときに、手紙を発見したわけだ。

ただし、今回は誰が書いたのか。について悩む必要はなかった。前回の可能性②の予想のままに、きれいな封筒に入ったその手紙は女の子らしい筆跡で最後に朝比奈みくるの名前があったからだ。

 

『今日の昼休みに部室で待っています ♪ 朝比奈みくるより』

 

誰かが、朝比奈さんの名前を語っている可能性も否定できないが、SOS団室(文芸部室)には長門もいるはずだ。多分安全であろう・・・それに麗しの朝比奈さんの手紙を無視できるわけ無いじゃないか。

というわけで、俺は昼休みになるなり、そそくさと文芸部室に向かった。


トントン・・・とノックをする。以前、部室のドアを開けたら、朝比奈さんの生着替えをみてしまったわけで・・・

 

俺と古泉は必ずノックしてから入ることにしている。まあ、古泉は一応こうしているだけですよ?といっていたがな。中の様子はわかるんだな、あの微妙超能力者は・・・うらやましくなんてないぞ。

 

「はーい♪」

 

朝比奈さんらしい声が聞こえたので、俺はドアを開けたが、そこにいたのはたしかに朝比奈さんに似ている人物だった。しかし・・・

 

「あっ、キョンくん、ひさしぶり。また会えるなんて、夢みたい。」

 

俺が考えをまとめる前にその人は抱きついてきた。背が高く、以前抱きついてきた朝比奈さんよりさらにボリュームのある胸が俺に当たる・・・正直、たまりません。

 

「あっ、今、不謹慎なこと考えたでしょう?お姉さんはお見通しです。」

 

えっと、朝比奈さんのお姉さんですか?その女性はたしかに朝比奈さんにそっくりだったが、背も・・・胸もあきらかに朝比奈さんより大きく、よく似たお姉さんといった雰囲気だったのだ。

 

「違いますよ。わたしはわたし・・・朝比奈みくる本人です。ほら ♪」

 

さっきまでいた朝比奈さんが大人になったような姿をしていた女の人は、次の瞬間、朝比奈さんそっくりな姿になっていた。

 

「信じてもらえました?」

 

こくこく

 

「ちなみにドッペルゲンガーとか鏡の『妖怪』でもないですよ。例えば、ほらここのホクロとか。」

 

そういって、朝比奈さんは胸をちょっとだけはだけさせて、ホクロを見せてくれた。星型のめずらしいホクロだった。

 

「えっと、ホクロといわれても・・・俺はそれをみるのは初めてなんでが?」

 

ちょっとしどろもどろになりながら、答えた。顔が熱くなっていたはずだ。

 

「えっ?このホクロのことを教えてくれたのはキョンくんで・・・あっ、このときはまだ、そっか、どうしよう。」

 

朝比奈さんは、あたふたした様子で、それはそれで朝比奈さんらしい行動であったわけで

 

「あなたが朝比奈さんであることは信じます。でも、なんで俺をここに呼び出したんですか?あとさっきの姿は?」

 

お互い冷静になる必要を感じて、話を変えた。

 

「そうですね。実は、この世界の運命のとても重要な分岐点がせまっているのです。そこで、わたしは再び許可を得て、少しでもキョンくんの手助けをしたくてやってきました。後、さっきの姿はわたしがここの時代にいたころよりさらに未来からきたからです。」

 

つまり、さっきの大人の姿は朝比奈さんの未来の姿だったというわけか。何年後なんだろうな。

 

「この時代の朝比奈さんは?」

 

「このことは知りません。実際知りませんでしたから。今頃鶴屋さんたちと教室でお昼ご飯を食べているはずです。」

 

そして、俺に正体を告白したときのようなちょっと真剣な表情になった。

 

「時間がありません。2つだけお伝えします。一つ目は、長門さんに注意してください。」

 

長門が?昨日俺の命を救ってくれたあいつがおれになにかをするとは思えないのだが・・・

 

「長門さんに悪意はなかったんです。ただ、えっと彼女は生まれて3年程度だったの、それがちょっと問題でした。すいません、それ以上は禁則事項です。あ、これも久しぶりですね。」

 

まあ、俺は数日前に聞いたばかりですけどね。

 

「最後にひとつ・・・白雪姫って知ってます?」

 

「童話のですか?」

 

「そうです。これから危機に直面したら思い出してください。」

 

まあ、昨日同級生に襲われて、さらに『妖怪大戦争』を経験したばかりですが。。。

 

「それとは違うのです。そのとき、キョンくんのそばには涼宮さんがいるはずです。それ以上は・・・残念ながら、禁則事項です。」

 

こころしておきましょう。

 

「よろしくお願いします。わたしたちの未来につながる重要な分岐点なのです。おそらく世界の運命すら・・・」

 

また、世界ですか・・・めちゃくちゃ重いですね。

 

「涼宮さんの力というのは、そういうものだからです。よろしくお願いします。じゃあ、そろそろ時間ですから、失礼しますね。」

 

「わかりました、お願いされます。ところで、最後に質問をしていいですか?」

 

大人モードに戻り、ドアから出て行こうとする朝比奈さんは立ち止まった。 

 

「朝比奈さん、禁則事項でしょうから、あなたがいつから来たのかは聞きません。でもひとつだけ教えてください、あなたの正体は何ですか?」

 

朝比奈さんはかわらないきれいな栗色の髪をふわりとひらめかして、振り返り、笑顔でこういった。

 

「禁則事項です♪」

 

みたものすべてが恋に落ちそうなそんな天使のような笑顔だった。 

 


教室に戻り、残りの時間でせめておかずだけでも食べようかな。などと思って教室に戻ると、それすらハルヒに妨害された。

 

「あんたに話があったから、お昼も食べないでまってたのに、どこいってたのよ。」

 

その言葉、幼馴染が照れ隠していっている感じで頼む。

 

「はあ、なにいってるのよ。今日は部活のとき話があるから、必ず来なさいよ。」

 

まあ、いわれなくても部活には顔をだすつもりだったが、なぜ念押しされるのかわからなかった。しかもハルヒは怒りのオーラを身にまとっているし、背中に殺気を感じます・・・誰か助けて・・・

 

 
「で、この紙はいったいなんなのかしら?」

 

現在の状況、SOS団室(文芸部室)内、目を怒らせているハルヒから俺は問い詰められている。生命の危機すら感じるぞ。

 

原因はいたって簡単だった。ハルヒは昼休みにはさみを忘れたことに気づき、俺のかばんを漁った。(おいおい・・・)で、あれをみつけちまったんだな。これが・・・

 

そう、それは昨日俺が朝倉からもらった手紙だ。昨日のあわただしさでかばんにいれたまま忘れていたのだ。・・・朝比奈さん(大)からの手紙はきちんと持ってSOS団室にいっていたのが不幸中の幸いってやつだ。

 

しかし、言い訳はしないとな。なにせ、傍目には告白のために呼び出された文章にしかみえないからなあ。

 

『放課後誰もいなくなったら一年五組の教室に来て』 

 

はあ、俺はかばんの奥で寝ている『ナイフ妖怪』をうらめしく思った。

 

「これ、朝倉の字よね。」

 

「まあ、そうだな。」

 

否定しても無意味だろう。朝倉はクラス委員長だ。ハルヒがクラスメイトにいくら無関心でも記憶力はたしかだ。HRとかでみたことがあるだろう朝倉の筆跡を記憶している可能性は高い。ごまかしが通じる相手ではない。

 

なにせ、ミステリー研仮入部の際には、出されたミステリークイズとやらをひとつ残らず正答したらしいし。ホームズの踊る人形を一回みただけで全部覚えるって、お前は人間かよ。まあ、普通の人間じゃないわけだが・・・

 

「つまり、朝倉から告白されたと・・・それで朝倉は今日からなんか入院とかの理由で休んでるんだけど?一体なにがあったのかしら?」

 

はい、命狙われましたと答えるわけにはいかないわな・・・どうするよ?俺。
俺は、窓際で本を読む恩人?に無意識に視線を向けた。

 

「なんで、有希に視線を向けるわけ?有希が何かを知っているとでも?」

 

「知ってる。」

 

お、長門の助け舟だ。俺は大型船に救助された漂流者のような気分になった。

 

「朝倉涼子は今精神的ショックで寝込んでいる。」

 

頭の中で俺を助けてくれた大型船は氷山に激突していた。たしかに、朝倉は長門に負けて、ナイフ形態で眠っているわけだが・・・

 

「ふーん、そのショックって どうして起こったの?」

 

「襲ったから」

 

・・・その大型船は有名な四本煙突の豪華客船だった。沈没まであとわずかだ。どうしよう。

 

たしかに、長門の発言に間違いは無かった。

 

 朝倉は、俺を『襲って』、長門に敗れて、『精神的ショックで眠っている。』と言いたいのだろう。

 

しかしだ、今の長門の発言を元に連想したら、こうならないか?

 

『俺が』、朝倉を『襲って』、『精神的ショックを与え』、そのショックで朝倉は寝込んでいる。

 

・・・俺、犯罪者確定?弁護してくれそうな存在は・・・古泉はついさっき「バイトです。」と慌てて出て行った。

 

朝比奈さんは、どうしたものかとおろおろしている。

 

長門以上に饒舌かつ当事者で説得力ある説明をしてくれそうな朝倉は・・・しばらく、ナイフ形態から戻れない。

 

・・・終わった。\(^o^)/


「ふーん、あんた、委員長萌えだったわけ?SOS団から犯罪者が出るなんて・・・団長として引責辞任ものよ。」

 

目がマジだ・・・ハルヒはかなり怒っている。冗談では通りそうにないし・・・やれやれ、どうしたものか・・・

 

俺は、昼休みの朝比奈さん(大)の警告の意味を今更ながら理解していた。人生経験の少ない長門には、最低限の言語が与える誤解というものがよくわかっていなかったのだ。
 
「ま、まて。朝倉が退院してくれば・・・」

 

朝倉の家に行くまたはお見舞いに行くという選択肢の無い選択ウィンドウが悲しい。まあ、朝倉はここにいるわけだしな・・・それに、朝倉の仲間がいてもそれは敵だろう?

 

「言い訳は見苦しいわよ、キョン。まあ、SOS団員ってことで、あたしたちから通報はしないであげるわ。みくるちゃんも有希もいいわね。これが最後の情けよ。おとなしく自首しなさい。まったく、襲うなら・・・」

 

ハルヒが口ごもったので最後の部分は聞き取れなかった。

 

「とりあえず、キョンは今日は家に帰ってよっく考えなさい。あたしもSOS団の今後を考えないといけないから。」

 

そういって、ハルヒは床を10回、ドアを1回蹴飛ばして、帰っていった。・・・ハルヒよ、そのドアは引き扉だ・・・。
蝶つがいが壊れた部室のドアは悲しげに揺れていた・・・

 


「えっと、キョンくん・・・わたしはキョンくんを信じてます。涼宮さんの誤解も解けると思います。ただ・・・」

 

しかたなくドアを修理している俺に、朝比奈さんは慰めようと声をかけてくれた。すごく不安そうな表情が浮かんでいたが・・・

 

「言語による情報の伝達に齟齬が発生した。申し訳なく思う。」

 

長門もそういってきた。いや、長門に弁護を求めてはいけないのは朝比奈さん(大)から警告されていたのに、それを失念していた責任は俺にあるし、長門は命の恩人だ。恨む気にはなれない。

 

「だいじょうぶです。朝倉が退院してくれば、問題は解決しますよ。」

 

時間が経過し朝倉が人間形態に戻れば、誤解は解けすべてが解決すると考えていた。即断即決・直情径行、待つという選択肢をまったくもっていないハルヒの性格のことを俺は失念していたのだ。このときは・・・それがあんなことの原因になるなんてな・・・

 


その夜は、朝倉復活まで針のムシロに正座しているような気分になることが容易に予想できる一週間弱、部活を休もうかなどと思いながら、朝比奈さんの甘露と針のムシロを天秤にかけながらひたすら悩み、それでもなんとか眠りについた。
 ハルヒの一瞬みせた悲しそうな顔がちらついていたのは気のせいと信じている。

 

 

 そして、翌朝を迎えるはずだった・・・しかし、まさしく新約聖書のメシアの言葉を守るように、それはすぐに来たのである。

 

 

「キョン、キョン、起きなさい。」

 

「あと、5分・・・」

 

妹のフライングボディプレスが来るまでの癖でそう答えていた。

 

「ばかキョン!とっと起きなさい。」

 

それは、妹の声ではなかった。キンキンとよく響くこの声は・・・

目を開けると、ハルヒの輝く瞳が目に入った。その後ろの空が夜空の黒ではなく、灰色をしていたからその瞳は普段よりさらに輝いて見えた。・・・灰色?ここは閉鎖空間か?

 

「気づいたら、制服でここにいたのよ。隣にやっぱり制服姿のあんたがいて・・・なに、この灰色の世界、なんか・・・気持ち悪い。昔の・・・」

 

ハルヒ、怖ければ腕につかまっても構わんぞ。

 

「するわけないでしょ!」

 

よしよし、これでこそハルヒだ。まずは確認だな。

 

「古泉を見なかったか?」

 

「なんで、古泉くんなの?みてないわよ。とりあえず、これからどうする?学校から出る?」

 

どうだろうな・・・この空間がどの程度の広さか不明だが、一定範囲以上は多分・・・

予想の通りだった。今回の閉鎖空間は北高の敷地全体だけを覆っていた。透明な壁に阻まれてそれ以上は出られそうになかった。

しかたないので、職員室で鍵を調達し、SOS団の部屋へ行く。

 

「とりあえず、喉渇いてないか?」

 

そういって、俺はハルヒにお茶を勧める。朝比奈さんの甘露には程遠いだろうがな・・・

 

「あんた、あまり驚いてないのね。」

 

いや、驚いているさ。ここに俺とお前しかいないことにな。

 

「電話とか通じないか調べてくる。キョンはここにいて。動いちゃだめよ。」

 

こんな状況でも仕切るのはさすがハルヒといったところか。

俺は、ハルヒに言われた通り、SOS団室に留まった・・・ここにいるのが一番確実という確信があったからだ。その予想は、完全には当たらなかったが概ね正しかった。

 

「いやあ、遅くなりました。」

 

窓の外にいたのは、古泉の声でしゃべる白いカラス(普通サイズ)だ。多分、古泉で間違いないだろう。普通に姿を現すと思っていたのだがな、この微妙超能力者なら。

 

「遅かったじゃないか。」

 

「時間がありません。はっきり言ってこれは異常事態です。」

 

発言内容に比べて、古泉の声に緊張感はない。多分、向こうではあの笑顔だろうと想像できるよな声だった。

 

「どういうことだ?」

 

「ここは普通の閉鎖空間とは違います。隠里への入り口を開くことができる仲間たちの総力でもこの『白いカラス』の分身が通れる大きさの穴しか開けませんでした。しかも、今はほぼ完全にふさがっています。僕がここから弾き飛ばされるのも時間の問題でしょう。」

 

つまり、ここには俺とハルヒしかいないということか?

 

「そういうことです。涼宮さんの力が原因なのは間違いありません。しかし、これからどうなるかはまったく見当がつきません。」

 

おいおい・・・ハルヒと二人でこんなところに閉じ込められるのか?助かるかもわからない状況で?

 

「いいじゃないですか。アダムとイブですよ。『神』があなた方にエデンの園を準備したのかも知れませんよ?」

 

殴るぞ・・・ずいぶんと殺風景なエデンの園だな。蛇どころか多分ねずみ一匹いない。

 

「おっと時間が・・・」

 

カラスの姿は今ではスズメ程度まで小さくなっていた。

 

「最後に、朝比奈みくると長門有希から伝言です。朝比奈みくるからは『信じてます』と、長門有希からは『PCの電源を入れるように』・・・とのことでした。では、また、会えることを・・・」

 

古泉の姿は小さくなり、小さな白い玉になって消えていった。

 


PCの電源?

俺は、団長席のPCの電源ボタンを押した。OSの画面が立ち上がる様子は無い。しばらく、黒い画面をみていると。。。

 

YUKI.N >(*^ー゚)ノ ぃょぅ  みえてるかな?

 

長門・・・なのか?

ああ、みえているぞ。

 

YUKI.N >この回線もあとちょっとしか持ちそうにないの。だから、ちゃっちゃっと話すよん。

 

・・・長門が壊れた・・・というわけじゃないな。これもこいつの特徴と考えるべきだ。

 

YUKI.N >えっとね。『かくれざと』っていうけど、どっちかというと『妖怪の巣穴』みたいなものなのよん。
       だから、そこにも『巣食う妖怪』がいるって考えるほうが自然なのよね。
       『神人ちゃん』がそうなのかもしれないけど・・・ちょっと疑問なのだよ、ワトソンくん。
      結論いっちゃうと、今のわたしでも何が起ころうとしているのか、というかそいつが何しちゃおうとしてるのか

     はぜんぜんわかんないの。
      正直お手上げ ┐(´ー`)┌
      しかたないので、せめて護衛役をおいといたよ。(  ̄ー ̄)  ニヤリッ
      わたしが、最初に読んでた本の間にあるよん。説明書はきちんと読むんだぞ?
     
判りにくいが・・・とりあえず、本を探せばいいのか。

 

YUKI.N >後は、あなたを信じるしかないね。こちらの世界のためにあなたたちは必要だと思うのん。だから、戻ってきてね。
      それに、わたしという個体もあなたに戻ってきてほしいと思ってるの。ちょっと、はずかしい(*^-^*)けどね♪

 

YUKI.N >また、図書館に・・・

 

YUKI.N >Prince

 

その言葉を最後にPCはまったく動かなくなってしまった。

 

 
長門が最初に読んでいた本か・・・たしかこれだな。

かちゃり、という音がして、みたことのある紙の鞘に包まれたナイフが落ちてきた。これは・・・俺にかばんにしまっておいた朝倉じゃなくて、ミセリコルデとかいう西洋の短剣だな。

 

『痛いわね。あら?わたし、なんでこんなところにいるわけ?』

 

朝倉か?何でここに?たしか、こいつは俺のかばんの中の隠しポケット(普段は、男子高校生のためのひみつ空間)にしまっておいたはず。

 

『あら、質問に質問で返すように学校で教わったかしら?』

 

・・・えっと、すまん。今はこいつが最後のよりどころなのだ。
で、説明書がこれか、ナイフのあったページに長門文字の説明書きがあった。

 

『注意:鞘から取り出すと人間形態に戻る。でも、一週間経過していないと、殺人鬼モード(怖いよ(*´・д・)(・д・`*)ネー)が健在なので注意しないと駄目だぞ。(・∀・)ニヤニヤ 』

 

丁寧なのかよくわからん説明だが、今朝倉を鞘から出すと、襲われるかも・・・ということか?

 

「とりあえず、事情を説明する。ここは・・・」

 

『必要ないわよ。今朝から起きてはいたから、それに殺人鬼が周囲の物音に鈍いと思うの?』

 

なるほど、聞こえてはいたというわけか・・・『妖怪』ってのはよくわからん。

 

「で、どうしたらいい?」

 

『それはあなた次第じゃない?わたしを信じてここから出してくれれば、涼宮さんの誤解を解く協力をするかも知れないし、あなたを殺してここから脱出するってのもありかもね♪』

 

こいつは・・・

 

・・・俺は、何も言わずに鞘からナイフを取り出し、床に置いた。

 

「あら、信じちゃっていいの?」

 

「俺はお前を信じる。裏切られたら、その時はその時だな。」

 

朝倉は、消えたときの姿・・・つまり北高一年五組の委員長に戻り、不可思議とでもいう風に俺を一瞥した。

 

「そう・・・ただの人間だと思っていたけど、ほんとに不思議なひとね。涼宮さんが興味を持つわけだわ。」

 

そうかね。単にジタバダするしかないなら、できる限りのジタバタをしようとしているだけだがね。

 

「まあ、いいわ。とりあえず、涼宮さんを探しましょう。」

 

とりあえず、俺を襲うという選択肢は選ばないでくれたらしい。

 

「あ、ああ・・・」

 


俺と朝倉が部室を出て、ハルヒを探しに行こうとしたとき、窓から光が差し込んできた。青い・・・どこかでみた光だ。

 

「神人・・・」

 

呆然とつぶやく声は俺のものだ。

朝倉は険悪な表情で窓の外を睨んでいる。

 

「ちょっと、キョンなにあれ!?って、涼子。」

 

ハルヒは部室の扉を壊さんばかりの勢いで飛び込んできて、俺と朝倉がいることに驚いているようだった。

 

「こんなところでも逢引なの?」

 

「いや・・・涼宮それは・・・」

 

まだ、心の準備ができていなかった俺はしどろもどろだった。

 

「今はそれどころじゃないわ。ここは危険よ、ついてきて・・・涼宮さんを頼んだわよ。」

 

朝倉は、そういうと部室飛び出していった。

 

「涼子、逃げるの!」

 

ハルヒはそう叫んでいたが、俺はハルヒの手を掴んで朝倉を追いかけることにした。

 

「馬鹿っ!それどころじゃない、ほら、行くぞ!」

 

今は朝倉の指示が正しいだろう。あの神人がこの部室棟を攻撃しないという保障なんてない。
あれは、ビルを一撃で破壊できるだけの力がある。それは、昨夜みせてもらったばかりだ。

 

近くでみた神人は昨夜よりはるかに巨大に見えた。動き出さないのが幸いだった。
 

 


「おかしいですね。選ばれた人間一人だけのはずなのですが・・・」

 

声だと?この閉鎖空間に他に誰かいるのか?

 

グラウンドまで逃げた俺たちの上、灰色の空から、声が聞こえてきた。神秘的な、しかしどこか蔑むような色の混じった声だった。

 

「隠れてないで出てきたら?」

 

朝倉は、灰色の空の一点を睨んで笑顔でそういった。

 

「いけませんね。慈悲の短剣らしからぬ言葉ですよ。」

 

「あなたに言われたくないわね、サンダルフォン。」

 

「ほう、ばれてましたか?」

 

そこに姿を現したのは、『神人』ほどではないが、巨大な、それに白い翼を供えた人間のような姿をした存在・・・簡単にいえば、天使ってやつだ。

 

「あの戦いで全滅してはいないといわれていたしね。ザ・ビーストの情報力を甘くみないでよね。」

 

朝倉は笑顔のまま、しかし警戒するような口調でそういった。俺も、この『天使』というやつから敵意を感じていた。

 

「わたしのことがわかったとして、あなたに何ができます?もうすぐ、あの御方が降臨されます。この空間には『あれ』は干渉できませんし、この国の連中にしても同じですよ。」

 

「・・・そうね。わたしにできるのは、あなたの妨害くらいね。」

 

「そういうことです。もうすぐ、三年間待ち望んでいたときが来るのです。邪魔して欲しくないですね。」

 

そういって、サンダルフォンと呼ばれた天使は、神人の方に目を向ける。

 

神人は姿を現してから不思議なことに動く様子がない。しかし・・・大きくなっていないか?
神人はその大きさを増し、どこか神々しい雰囲気をかもし出していた。そう、まるで神をイメージしたら、こんな風になるんじゃないかという雰囲気だ。


「サンダルフォン。少し時間くらいもらえるかしら?」

 

「ふっ、構いませんよ。わたしは争いは嫌いですし、あの御方が復活されればすべて片付きますからね。兄弟たちも再臨します。わたしが手を汚すまでもありません。別れの言葉をいう時間くらい差し上げますよ。」

 

いやなやつだ・・・天使に抱く感想としては不適切かもしれないが、テレビドラマの陳腐な悪役のようなその発言と蔑む声色は、その姿とのギャップもあり、実に不愉快だ。

 

朝倉は、俺には聞こえないようにハルヒに耳打ちした。ハルヒは驚き、その後、顔を真っ赤にしていたが・・・なにをいったんだ?

 

「そういうことだから、涼宮さん、お幸せに。」

 

そういって、ハルヒから離れて、つぎに俺に耳打ちしてきた。

 

「涼宮さんの誤解は解いておいたから、あと、わたしの能力はここでも使えるから、サンダルフォンをなんとかする。あなたたちは逃げる方法を考えて!」

 

「おいおい、朝倉。」

 

それは、死亡フラグってやつだろうが・・・殺人鬼の、ではないけどな。

 

「時間がないから、後は任せたわよ。それじゃ、涼宮さんとお幸せに。」

 

朝倉のその言葉と共に、朝倉も、サンダルフォンと呼ばれた天使も、神人も姿を消し、俺たちはグラウンドに取り残された。

 

 

・・・違うな、これは朝倉の能力だ。おそらく、俺たちの周囲に結界を張っているのだ。つまり、姿を消しているのはむしろ俺たちと考えるべきなんだろう。

 

「涼宮・・・」

 

俺は混乱していた。時間がない。頭の中はまとまらない。

 

「なによ。」

 

「お前にはなにが起こっているか、わかるか?」

 

「そうね。あたし自身が不思議な体験をしてるってことくらいね。天使とか巨人とかちょっと楽しいかも・・・」

 

相変わらず能天気なやつだ・・・しかし、おかげで少し頭の整理ができそうだ。

 

神人はまるで神のような姿になりつつある。そして、古泉に言わせると、ハルヒには『神』の力と呪いがかかっている。
そして、あの天使の発言・・・

 

要するに、『神人』ってのは『神のさなぎ』みたいなもんだったんだ。そして、今、『神』が羽化しようとしているわけだ。
人類を絶滅させようとしたたちの悪い、しかし、全知全能の『神』とやらが・・・

 

防がなくてはならない・・・のかな。

やれやれ・・・俺はこんな主役的立場は望んでないぞ、と苦情を言いたくなった。しかし、このままでは言う機会も相手も失うんだな・・・

 

「ハルヒ、お前こんな世界が楽しいか?ここには何もないし、誰もいないぞ。」

 

「うーん、よくわかんないけど、あたしはずっと孤独だったから、今わくわくしてることの方がいい。」

 

こいつが孤独だったのは、『神』の呪いのせいだったはずだ・・・ハルヒをここまで追い込んだ『神』に怒りを感じた。

 

「俺は断る。こんな世界はいやだ。どこかの誰かに運命を委ねるのもごめんだ。それに、俺はあいつらと一緒に居たいと思う。長門、朝比奈さん、古泉、国木田、谷口・・・やつらと一緒に世界を体験したい。」

 

「なによそれ!あたしと一緒じゃ駄目ってこと?」

 

「そうじゃない。俺にとってお前は・・・」

 

長門風にいうなら言語での情報伝達では不完全だ。ハルヒを説得するには・・・

 

俺が、朝比奈さん(大)と長門のヒントを思い出した。

朝比奈さんは「白雪姫」と、長門は「Prince」といっていた。もしかして、それはこの状況へのヒントだったのでは?朝比奈さん、長門、もしかして俺にそんなベタなことをやれと?

 


パリーン・・・ガラスが砕けるような音が響く・・・

 

「てこずらせてくれましたね。」

 

無傷の天使とぼろぼろの姿で横たわる朝倉の姿がみえる・・・朝倉、お前そこまで・・・おそらく、サンダルフォンを止めるため命がけで戦ってくれたのだ。時間を稼ぐために、絶望的な戦いを・・・

 

「しかし、もう終わりです。力を受けついだ人間よ。こちらに来なさい。世界を変えるのです。」

 

 天使のくせにイブにリンゴを勧めたという蛇のような発言だな。

 

「ハルヒ、お前の孤独はこいつらのせいだ。それにもう、お前は孤独じゃない俺がいる。長門も朝比奈さんも古泉もそこの朝倉さえ、お前のことを気にかけてた。むしろ、世界はお前のためにあったんだ。」

 

天使の誘惑にハルヒ耳を傾けないように俺は叫んだ。

 

「小ざかしいですね。力仕事は嫌いなんですが、邪魔されたくはありませんからね。ごみが、これでもくらいなさい。」

 

そういって、サンダルフォンは俺に手を向けてきた。おそらく攻撃してくるつもりだろう・・・

 

ヒュン! 

「ぐっ!?なんだと・・・」

 

風を切る音がして天使の手にはナイフが刺さっていた。そう、朝倉の本体 ミセリコルデだ。

最後の機会だ!

 

「ハルヒ、俺、実はポニーテール萌えなんだ。いつだったか、お前のポニーテール反則的なまでに似合ってたぞ。」

 

「はあ?バカじゃないの、こんなと・・・」

 

抗議の声をあげようとするハルヒの口をふさいだ・・・もちろん、俺自身のくちびるで・・・だ。ハルヒがどんな表情をしていたかは知らない。こういうときのマナーを守って目をつぶっていたからな。

周囲の世界がどうなっていたかも、見てはいない。しかし、なにかの絶叫のようなものが聞こえた気がした。

 


目を開いたとき、最初に視界に飛び込んだのは、見慣れた俺の部屋の天井だった。

 

・・・夢か?夢なのか?・・・

夢にしてはいやにリアルで、くちびるには感触が・・・

・・・フロイト先生、爆笑してください・・・

 

ジギスムント・フロイトが知人にいないことに心底感謝した。いたら、何と言われることか。
おそらく、夢判断とやらを聞いた後、朝倉にナイフを借りにいくところだ。こんなときこそあいつの出番だろうし・・・

 

『あら、それはわたしが慈悲の短剣だからかしら?』

 

かばんの中から声が聞こえた気がした。気のせいだったが・・・そういえば、朝倉はどうしたろう。


 あれが夢だったのか、それとも現実だったのか・・・
 いずれにせよ。ひとつ確かなことがある。
 その後一睡もできなかった・・・


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