何とか平常心を保たないと…僕と鶴屋さんが付き合って…るんだよね?
まぁその、鶴屋さんとちょくちょく会ってる事がバレるのはあまり好ましいとは言えない。
とりあえず早く切り上げよう…!

あの、涼宮さん…僕は何で呼ばれたのかな…

「ふふん。あんた、ここ最近テンション低かったと思えばニヤニヤしたりでおかしかったでしょ」

うぐ、それあんまり鶴屋さんの前では言ってほしくないなぁ。

「それでおととい、あんたを尾行したところ鶴屋さんの通ってる大学に入っていったから…」
び、尾行ってそんなことしてたのっ!?

「話は最後まで聞きなさい!だから鶴屋さんにあんたの表情の謎に関する情報を集めてもらうことにしたの」
え…?それはちょっとまずいんじゃないだろうか。

鶴屋さんの方をちらっと見ると満面の笑顔だ。

「そしたらその日のうちにすっごい情報があるなんて返事が来たから、あんたを告発する為に来てもらったってわけ」

す、すっごい情報って…悪い予感がする…!
今ここには爽やかに笑ってる古泉くんと、
見たこともないほど分厚いハードカバーに目を落としている長門さん、
卒業したのにまだメイドさんをやってる朝比奈さんに、
苦虫をかみつぶしたような顔のキョンがいる。

で、でもこれだけの人数がいるし、鶴屋さんもまさかまずいことは言わないよね?言わないでほしい!

「あたしも早く聞きたいのよねー。じゃあそろそろ発表しちゃってよ!」

「いっくよーっ!」
鶴屋さんの今日の第一声はやたらに明るく弾んでいた。

「あたし、国木田くんと付き合ってるんだっ♪」
--------------

時間が止まった気がした…。
ま、まさか本当にこんな所で交際宣言するなんて…
僕はキョンと涼宮さんが異口同音に「な」を連発しているのを聞きながら、
顔がかーっと熱くなっていくのを感じていた。
鶴屋さんは、涼宮さんや僕達のリアクションが面白かったみたいでケラケラ笑ってる。
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とまぁ、状況はこんな感じだ。
俺は国木田が恋患いをしているのは知っていたものの、その相手がまさか鶴屋さんで…
彼女の口から唐突に交際宣言を聞かされるとは全く思っていなかった。
今は俺とハルヒと…彼氏である(ムカつくぜ)国木田の顔を見ながら大笑いしていらっしゃるが… 

予想外だったのは国木田の身辺調査を依頼したハルヒも同様らしく、顎をガクーンと落として立ち尽くしている。

いやいたのだが、しばらくして口をキュッと閉じ、ゴクリと唾を飲み込み空咳をしたと思うと、
とてつもなく失礼な事をとてつもない大声で抜かしやがった。

「つ、鶴屋さんあなたショタ萌えだったの!?」

--------------
「あっはっはははっ!そんなんじゃないっさ♪
いいかいハルにゃん、国木田くんはかわいいだけじゃないんだよっ」

鶴屋さんの言葉に、僕だけじゃなく涼宮さんまで何故か赤くなっていく。

「おとといなんかさっ、」 「わーわーわーっ!だめだめ!」

自分でもビックリするくらい大きな声を出してしまった。恥の上塗りだ…

「あ、あんたのその反応…ホントにホントみたいね…」
もう観念するしかないと思って、とりあえず頷く。
そしたら涼宮さんがはぁああああっと長いため息をついた。どういう意味だろ?


「仕方ないから認めるけど…あたしが気になるのは…」
不機嫌な目付きでぐぐーっと首を回し、ある方向に固定する。
その視線の先ではメイド服の先輩がビクッと肩を震わせていた。
「みくるちゃんがぜんっぜん驚いてないことよっ!」
「ええっ…?えでででもっ」
確かに僕も不思議だ。イメージ的には一番あたふたしそうな感じだけどなぁ。
「僕もそれは疑問ですね。何か秘密があるように思いますが」
…何だかよく分からないけれど、
古泉君や長門さんは僕と鶴屋さんが付き合ってる(鶴屋さんがそう言ったしもういいよね)事はどうでもいい感じだ。
今の言葉も純粋に僕と同じ疑問を持ったってよりはただ…何て言うか涼宮さんに同調しただけのような。
SOS団って、どうも普通の友情みたいなものの繋がりじゃない気がする…

何だかはよくわからないけどさ。

「みくるちゃん、何か隠してるわね?」
「わわたしは何も知りませんっ」
「嘘つかない!さっさと吐けーっ!」

朝比奈さんをもみくちゃにしている涼宮さんを止め、追求に答えたのは鶴屋さんだった。

「ごめんねハルにゃん、みくるは結構前から知ってたんだよっ。色々相談したいこともあったからねっ」
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鶴屋さんは何て事ないように言ったけれど、僕はその言葉の意味がわかって茫然自失状態だ。
それって、そういう事だよね?

涼宮さんと朝比奈さん、それに鶴屋さんが楽しそうに会話している。
それに古泉君が合いの手を入れて、長門さんが本を読み…
キョンが僕の方に視線を向けたのを感じたけれど、

僕は鶴屋さんの夕日の後光を受けている横顔-笑顔-から目が離せずにいた。

会話が途切れ、彼女が僕の方に笑顔を向ける。

いけない、泣いてしまいそうだ。

つと下を向くと鶴屋さんがてててっ、と駆け寄ってきて…

「今日は帰るっさ♪ごめんねみんなっ。また何かあったら呼んでよっ」

と言ったと思うと僕の手を引いて部室のドアをくぐり、
まるで遥か彼方の人にそうする時のようにぶんぶんと手を振った。

「国木田っ…えと、ちゃ、ちゃんとするのよ!いいわね!」

涼宮さんのよく分からない言葉は、きっと励ましだろう。
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「制服デートって、こういう事だったんですね」

「黙っててゴメンねっ。あぁしないとハルにゃん納得しないだろうし、
あたしとしてもみんなに早く知ってもらいたかったからさっ」

びっくりしたのは確かだけど、嬉しかった気持ちの方が大きいや。
そう思ったけど、口には出さない。

言葉を出さずに歩いていると怒ってると思われたのかな、鶴屋さんが慌てたように喋り出す。
「ああのさっ、あたしあの時すっごい嬉しくて、照れちゃって変な返事しか出来なかったけど」

「やっぱさっき部室でしたような間接的なのじゃダメだと思うんだっ。
あたしの方が…さ、先だったわけだし」
珍しく赤い顔で俯きながら話す鶴屋さん。
どっちが先かなんてどうでもいい事だけど、図書館で会ったあの日より前から
彼女が僕に好意を持ってくれていたって事は僕の思い上がりじゃなかったみたいだ。

おととい、二人で見たいと思っていた景色…夕日に染まる鶴屋さんの家の前まで沈黙が続き…

「だから言いたいんだけど、あた…」

言葉が途切れる。

彼女の顔が僕の肩に(背が低いから胸にと言えないのが悔しい)押し付けられたからだ。

続きを聞きたい気持ちもすごくあったけど、これはかなり大事な事だよ。

あなたが言ったんだ。大事な事は行動で示すって。
だから今度は飾った言葉じゃなくて、行動で言うよ。
こういう事、女の子に言わせるのはダメだと思うしね。
腕に力を込め、彼女の長い髪をとかしながら頭の中で言う。

「あなたが好きです」


…半拍して彼女がぎゅっと押し付けた顔が、確かに返事を言ったような気がした。


おしまい

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最終更新:2008年05月22日 15:42