私にはもう以前のような力はない。
高校卒業と同時に涼宮ハルヒの力が失われ、情報思念体は私を回収する意向を示した。
だが、私は断った。…彼と離れる事が嫌だったから。
情報統合思念体はこのエラーをバグととらえた。そう通告された時、私は消されることを覚悟した。
だが、消されたのは私の力だけだった。同時に、私の体をただの人間と全く変わりないものにして最後に言い残した。
 
『卒業祝いとして受け取りたまえ』
 
 
今、私は彼と共に過ごしている。
大学卒業後、彼はサラリーマンとして働いている。私を養う為に。
私はもう長門の姓ではない。左手の薬指には彼から贈られた指輪が光っている。
朝は彼より早く起き、食事を作ってから彼を起こし、支度を手伝う。
お弁当を渡し、彼は出掛ける前に必ずキスをしてくれる。
朝食の片付けが終わると他の家事に取り掛かる。以前の私の部屋とは違って物がたくさんある分掃除が少し大変。だけど、とても楽しい。彼が帰って来て気持ちよく過ごす姿を見たいから。
昼食は朝作ったお弁当の残りを食べる。冷えてもおいしい料理をもっと勉強して彼が仕事を頑張れるようにしてあげたい。
少し昼寝をしたら、夕食の買い物に出掛ける。近所の奥様方が話しかけてくる。
私は高校時代よりはおしゃべりになったほうだと思うし、表情も豊かになったはずだけど、彼女たちには上手く伝わらないようだ。少し残念。
今日、私はある計画をしてある。結婚してから一年も過ぎている。私は彼がテレビで子供を見るたびに切なそうな表情をしていたのを見逃さない。
精がうんとつく料理を作ろう。明日は休日だから。彼が一晩中愛してくれるように。
 
「ただいまー」
彼が帰ってくる時刻には私は玄関に立っている。今日は予定より10分早かった。いつもより気持ちが急いて15分前から待っていたのが功を成した。
「…ご飯?お風呂?」
鞄を受け取って浮き立つ気持ちを抑えながら聞いた。
「…どうした有希。今日はいつもよりご機嫌そうだな。何かいい事あったか?」
ネクタイを緩めながら笑顔で聞いてきた。私を理解してくれるのはやはり彼だけだ。胸が締め付けられてむず痒くなるような気持ちになった。
「…特に。」
あえて隠した。私にとっていい事があるのはこの後だから。
「…こりゃまた豪勢な夕飯だな。ほんとに何もなかったのか?」
「………」
ただ微笑んで彼を見つめる。…愛しい人。私の作った夕食を美味しそうに食べてくれる。嬉しくていつもより食が進んだ。
食べ終わるといつも彼はソファに座ってテレビを見るのだが、片付けを手伝ってくれた。
「いや、なんだ。…いっぱいだったから片付けが大変だろうと思ってな。」
「………そう。」
抱き着いてほお擦りしたくなる気持ちを必死に抑える。
 
彼がお風呂に入っている。私はその隙に寝具の周りを今一度整理した。今日、避妊具は必要ない。箱をテレビの後ろに放り投げて彼に見つからないようにしておく。
 
…なかなか出てこない。気がつけば私は自分の着替えを持って脱衣所に立っていた。
中から彼の鼻歌聞こえてくる。とてもご機嫌。つい私も嬉しくなる。
 
「ふふふーん…でかい肩パッドー…♪」
カチャリ
彼はとても驚いた顔をしている。鼻歌も止んだ。
 
「背中…流します。」
「あ…ああ、ありがとう。」
彼は下半身を手で隠しながら湯舟から出た。何度も見てるのに。ユニーク。
シャコシャコ
広い背中。丹念に洗いながら、彼の男としての魅力に顔を紅潮させられる。
「…驚いたぜ、俺が誘わずに一緒に風呂入ったことなんかなかったからさ。」
「………。」
「思えばつい最近一年が過ぎたんだよな。結婚記念日にはちょっと豪華な店に外食して…後から目玉が飛び出たぜ。」
「……美味しかった。」
「まぁな、なんだかんだで値段は正直だ。また行こうな。」
彼からは見えないが、コクリと頷いた。また誘ってくれて嬉しかった。
「…有希?」
彼を後ろから抱きしめた。…もう、我慢できなかった。彼の首筋に舌を這わせた。
「…うわっ、………どうしたんだ有希。」
何も答えない。恥ずかしいから。
「……ははーん…。」
高校時代の鈍感さは今の彼にはほとんど見受けられない。あの頃のように苛立ちを覚えていたのが懐かしい。
「…それでご機嫌だったんだな?……出るか?」
「………先に出て…待ってて。」
 
私は体を丹念に磨いた。髪はいつもより長めに、体は3回隅々まで洗った。これから彼に愛されると思うとそうせざるを得なかった。
脱衣所できちんとドライヤーで乾かし、綺麗にとかした。
寝室に向かう前に、リビングに置いてある彼お気に入りのコロンを少しかける。
それから少し思い立った私は、空き部屋に入り、クローゼットを開く。今では一着しか残していない、懐かしい制服。
 
あの頃のように、激しく…愛してもらいたい。
 
制服に身を包み、大胆に下着は着けずに寝室の扉を開けた。
 
「…ああ、遅かった……な……」
私の姿を見て彼は硬直している。口の端だけがひくひくと動いている。
やり過ぎただろうか…。不安になってきた。そう思うと急に恥ずかしくなってきた。この場から逃げ出してしまいたい。
後ろ手にノブを掴むと、彼は麻痺から開放され口を開いた。
「…懐かしいな、その制服も…。…こっち来いよ。」
ちょい、ちょいと手を招いて自分の隣をぽんぽんと叩いている。
ぎくしゃくしながら彼に近付き、隣に腰掛ける。こんなに緊張したのは初夜以来だ。
「…かわいいな、有希は。あの頃とずっと変わらない…。」
肩をぐっと抱いて私の耳元で呟いた。ぞくぞくと背筋に快感が走る。
彼はそのまま私の耳に息を吹き掛け、耳たぶを甘噛みしてきた。体が芯から熱くなる。
「明日は休みだし………今夜は……」
「………最初から、そのつもり。」
 
彼は少し呆気に取られた顔をする。自分で言っておいて恥ずかしい。顔が熱くなる。
「…そうか、じゃあ…」
濃厚なキスをしてくれた。
 
「激しくいくぜ」
 
ベッドに押し倒された。強引な彼に愛されるのは初めてで胸がドキドキしてきた。
キスをしながら私の胸をまさぐって、彼はすぐ異変に気付いたようだ。
「…着けてないのか。」
 
私はキスを返して質問は無視してこう返答した。
「………赤ちゃん…欲しい…。」
「…なんだそりゃ、答えになってないぜ?」
彼の手を取って私の下半身へ導く。
 
クチュリ…
 
「…こういうこと。」
彼はしばらく視線をきょどきょどと泳がせたが、私の頭を撫でて全身を強く抱きしめてくれた。
「…いっぱい気持ち良くしてやるからな。」
抱きしめたまま、彼の指は私の秘部を掻き回した。
 
強い刺激の度に声が漏れる。なんとか抑えようとして彼の背中に爪を立ててしまった。
「…ごめんなさい。」
彼の胸板に顔を埋めたまま謝る。ここで止められたら私はどうかなってしまうから。
「…ここがいいのか?ん?」
彼は意地悪い声を出しながらより強く掻き回した。
「あぁっ…うんっ…きもちいい…」
恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
彼は私の足を開かせて下半身に顔を埋めた。
ふと、秘部にさっきの何倍もの快感が走った。思わず足を閉じて彼の顔を挟んでしまった。
「……ごめんなさ…」
「…今日は一段と感じやすいんだな、有希は。」
謝りきる前に彼は優しく声をかけてくれた。
「…かわいいぞ。」
 
「…あなたのも、気持ち良くさせて。」
私は彼の上に跨がってお互いを舌で愛撫できる体勢を取った。
愛しい彼のペニスを口に含み、舐めまわす。
彼の愛撫が強烈過ぎて、しばしば私は動きを止められた。
その様子が彼を興奮させるのか、私が感じる部分を執拗に攻めてきた。
「あっ……ああぁっ…!!」
 
イってしまった。
オルガズムのせいで軽い眠気を感じたが、眠っている暇はない。
彼は覆いかぶさって私の胸を揉む。さほど大きくない、普通の人間になってからややコンプレックスのように感じていた胸。
そんな気持ちはこの時には無くなっている。今の私は獣と一緒。雄の彼に後ろから犯されて孕ませられようとしている雌。
 
「くっ…有希ィ…っ!」
「膣内に…出して…!アアァァッ…!」
自分でも驚くくらい大きな声を出して彼と共にイった。
膣内に彼の精液が注ぎ込まれる。勢いよく出される度に彼の体が痙攣する。
出し終えてしばらくするまで、私達は一つになったままでいた。
 
そのまま、ベッドに倒れ込む。
言うことを聞かない体を必死に言い聞かせて私は彼の胸元まで動いて力無く抱きしめる。
彼は私より強く抱きしめてくれた。彼の顔を見つめる。
私が普通の人間にきっかけを与えてくれた愛する人の顔がある。慈愛に満ちた表情で私を見つめている。
 
「…好き。……大好き。」
「ああ…。」
「…大好き。」
「おう…。俺もだ。」
さらに強く抱きしめてくれた。
 
「…夜は長いぞ…。俺は…まだまだ…愛し足りてないぜ。」
 
長い濃厚なキスをした。
私は汗だくになった制服を脱ぎ捨てると、彼の上に跨がって快感を貪り続けた。
次の日、何度やったか覚えてないけれど、目覚めたら彼は隣にいなかった。
「…あなた?」
返事はない。
シーツを掴んで物寂しさを紛らわせる。
…駄目。寂しくて涙が出そう。
 
彼はどこ…?
 
あれは夢…?
 
カチャリ
「…あぁ、起きたか。」
寝室の扉が開いて彼が入ってきた。両手にはマグカップがある。
「…いい香り。」
「さっき煎れたばかりだ。飲むだろ?」
コクリと頷く。彼はベッドの横に椅子を置いて私にマグカップを手渡し、腰掛けた。
「……ここ。」
昨夜のようにぽんぽんと隣を叩く。彼はふっと笑うとそこに座った。
「…?泣いてたのか?」
いつの間にか私の頬に涙が伝っていた。
「…今までのことが夢の中の出来事だったんじゃないかと思って…。…現実だったみたい。」
くくっと笑うと彼はマグカップを傾けた。
「俺もな…夢なんじゃないかと思うぜ。…有希が俺の奥さんなんてさ。」
「…現実。」
「ああ、現実だ。…俺は…幸せ者だ…。」
「…私も。」
彼はまた少し笑うと、ぐいっとマグカップを傾けて、立ち上がった。
「朝飯は俺が作ってやるよ、何がいい?何でもいいぜ!」
「…カレー。」
「朝からか!?」
「何でもいいはず。」
困ったようにぽりぽりと頬を指でかくと、にっと笑って
「よぉし、美味いのを用意してやるぜ、待ってろよ!」
ビシッと私に向けて親指を立てて、頬にキスをしてから寝室から出ていった。
彼は見てないけれど、私も親指を立て、彼が煎れてくれたコーヒーを静かに嗜んだ。
 
 
化粧台に映った裸の自分の体をベッドから見る。
首筋、胸、腕。所々にキスマークがついている。
しばらくは長袖の服を着なければならない。
「困った主人…。」
思わず漏れ出たその言葉に驚き、それからその響きに幸せを感じた。
時計を見る。まだ5時だった。
彼の脱ぎ捨てられていたシャツを着て、窓辺に立った。
春とはいえ、まだまだ朝は寒く、窓は白く曇っていた。
 
指で、傘を描き、私の名前と彼の名前を書いて、最後に傘の上にハートを描いた。
なんだか気恥ずかしかったけれど、消さずに残しておいた。
すぐに消えてしまうだろうけど、跡は残る。彼はこれを見たらどう言うだろうか?
悪戯をする子供はこんな気持ちなのだろう。
毎日がときめきで満ちている。彼のおかげで。
彼は今頃また新しいときめきを用意してくれている。
呼ばれるまで待とうか、それとも…?
 
…彼に……伝えたい、今の気持ちを。
 
寝室の扉に手をかける。
 
「有希、待ってろよ、まだ時間かかりそうだ。」
キッチンで私のエプロンをつけて調理している彼を後ろから抱きしめた。
「…有希?」
 
 
「あなた…ありがとう。…愛してくれて…。私は…」
 
彼は振り向いて私の手を取った。
 
「「死ぬまであなたを愛し続けます」」
 
 
それは
 
私たちの
 
 
 
プロポーズの言葉。
 


|