涼宮ハルヒ挙国一致内閣
 
国務大臣(敬称略)
 内閣総理大臣 涼宮ハルヒ
 内閣官房長官 古泉一樹
 総務大臣 国木田
 法務大臣 新川(内閣法制局長官兼務)
 外務大臣兼沖縄及び北方対策担当大臣 喜緑江美里
 財務大臣兼金融担当大臣 佐々木(内閣総理大臣臨時代理予定者第一位)
 文部科学大臣 周防九曜
 厚生労働大臣 朝比奈みくる
 農林水産大臣 会長
 経済産業大臣 鶴屋
 国土交通大臣 藤原
 環境大臣 谷口
 防衛大臣 長門有希
 国家公安委員会委員長 森園生
 
国務大臣以外の主な役職(敬称略)
 内閣官房副長官(政務) 橘京子
 内閣情報官兼内閣危機管理監兼内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当) 朝倉涼子
 内閣広報官 妹
 内閣広報室企画官 吉村美代子
 内閣総理大臣秘書官(政務担当) 俺
 
 
 
 ああ、なんというか、呉越同舟という言葉がぴったりな状況に陥ってしまった経緯については省略しよう。
 まあ、要するに未曾有の国難ということで、対立していたSOS党と佐々木党が連立して挙国一致内閣を作ったということだ。
 じゃあ、とりあえず、上から順番に説明しようか。
 
 ハルヒが総理大臣なのは、当然だわな。何でも一番が好きなハルヒが二番以下の地位に甘んじるわけもない。SOS党は衆参両議院で第一党だから、その党首が総理大臣に選ばれるのは、普通に考えても当然だしな。
 古泉は、どこまでいっても、ハルヒのフォロー役というわけだ。実質、この内閣を取り仕切っているのは、こいつということになる。ご苦労なことだ。
 国木田は、総務大臣の役目を飄々とこなしている。昔からできるやつだったし、任せておいて問題はなかろう。
 新川さんは、年齢構成が若すぎるこの内閣においては、御意見番的な存在だ。
 喜緑さんは、あの薄い微笑で対外交渉をこなし、諸外国からはタフなネゴシエーターとして認識されている。
 佐々木のところの括弧書きは、俗にいう「副総理」というやつだ。この国難の中で、財政金融をつかさどるのはかなりの激務だが、よくやってくれている。
 九曜に文部科学大臣を任せるのは、日本の将来を担う子供たちのためを思うとおおいに不安なのだが……。教育行政が滞りなく遂行されることを祈るばかりだ。
 朝比奈さんは、まさに適役だと思うね。ただ存在しているだけで、国民の福利厚生に絶大なる効果がありそうだ。
 会長さん(俺はいまだに彼の本名を知らん。みんな会長って呼ぶしな)は、生徒会長時代に培った実務能力で、農林水産大臣の職務を難なくこなしている。
 財界の重鎮である鶴屋さんは、まさに適材適所といったところ。あの明るい振る舞いで、日本の景気も明るくしてくれそうだ。
 藤原とは個人的にはそりが合わんが、この国難の中ではそんなこともいってられん。嫌味なやつだが、仕事は真面目にこなす。ただ、協調性が足りないのが問題だわな。国土交通省は防災担当機関でもあるから、いざというときは他省庁との連携が重要なんだがなぁ。
 なんで谷口が大臣なんぞになれたのか。まあ、ハルヒの気まぐれなんだろうが。環境行政が停滞しないことを祈る。
 長門が防衛大臣を担う限り、日本の国防は安泰だ。ひたすらに頼もしい。ただ、仕事をさっさとすませて、国会図書館によく出没するという噂が絶えない。
 森さんは、警察組織のトップ。彼女がにらみをきかせれば、日本の治安は安泰だぜ。一方で、「機関」を通じて裏社会も仕切っているという黒い噂が聞こえてきたりも……。
 橘京子は、古泉と一緒に内閣を取り仕切っている。SOS党と佐々木党の呉越同舟状態をうまく切り盛りしていくためには、この二人の連携は非常に重要だ。だから、佐々木を異常なまでに持ち上げて、ハルヒの機嫌を損ねるのはやめてほしいのだが。
 朝倉涼子は、内閣官房の中では、古泉、橘に次ぐ相当な実力者である。情報・危機管理・安全保障を一手に握ってるからな。本人は防衛大臣をやりたがってたんだが、暴走して他国に戦争でも吹っかけられたら困るので、裏方に収まった経緯がある。
 最近朝比奈さんにそっくりになってきた俺の妹は、内閣広報官。これが意外に天職だったらしく、毎日楽しそうに仕事をしている。
 ミヨキチは、妹の補佐役といったところだ。妹と仲良くやっているようで、大変結構なことである。
 で、俺はハルヒの秘書官というわけだ。ハルヒに振り回される雑用係というポジションは、どこにいっても変わらないものらしい。まったく、やれやれだ。
 
 
 
 首相官邸。
「佐々木さんが、涼宮さんに使われる立場なんてありえないのです。佐々木さんこそが首相にふさわしいのです」
「また蒸し返すんですか、あなたは」
 橘京子と古泉一樹が、また口論している。
 ここ最近、すっかりお馴染みになってしまった光景で、もはや口をはさもうとする者はいなかった。
「第二党が何をいったって、しょせんは負け惜しみですよ」
「今度の選挙では、必ず勝って見せるのです」
 橘京子は、ほおを膨らませて不満顔だ。
「せいぜい、頑張ってください。それよりも、例の件、佐々木党内の取りまとめはしてくれたんでしょうね?」
「もちろんです」
 
 
 国家公安委員会・警察庁。
 森園生は、極秘とスタンプが押された報告書を読んでいた。日本国内を跳梁跋扈する国外の諜報員を「非合法に処理」した記録である。昔はスパイ天国などといわれた日本国であるが、森園生が陣頭指揮をとって対策を進めた結果、状況はだいぶ改善されつつあった。
 もう一枚の紙を取り上げる。こちらは何もスタンプは押されてないが、極秘文書には違いなかった。なぜなら、それは「機関」の文書だから。
 TFEIの動向。天蓋領域の端末には変化は見られないが、情報統合思念体の端末は増員され、政府組織の中に潜入していた。いつでも政府を乗っ取れる体制でありながら、彼女たちは何もしようとしない。観測任務を第一とする態度は不変である。
 現在、政府を乗っ取っている立場である「機関」と橘京子の組織としては、TFEIたちのそのような態度は不気味ですらあった。
 政府の国防・外交・危機管理を押さえているTFEIトップスリー、長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子ですら、人間レベルでなしうる以上のことをしようとはしていない。そして、そのレベルですら完璧人間に近いのだから、文句のつけようもないのだ。
 森園生は、二つの文書を丸めて灰皿に置くとライターで火をつけた。情報流出を防ぐ最も手っ取り早い方法だ。
「宇宙人たちは不干渉ということね。なら、未来人たちはどうかしら……?」
 そのつぶやきを耳にした者は、誰もいなかった。
 
 
 厚生労働省。
 真面目に書類仕事をこなしている朝比奈みくるのもとに、藤原がやってきた。
 彼は、入ってきた途端に盗聴防止装置を稼動させると、口を開いた。
「あんたは、このまま状況を座視してるつもりか?」
「当然でしょ。介入は許可されてないわ。藤原くんだって同じじゃないかしら?」
「何百万人もの人間が犠牲になるんだぞ。それを黙って見てるつもりか?」
 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し稼動させた。
 無数の曲線と数式と記号で構成された光の三次元樹形図が空中に展開される。
「実際、それを阻止しようと思えば、介入しなければならない時点は1249箇所。二人だけじゃ、手に負えないわよ。あからさまな規定事項破壊行為だし、介入が全部終わる前に私たちが始末されちゃうわ」
 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまった。
 光の樹形図が消え去る。
「あるべき未来を守るためには仕方ないわよ」
「そんな未来なんぞ糞食らえだ」
「藤原くんだって分かってるはずでしょ。私たちはこの悪しき世界を守るために存在する悪党だってことは」
「……」
 藤原の顔が渋面を形作る。
「それが嫌なら、未来に帰って組織を抜けることね」
 
 
 国立国会図書館。
 読書にいそしんでいた長門有希のもとに、喜緑江美里と朝倉涼子がやってきた。二人とも半ステルスモード。図書館という空間に同化している長門有希はともかく、二人はこのような場所では目立ちすぎるからだ。
 長門有希も、半ステルスモードに移行した。
「大規模な情報操作をしない限り、戦争は不可避。その旨は、既に報告済みである」
「私も同じです」
「私も同じよ。三人とも意見が一致するなんて、つまんないわね」
「情報統合思念体からの指令は、観測の継続。積極的な干渉の禁止、つまりは、不干渉原則の維持である」
「穏健派はしぶしぶ同意したみたいですけどね。戦況が悪化した場合に、涼宮ハルヒの力が暴走して危険を招くことを懸念しているようです」
「その方が情報爆発を観測できていいじゃないの」
 朝倉涼子はあっけらかんとそう発言した。
「主流派は、今のところ急進派と同意見。ただし、情報統合思念体に危険が及ぶことになれば、穏健派とともに阻止することになるだろう。むしろ、気になるのは天蓋領域の動向」
「周防九曜は、相変わらずのようです。あちらも、不干渉という点ではこちらと変わらないのではありませんか。むしろ、未来人の方が干渉してくる可能性は高いと思いますけど」
「戦争の発生自体は、彼女たちにとっても規定事項であると思われる。そうでなければ、そろそろ動きがないとおかしい」
 
 
 経済産業省。
 鶴屋大臣は、いろんな方面に電話をかけまくっていた。
「……戦争ともなれば鉄鋼の増産は不可欠だからねっ。……生産ライン増強の補助金? いやぁ、お国の財政が厳しくてねぇ。……あっ、そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? あのことをバラしちゃうよっ。……うん、理解してくれて助かるにょろ。じゃあ」
 電話を置き、次の話し相手の電話番号を確認する。
「ええっと、次は、○○商事だったかな?」
 鶴屋大臣の脅迫電話は、その日一日中続いていたという。
 
 
 首相官邸。
「ああもう! 今日もくだらない仕事ばっかりだったわね!」
「仕方ないだろ。一国の首相ともなれば避けられない仕事はいくらでもあるさ」
 俺は、文句たれるハルヒをなだめる役目だ。この役目は昔から俺のもので、いまだに免れることができてなく、おそらく将来もずっと続くだろうと思われた。
 なんたって、俺は、栄えあるSOS党党首殿の夫だからな。今さら免れることは不可能だろうし、その気もない。
「ねぇ、キョン」
 ハルヒは俺の背中に手を回して抱きついてきた。
「なんだ?」
「あたし、そろそろ子供ほしい」
「いきなり何言い出すんだ、おまえは」
「いや?」
 ハルヒの表情は真剣そのものだった。
「あのなぁ、ハル……」
 俺が言いかけた瞬間に、背後から声が降ってきた。
 
「涼宮内閣腐敗の現場、そんなところだね」
 
 振り向くと、そこには佐々木がいた。
「腐敗といってもこの程度でね。申し訳ない。でも、部屋に入ってくるときはノックぐらいはしてくれよ」
「したよ。ただし、お二人とも自分たちの世界に没頭するあまり、ノックの音を認識することを脳が拒否していたようだけどね」
 俺たちは二人して顔を赤くするしかなかった。
「何の用だ?」
「酷い言い方だね。僕は、ここ一週間ほとんど寝ないで、この『戦時財政計画』をまとめていたというのに。ねぎらいの言葉ぐらいほしいところだ」
 佐々木は、右手に握っていた分厚い書類を、近くのテーブルの上に無造作に置いた。
「すまん。それはご苦労だったな」
「ありがとう。君にそう言ってもらえると、僕の苦労も報われるというものだ」
 何を大げさなと思っていると、背後に寒気を感じて振り向いた。
 ハルヒが、剣呑な視線で佐々木をにらんでいる。
「涼宮さん。そんな目でにらまないでよ。別にあなたの夫をとろうなんて思っちゃいないわ。私だって、その辺はわきまえているつもり。キョンは誰にだって優しい人、涼宮さんだって分かってるでしょ?」
「分かってるわよ!」
 ハルヒは不機嫌な顔のままだ。
「涼宮さん。お互い、この内閣が続く間だけでも仲良くやりましょう」
 ハルヒはしぶしぶ頷いた。
「なあ、佐々木」
「なんだい?」
「この内閣が終わったら、おまえたちはまた野党に戻るのか?」
「当然だよ。キョンだって分かってるはずだ。涼宮さんには、常に張り合える敵役が必要なんだ。今は外敵がいるからいいけど、それがなくなったら、張り合いがなくなる。ならば、その役目は僕が果たそう」
「でも……」
「僕自身も、そういう役回りを結構楽しんでるのでね。おかげで、涼宮さんと出会えてからの人生はとても充実している。では、馬に蹴られないうちに退散するとしよう」
 佐々木は去りかけて、再びこちらを向いた。
 
「キョン。君が愛妻家なのは結構なことだが、自重してくれたまえよ。この未曾有の国難の時期に、首相閣下が産休では、国民に示しがつかない」
 
 俺たちが何かをいう暇すら与えず、佐々木は足早に去っていった。
 
終わり
 


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