古泉くんの手当てが終わってしばらく、私は死体だらけになった病院の内部で現状の説明を受けていた。
あの生物についても新しい今現在解っている情報が伝えられた。それは食肉で特に人を好む事。
不思議だった事がそれで氷解した。今病院に血だけがあって死体の姿が無いのか。それは食べられたからだ。
私は想像し、怖くなって途中で中断した。もし、完全に殺されず食べられたらそれは拷問以外の何物でもない。
気分が悪くなって、吐きそうになって、そんな私の様子を察したらしく古泉くんが背中をさすってくれている。
・・・本当は振り払いたいぐらい反吐が出そうだけど、今はそれどころじゃない。
因みにその生物、姿形がバイオハザードのそれに似ている事から名前が”ハンター”になったそう。
「今この町は『機関』と今回の『反機関組織』に対する『反組織機関』によって完全に封鎖されている状態なの」
「反機関組織に対する反組織機関・・・ややこしいなぁ」
「更にややこしくするなら、反機関組織に対する反反機関組織機関というところでしょうか」
「古泉くん、私の頭がショート起こすからやめて。しかも今本当に気分が悪いんだから」
「それは正しくないわよ。あくまで私達の『機関』と今回”カルテル”を結んでいる『機関』はあの組織に対してアンチなんだから」
「あぁ、そうですね」
この人達は日本語解析能力が私なんかの三倍どころか何百倍も上だ。そう思った。
 
―――これはもしものお話。だけど現実のお話。
 
―――これは彼のお話。だけど彼女のお話。
 
―――決して交錯しないもしもの現実世界のお話。
 
 
『朔』-Distorted pain-
 
第二話 ”『CLEVER SLEAZOID』-機械人形-”
 
 
「生物の品種改良・・・か」
私は何となく呟いてみた。うん、何かあまり良い響きじゃないね。
「ん?」
私の言葉に古泉くんが首を傾げた。
そりゃ私があまり気にするような言葉じゃないもんね、本来。不思議に思って当然かな。
「どうして・・・人はそうやって何でもよくしたがるんだろう、って思って」
「おや、なかなか貴女にしては難しい考えをしていらっしゃるんですね」
むぅ・・・明らかに人を馬鹿にしてる・・・。何かムカつく、毎度の事だけど。
「私の脳みその稼働率も上げて品種改良したらよくなるのかな・・・」
「・・・貴女の場合は脳云々より、やる気の問題だと思います」
うっ、やっぱりそうか。
「あら、世の中良いものより、悪いものが良い時もあるのよ?」
「え?」
「デチューンして違う性能を発揮する場合もあるし、他にも悪いからこそ安かったりするでしょう? でも、時と場所次第ね」
森さんに言われると妙に納得するのは何でだろう・・・。
あれ? 私も時と場合によっては良いのかな。と、なると私は天才にも馬鹿にもなるって事なのかな。
もしそうなら良いなぁー・・・そうであって下さい。
「でも頭の良さ悪さは、悪さが性能発揮する場面ってろくな事ないですがね」
「それもそうね」
あぅー・・・今考えていた事が全否定されてる・・・。
この人達、もしかして私の考えを見抜いているのではないだろうか。仮にも超能力者とその上司だし・・・。
それでからかっているんじゃないだろうか。もしそうなら、何か嫌だ。
「声に出てますよ」
「ふぅん、そうなんだ・・・え!?」
・・・そりゃ私の頭の中が理解出来る筈だ。無意識のうちに声に出していたなんて・・・。
「貴女はデチューンもチューンもしないでそのままが可愛いわよ」
森さんはそう言うけど、お願いです。笑わないで真顔でそれを言って下さいませんか。
明らかに私は物凄く傷付いていますから。
  
―――静かな~夜に迷い何かを叫んで~♪
 
ふと森さんの携帯から着うたが鳴り響く。すっとそれを取り出し、
「はい、もしもし。何、新川・・・・・えぇ、解ったわ」
と、まぁ、何とも味気の無い短い会話をして終わった。それにしても早いなぁ・・・。
もしかすると、『機関』の人って実は仕事以外では仲が悪かったりする? まぁ・・・突っ込んだ話は聞かない事にしよう。
「新川さんからですか」
「えぇ。車で新川達がこちらへ迎えに向かってるって。因みに涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希も多丸が保護したとの話よ」
「一先ず交通手段の面で、これで安心ですね。森さんは車運転出来ませんから」
その古泉くんの言葉に森さんがピクッと動いた。そして、溜息。
「ちょっと秋名でランエボ乗ってる人と争ってる最中に事故って壊しちゃったのよ・・・・・」
争いって・・・あれかな。峠を走ったのかな。
うわぁ・・・凄く悔しそうな顔してる。よっぽど自信があったんだろうなぁ・・・。
おおよそ、事故が無ければ勝ってみせた、というところかな。多分。
と、言うか、貴女免許取れる年齢だったんですね、森さん。初めて知りましたよ、私は。
・・・ひょっとして物凄い若作りしてるのかな・・・。
「さて、新川達が来るまでに医療道具を掻き集めておきましょう。トランクに乗せておけば何かあった時に丁度良いわ」
その何かがあっては困るんですけどね。
私はそっと心の中で呟いた。でも、確かに何かあればきっと便利だとは思う。
「じゃあ古泉くん、一人じゃ怖いから着いてきてくれる?」
「えぇ、解りました」
まだちょっと傷が痛むのかもしれない。立ち上がる際にふらっと一瞬してたから。
だけど大丈夫そうかな。だって、古泉くんだし。
「もしもこの部屋以外を捜索するなら、扉を出て廊下を右に進んで。確か、そこが医療用道具の物置になってるはずだから」
「解りました。でも、どれが必要かとか、私には・・・」
「必要なものは僕が選びますから、ご安心を」
なるほど。機関の人間というのはそういう物も学ぶんだね。
・・・私が超能力者で機関の人間だったりしたら、もう完全に頭が爆発してるんだろうな・・・。
 
 
~~~(*゚O゚)そ(*゚ヮ゚)れ(*゚ワ゚)か(*゚ワ゚)ら(*゚O゚)ど(*゚o゚)う(*゚ヮ゚)し(*゚ワ゚)た~~~
 
 
「これは?」
「えっと・・・これは止血剤ですね。大抵は圧迫でどうにかなりますが・・・一応入れておきますか」
薬品選びをしている高校生。何という場面なんだろうね。
間違いなくこれを傍から見れば危険であるに違いない。が、本人たちは至って真面目だから仕方ない。
最近よくテレビで若者の薬物云々って言ってるけど、もしかしたら本人達は真面目なのかもしれない。
・・・真面目に不真面目をするっていうのも面白い話だけど。
「よし、これだけあれば大丈夫ですね」
「随分と多いね・・・」
見たことも無いような数の医療道具がつまったリュック。ガシャガシャと音が鳴ってうるさい。
なんだこりゃ。
「では行きましょ―――」
 
ガシャーン!!
 
ふとそこで古泉くんが持ち上げたリュックを落としてしまった。
中身はほとんどビンだらけだからゴチャゴチャに液体が混ざって毒ガスが・・・。
・・・ってそれならどれだけ良かっただろ。
実際はそれ故に鳴った音じゃなくて、まぁ、ビンが割れた音ではあるのだけれど、
それはリュックサックの中身ではなくて、棚に残っているビンの割れた音であって、
なんか壁をぶっ壊してさっきの怪物が出てきちゃったの。
「まさか別個体が居たとは。他所ならともかく、ここに居るとは思いもつきませんでしたね・・・」
そう言って銃を構える。でも古泉くんの銃はさっきから変わってないからなぁ・・・。
しかも薬品が入ったリュックを背負ってるし動き辛い。
・・・あれ? 結構ピンチだったりするのかな、さっきより。
「下がってください、キョンさん」
結局手に持っているのはあの時の銃のままだけど大丈夫なのかな。
「古泉くん・・・大丈夫?」
「大丈夫ですよ。僕だって少しは考えてます」
やっぱり頭良いなー、古泉くんは。勉強どれぐらいしたんだろう。
何と言うかこう言う事考える状況じゃないんだけどね、本当は。
ふと響く銃声。
「ひぅっ!? い、いきなり撃つとびっくりするでしょう!?」
「失礼。外しましたので、更に撃ちます」
「ひゃっ!?」
連続して発射される銃弾。どうでも良いけど、うるさくないのかな。うるさいよね。
サイレンサーっていうのかな。あれを付けたらうるさくなくなるのになぁ・・・。
・・・実際どうなのかは解らないけど。
「当たりましたね」
ふと古泉くんが呟く。するとあの例の化け物がゆっくりと倒れていっている。
目から血を流しながら。・・・え?
「目?」
「そうです。脳に一番近く、かつ柔らかい部位。どんなに生物と言っても脳を破壊されれば動けないでしょう」
「う~ん・・・得意げに言うのは良いんだけど・・・生きてるよ?」
「え?」
・・・化け物が立ち上がっているんだけどな・・・。
「・・・どうするの・・・」
古泉くんは少し唸って悩んでいる。それからしばらくしてポーンと閃いたという顔をした。
何か、思いついたのかな。
「普通に殺します」
「ふぁっ!?」
それからすぐにまたデジャヴと言える銃弾の連発。銃声もついでに連発。
あぁ、耳を押さえるのが間に合わなかった。
「ふぅ・・・何とか殺しました」
銃声で耳がキーンとしている中で聞こえた古泉くんの声。
私の苦悩なんて何も知らないのんきな笑顔、しかも絶対に作り笑顔じゃない笑顔にカチンとくる。
「こ、古泉くん! うるさいって言ったのにぃ~!!」
銃になれてないの、私は!
「あ、すいません。今度からサイレンサーつけます」
・・・え? ちょっと待ってよ。
サイレンサーあるんだ。へぇ~・・・あるんだ・・・。
「あるなら使いなさいよッ!」
「うぐぅ!?」
とりあえず、古泉くんの股を蹴り上げておくね。
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 
 
「銃声がしたけど、何かあったの?」
戻ると森さんがタバコを吸っていた。・・・なんだろう、この脱力感。
「えぇ、タイプ・ハンターが居たので処理しました」
「あら、まだ居たのね。意外に機関で計算した数よりも多いのかしら。あぁ、また一匹駆除したと思えば良いか。」
 
―――FACK OFF FACK OFF FACK OFF AND WIPE♪
 
森さんの電話が鳴った。
「うん・・・そう、解ったわ。車が着いたって。行くわよ、二人とも」
「了解です」
「あー、やっとここから離れられるんだね・・・」
そして、私達は次の絶望へと向かう。
 
 


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