「3月14日、木曜日、朝のニュースの時間です。おはようございます・・・」

 
起床後、真っ先につけたテレビから、お決まりのセリフと軽快なBGMが流れてくる。
時刻は現在、午前7時。どうやら天気予報のコーナーをやっているらしい。
テレビの中では、差し棒を持った女性アナウンサーが微笑みを浮かべつ話している。
 
「今日の天気は、午前中は曇り、昼過ぎから雨で一時的に雷を伴って激しく降るところもあるでしょう。お出かけの際は傘を持っていくと安心です。予想最高気温は・・・」
 

なるほど。今日は雨か。だったら洗濯物は部屋の中に干しといた方が・・・って、そんな心配はいらなかったっけ。この世界とも、今日でお別れだった。もう1人の私の言葉が正しいのなら、彼女は今日、戻ってくる。そうすれば必然的に私も元の世界に帰らなくてはならない・・・・・・帰らなくてはならないのだ。

洗濯物なんて・・・もうどうでもいい。

 
私はこちらの世界に来てからたくさんの事を知った。知りすぎて困るくらいに。
勿論、知って嬉しかったこともあったが、そのほとんどは知りたくないことばかりだった。

嫉妬心とか、失恋とか。今、思い出しただけでも吐き気がする。

 

そして、私は今、また新しい感情を覚えてしまっている。
それは、何と言えばいいのか。とても表現しづらい。
強いて言えば・・・・・・『時間よ、止まれ』かな?うん、きっとそんな感じだ。
私はきっと帰りたくないのだろう。だから、こんなことを・・・・・・。
・・・・・・出来れば、これも知りたくなかったな・・・・・・。
 
「時刻は7時10分を回ったところです。次はスポーツのコーナー、高校アメフト界注目の新星、中河選手の特集です・・・・・・」
 
いけない。もうこんな時間だ。まだ朝食の準備はしてなかったっけ。顔も洗ってないし、服も着替えていない・・・どうしよう、遅刻するかも・・・・・・。
 
 
 
 

 

 

『運命の日』と言えば大げさすぎてどこぞやからクレームがつくかもしれんが、「そこまで言いたくなる気持ちもわからんでもないだろう?」と、思わず誰かに同情を求めたくなる今日この頃、みなさんはいかがお過ごしだろうか?
 
「そうだよね、確かにどういうタイミングで渡したらいいのかとか困るよね。」とにやけ面で困る素振りを見せてくれる方もいれば、
「ホワイトデー?なにそれ?おいしいの?」と殺意に満ちた冷たい目線をプレゼントしてくれる方もいるかもしれない。
ちなみにこのSSの作者は後者だそうだ。まぁ、知ったこっちゃねぇけどな。
 
これまでの流れでお分かりだとは思うが、てか、もう答えは出ちまっているが、そう、本日は一般的には『ホワイトデー』と呼ばれている、『バレンタインデー』と対をなす、1日である。カレンダーのどこを探してもホワイトデーの『ホ』の字も書かれてはいないが、そういうものなのだから仕方がない。この日をここまでメジャーにした奴、出て来い。俺でよければ表彰してやるぞ。
 
「おやおや、こんなところでお会いするとは奇遇ですね。」
 
そんなこんなで変にモヤモヤした気分のまま、今日も登校という名の坂上りを嗜んでいた俺に声をかけたのは、今週、遭遇率の高かった谷口ではなく、巷ではガチ○モ説が囁かれているくせに無駄にハンサム面である・・・
 
「古泉一樹です。」
 
・・・どうやら、こいつには人の思考を読み取る能力があるらしい。確か、昨日もこんなことがあったような・・・。気色悪い。頼むから、人の頭の中まで入ってこないでくれ。
 
「これは失礼しました。」
 
平凡な女子高生の10人の内8人くらいを、恋に落としそうなパーフェクトスマイルで、平謝りを見せる古泉。今、頭の中でその顔を想像してうっとりしかけた女子高生諸君、止めといた方がいいぞ。もう一度言うが、こいつはガチホ○だ。
 
「・・・あの、出来れば伏字にする位置を統一して欲しいのですが・・・これじゃあ、丸分かりですよ?」
 
ほほう、今更抵抗を試みるかね、古泉君。はっきり言おう。もう無駄だ。お前がガチホモなのは、もはや一般常識として定着している。
 
「・・・うわぁん!!もう、伏字すらしていない!!キョンたんのばか!!」
 
そう言うと、古泉は泣きながら風のように去っていった。
・・・結局、何しに来たんだ、あいつは?
 
 
 
その謎が解けたのは、その日の放課後であった。と言っても、時刻で言えば12時半くらいだったが。何?なぜそんなに早く下校することが出来たのかって?さあな、本当に何でだろうね?
 
「それは、涼宮さんがこう願ったからですよ。『今日はせっかくのホワイトデーだから、思いっきり遊びたい!!』とね。」
 

これは、放課後、なぜか俺を廊下で待っていて、そしてなぜか俺の横で楽しそうに歩いている古泉のセリフである。ちなみに普段、このポジションについているハルヒならHRが終わるやいなや、教室を飛び出していった。

今日のあいつは何か変だったな。朝、声をかけてもろくに返事すら返さねぇし。やはり、ホワイトデーとやらが関係してるのかね。あいつにそんな乙女らしい一面があるとは、到底思えないが。

 

おっと、少し話がそれちまったな。本題は・・・そうそう、『下校時間の変化の謎を解け』だったな。これは、本当に俺にも分からん。そもそも、根本的な理由は、朝のHRに我が担任である岡部がかましやがった「今日は午後から急遽、職員会議が行われることになったので、午後の授業はない。昼過ぎには下校になるからな。」という爆弾発言にある。

何でも古泉によると原因はハルヒにあるらしい。やれやれ、自分の娯楽のために、教師達に無駄な会議をわざわざさせるとは。あいつも、もうちょっとこの世のためにあの馬鹿げたトンデモパワーを使って欲しいものだね。

 
そして、もう1つの謎『登校中の古泉との謎の遭遇』についてだが、こいつはどうやら今日の下準備について話しておかなければならないことがあったらしい。しかし、本人いわく俺のボケに合わせていると、あの場面ではどうしてもああいう捨て台詞を残して走り去る必要性があると感じたらしく、その感性に任せて、行動したまでだそうだ。ちなみに断じて言うが、俺はボケていたわけではないし、古泉も合わせていたと言うより、化けの皮がはがれたと言った方が適切であると感じたのは、多分俺だけではないだろう。
 
「そのネタはもうやめましょうよ。前回の話でもチラッと出てきましたし。もう、読者もいい加減飽きているころですよ。」
 
お前が言うことか!!
 
「それよりもそろそろ行きましょうか。時間的余裕もなくなってきてますし。」
 
そう言う古泉に連れられて向かったのは・・・下駄箱?
おいおいちょっと待て。どこへ行くつもりだ?まだ、ハルヒ達に何も伝えてないんだぞ?このまま放っておくと、俺達の首が飛ぶのは火を見るのよりも明らかだ。
 
「ご心配なく。その辺は事前に手を打っていますから。さて、少し急ぎましょうか。色々と下準備も必要ですし。」
 
やけに急ぐ古泉を追って、靴の紐を自ら踏んで転びそうになるというハプニングにもめげず辿り着いた校門の前には、何と!・・・というか、やはりというか・・・もはやお馴染みの黒塗りタクシーが停車していた。そう言えば、場所は『機関』が用意してくれるんだったっけ。それを考えると当然のことなのだろうが・・・どうしてもこの車に乗るのを体が自然に拒否してしまうのは何故だろうね。
そんな自分に鞭打ってタクシーに乗り込んだ俺達だったが・・・何故だ、発射する気配が全くない。
 
「・・・どうしたんだ、古泉。急いでたんじゃなかったのか?」
 
「ええ、確かに急いでいますよ。しかし、あの人がこないと・・・・・・あ、来ましたね。こっちですよ~!」
 
と窓を開け、体を乗り出して手招きをする古泉。そいつの視線の先には・・・なるほど、今日は賑やかな一日になりそうだ。
 
 
 
 

 

 

『駅前の市民ホールにて待つ。                     K2』
 
私が部室に入ったとき、中には誰もいなくて、机の上に小さなカードが置いてあるだけでした。そこに書かれていたのがこの言葉なんですけど・・・どういう意味でしょう?私にK2さんっていう名前の知り合いなんか、いましたっけ?
 
どうも、朝比奈みくるです。いかがお過ごしですか?
私は、今日はホワイトデーってことなのでワクワク気分で過ごしてました。もうキョンくんからプレゼントがもらえるって事だけで・・・ふふふ。あ、すいません、少し取り乱してしまいました。え、古泉くんのプレゼントはどうなのかって?けっ、あんな奴に貰うものなんて・・・え、いや、勿論嬉しいに決まってるじゃないですか♪
とまあ、少しおかしなテンションで部活に向かった私なんですけどぉ・・・これはちょっと・・・意味がよく分からないですね・・・。テンションも少しダウンです。てっきり私はキョンくんと古泉くんがプレゼントを持って待っているものだと思ってましたからね。
 
「あ、みくるちゃん!こんなところにいたの!?探したわよ!!」
 
バンッと、大きな音を立ててドアを開けたのは涼宮さんです。右手にはドアノブを握り締め、左手には長門さんを連れています。
 
「みくるちゃんも見たでしょ、そのカード!きっとあいつらの仕業に違いないわ!ほら、ぐずぐずしてないで、早く市民ホールに行くわよ!!」
 
「え?え?何で、あの2人だって分かるんですか?」
 

しかし涼宮さんは、私の質問には答えず、右手で私の手をわしづかみするとものすごい勢いで下駄箱へ向かって走り出しました。もう、長門さんも私も、宙に浮かんばかりの勢いです。わわわ、ち、ちょっと、転んじゃいますよぉ~!

 

 

 

涼宮さんが私の質問に答えたのは、靴を履き替え、学校の前の坂を猛スピードで駆け下りて、市民ホールへ向かうための電車に乗り込んだ後でした。
 
「ほら、このカードのここに、ちゃんとかいてあるでしょ。」
 
と、涼宮さんはいつのまに取っていたのか、通学鞄の中からさっきのカードを取り出し、K2と書かれたところを指差しました。
 
「・・・え~っと、そのぅ・・・K2が何であの2人だって・・・。」
 
「『キョン』と『古泉』!ほら、2人の頭文字はどっちもKでしょ?だから、2人あわせて『K2』ってことでしょ、多分。ふん、くっだらないネーミングセンスね!!」
 
一見、荒々しい口調で怒っているように見えますが、今の涼宮さんはもうニヤニヤしっぱなしですよ。写真に撮って、校内にばら撒きたいくらいです。よっぽど、嬉しいんでしょうね。
そして、長門さんはと言うと・・・相変わらず無表情ですが、少し困惑しているように見えるのは私だけじゃないでしょうね。疲れているようにも見えますし。
でも・・・やっぱり、涼宮さんと一緒で楽しそうです。良かったぁ。せっかくいい時に来てもらったんですから。思いっきり楽しみましょうね。
 
「さあ、着いた!!行くわよ!全速力!」
 
電車がホームにつくやいなや、涼宮さんはまたもや私たちの手を掴み、突っ走ります。
ふぇぇぇ~、もういい加減疲れましたよぉ~・・・。
 
 
 
「ここが市民ホールね!!」
 
私達を引き連れたまま、市民ホールの前で仁王立ちをしている涼宮さん。元気ですね・・・私はもうへろへろです。ちなみにさっきから話に登場している『市民ホール』とは、その名のとおり市民に多目的で貸し出しを行っている大きなホールだそうです。涼宮さんが得意げに説明してくれました。でも、こんな大きなところを貸切にするには、きっとものすごいお金がかかるんでしょうね・・・さすが『機関』と言ったところでしょうか。
 
「ふふふ、見せてもらおうじゃない。古泉くんにバカキョン!こんなとこまで呼んどいて、くだらないもんだったら承知しないんだからね!」
 
そういうと、涼宮さんは入り口のドアをこれでもかというくらい、勢いよく開きました。
しかし・・・中は真っ暗!
 
「な、何も見えないですぅ~。」
 
「こら、ここにいるのは分かってんのよ。くだらないことしてないで、早く明かりをつけなさい!!」
 
『ふふふ、相変わらずお元気ですね。』
 
涼宮さんの言葉に反応するかのように、場内に女性の声が響きわたりました。
そして、不意に照明がONに・・・。
 

「・・・・・・ほんっとうにバカね!!」

 

涼宮さんが実に楽しそうに辺りを見渡しています。

 
『K2プレゼンツ、第1回プレゼント争奪ホワイト杯、スタートです!!』
 
そこには、女性アナウンサーのような格好をしてマイクを握り締めている森さんと、何故かお揃いのタキシードに身を包んだキョンくんと古泉くんが立っていました。

・・・あの、何と言うか、そのぉ・・・キョンくんじゃないですけど・・・・・・やれやれですぅ・・・。

 

                       ~続く~


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