夏の暑さもすっかり弱くなって過ごしやすくなった今日この頃。
涼しげな気持ちのいい風が並んだ木々の葉を揺らした。葉の触れ合う音とちょうど良い気温が秋の訪れを感じさせる。
 

今あたしはキョンと一緒に部室から帰ってるところ。
今日は珍しく有希もみくるちゃんも古泉君もみんな用事があるって言って帰っちゃった。
なんかこんなことが前にもあった気がするわね。もしかして何か企んでるんじゃないかしら。
…まあいいや。そのおかげでこうしてキョンと二人で帰れるんだから感謝しないとね。
キョンは「そうだな」とか「それは止めといた方がいいんじゃないか?」とか言ってあたしの話に相づちを打って、どんな突拍子もない事を言ってもちゃんと返事してくれる。
呆れたような気の抜けたような、でもそれでいて優しい笑顔で。
 

ねえキョン、こんなに近くにいるのに…こんなに好きなのに…どうしてただの友達なの?どうして好きって言ってくれないの?

 

キョンはあたしの事どう思ってるんだろ。いつになったらキョンと付き合えるんだろ。

自分から言えばいいじゃないかって?
あたしは…あたしだって好きって言いたいよ。でももしキョンがあたしのこと好きじゃなかったらギクシャクしちゃいそうなんだもん。
それならいっそ今の関係の方がいいかもって思っちゃう。それくらいならいつも通りの優しいキョンでいて欲しい。わかるでしょ?
 

「だからそれは…ってうお!」
コケて木に頭ぶつけるなんて何ベタなことしてんのよ。
「何やって…ってちょっとキョン、血が出てるじゃない!」
キョンのこめかみから血が出てる。早く手当てしないと…。
「大したことねーよ」
「部室に行くわよ!」
キョンが何か言ってるけど今は治療が先よ。
あたしはキョンの小言を無視して手を掴んで走った。
 

確か部室に救急箱があったと思うけど…。
部室に着くなり手当たり次第に探した。
あ、やっぱりあった!
良かったぁ。家族が新しく買うって言ったから何かの役に立つと思ったのよね。
古いやつをここに持って来といて正解だったわ。
「そこ座って」
そう言ってあたしはキョンを椅子に座らせてこめかみの血を拭いた。
「ほら、消毒してあげるから」
「いて…それぐらい自分でできるって」
「ちょっと、動かないでよ」
「だから自分でやるって言ってんだろ」
そう言ってキョンはあたしが消毒するのを嫌がってる。素直じゃないわね。
「いいからあたしにやらせなさいよ!」
「ちょ、おい止めろって…うわ!」「きゃ!」
足が滑ったせいでバランスを崩して、気がつくとあたしはキョンにのしかかる体勢で倒れてた。
ちょうどいいわ。
あたしはその体勢のままケガの手当てをすることにした。
「これなら逃げられないわよ」
だけどキョンは急に抵抗をやめて大人しくなった。顔も赤いし…熱まであんのかしら。
 

その時あたしはお腹の辺りにだんだん大きくなってく温かいものを感じた。
「あんた何発情してんのよ」
「だってお前…おれだって健全な男子高校生だぞ?好きな女にのしかかられたら誰だってこうなるさ」
…え?今何て?あたしのことが…好き?
自分でもわかるほど頭に血が昇って顔が赤くなってる。
やめてよ、目が合わせられないじゃない。
 

キョンの方はいつも通り冷静になったけど、相変わらずあたしの腹部辺りに触れてるものは収まる様子はないみたい。
「あんたそういうことしたいわけ?」
冷やかし混じりに聞いてみるとキョンは真顔で思いがけないことを口走った。
「ああ。お前じゃなきゃ駄目なんだ」
ほ、本気?…そんなことしたことないし…恥ずかしいけど…でも…キョンなら…。
 

「い…」
「てのはウソピョンで、手当てがすんだら早く退いてくれ」
「な、バカ!」
パンッ!
頭に来たから平手喰らわせてやったわ。もー最悪。
「帰る!」
「おれのケガはどーすんだ?まだ血を拭いただけじゃねーか」
「自分で何とかすれば?」
「おい待てって」
鞄を持って帰ろうとしたらキョンに腕を掴まれた。
「何よ!?はな…」
振り向いて離せって言おうとしたけど言えなかった。
だってキョンの口であたしの口がふさがれたんだもん。
「ん…………」
 

沈黙が二人だけの空間を支配し、永遠のような一瞬が過ぎた。
このまま時間が止まってしまえばいいのに…。
そう思ったけどやっぱり現実は都合良く出来てない。
キョンったらすぐに唇を離すんだもん。
でも今度は真剣な眼差しであたしを見つめてこう言ってくれた。
「ハルヒ。やりたいってのは嘘だが好きだっていうのは本当だ。他の誰でもなくハルヒが好きなんだ…信じてくれ」
信じるも何もキスと順番が逆じゃない。
あたしは嬉しくて、もっとキョンの近くにいたくて、体を預ける様にしてキョンにもたれかかった。
「おっと。で、どうなんだ?まだ返事を聞いてないぞ」
もう…わかってるくせに…。
「信じるわよ。だって普通は好きだって言ってからキスするもんでしょ?あたしも…キョンが好き。大好き」
そう言うとキョンは優しく抱擁してくれた。
キョンとこんなに近づけた…それも恋人として。もう幸せ過ぎて死んじゃいそう。
 

それからすぐケガの手当てをしたけど今度は抵抗せずに大人しくしてくれたから早く済んだ。
救急箱を片付けてから校門を出るまではいつも通り。
 
手でも握ってくれたらいいのに…。
そう思ってるとホントにキョンが手を握ってきた。
何これ、夢…じゃないよね?
あたしはキョンに見られないように爪で足を引っ掻いてみた。
痛いってことは夢じゃないみたい。
「もう付き合ってるんだからこうしたっていいだろ?嫌か?」
もし誰かに見られたらどうすんのよ。でも…
「…嬉しい」
思わず顔がほころんだ。

 
これからは今まで以上に楽しくなりそうね。
「ん?何か言ったか?」
「なーんにも。さ、帰るわよ」
いつもの調子であたしが先を歩いちゃった。そのせいでキョンが後ろから遅れて追いついてくる。
それを見たあたしは気付かれないようにペースを落とした。
そうだよね、もう恋人同士なんだから並んで歩いて行かなきゃね。

 
今も、そしてこれからも…ずっと一緒に。

 
 
 

-Fin-

 


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