NG集


プロローグ

「気がついた!」
ハルヒが突然俺のネクタイを締め上げた。いつだったか似たようなシーンに遭遇した覚えがあるぞ。
「く、苦しい離せ」
「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!」
「何に気づいたんだ?」
「自分で宗教を作ればいいのよ!涼宮ハルヒ教よ!」
誰がお前なんか拝むんだ。古泉が喜ぶだけだろ。
「お呼びに応えて参りました。ラマ僧の古泉です」
「いえいえ、わたしが巫女としてお仕えするわ」
「……いざなぎのぅ、アッラー南無阿弥アーメン華経~」


仮説1

十年後。

「ちょっとキョン、このロウソクの明かりでわびしく仕事するのなんとかならないの」
「電気代払ってねえからしょうがないだろ」
「えーい、こうなったら株に投資よ。新聞を過去の私に送ったら値上がり銘柄が分かるわ。もうウハウハよ」
「そんなことをしたら日本経済が混乱するぞ」
「そうだわ、これをネタに資金調達できるわね。市場を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの投信をよろしく!」

ブラックマンデー、再び。


仮説1

── 敵の本拠地に潜入した。人影が多い。まだ武器は調達できていない。M9かMK22が必要。擬装用にダンボール箱も欲しい。誰か来る。目標を捕捉した。二十三才男性、身長体格髪の色、データと一致する。これより背後から襲う。まずい、目標がこっちにやってくる。偽装は完璧のはず。発見されたのか!?

「ロッカーの中でなにやってんだ長門」


仮説2

「おおジョン、ジョン、あんたはなぜジョンスミスなの?」
「は?何言ってんだこいつ」
「あたしのことが好きなら、あんたの親父さんを捨てて、苗字を捨てなさい。それがいやなら、あたしに愛を誓いなさい。そうしたら、あたしは涼宮家の人でなくなりましょう」
「す、すまんが、お前の気持ちには応えられないんだ」
「ひ、ひどいわひどいわっ。あたしをもてあそんだのねっ」
「あらら、女の子を泣かしちゃだめよキョンくん」
「まったく、女性を泣かせるなど火あぶりの刑に処せられるべきですよ」
「……この銀河始まって以来の、悪事」
お、おまえら……(ワナワナ)。


仮説2

「みんな、冒険の旅に出るわよ!」
「いきなり何なんだ。どこになにしに行くんだ」
「目的なんてなんでもいいわ、指輪でも聖杯でも。言っとくけど勇者はあたしだからね」
「僧侶なら僕にお任せを」
「……魔法使いなら、得意」
「じゃ、じゃあわたしは吟遊詩人で」
「ってキャラ全部埋まってんじゃん、俺はなにをすりゃいいんだ」
「あんたはただのしかばねでもやってなさい」


仮説3

「話ってハルヒのことか」
こういう内緒話はたいていハルヒの能力に関わることだが、俺はいきなり腹にボディブロウをかました。腹をおさえてうんうん唸っている俺(大)を尻目にセキュリティカードを取り上げドアを開けた。あいかわらず人を信じやすい性質だ。
 俺は部屋に戻るなりハルヒに向かって叫んだ。
「ハルヒ、お前に言ってなかったことがある!」
「な、なによいきなり」
「じ、実は俺はジョンレノンなんだ!」
「バッカじゃないの、ギターかかえてイギリスに帰りなさい」
アワナホージョーハーン。


仮説3

「キョンくん、お話したいことがありますっ」
「キョンくん、わたしもお話したいことがありますっ」
「わたしはこの時代の人間ではありません」
「わたしもこの時代の人間ではないんです」
「ずっと未来から来ました」
「ずっとずっと未来から来ました」
「いいえ、わたしはそのまたずっと未来から」
「いえいえ、わたしはずっとずっとそのまたずっと」

もう二人とも未来に帰っちゃってください。


仮説3

「みんな、みくるにタイムマシンが戻ったようだから、時間を遡ってタイムマシンの破壊工作を実行するよ」
タイムマシンを使って別のタイムマシンを壊しに行くなんて、なにか間違っている気もするが。それを聞いて新川さんが真っ青な顔をして叫んだ。
「ま、待ってくれ」
「新川さん、どうしたの?」
「ダンボールだ、ダンボール箱がない。あれがないと戦えないっ」
「森軍曹、彼にちょっと眠ってもらって」


仮説3

「ここでいいよ」
俺は公園のベンチの前で別れを告げた。
「……そう。気をつけて」
「お前も元気でな」
長門は俺の目をまっすぐに見詰め、しっかりと親指を立てた。
「……I'll be back」
号泣。


仮説4

 次の日、ハルヒからミーティングの召集がかかった。
「みんな、時間移動技術会議よ。キョン、記念すべき第一回なんだから居眠りなんかしてたら減俸だからね」
俺には懸念すべき、
「……誰がうまいこと言えと」


仮説4

「長門、給与明細作ってんだが、あんときのゴニョゴニョの部分を教えてくれ」
「……分かった。再生する」
『いいわ、いくらほしいの?』
『ええと、コスプレ技術者手当てとして、毎月の給与に十万円上乗せで』
『それはちょっと高いわ。じゃ、これくらいで……一日の初乗り五千円、以降三十分ごとに千円』
ってタクシーかよ!十万上乗せって未来人の金銭感覚はどうなっとるんだ。


仮説4

「東中より出ずる、やんごとなき雅な涼宮ハルヒにおじゃる。宇宙人、未来人、超能力者がおれば麿のところへ参れ。いぢゃう」
唐突になに言ってんだこいつは。
「涼宮さんはなってみたいんですよ、おじゃる丸に」
「これキョン!そちは麿のプリン食べたでおじゃろう!?」
「イタタ、杓で叩くでない。俺は食べておじゃりませぬ」


仮説4

 そりゃそうと紙に書かれたもんがほとんどない。和紙みたいなごわごわした厚い紙があったが、丁寧に綴じてあった。紙がないってことは、トイレでかなり苦労するぞ。忘れてた、トイレはどこだ。
「すいません、トイレはどこでしょうか」
「はい?トイレとはなんでございましょうかミコ様」
「ええと、便所、カワヤ、いや雪隠、ええい御不浄」
「あ、バスルームのことでございますね」
って英語かい!


仮説4

ブゥードゥー伝来お寺にご参拝
鳴くよウグイスこけこっこー
なんと平凡な平城京
涼宮がいい国作る鎌倉幕府
「す、涼宮さんのせいで歴史が……日本史が・……ああ」
「朝比奈さん、しっかりしてください。おい誰か救急車!」


仮説4

7年前。

「おかえり有希。内部的なエラーが頻発してたそうだな」
「……そう」
「無理なら誰かと代わってもいいんだぞ。一人娘に苦労させるつもりはない」
「……くそったれ」
「い、今なんと言ったぁああ!お前をそんな下品な子に育てた覚えはないぞ!ぺしぺしっ」
「……ごめんなさいごめんなさい」

「長門、どうしたんだ涙目になってるが」
「……あなたが、悪い」


仮説5

 三人でいただきますを言って善哉を食った。餅がうまい。小豆もうまい。
「長門さん、おかわりたくさんあるからね」
「……うん」
心なしか長門の頬は緩みっぱなしなようである。長門はその後もおかわりを続けていたが、途中で顔を真っ赤にして箸が止まった。
「おい、長門どうした」
揺すってみるが目が点になったまま固まって動かない。まさか善哉がうますぎて機能不全とかじゃないだろうな。
「もしかして餅がノドに詰まったんじゃ」
「ええっ!?」
俺は長門の背中をドンドンと叩いた。
「長門、長門、しっかりするんだ」
「……ぷは」



創立総会議事録(未使用)

「ええと、株式会社SOS団の創立総会を開会したいと思います。議長はわたくしキョンでよろしいでしょうか。異論がなければ満場一致をもって、」
「裁判長、異議あり!」
裁判じゃないっての。


量子猫

吾輩は猫である。名前は呼ぶな。どこで生まれたのかとんと検討がつかぬ。
ただ、なんでも、暗いじめじめした箱の中でみゃーみゃー泣いていたことだけは記憶している。

目を開けると光の中にいた。そこがどこなのか吾輩には分からなかった。
誰かに呼ばれたような気がして、そちらに歩いていった。はて、吾輩の名前は誰も知らないはずなのだ。

吾輩は匂いをかいだ。人にしては匂いが違う。指をなめてみた。味も違う。
人の形をしたそれは吾輩に向かって「ミミ」と呼んだ。

それが吾輩の名前になった。


10年後

「なるほど。MOREってこんな雑誌だったんですか……スタイルごとにすべてキャッチがあって、洗練されていますね。まったく新世界です」
「よっ古泉じゃねえか。立ち読みか?」
「うわあ、こっこれはなんでもありません」
なんだアイツ、走って逃げやがった。



師走の朝、吐く息も白く曇る冷たい乾いた空気の中、長門が通りの向こうから歩いてきた。いつものダッフルコートを着ていない。
「おう、おはよう」
「……おはよう」
「そのコート、新しいな。買ったのか」
「……そう」
厚手のこげ茶のコートに身を包んでいた。フードはないが、生地が柔らかくて暖かそうだ。
「……」
おもむろに長門が俺の腕に寄り添った。
「……ぴと」
「なんだ?」
「……カシミヤ効果」


ハルヒのワームホール

四人は顔を突き合わせてあれやこれやと意見を出し始めた。
「これはミステリーですね。密室にあったはずの手紙はどこへ消えたのか?」
推理好きな古泉が安っぽいサスペンスドラマっぽく仕立て始めた。
「壁の向こう側から盗まれたんじゃないかしら?」
朝比奈さんが穴の奥の壁を探っていた。
「向こう側は廊下ですよ。それに穴は鉄筋で止まってますから」
「……」
長門だけはじっと考え込んでいた。
「どうした?」
「……この穴の内壁」
穴の内側をなぞっている。指先に、微妙に光を反射する粉がついていた。でこぼこを埋めたときの石膏かと思ったが、そうでもないようだ。
「……ぺろり。これは、エキゾチック物質。……うぐぐぐ」
「長門が泡吹いて倒れたぞ、おい誰か救急車!」


次回予告

「次回、涼宮ハルヒの経営Ⅱ!」
「え、次お水関係?」
「我が団には豊富な人材が揃っているわ。みくるちゃん、特注の衣装用意しといたわよ」
「こ、こんな裾の短いスカート履けません。それにこんなスケスケ!」
「では僕が着て進ぜましょう」
「あらっ似合うわよ古泉くん」
「俺は何すりゃいいんだ」
「キョンは芸がないんだから客引きでもしてなさい」
「はいっそこのお兄さん今日だけ千円ぽっきり!宇宙人未来人超能力者、いい子いるよっ」

「……シャチョサン、ビルノムカ」



|