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『涼宮ハルヒの進路』

3月。鶴屋さんと朝比奈さんはそろって卒業し、鶴屋さんは地元の大学へ合格した。
朝比奈さんは・・・試験当日、高熱を出して文字通り昏倒し、結果、一年を棒にふった。
おかげでというか、卒業後も文芸部室のマスコットを継続していただけることになった。
予備校とか、いいんですか?と控えめに聞いた俺に対し朝比奈さんは泣きそうな声で

「私は! 試験に落ちたんじゃないですから!」

と叫んだ後なにやら呪うようにつぶやいていた
ウケテサエイレバ ウケテサエイレバ ウケテサエイレバ
聞かなかったことにしよう

4月がきて、俺たちは最上級生へと進級した。このままいけば来年で卒業であり
本格的に進路を考えざるを得ない状況に追い込まれたわけだ。

職員室の岡部のところまで日誌を届けに行くと、先客がいた。ハルヒだ。
聞くともなく聞いた内容によると、ハルヒは進路調査を白紙で出したらしい。

「どうしたんだハルヒ。お前の成績ならどこでもすきなとこ選べるだろ」

「うっさい、余計なお世話よ。だいたいアンタ、他人の心配してる余裕あんの?」

とりつくシマもない



受験生となっても団活に休みはない。
新年度最初の不思議探索。くじ引きは古泉と二人組みになり、このところ閉鎖空間が頻発していると聞かされる。
なぜだ?進路希望を白紙で出したりするからには悩んではいるのだろうが、閉鎖空間を創るほどのことだろうか?
それとも、進路とは関係ないのか?理由がわからない。

掃除当番を終え、いつもの文芸部室にやったきた俺を迎えたのは卒業後も律儀にメイド服に着替えている朝比奈さんと、
いつものように本を開いている長門、そしてマウスをぐりぐり動かしているハルヒだった。

てっきり俺が最後だとおもったが

「9組はホームルームが長引いてるみたい。どうせ進路がらみでしょ。アンタ…進路は考えてるの?」

「んー・・・そうだな。私立に行く金も県外に出る金もないし、地元の国立がベストだな」

「そんなの奨学金とればいいだけじゃない。ちゃんとやりたいことのできるとこ選ばないとダメよ!」

珍しいこともあるもんだ。ハルヒがまともなことを言っている。

じゃぁベストは模索中ってことで、いまんとこ地元国立だ。

「へぇ…偶然ね」

ハルヒがつぶやいた。パソコンのモニターで顔は見えない。
なんと、ハルヒも同じ進路らしい。偶然だと信じたい。

それにしてもアンタ、国立志望できるほど成績よかったっけ?

安全圏には程遠いな。家庭教師をしてくれるって、前に言ってたよな?

あったり前よ!SOS団団員が浪人したなんていったら団長の恥よっ!
東大でもケンブリッジでもオックスフォードでもMITでも、トップ合格できるくらい叩き込んであげるわ!

頼りにしてるぞ。

久しぶりな気がする、100Wのハルヒの笑顔だった。

ふふん。覚悟しなさい?

ところで、朝比奈さんがうつろな目をして何かつぶやいてるぞ。
ワタシハローニンジャナイ ローニンジャナイ ローニンジャナイ
聞かなかったことにしよう



それから毎日、団活後はハルヒが家まで押しかけてきて家庭教師をしてくれるようになった。
数日後、古泉から閉鎖空間の発生が嘘のように落ち着いたと聞かされる。

はて、俺は何もしていないぞ。
礼を言うな。気持ち悪い。

土曜はもちろん不思議探索があった。
探索後、ハルヒは我が家で家庭教師をしてくれている。
明日の日曜は丸々朝から家庭教師をしてくれることになった。
自分の勉強は大丈夫なのか

あたしの頭脳をもってすればNASAだって余裕よ!

NASAは大学じゃないような気がするが

飲み干したコップやらを台所に返しにきたら

ハルヒさんに夕飯食べていってくださいって伝えてね

現物支給か?

と俺を頭のてっぺんから足元までしげしげと眺めた後、

現物支給で受け取ってもらえるくらい高い子だったら、母さん苦労しないわよ

ため息交じりでのたまった。どういう意味ですかお母様。

日曜日、妹&ハルヒタッグの襲撃により起床を余儀なくされ
文字通り あさめし前 の課題を消化していると玄関のチャイムが鳴った
今日は朝から客の多い日だと思いつつ、出された問題と格闘していると
パタパタとスリッパの音が近づいてきて、ノックが響いた。

どうぞー

誰の部屋だ

うっさい。問題に集中しなさい。それ終わるまで朝ごはんはおあずけよ!

おじゃまします

入ってきた人物を見て、ハルヒがぽかんとしている。
俺も驚いた。なぜ佐々木が?

橘さんの強い勧めでね
『佐々木さんも勉強会に参加するべきですっ!』
ってうるさいのよ。
どこで二人の勉強会のことを知ったのやら

あたしとしてはあまり気が進まないんだけど、橘さんがしつこくって。
二人の睦言を邪魔しても悪いし、顔を出したけど断られたといえば彼女も納得するでしょう。
じゃ、あたしは帰るわね。

ドアを閉めようとする佐々木をハルヒが呼び止めた

ちょっと待って!
そうね、確かに一人じゃ面倒見切れないかもしれないわ。
佐々木さんが手伝ってくれるなら私も助かるわ。

おいおいおいおい

そう?なら、あたしも協力させてもらっていいのかしら。

えぇ。よろしくお願いするわ。

ちょっと待てハルヒ
佐々木もなぜ女言葉で話してる。
部屋の主は俺だ。当然、話しかけるべきは俺で、話し言葉は男言葉ではないのか
というか、ハルヒが断れないように挑発しただろう。睦言なんぞとは無縁だぞ

と、いうわけだ、キョン。
東大でもケンブリッジでもオックスフォードでもMITでも、トップ合格できるくらい叩き込んであげよう。
覚悟したまえ。

そこで男言葉か。
…………4月とはいえまだ肌寒い陽気だというのに、汗がつたう。
ここは俺の部屋だというのに、なぜこんなにも居心地が悪いのだろう



ふとみると、時計は21:30を回っていた。もうこんな時間か。

今日はこの辺にしないか?

今日はいろいろな意味で疲れた

そうね

佐々木と二人頷きあい、ハルヒが宣言した

今日はここまでにしましょう

二人を送るために自転車を引っ張り出した。乗っていくためではなく、荷物運搬用だ。

うぉ?おい、佐々木、やらく重たくないかおまえのカバン?何が入ってるんだ。

女性の持ち物を詮索するものではないよ、キョン。

そうよ。まったくデリカシーに欠けるんだから

お前の口から『デリカシー』なんて単語が出るとは驚きだ

なんか言った?

なんも

しかしこの重い荷物をかかえて駅から家まで?誰か駅まで迎えに来るとか?

歩いて帰るつもりだよ。たいした距離でもないしね。

わかった。佐々木は家まで送ってやる。
ハルヒは駅まででいいか?

…………

ハルヒ?

いいわよ送ってもらわなくても

ハルヒは自分の荷物をひったくるように言い
駆け出して行ってしまった



翌日の月曜日、教室に入るとハルヒが机に突っ伏していた

体調でも悪いのか?

別に

なぁ、昨日は何でいきなり帰ったりしたんだ?

どうでもいいでしょ
ほら岡部来たわよ。さっさと前向きなさい

ハルヒは一日中ダウナーモード全開でおとなしく、
シャーペンで背中をつつかれることは一度もなかった

放課後、文芸部室にハルヒはいなかった

今日はおやすみだそうですぅ

お休みなのにお茶を淹れてくれるってことは、何かあるんですね?
ハルヒに聞かれては困るような。

えぇと、私にはないんですけど、古泉君が…

えぇ。察しがよくて助かります
昨日から、閉鎖空間の発生頻度が一気に増えました。まるで中学時代の頃のように
あなたに原因があるのではありませんか?

すまんが心当たりがない

もしよろしければ、昨日のことを教えていただけますか?

俺は昨日のことを話してやった。

そうですか・・・佐々木さんが
それでは、僕たちにはどうすることもできませんね
耳にたこでしょうが、『あなたに期待する』としか言いようがありません
そろそろ帰ったほうがよいでしょう
お引止めしてすみませんでした

家にはハルヒと、もしかしたら佐々木もいるかもしれない
なんとなく、早く帰らないといけないような、帰りたくないような・・・



玄関には、女物の靴が二足あった。

おかえりーーキョンくんー

お兄さんと呼びなさい

君たち兄妹は相変わらずだね。くくっ

遅かったわね。今までなにやったてのよ

お前こそ、なんで急に休みなんだ

…気が乗らなかったのよ

古泉の言うとおりだ。確かに、こいつはおかしい

はい、これ

どかっという擬音がしっくりくるほどの紙の束。まさかこれ全部・・・?

当然でしょ。ほらさっさとやらないと朝になるわよ

カリカリカリカリパラパラ
カリカリカリカリパラパラ
うぅぅぅまだ半分残ってるぞ。ちょっと多すぎないか?

普段からやってればたいしたこと無いわよ。

なぁハルヒ、ここちょっと教えてくれないか?

どこ?はぁ?なんでこんな結果になるのよどんな計算してんの?

どれどれ?
あぁなるほど。キョン、この公式に当てはめる数字はこちらだよ。
なぜかというとだね、、、

佐々木の解説はとても丁寧でわかりやすかった

サンキュ。助かったよ

……

カリカリカリカリパラパラ

ハルヒ、ここな「佐々木さんに聞いて」んだが・・・

ハルヒ?

あたし帰る。悪いけど、佐々木さんあとお願い。

私はかまないけど、いいの?

待て。帰るなら送っていくぞ

アンタは課題を片付けなさい!

ハルヒは何を怒ってるんだ?

…今ばかりは、君の鈍感さに感謝するよ……



教室に入ると、空気がピリピリしていた。
昨日はダウナーオーラだったが、今日のそれは一触即発の地雷そのものだ。

どうしたんだ?

あたし今日から行かないから

なんだって?

志望校変えたの。
あたしはあたしの勉強するから、キョンにかまってるヒマは無いの。

ちょっと待て。どういうことなんだ?

今言ったでしょ。勉強の邪魔しないで。

放課後、厭な予感を振り払うようにSOS団アジトへ向かった俺は
厭な予感が当たってしまったことを知った。

ハルヒは今日も休みだった。

急いで帰ると、玄関には女物の靴が一足だけ。

佐々木、すまないが待っててくれるか?
ハルヒを迎えに行ってくる

なぜ?
涼宮さんには涼宮さんの事情があるでしょう?
勉強ならあたしが見てあげられるし、無理に呼ばなくても。
それとも、あたしでは不足?

それは違う。何が違うのか、どう違うのか俺にもよくわからないが、違うんだ。

佐々木は俺の言葉を噛締めているようだった。
俯き、

こうなると思っていた。いや、わかっていたといってもいい。
だが、確かめずにはいられなかったんだ。悪かった。
もう来ないから安心したまえ。短い間だったが楽しかった。

顔を上げて

これで…これであたしも一歩踏み出せると思う。
ありがとう…

佐々木の別れの言葉は、女言葉だった。
俺は佐々木を見送らなかった。



俺は携帯電話をとりあげ、ハルヒに電話をした
出ない。だが、俺は確信していた。ハルヒは絶対に携帯を手にして睨んでいる。
留守番電話が6度。7度目の正直はノーコールで繋がった。

しつこいわよ!わからないところは佐々木さんに聞けばいいじゃない!
あたしはもう行かないんだから!

まてハルヒ!頼むから切らないでくれ。
一度しか言わないからな。よく聞けよ。
お前が来てくれないなら、俺は一切勉強なんかしない。学校へも行かない。
明日からニート一直線に突き進む。

あ、あんたバカじゃないの?ナニふざけたこと言ってるのよ

あぁ俺はバカだ。自分でもあきれるくらいだ。だからお前が必要なんだ

あたしじゃなくても、佐々木さんがいるでしょう…

佐々木は帰った。もう来ないそうだ。

…そう……

そんなわけで、俺の将来はおまえにかかっている

俺たちは駅に近い、ちいさな公園を待ち合わせに定め、電話を切った。
俺が自転車を疾駆して公園に着いたとき、ハルヒはすでに来ていて
小さなブランコを窮屈そうに揺らしていた。

俺が隣に立つと、ハルヒはぽつぽつと語り始めた。

あたしね、卒業するのが怖い。
卒業して、みんな自分の進みたい道へ進んでいくのよね。
あたしは…自分がどんな道に進みたいのかぜんぜんわからない。
SOS団のみんなと離れ離れになって、自分ひとりになって、また中学のときみたいに?
そう考えたら、立っていられないくらい怖かった。
だから、キョンと同じ大学に行くことにしたの。
ほかの誰がいなくても、キョンがいればきっと大丈夫。そんな気がしたから…
まるでストーカー。迷惑よね…

どうして?中学生のときのあたしは平気だったのに
どうして今のあたしはこんなに怖いの?

キョン…キョンは、あたしのことどうおもってるの?
もし…あたしが特別でないなら、もうかまわないで。もうやさしくしないで。
やさしくされたら、キョンに頼ってしまう。
頼ったら、あたしは弱くなる。一人で立っていられないほど、弱くなってる。

それで、俺を無視したりSOS団をほっぽったりしたのか?

ごめんなさい…

こんなに弱気で素直なハルヒは初めてだ
『俺にとってハルヒは何なんだ?』か
いつぞやの、灰色空間での自問が甦る
ハルヒは俺にとって特別な存在なのか?今でも正直よくわからん
だが、ハルヒが頼ってくれるなら俺はうれしい

こんな俺でよければ、いくらでも頼ってくれ。

それって

俺を見上げるハルヒの顔には期待と不安、歓びがにじんでいた
反則的にかわいい顔にうろたえた俺は、地雷を踏んだ。

俺だけじゃない。長門も、古泉も、朝比奈さんも、鶴屋さんもいる。

……っっっ!ばかぁっ!

ハルヒはブランコからはじける様に立ち上がり、俺に詰め寄った

アンタのせいよ!あたしは強かった!独りでいることなんてなんでもなかった!
あたしが弱くなったのはアンタのせい!
有希でもみくるちゃんでも古泉君でもない、アンタのせいよ!

涙?ハルヒが泣いてる?

アンタが優しいせい!
あたしのわがままを許してくれるせい!
あたしをっ!あたしをこんなに弱くして…すこしは責任取んなさいよ………っ

泣き崩れるハルヒを、俺は抱きしめていた。
泣いているハルヒなんて見たくなかった
ハルヒを泣かせたくなかった
俺は懇願するようにハルヒにつぶやいていた

俺はここにいる。お前が望む限り、お前が望んでくれる限り。

キョン…
あんたは?あんたは、あたしがあんたの隣にいることを望んでくれる?
あたしは あんたの隣にいて いいの?

涙を湛えた目で見上げるのは反則だ。ちくしょう。かわいいじゃねーか。

ああ。いてくれ。
目の届かないところにいられると落ち着かん。

ん…いいわ。いてあげる……

俺たちはその後しばらく抱き合っていた。どれだけの時間がたったのか
ハルヒのぬくもりが名残惜しいが、いつまでこうしてはいられない。
俺たちにはやるべきことがまだまだ数多く残されている。
安らぐのは今ではない。

ハルヒ、今夜はもう遅いから勉強は明日にしよう。家まで送っていくから。

ハルヒは頷き、俺たちは自然と手をつないで歩き始めた。

明日のために。二人で。

fin.

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