文化祭。私は右へ左へと奔走する日。
「それを食品部に回してください!」
「はい!」
クラスの出し物の関係、そして生徒会の仕事もあります。
「それは会計の方にお願いします!」
「了解です、先輩!」
人とぶつからないように気を付けながら、歩く事無く走る。
「屋台・鳥吉の焼き鳥が売り切れたという放送をお願いします」
「はい!」
インターフェースだから疲れる事は無いけど、それでも大変ですよ。
彼と歩けたら良いな、なんて思ってたけどこれでは歩けませんね。
 
眠たくないからやっぱり寝ます。
 
「せっかくの文化祭なんですけどね・・・」
一人ぼそっと呟いてその苦さに笑う。ちょっとの憂鬱。
そしてそんな気分のまま生徒会室へと私は戻った。
「おぉ、喜緑くん帰ったかね」
「会長と・・・キョンくん」
なぜここに彼が居るのでしょうか。訳私・・・じゃなくて訳わかりません。
「この時間帯における君の仕事は二人でこなした。次の時間まで彼と歩いて構わん」
会長はそう言って視線を彼に向ける。いきなりの事でちょっと頭が回りません。
彼はすっと立ち上がると私に歩み寄り微笑みました。
「行きましょう、喜緑さん」
・・・そこでようやく理解した。
「・・・はい!」
夢にまで見た彼と文化祭を歩くという事。
・・・しかし、それを誰かに見られるのはあまりよろしくないですね。
特にSOS団の方々に見られては彼も私も・・・。
「不安かね?」
会長が私の心情を察したらしく尋ねてきました。
「はい」
そう応えるとぽいっと何かが投げられました。
それは私も今現在付けている生徒会用の腕章。
「それを彼に付けたまえ。生徒会の二人が歩いているとすればおかしいことはあるまい」
「しかし、会長・・・」
「彼が俺に言われて仕事を手伝わされていると言えば良い。きっとあの団長様の事だ。連中引き連れてこっちに来るさ」
そうすれば邪魔者は一時的に居なくなる。会長はそう言って眼鏡をクイッと上げました。
どこまでも頭が回る人。思わず感心します。今の私ではそこまでの考えに及ぶことすらないのですから。
「『二人で見回り』という仕事を頑張りたまえよ」
生徒会室から出る際に、そんな言葉が聞こえた。
ちょっとだけ恥ずかしくなってしまいました・・・。
 
・・・・・・・・・・・・・・・。
 
「さて、どこを見回りますか?」
「そうですね、では色々と怪しいお化け屋敷でも見回りましょうか」
「はい」
私はいつもの癖で彼の手に手を伸ばし、戻した。
駄目ですよね。学校内では手は繋げない。解ってます。
だけど、空いた手がちょっと悲しいですね。ハァ・・・我慢です。
「ではここから入りましょうか、喜緑さん」
彼が指差した先には『着信ナシ』と書かれたお化け屋敷がありました。
えっと・・・確かこれは、一年生の出展ですね。
「では入りましょう」
もちろん、列には並びますよ。
やっぱりお化け屋敷って言うのは人気があるのですね。
ん~、しかしこれでは時間内に周るのは難しいですね・・・。
情報操作しますか。う~ん・・・でも・・・・・。
「喜緑さん、順番来ましたよ」
「え? あ・・・早かったですね」
私達一通り説明を受けて、そして入っていきました。
このお化け屋敷は何処かにあるお札を持ってゴールまで行けば良いという事らしいです。
ふと、私の手を何かがぎゅっと握りました。
「ひゃっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまいました。冷静になって、私。
「俺ですよ、喜緑さん」
先導する彼が振り返って言う。
顔は仄暗くてよく見えないですが、明らかに笑ってる気配がします。
「あ・・・もう、ビックリさせないで下さい」
「すいません。でも、したかったんでしょう?」
「気付いてましたか?」
「そりゃ、手を凝視されれば嫌でも」
いつもは鈍感なのに、こういう時は敏感なんですよね。
でも、そういうところも含めて大好きなんですから、私も困ったものですね。
そういうわけで、彼の手に引かれて私は先へと進みました。
影から影からワァッと飛び出たり手を出したりして驚かせようとしていますが、それでは驚きませんよ。
えぇ、この手だって私が強く握ってるわけじゃないんですからね?本当ですよ?
「ワァッ!」
「きゃっ・・・!」
訂正します。・・・ちょっぴり怖いです。ほ、本当にちょっとなんですからね?
別に強く握りたいから彼の手を強く強く握ってるわけじゃないんですよ? 本当ですよ?
・・・何があっても絶対にちょっと以上と認めはしません。それが私の正義です。
「喜緑さん、腕に抱きつきたかったら構いませんよ?」
「だ、大丈夫です! きょ、キョンくんこそ怖いからそんな事言うんじゃないですか?」
そう言うや否や手にあった温もりがふっと離れました。
ちょっとだけ心がちくりとしたのは、先導してくれる光が無くなった気がしたから。
「いえ、俺は別に怖くないですよ?」
「・・・意地悪ですね」
私はちょっと拗ねてみました。今日は本当に意地悪です。
多分、この暗がりの中では頬を膨らませても彼には見えないでしょうが。
ふと離れた手が再び手に重なるのを感じた。
「さぁ、行きましょうか」
「はい」
この手に引っ張られれば私はどこにでも行けそうです。
当然ですね。彼は先導者ですから。私を導いてくれるんです。
先が見えなくても、この手に引かれれば、
「お札ありましたよ」
「じゃあ、ゴールへ行きましょう。早く」
「はいはい」
正しい道を歩んでいけます。だから、
「ゴールに着きましたよ」
「長かったです・・・ふふっ」
ちゃんと、ゴールに辿り着けるんです。最後には。
さて、手を繋いだまま廊下に出る訳にもいきませんね。
私はそっと手を離しました。それと同時に、扉が開き、明るい廊下から光が差し込む。
「さて、今度は何処に周りましょうか?」
彼が私を振り返って訪ねてきます。答えなんて、決まってます。
「では、屋上に行きませんか? 今なら人も居ないでしょうし、少々疲れてしまいました」
「仕方ないですね」
「膝枕お願いしますよ?」
「了解です」
 
―――迷子になったら貴方が居る。
 
―――貴方は私を導いてくれるチェシャ猫。
 
―――先導する光に照らされ、眠たくないからやっぱり寝ます。
 
その頃生徒会室。
「ちょっと、生徒会長!」
「いきなり乗り込んで何のようかね?」
「キョンに無理矢理仕事やらせるなんて随分とSOS団を馬鹿にしてくれるわね!」
「何の事かね?」
「腕に生徒会の腕章を巻いたキョンが秘書と用紙を持ってうろちょろしてるのを見たのよ!」
「あぁ、あれかね。手伝って欲しいと言ったら手伝ってくれただけだぞ? 『いつも団長が失礼をすいません』ってな。確かに君は失礼の塊だ」
「なんですってぇ!?」
「何かね? 何か言い分があるなら言い給え。全て世間の常識を持って撃墜しよう」
「だって、常識なんてつまらないじゃないの」
「これだから君は非常識なのだ。非常識極まりない」
「あ、あの二人とも落ち着いて下さい」
「そうですよ~」
「うるさいわよ、古泉くん、みくるちゃん! ここは引き下がれないまさにジャスティスを巡るバトルなのよ!!」
「別に対決などしていない。君の一方的な理不尽だろう?(二人が帰ってくるまでこれをいじって楽しむとしようか・・・フフッ)」

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最終更新:2007年12月16日 02:13