俺の目の前を白い雲が流れて行く。俺の中の曇り空とはエラい違いだ。
制服の内ポケットから隠していた煙草を取り出し、安っぽいライターで火を着ける。
肺に毒素を取り込み、目の前に浮かぶ雲に似た白い息を吐き出す。
ふわふわと浮かんだその息は時間と共に次第に薄れて行き、そして消えた。
くつくつと自虐的な笑いが漏れる。
「まるで今の俺みたいだな……。なぁ、お前もそう思わないか?古泉」
そして屋上に出る扉の前で優雅に立っている男に目を向ける。
「気付いていましたか……」
はん、何を今更。
「ああ、そりゃもうずっと前からな」
「そうですか。覗き見したようで失礼しました。」
「それくらいで謝るな」
トントンと灰を落とす。あ、携帯灰皿忘れて来た。
「それで本題ですが……」
「なんだ?」
「……あのままでよかったんですか?説明すれば彼女もあそこまで……」
「いいんだよ。」
「ですが……」
「いいんだ。あれは俺がやった。紛れもない事実だ」
「そうですか……。あなたがそう言うのであれば」
「ああ、どうせもうなるようにしかならんだろう」
そう自分に言い聞かせる。そうしないとやっていけないだろ?


「それで、あの男はどうなった?」
まあ死にはしないだろうが結構手酷くやったからな。
「鼻と肋骨。指の骨折と裂傷が数十ヶ所。まだまだありますがまあ良い勉強にはなったでしょう」
そうだな。と軽く返す。もう一本煙草を取り出し、口に咥える。
「お前もどうだ?」
古泉は少しためらった後「貰いましょう」と言った。

二人で手摺に寄り掛かり無言で時を過ごす。しばしの静寂。心が落ち着いてきた。
ふと古泉が口を開く。
「そうでした。僕の知り合いに要らないバイクがあると言っている人が居ましてね」
またそれか。どうせ機関絡みだろ?
「いえ、僕が中学の頃お世話になった先輩なんですよ。機関とは一切関係ありません」
「ほう、それで?」
「もしよければ手配しますが。いかがでしょう」
いいね。しばらく乗ってなかったんだ。
「いただこうか」
「そう言うと思ってましたよ」
どちらともなく笑い合う。全くこいつはよく解ってやがる。
短くなった煙草をにじり潰し、屋上を後にする。古泉は礼儀正しく携帯灰皿持参だ。持ってんなら早く言えよな。
「すっかり忘れてたんですよ。あまり吸いませんからね」
そうかい。
「それで、どうします?」


「何がだ?」
「彼女の事ですよ。あんな所を見られてしまってはもう前と同じような関係には戻れないかも知れませんよ?」
なんだその事か。
「ま、大丈夫だろ。あいつがあんな事でどうこうなるタマじゃないのはお前もよく知ってるだろ?」
「ふふっ。そうですね」
「それに悪いのはあの男だ。正当防衛ってやつだよ」
まあその割にはやり過ぎたって気がしないでもないがな。
「そう言う事にしておきましょう」
「そうしとけ」
2人並んでビルを出る。さっきまで曇り空だった俺の心の中も今ではこの空の様に晴れ渡っていた。



~完~

製作・挿入歌/俺

|