人類史上最強の暴君と言っても過言ではない涼宮ハルヒによって文芸部室に拉致られもうすぐ一週間が過ぎようとしている。
当初はどうしようもない程のやるせなさに襲われていたのだが、マイエンジェル朝比奈さんを拝むことが出来るから、と割り切って考えることにした。
と、まあそんな感じで現在も部室に絶賛滞在中の俺ではあるのだが、今日は朝比奈さんだけでなく長門までもが部室に訪れないという悲劇に見舞われた。
つまり暴君ハルヒと2人っきりの状況である。
こいつの内面を知らない男なら喜ぶべき状況だろうが、俺としては是非とも勘弁して貰いたい。そんな状況下で俺がハルヒの方をチラリと伺うと、やけにソワソワしているハルヒの姿が目に映った。
今更ながら、よくよく考えてみると昨日からあんな感じだったな。何を考えているかは知らんが厄介事を抱え込んでくるのだけは止めてもらいたい。
そんな想いに馳せながら観察していたのが悪かったのか、不意にハルヒと目が合ってしまうことになる。俺は突然のことに動揺し、視線を外しながら言い訳のように早口で告げた。
「今日は他の奴らは来ないみたいだし帰らせて貰っていいよな」
「あ……」
急いで荷物を纏め最後にハルヒに挨拶でもしようと振り返ったとき、ハルヒの右手に力強く握られているある存在に気が付いた。スッカラカンの頭をフル回転させて思考する。
……もしかして……そうだ、確かにそう考えると納得が出来る。あいつの性格から考えてみてもな。
ここは俺から言ってやるか。いいことも思い付いたことだし。
「それ、お前の携帯か?」
「え、あ、うん………」
やけにしおらしい。不覚にも可愛いと思って…………………いや、冗談だ。
「偶然だが俺の携帯も同じ機種なんだ。ちょっとだけ見せて貰ってもいいか?」
これは本当である。偶然だと信じたい。
「別にいいけど……」
ハルヒから受け取った携帯を眺めてみる。俺のものとは違い傷一つ付いていなかった。
さて、ここから作戦開始だ。電話帳を開き新規作成を……………え…何だよ、これ………電話帳に、誰も………………ああ……………だから、か。
携帯に傷一つ入っていない原因。それはこいつが携帯を全く使ったことがないから。
こんな性格だ、きっと今まで誰にも訊くことが出来なかったはずだ。そしてその逆も然り。
ずっと寂しかったんだろうな、こいつは………。
俺の思考がその結論に至った瞬間、俺は素早く作戦を実行した。
「…………ちょっとキョン、いつまで人の携帯いじってるつもりなの!?早く返しなさいよ!!」
「分かったよ、ほれ」
「まったく、なにやって…………………………」
「すまん、勝手に登録させて貰った。俺が登録番号一番で不本意かも知れんがな」
「………バカッ!このバカッ、あんたは、本当に…………」
「嫌、だったか?嫌なら消して貰っても構わんが…………」
「ふ、ふん、もういいわよ。一度登録したものを消すのはあたしの主義じゃないから」
俺はそうかい、と言って笑った。それを見てハルヒは不機嫌な顔を作っていた。
…………だけどな、俺はちゃんと見たぜ。不機嫌な顔になる前に、お前が笑ったところをな。
その後、俺はハルヒと2人で下校した。ハルヒが俺の自転車の後ろに無理矢理乗ってきて大変だったな。
怒ろうかとも思ったが、太陽のような笑顔を見せてくれたらそんな気も無くしてしまったよ。
しかし疲労には勝てず、すっかり重くなってしまった足を引き摺って俺は我が家へ帰宅した。ふと携帯を見ると、見知らぬアドレスからメールが届いていることに気付いた。
『あんただけ勝手に登録させてんじゃないわよ!ぜーったい、あたしのも登録しときなさい!登録しないと死刑よ、死刑!!
それから、ありがと』
まったく意地っ張りのあいつらしいメールだった。
ん、ちゃんと電話帳には登録したさ。だって死刑にはなりたくないだろ。
…………ああ、それから俺もハルヒのアドレスを登録番号一番にした。特に意味はないんだけどな。
終わり