◇◇◇◇◇
 
 小説内での十二月二日が休みだったから、わたしはなんとなく予測出来ていた。午前七時五十五分、涼宮ハルヒからの連絡。
 やはり今日の不思議探索は中止になった。理由はメンバーのみんなが疲労しているから。でもこれで、今日一日は読書に集中出来る。
 
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 彼女は今日、彼を駅前に誘った。他の誰にも内緒で。
 理由は何でも良かった。この行動は彼女がただ、彼と二人っきりで会いたいと思ってしたこと。
 
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 ……彼を誘う? きっとこの物語の『彼』に該当する人物は……”彼”だ。涼宮ハルヒの鍵となる人物であり、わたしたちにとっても大切な存在。
 今日わたしが彼を誘ったら、彼はどう思うだろう。困惑させてしまうかもしれない。迷惑になるかもしれないし、それになにより……
 
 ――彼は、わたしのことをどう想ってるんだろう?
 ――わたしは、彼のことをどう想ってるんだろう?
 
 想いが交錯する。けれど、それを確かめる意味で彼を誘い出す行為は的確かもしれない。それに物語通りに従わなければ、なんだか気が済まなかった。
 わたしはページを広げたまま暫く考えたあとに決意して、そのまま栞を挟んで本をぱたんと閉じた。
 
 
 
◆◆◆◆◆
 
 ベッドの上でブルブルと震える携帯のバイブが俺の五感のひとつ、触覚に刺激を与えたことで俺は目覚めた。
 またハルヒからの無理な要望やら命令やらが入り組んだ電話かと思いつつ、それを渋々手に取って俺は通話ボタンを押す。
 だが俺の耳に入ってきた声色は、明らかにハルヒのものではなかった。しかもその第一声の意味を理解するのに、俺は十段程の階段を駆け上がる位の時間を要した。
『……図書館にいく?』
 耳と接触する薄っぺらい板から伝わってきた声は平坦で、全くの無色といった感じのか細いものだった。
「長門か?」
『そう』
 ……ん? すまん、用件をもう一回言ってくれ。
『図書館にいく?』
 誰と?
『わたしと』
 いつ?
『今日』
 何時から?
『いまから』
 ……ええとなんだ。図書館にって、不思議探索はどうするんだ?
『今日は中止。涼宮ハルヒから連絡が来ているはず。』
 そうなのか。
『…………』
 なんだか俺はあっけに取られて言葉を失っていた。淡々と話していたが、なんだろう、この静けさは。
「……あ、ああ」
『それじゃあ、駅前で』
 プツンと通話が途絶える。ちょっと待て、色々と解からない点がいくつかあるぞ。長門が俺を駅前へ――最終目的地は図書館だろうが――誘い出す趣旨と目的が解からない。あるとすれば……そうだな、またハルヒ絡みの良からぬこと――電話では伝えきれない、直接会って話さないといけないレベルのやつだ――があったとかかな。
 兎にも角にもまずは駅前へ向かうしかない。理由はあとで聞けばいいさ。
 俺は眠気覚ましに一杯のコーヒーを飲み干してから妹特製の目玉焼きを早食いし、即効で私服に着替えるというスケジュールをスピーディにこなした後、寒空の下ペダルに全体重をかけて漕ぎ始めた。
 
 
 当然とも言うべきか、俺が到着する前に長門は着いていたようで、例の分厚い小説を熱心に立ち読みしていた。制服姿ではなく、普通の女子高生が着て歩くような私服を身にまとっている。
「ぐっもーにんっ。」
 軽いシャレのつもりで投げかけた挨拶を長門は真面目に受け止めて、暫く俺をまじまじと見つめた。なんか恥ずかしくなってきた。今だけエンターテイメント性がある俺の心に釘を打って黙らせてやりたいぜ。
「い、いや今のは軽いジョークでだな。」
「Good Morning」
 一瞬、俺は外人と話しているような錯覚に捕われた。長門から返って来た言葉は英語ダメダメな俺でさえ完璧だと解かるような、まさにエクセレントな発音の英文だった。
 さっきの「ぐっもーにんっ」なんてアホ丸出しな発言を悔やんだってしょうがないことを悟った俺は、とりあえず気になった疑問をぶつけてみる。
「長門、今日はまたなんで俺を?」
「…………」
 長門は数多くある語彙の中から最適なものを選び出すように思考を始めたのち、
「まだ……内緒。」
 と、やはり平坦に述べた。
「なんだよ、それ。」
 内緒にする理由が解からないが、とりあえず笑ってみる。
「朝食は?」
「ああ、済ませてきた。」
 確認すると長門は無言で歩き始めた。俺は長門と肩を並べて歩幅を合わせる。俺は休日の街の雑踏の音など全てかき消されたかのような無音の世界をこの身に感じて、そしてそのままほのぼのと図書館への道のりを長門と一緒に歩んで行った。紅潮なんてしてないからな?
 
「あれ……?キョンじゃないか。」
 思わぬところで声をかけられる。声の主を確認したところで俺に冷や汗が流れたのはきっと気のせいに違いない。
「佐々木……と他多数か。」
「あたしたちが”他”扱いなんて、酷いなあ。」
「―――――」
「ふん。しかし無口エイリアンと極普通の一般人との組み合わせとは、なかなか珍しいものだな。」
 くそ、よりによってこんな時に現れやがったか。
「何をしていたんだい? その、長門さんと二人っきりで。」
 俺は返答に困った。この状況はどう説明すればいいんだ? ただの散歩……とは違うから、もしかして客観的にみるとデートの一種に含まれる状況なのか? これは。
「くくっ、はっは。お気楽にデート気分か? こりゃ滅多に拝むことのできない大傑作だ、ふっくっく。」
 おいおいちょっと待て、その解釈は間違ってる。詳しくは長門に訊いてくれよ、俺はよく解からん。
「お前こそ、今日はやけに饒舌だな。何か嬉しいことでもあったのか?」
 最も、こいつの嬉しい出来事なんて想像もつかないが。
 藤原――だったよな――は鼻でふんと息を吐いて軽く受け流しやがった。別にこいつと会話が成立しても何も面白くないからそこはいいとして。
「まさか、そんな関係だったとは初耳だよキョン。いつからだい?」
「お前までそんなことを言うのか。別に何でもないんだよ、なあ長門?」
 空気を読んでくれることを願って、長門に視線を落とす。
「……そう。さきほど、たまたま会っただけ。」
 毎度のことながら感謝するぜ長門。
「へえ、そうなのかい。僕はてっきり……」
「そういうお前らこそ何をしてたんだ?」
「あたしたちはね、佐々木さんのお付き合いしてるの。」
 橘京子が出しゃばって返してきた。それで、佐々木は何の用が?
「特にこれといって目的はないんだ。ただ単に、勉強三昧の毎日から一日くらい解放されたくてね。そこで橘さんにその旨を相談してみると、このように集まってくれたわけさ。彼女は本当に気が利くよ。」
 つまりただ街をブラついてるだけってことか。だが悪いな、俺たちには図書館という目的地があるから、これで失礼させてもらうぞ。
「そうかい? もう少し行動を共に出来たらと思ったが残念だ。キミたちを邪魔するつもりもないからね。じゃあキョン、また。」
「また今度っ」
「―――――」
「せいぜいその女と楽しんでいればいいさ、ふっくっく。」
 まだ笑いを保ってる藤原は無視し返すことにした。言っておくが藤原、お前は今ハーレム状態のなかに置かれているんだぞ。
「ああ、じゃあな。」
 最後までまさに存在感ゼロを通し続けた周防九曜の存在に気付いたのはこの時だった。それに比べて長門、お前はすっかり人間臭くなったな。いや、いい意味で言ってるんだぞ。
 軽く手を振って佐々木と他多数と別れたあと、俺らはまた図書館へ歩き出した。
 
 
 適度に暖房の効いた図書館に到着すると、長門はまるで自分の使命をたった今思い出したような俊敏さで一目散に椅子へ駆け出す。
 仕方ないから俺もついていった。どうも俺が呼ばれた理由が解からんからな。訊き出すには今が良いだろう。
「なあ長門、今日はなんで……」
「あっれぇー? キョン? 奇遇だね。」
 ここでも思わぬ奴と遭遇した。なんでお前が居るんだ国木田。今日は知人と会うように設定された日なのか?
「知らなかったの? 僕はたまに図書館で勉強してるんだよ。資料だってたくさんあるし、まさに最適な勉強場所だね。キョンもそう思うだろう?」
 知らん。しかしお前だけなら良かった。いつもセットでくっついてくるあの野郎なんぞが居たら冷や汗ものだぜ。
「国木田ー、ここ教えてくれよ。どうしてもここの計算が……んあ? なんでキョンが居るんだ?」
 ハルヒに似たアヒル口をし、片手に教科書、もう片手でシャーペンをくるくる回しているというなんとも似つかわしい姿で登場したのは言うまでもなかろう――しかし言ってやる――、谷口だ。
「今会ったところなんだ。ねぇ、キョンも勉強しに来たの?」
「……はっはーん。国木田、お前には解からねーのか? ほら、キョンの後ろ見てみろよ。」
「ん? ……長門さん、かい?」
 ぐあっ、バレちまった。
 本に夢中だった長門もこちらの方を見て、一度瞬きをした後にまた本に視線を落とした。
「っかー! キョン、やはりあん時の話は嘘だったんだな、まぁ最初から信じてなかったけどよ。」
「あの時の話?」
「しらばっくれるよなよ。そうだな……そうそう、丁度朝倉が転校しちまう前の日だった。俺の大切な観賞用――いつかは付き合うというシナリオだったんだが――のAAランクプラス美少女が居なくなっちまった衝撃的な日の前日だったから鮮明に思い出せるぜ。」
「何があったんだい?」
「こいつら、誰も居なくなった放課後の教室で抱き合ってやがったんだ。」
「本当? それは初耳だよ。」
 待て待て待て。嘘を交えて話をするな。抱き合っていたというより、抱きかかえていたのほうが的確……って、どっちにしてもヤバい内容か。というかお前、前に一人で勝手に納得――この納得も勘違いだったが――してなかったか?
「結局お前らはそんな関係だったってことか……つくづく失望するぜぇキョン!」
「国木田にまで誤解を招かせるなよ。あれは違うって言っただろ? そう、長門とは別に何もないんだって、なあ長門?」
 本日二回目、長門は目線は本にいったままで、無言でゆっくりと頷いた。
「じゃあ今日のことはどうなんだよ。たまたま図書館で会ってさ、なんて理由じゃ許されねぇぜ。」
 誰に許されないのかね。
「そりゃあ、北高中の長門有希ファンさ!」
 そんな奴らの存在でさえお前は調査済みなのか。……とりあえず、この場を回避しなければ月曜にハルヒの雷が落ちることが既定事項になっちまう。
 俺が頭の中を整理しながら、ボロが出ないように嘘説明をしようとすると、
「彼の意思は関係ない。……わたしが提案して、彼を誘った。それだけ。」と長門。
 谷口と国木田は顔を見合わせて、まるで株で大儲けしたある企業の社長のようなニンマリとした表情で俺らを見たあとに、
「僕らはお邪魔ムシみたいだね。」
「おう、行こうぜ国木田。ごゆっくり~。」
 チラチラと時折こちらを見ながら、二人は窓側の大きい机がある方へと消えて行った。しかし長門、お前の言葉は魔法か何かがかけられているのか? この前の居眠りの一件といい、今の一件といい、お前の一、二言でその場が解決してる気がするぞ。
 まあこれで邪魔者は去ったわけだ。これで心置きなく……
「あなたは嫌?」
「ん?」
「あなたはわたしに誘われて、嫌だった?」
 長門はいつのまにか本を閉じていて、目はこちらに集中している。真剣そうな表情の中の眉が垂れ下がっているように見えるのは、恐らく幻覚ではないだろう。
「先ほどから……あなたは困惑の顔を隠せないでいる。前に図書館に来た時だってそう。……迷惑?」
 正直、こんな質問をされるなんて思ってもみなかった――思っていても何と返していいか疑問だが――から、返答が全休符ほど遅れた。
「い、いや俺はそんなことこれっぽっちも思ってないぞ? お前の思い違いさ。」
「……本当に?」
「ああ、本当だ。逆に結構嬉しいんだぜ。」
「うれしい? わたしがあなたを誘ったことが?」
「今、長門と居られること……かな。」
「…………そう」
 ……あれ? 俺今結構恥ずかしいこと言ったんだけど、効果ナシか? そりゃそうか、ちっとだけやましいことを考えてた俺が悪うござんした。
「わたしも……うれしい。」
「ん、なんだって?」
「……二度も言わない。」
 長門は手に持っていた本を腕に抱えて、
「ここはもう大丈夫。次はあなたが行きたいところに行くべき。」
 もういいのか? ……じゃあそろそろ昼時だし、喫茶店で昼飯でも食うか。
 長門は首肯の動作を見せて出口へと歩き出した。こんな活き活きとした長門を見るのは、初めてかもしれない。
 
 喫茶店に入って席に着こうという時、俺はまた驚くことになる。
「ん? やあ、キョンまた会ったね! こっちにおいでよ。」
「佐々木……! と、他多数もか!」
 さっき顔を見合わせた連中と同じ席に座る。長門も淡々とした動きで着席。
「図書館に行って来たんだろう? ずいぶんと早かったね。」
「ああ、大した用は無かったからな。」
 そういえばさっき国木田に会ったよ。図書館で静かに勉強だとさ。
「本当かい? 国木田も勉強熱心だね。追い抜かれないように僕も頑張らなきゃ。」
 お冷を口に含んでから、長門が何か喰いた気な雰囲気を発していることに気付き、俺はメニューをさらっと確認してから注文することにした。
「藤原、そのボタンを押してくれ。」
「…………」
「おい、聞いてるのか?」
 藤原はカップを傾けて中の液体――多分コーヒーだな――を口の中へと運ぶ。
「おいっ、藤原!」
「ん? もしかして僕のことか? ああ、そういえば僕が藤原だったな、くく。」
 自分で名乗ったんじゃねえか。こいつふざけてるのか? それとも俺をおちょくってるのか? どちらにしても、どうも気に喰わん奴だ。
「ボタンならそこのインターフェースに押してもらえばいいじゃないか。情報操作でもしてな、ふくく。」
 ダメだこいつ……話にならん。次にボタンに近い席に座ってるのは……周防九曜。こいつと会話が成立する気がしてこない。こいつも却下だ。となると次は……
 
 ポチッ
 
 ボタンに誰かの手が触れて、厨房のほうからピンポンと高い音が聞こえた。
「んん……! もうっ! どうしてそんな意地悪をするんですか? それくらいしてあげればいいのに。」
 親切にもボタンを押してくれたのは橘京子で、そのあとに俺をちらりと見て柔和な笑顔を見せた。その笑みはどういう意味がつまってるんだ?
 パタパタと寄って来たウェイトレスに注文をして、またお冷を口に含む。うむ、冷たい。
「そういえば佐々木、お前らは結局何処か行って来れたのか?」
「それがずっとブラブラしてただけなの。もともと行く場所はなかったものね。」
 しゃしゃり出てきたのはまた橘京子。なんだ、お前知名度を上げたいのか?
「僕らの話より、キミたちの話のほうがよっぽど興味をそそるよ。」
 そうか? 俺はさっきから見詰め合っている――睨み合っている、の方が的確かもしれない――この宇宙からの使者たちの方がよっぽど気になるけどな。
「…………」
「―――――」
 これは俺の想像だが、きっとレーザー的なテレパシーで電波な話をしているんだろうな。二人とも瞬きひとつしてないぜ。
「…………」
「――気をつけて――」
「……?」
 口が動いたかどうかさえ解からない程の小さい動きで、今周防九曜は「気をつけて」と言った。確かに聞き取ったぞ。
「どういうこと?」
「―――――」
「お待たせ致しました。」
 ウェイトレスが注文の品を持ってきた。手慣れた手つきでそれらをテーブルに置いてから一言。
「どうぞごゆっくり、長門さん、キョンくん。」
「えっ?」
 ……ウェイトレスまだ続けてたんですか、喜緑さん。
「それと……」
 喜緑さんは長門を心配そうに一瞥してから、
「……気をつけてね。それからキョンくんも。」
 あなたもそれですか。一体どういう意味なんです?
「いいえ、なんでもありません。」
 喜緑さんはいつものにっこりスマイルを見せてくれた。なんでもないわけないでしょう、どう見たって意味深ですよ、その言葉。
 そのまま喜緑さんが店の奥へと消えていったのを見計らったように、藤原は笑いを堪えるのをやっとやめて、
「くくっ、ふっはっはっは! いつ何時見ても笑える茶番だ。」
 お前は少し黙っていろ。いちいち癪にさわる。
 長門はこの状況をどう考えているのか気になって伺い見てみると、既にランチタイムに突入していた。デミグラスソースのかかったオムライスが、パクパクと口の中へ運ばれていく。
 とりあえず今は気にしないで、俺も雑談を交えながら昼食を味わうことにした。
 
 
「それじゃあキョン、また。」
「そのセリフ、二回目だな。」
 さっと昼食を終えた俺たちは喫茶店を出て、佐々木たちと別れた。とりあえず街を歩いてみるか。
 
 
 
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 結局それから数十分、いや数時間。彼と彼女は何処にも行かず、ただ肩を並べて街を歩くだけだった。
 それでも彼女は幸せだった。一緒に居れるだけで彼女は何の不満も無く、冬の寒さだって忘れられた。
「ずいぶん暗くなったし……結局何処にも行けなかったな。」
「うん、そうだね。」
「ごめんな。せっかくの休みの日に……。」
「いいよ、気にしないで。」
 気にかけてくれるだけで、わたしは充分幸せだから。
「でも、今日はありがとう。あなたと一緒に居られて、とても楽しかった。」
「そ、そうか? なら良かった。」
 彼は笑顔をこぼす。それにつられてわたしも笑みを見せる。
「それじゃあ、また明日……学校で。」
「ああ、じゃあな。」
 
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 いつの間にか空は漆黒の色を強めていて、雲ひとつなく月の光が照々と街を照り付けている。
「すまん長門、結局何処にも行けなかったな……。」
「気にしなくていい。それと……」
 わたしはあなたと居られて楽しかった。だから、そんな悲しそうな顔をしないで。
「今日はありがとう。わたしはあなたに感謝している。とても楽しかった。」
「そうか? それは光栄だ、良かった。」
 彼は薄い笑顔を見せた。そしてわたしも、自然に笑う。上手く笑うことが出来ていたらいいけど。
「また、明日。」
「ああ、また学校でな。」
 光陽園駅前公園でわたしたちは別れた。わたしは彼の姿が見えなくなるまで、そこに立ち尽くしていた。
 ……今日は楽しかった。それで、わたしの気持ちは確認出来た? 彼の気持ちは確認出来た?
 
 ――彼は、わたしのことをどう想ってるんだろう?
 ――わたしは、彼のことをどう想ってるんだろう?
 
 この答えは……まだ解からない。けれど、この小説通りに事は進んでいる。この小説通りに行動すれば、上手く事が進む。
 それを改めて確認出来ただけで、今日はいいんじゃないかと、わたしは思う。

 

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