行く川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず…。

何て事を書いていたのは一体誰だったか…忘れちまったな。何せ古文を勉強したのはもう遠い過去のようにも思えてしまう、高校一年の一学期の話だからな。

日常が非日常を迎えたあの日からもう三年がたった。しかし、我らがSOS団は卒業後も解散することなく今日もつつがなく毎日活動している。

何故そんなことが可能なのかと言えば、これはひとえに俺らが皆そろって同じ大学に進学したからだ。

けどまあ、高校時代と違う点もいくつか点在する。

まず、ハルヒの神様的能力がノミの心臓ほどに小さくなったことだ。

長門の話によると、今は季節外れの桜を咲かすことはおろか、嵐も呼べないとか。

ほんの小さな閉鎖空間を発生させるのが関の山…とも言っていたな…古泉が。

そして次に、長門がほとんど人間の少女と変わりなくなっていることだ。

本人曰く、『涼宮ハルヒの力が減少したことにより、私は用済みとなった。本来ならば朝倉同様に消去されるはずだが、まだ強かった涼宮ハルヒの力の干渉を受けたために不可能となった。故に、情報統合思念体はほとんどの能力を消去し普通の女の子とほぼ変わらない個体として私を地球上に残した』とか。長門は一回も息継ぎせずに言ったのだが…よほど嬉しかったのだろうな。

朝比奈さんは勿論俺らの一個上の学年だ。…鶴屋さんは実家の家業とやらを継いだらしい。大学には通っていない。

そして、古泉は俺と同じクラスだ。

…ところで、佐々木と国木田、それに谷口も俺らと同じ大学にいる。

前者二人はまだわかるが、谷口はどうやって合格を勝ち取ったのだろうか。俺にはハルヒという鬼みたいな、天使みたいな家庭教師がいたから何とかなったが…まさか金ではあるまいな。

まぁ何にせよ、俺らは普通の大学生活を送っているわけだ。

…いや、送っていた、か?

…あの日までは…。

 

 

 

 

 

 

九月も半ばに差し掛かり、そろそろ寒さが身にしみ始めた頃のことだった。

俺はいつもの時間に起床した。流石に、中学生になった妹は俺にボディープレスをすることは無くなっていて、俺は痛みから解放されたことに喜びを感じつつも兄からだんだん離れてきたことに悲しんでいたりする。

俺は二階の自室から一階の居間へ向かった。

いつもの通り、味噌汁の香りがする。

「あ、キョン君おはよう!」

「おはよう」

そこには既にパジャマからジャージに着替え、朝食の食パンにかじりついている妹がいた。

時刻は午前六時。俺は県外の大学へと行くため、結構な早起きなんだが、妹にも部活があるので結構な早起き者だ。…母は眠いと嘆いているが。

「はい、これポストに入ってたよ」

「ん?」

妹は俺に一通の封筒をよこした。…なんだこれ。

差出人は…裏道 霧華。読み方は…ウラミチ キリカ、か?

「誰だこれ」

全く知らん。こんな名前は聞いたことも見たこともない。

…たちの悪い悪戯か、それとも配達先を間違えたか…。

どちらにしろ、俺宛ではないだろう。

大学の帰りにでも郵便局に寄るかな。

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…」

…眠い。何で物理ってヤツはこんなにも眠気を誘うんだろうか。

もしかして、眠りに関する心理学も同時に研究してるんじゃないだろうか?

「何馬鹿なこと言ってんだ馬鹿」

「…バカに馬鹿って言われた…」

「…殴って良いか?」

「悪いに決まってる」

俺に話しかけてきたのは谷口だった。

「物理が眠くなるってのは大いに賛同するが…。それを引きずって貴重な昼飯の時間を削られちゃ困る」

「だったら一人で食えよ…何故俺を誘うんだ」

「話し相手がいないと困るだろ」

「…そうかい」

よっこいしょ、と席から立ち上がる。

「オヤジかお前」

「うるさい」

俺らは食堂に向かった。

食堂に入って適当に飯を買って席を探していると、

「おや、珍しいですね。こんなところで会うとは」

「………」

古泉に出くわし、長門を見つけた。

「出くわし…とは随分な挨拶ですね」

「…口に出した覚えはないんだがな」

全く、人の心を勝手に読むな。

「おう古泉、そこ空いてるか?」

「ええ、どうぞ」

谷口が古泉の隣に座る。

ちなみに、長門と古泉が座っていたテーブルは一般的な四人が座れるテーブルなので、古泉の隣に谷口が行くと、

「…長門、隣いいか?」

「……どうぞ」

という会話と共に長門の隣に俺が座ることなになるわけだ。

 

 

「しかしまあ、何でこう大学の学食は不味いのかね…」

俺は誰に言うまでもなくぼやいた。

「おいキョン。せっかく作ってもらっているのに、その言い草はないだろ」

谷口が返答してきた。

…えーと、谷口が他人のフォローするときは…。

「…すいませんね。お前的美的ランクの高い人を侮辱しまして」

俺がそう言うと、谷口はカレーを吹きそうになった。

「な、何を言ってるんだ!そんな人いるわけがないだろう!」

ハイハイ。声が裏返った反論をどうもありがとう。

しかし、この反応は少し大袈裟だな。…惚れたか?

「まあまあ、苛めるのもそのへんにしておいてはどうですか?」

「苛めるとは人聞きの悪い。俺は少しからかっただけさ」

「現代社会における苛めっ子は総じてそんなことを言いますが?」

「それは…そいつらと俺の感性が偶然の一致を果たしただけだよ」

「………」

俺は自分のミートスパを食す。…うーん、やっぱり美味しくない。

「それはそうとして、今日僕の家に間違った手紙が配達されたんですよ」

と、古泉がカルボナーラを食べながら言った。

「間違った手紙?」

すかさず反応。

俺も、間違った手紙なら貰ったからな。

「ええ。名も知らない女性からでしたよ」

女性ね。

…まさか。

「あ、俺のところにも来たぜ。手紙」

と、口を挟んだのは谷口だ。

悪くて嫌な予感がする。

「…私にも、届いた」

「ナニ?」

長門にも?…予感的中か?

ならここは、俺も言っておかなくてはな。

「実は俺もだ」

全員の視線が俺に集中したのを感じた。

―――その視線の中に、ほんのかすかな殺気を感じた。

―――何…いや、誰…だ?

「どうしました?」

「ん、ああ、いや…」

古泉の一言で俺は視線のことを考えるのはやめた。

「なあ、皆。みんなのところに届いた手紙の差出人は誰だった?」

俺は皆に問いかけた。

 

 

「「「ウラミチ、キリカ」」」

 

 

見事、三人の声がハモッた。

…嘘だろ?

谷口は、「え?え?」と困惑している。

古泉は、少し真顔になっている。

長門は、何かを考えているように、耳に手を当てている。

そして俺は、ケータイでメールを打っていた。

あて先は元北高生と、佐々木。

 

 

 

 

 

 

―――三年ぶりの事件の予感―――

―――涼宮ハルヒに関する何かが再び始まろうとしている―――

―――それを確信するかのように、ハルヒだけ返信が来なかった―――

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最終更新:2007年11月26日 23:33