「全然ないわねぇ、不思議」
「そうだな」
「何よそのものぐさな言い方?ちゃんと真面目に探してんの!?」
「お!ハルヒ、あれって焼き芋カーじゃないか?」
「え?あ、ほんとだ。焼き芋ねぇ……って、話をすり替えるな!」
「何だ?食いたくないのか?」
「もう、あんたはあたしたちが何のために探索してると思ってるの?
あたしたちはね、この探索でこの世の不思議を見つけなければならない使命を背負ってるんだからね!
焼いた芋なんかに構ってられないわ」
「ふーん、そうなのか」
「そうなの!」
団長様は焼き芋を所望でないと。なるほどね。
さて、ここで俺はこの偏った発言比率を是正するためにSOS団随一の無口キャラに話を振った。
「長門、お前はどうだ?焼き芋食べたくないか?」
長門はほんの数秒考えてから、
「焼き芋に関する情報は既に様々把握している」
「そうか」
長門も食べたくないのか、俺一人で食べるのには抵抗があるんだよなぁ、と落胆していると、
「だが焼き芋に関する情報の内一つだけ欠如しているものがある」
「何だそりゃ?」
「味」
「長門……焼き芋食べたいのか?」
俺の問いに数ミクロン首を縦に動かして長門は応えた。
「という訳だハルヒ。ちょっと焼き芋買ってくる」
「有希が食べたいんなら仕方ないわね」
「ああ、それじゃ行ってくる」
「……あたしも行く」
「ん?そうか、それじゃ行くか、長門」
俺は長門とともに焼き芋を搭載しているであろう軽トラを目指そうとしたが、
「ちょ、キョン!待ちなさい!」
ハルヒによって待ったがかけられる。
「何だハルヒ?」
「あ、あたしも行くわ!」
「……お前結局焼き芋食いたいんじゃないか。ならそうと始めかr」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
「そうかい」
ふう、素直じゃないな、まったく。……まあいいか、その分俺の財布が傷つかないですむ。
とまあそんな訳で、俺たち三人は焼き芋カーへと向かうことになった。


「あいよぉ!いらっしゃい!」
やけに威勢のいいおっさんだな。
「あー、おじさ「あんたら高校生?いいねー若いってのは!」
聞いちゃいねぇ。
「焼き芋二「えーと、三本で良かったかな!?よし、それじゃ学生割引で五百円ポッキリだ!」
あー、ダメだこりゃ……まあ三本五百円なら意外と安いから別にいいか。
「はいよっ!……ところで少年!ここだけの話、どっちなんだい?」
「はい?」
「だから、どっちが彼女なんだい?」
「あー……」
ここだけの話も何も本人たちの目の前じゃねえか。それに俺はそんな泥沼三角関係を築いているわけじゃない。
すぐさま否定しても逆に怪しさが増すだけなので、俺は二人の様子を見てみることにした。
長門は至って平凡、いつもと変わらず眩しいくらいの無表情っぷりだ。
ただ、俺の目を穴が開くほど真っ直ぐに見つめているのは何故なんだろうね。
ハルヒに至ってはよく分からん。
こいつの地獄耳がさっきのおっさんのやかましい戯言を捉えていないわけがないと思うのだが、
どうやら聞こえなかったふりをしてそっぽを向いているらしい。
髪の間から覗くハルヒの横っ面が何とも言えない色に染まっているのは、寒い日特有の現象だろう。
「それで?どっちが本命なんだい?」
おいおっさん、質問が変わってるぞ。
「えーと、」
俺が口を開くと視界の隅でも二人がピクついたのが分かった。
「そうですね、どちらも良いお友達です」
「そんなわけな「いえ、そういうわけです。焼き芋ありがとうございました」
と言い残し、俺は強引に長門とハルヒを連れて焼き芋屋を後にした。
なんだか古泉臭さが残るな……えぇい、忌々しい。
「ほら長門、熱いから気をつけろよ。ハルヒもほれ」
長門は黙って焼き芋を受け取るが、
「あ、あたしは食べないって言ったでしょ!」
「……素直じゃないな。じゃあなんで着いてきたんだ?」
「そ、それは……」
「ほら、せっかく学割してもらったんだし、お前も食えよ」
「……鈍感」
「あぁ?何だって?」
「何でもないわよ!このアホキョン!」
と叫んで俺の手から紙袋ごと焼き芋をかっさらうハルヒ。
「おいこら、俺の分をよこせ!紙袋はゴミになるからくれてやる」
ハルヒはじとっとした目で俺を睨み、そのまま俺に背を向けて何やらガサゴソし始め、さらに数歩歩いて振り返る。
何がしたいんだこいつ?と呆けていたのも束の間、ハルヒは俺に何だかよく分からん塊をちらつかせた。
くしゃくしゃになっているがあれは……紙袋?
「キョーン!行くわよー!ちゃんと受け取りなさーい!」
おいおいまさかその中身は俺に食される運命にある焼き芋ちゃんじゃあないのかね!?
「いっくわよーっ!とーう!」
「……!」
俺の予想とは裏腹にその塊は見事な山なりアーチを描いてちょうど俺とハルヒの中間地点に……て、ちょっと待ったぁ!
「お前、この卑怯者!」
そう叫ぶや否や俺は予測落下地点へと飛び込んでいた。
間に合え!ズサァー!
パスッという音とともに俺の手のひらに舞い落ちる紙袋。
……ふぅ……ん?こ、この手応えのなさは一体……はっ!
「お前!謀ったな!」
そう、俺が必死こいて地面との衝突から救ったのは紙袋そのものだった。
ハルヒはそんな俺の様子を見てふっふーんと鼻を鳴らし、
「騙されるほうが悪いのよ♪それ!」
と、ハルヒはまたもや何かをポーンと投げる。
天高く舞うあの紫色の物体はー……って、ちょっとー!本体だってばー!
落下地点は……もうちょい前!うおぉぉー!
などという心内語とともに俺は芋虫みたいに落下地点を目指す。
焼き芋と芋虫が上手くかかってるって?誰がうまいことを言えと(ry


間 に 合 え ー !


パシッ!
……ふぅう……つ、つかれた……。
焼いた芋ごときにこんなに振り回されるとは……。
その焼いた芋とともにその中心に位置し俺を振り回していた張本人はゲラゲラ笑っていやがる。
……ハルヒの笑う顔にはどうやらα波を分泌させる効果があるのかもしれない。
こいつの笑顔を見ていると「まあいいか」と楽観的な気持ちになってしまう俺がいた。……重傷だなこりゃ。
これは一体どういうプラシーボ効果なんだろうなと俺がぼけーっと考えていると、
…クス。
ハッ!
ものすごい速度で振り返るも……そこにいるのは無表情のアンドロイド。
今確かに笑い声が……気のせいか?
「ほら、いつまで転がってんのよ!さっさと起きなさい!」
「はいはい、分かったからそう足でつつくな。汚いだろ……常識的に考えて……」
何はともあれ、これでやっと落ち着いて焼き芋が食べられる。
って、長門まだ食ってなかったのか?
「食べ方を知らない」
「そのままかじりつけばいいと思うぞ」
「そう」
ふとハルヒを見ると、もう既に三分の二程を食べ終えていた。鬼速いな。
さて、俺もそろそろいただくとしよう。
……あのおっさん、見かけによらずいい仕事してるな。性格は糞かもしれんが腕だけは確かだ。
おっさんの作った石焼き芋に軽く感動しつつ、いろいろあったけど不思議という不思議はなかった……いや、ちょっとはあったかもしれないなとぼんやり思う俺であった。


「長門」
「何?」
「さっき笑ってなかったか?」
「えー!?有希笑ってたの!?」
「……」
「あーん、見たかったー!ねぇ有希、笑って!」
「……また今度」


Fin


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