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お菓子、甘いもの。よっぽどない限り嫌いなヤツはまずいない。
でなけりゃ「甘い物は別腹」なんていう非科学的な常套句は生まれていなかっただろう。
イタズラ、それは主にこども……いや童心溢れる大人が自分以外の誰かを困らせることによって成り立つ遊びである。

その2つが許される、今日という日をムダに過ごすなんてことは、あいつのカレンダーが例え空白であろうとも実現しないことだったんだ。


季節は秋。ハロウィンフェア…、ハロウィンセール……ハロウィン大決算!!ありとあらゆる店がハロウィンに便乗している。
1週間ほど前から、町中がオレンジと黒のツートンカラー、やたらと出ばるカボチャに染められていた。
が、しかしここは日本である。残念ながらこの祭りはあまり浸透しているようには思えない。
しょせん企業が客寄せをするためのイチイベントにしかなっておらず、元祖ハロウィンとはほど遠い賑わいをみせている。
だいたい余所様のお宅に訪問して、菓子をねだる、脅迫するなんて度胸日本人の、特にこどもには備え付けられてはいない。
せいぜいいきなりやってくるデカイ棍棒もった鬼に怯えて暮らすくらいなもんだろう。
しかし、そんなジャポニズムを持ち合わせてないヤツが後ろにいる。

さっきから授業中だというのに鼻歌まじりでガサゴソやってる、優等生様。今度その勉強法とやらを是非ご教授いただきたいね遠慮しておこう。
まぁ俺もそこまで空気の読めない男じゃないからな。今うかつに振り向いてネタバレでもみてしまっては、あとが気まずい。さわらぬ神にたたり無しだ、冗談抜きで。
一向に止まないご機嫌ソングをBGMに、平穏な時間はあっという間に過ぎていった。

?

「トリック or トリート!!!!」
予想通りの台詞をありがとう。一字一句違いは無いさ。
帰巣本能をむき出しにして文芸部室に待機していた俺たちに、ハルヒは大声でそう叫び100W笑顔を満面に浮かべた。
「あぁ そういえば今日はハロウィンでしたね。酢昆布でもいいですか?」
「トリック?…… なんですか それぇ?」
「…………持ってない。」
おいおいおい お前ら相手はハルヒだぞ?用意しとけよ!!
朝比奈さんは未来にはもう存在していないのか、英語がわからなかったのかが定かでないが追求はしないでおこう。
ここで誰かお菓子でももってりゃヤツのハナっ柱をボッキボキにだな……
え? まぁ 俺も持ってないけどな。だから、地味なんだってこの行事。前述の通り。
「古泉君!酢昆布は甘くないから却下!!あ でも1枚ちょうだいっ もむもむ……みふるちゃんも有希もダメらないー。 ま キョンには始めっからなんっっっにも期待してなかったけどね!」
はいはいすみませんでしたね。じゃぁいたずらとやらを実行していただけますか団長様?
「なによ 妙に素直じゃない。」
早く終わらせたいだけだ。どうせろくなことじゃないんだろうしな。
「……そんなこと言ってると 本当にみくるちゃんと有希にイタズラしちゃうわよ?」
「へふぇっ やっ」後ずさりを開始する朝比奈さん。
「…………ひざかっくん?」されたらどうだというんだ長門。
「それはまた後日ってことで!今日はちゃ〜んとみんなに用意してるのよ。トリックもトリートも!」
意味が分からん。


「ハロウィンってさなんか一方的じゃない?お化け役の方は楽しいわよそりゃあ。お菓子はもらえるわいたずらし放題だわ。
でも家で待ってる方はたまったもんじゃないわ!夜中におやつ巻き上げられちゃうか、怖がるかどっちかでしょ?
そんななんの利益も得られないようなハロウィンに警鐘を鳴らすため!我がSOS団方式を提案します!」
ごり押しの間違いじゃないのか?余所様のお国の行事まで勝手に変えるなよ。
「お菓子をもってこれなかったあんたたちには今から、お菓子を探しに行ってもらいます!
もちろんそうやすやすと手に入る場所には隠してないわよ?巧妙なトリックを使った罠が満載!!
っても ただみつけてやったー!じゃつまんないから、1番にとってこれた人にはちゃーんと賞品を用意してるわ。」
……もはや原形をとどめて無いじゃないか。イタズラじゃねぇよ、罰ゲームだな完璧に。

「ここに4枚のカードがあります。コレ引いて。探す場所のヒントが書いてあるから。」
「私の……教室ですか?」
「…………図書室。」
「僕は、男子更衣室……ですか。」
「え〜と 俺はココ?なんだこれ。」
あれか、お前の能力とやらで、もう俺たちが引くカードなんて決まってたんだろ?
イタズラだかなんだかしらんがちゃっちゃと見つけて帰りたい。いや、できることならば探さず帰りたいとこだが、そんなことはできるはずもない。
「じゃぁ みんな!位置についてぇ よーーい どーーーーーーん!!」
ノリが良いのか合図とともに駆け出す団員達。長門を除く。うん、まっすぐ図書室の方へぺたぺた歩いている。フリでも良いからやる気だしとけ。

俺も人のことは言えないが。なにしろ、カードには"ココ"としか書かれてないからな。
別に賞品がほしいわけでもないし、ゆっくり探させてもらおうかな。こんな狭い範囲、隠すとこなんかそうそうないだろう。
「ちょっとあんた真剣に探しなさいよ。」
お前は、仁王立ちでこのままココで待っているつもりなのか。
「なによ?主催者なんだからあたりまえじゃない。」
まぁ いいがな、ウロチョロされるよりは。ってか、この部屋って……なぁ
じろじろ見つめながら近づく俺に、たじろぎながら後退するハルヒ。
「お前が持ってるんじゃないか?」
「な!! んな わけない じゃ ナ なんでそんなことわかるのよ!!」
その台詞自体が語るに落ちてるっての。
お前のことだから、この部屋を隈無く探してもやすやすと出てこねぇ場所に隠すだろう?でだ、その中で安全な場所を考えれば1つしかない。
さ さっさと出せよ。ありがたぁくいただくから。賞品とやらもついでにな。


「……うー。」
睨むな。うなるな。若干殴り掛かろうとするな。
「ふぅ……みんなには 内緒 よ?」
お前、人に自慢したくなるようなすんばらしい賞品用意してたのか?そのことに驚きだ。
って…… え?

目の前に差し出されたソレは、いたく時期外れな外観をしていた。
色から見てカボチャなのは間違いない、パイだ。しかし、ハート型だった。

「これ なんだよハル……h むぐ!」
「なんでもないわよ!!ただ単にウチにハートの型しかなかっただけよ!!そ それだけなの!」
そういいながら俺の口にぐいぐいパイを押し付けてくる。甘いし……息苦し……げほっ。
ん?コレなんだ……パイが入ってた箱から落ちて  カード?
「やっ ダメ!!ちょっと待って!」
ハルヒは、口をもごもごさせながらソレを拾おうとした俺を必死で止めようとするが、いかんせん両手に持ったのは自分の手作りパイだ。守ろうとしてか、ひょろいアタックしか出来ない。

「キョン 好き」
最低限の文字数。でも、ストレートに伝わる 意味。




「…………。」
なぁ ハルヒよ。
「…………驚いた?    !!あ  イタズラ!これ いたずらだから!!だから 違うのよ!!」
そう言っていやにしどろもどろするハルヒを見て、すっと冷静になれた。
顔を真っ赤にしながら、言い訳を並べる姿が、愛おしく思えるな。
このやたらめったら短い文章も、たぶんハルヒの中のいろんなものと戦ってやっとのこと書き出したものなのだろう。
「ハルヒ、まぁ いいから落ち着いてくれ。俺はこれが、いたずらとかどっきりじゃないほうが嬉しいんだが。」
このまま逃げてしまいそうなハルヒの手を掴み、握り……握りしめる。
「賞品……ハルヒがい「ば!? 何いってんのよ!! バカ!!!!」
柄にも無く臭いことを言い出しそうだった俺を、全身全霊で止めてくれたハルヒに感謝。
でも、この沈黙も、口に残る甘ったるい後味も、のどにツンとくる空気も……全て 心地よかった。
黙ったままうつむく2人は、普段の俺たちを少しでも知るヤツならそれこそどっきりかと思うくらい驚くだろう。



ついでに、あと3人ばかり欺いてやろう?な ハルヒ。



「はぁ はぁ 涼宮さん、ありましたよ……まさか 柔道部の主将のカバンに入ってるなんて、しかも僕が入れたんだと勘違いされまして はは ひともんちゃくですよ。」
「ふぇ〜 鶴屋さんが持ってたんですけど 『ハルにゃんからみくるが泣いても渡すなっていわれてるっさ☆』ってなかなかくれなかったんですよ〜??」
「……本棚を ひとつひとつ調べた…………図書委員に預けてあるとは…………迂闊。」

ハルヒを目指して部室に帰って来た団員達。
空っぽになったその部屋で3人を待っていたのは1枚のカード。
甘い香りと甘い文字。何が起こったか理解するには十分なほど、甘く。





「でもな、これって……バレンタインじゃないのか?」
「あ。」

ハロウィンがここにいる、たった2人の高校生にとって、ただの地味な行事じゃなくなったっていう。
ただの、ノロケ話。





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