翌日、いつものように妹のボディプレスで目覚めた俺は学校に行く準備をした。制服に着替え、朝食を食べ、歯を磨き、寝癖を直す。鞄を持ち、携帯をポケットに入れ、いつもの坂を乗り越え、学校を目指す。
学校に着き、靴を履き替えて、教室に入り、いつもの席に座る。団長様はまだ来ていないようだな。俺はSHRが始まるまで寝ることにした。
 
「キョン、ねぇ、キョン」
何だ国木田か。何か用か?
「何か用って、もう昼だよ。いい加減起きないと」
はっ!もう昼だと!何で誰も起こしてくれないんだ?
「どうせ、涼宮との甘~い夢でも見ていたんだろ」
うるさい、馬鹿、アホ、黙れ谷口。
後ろを見てみるとハルヒはいない。いつもみたいに学食か?
俺は、谷口と国木田と弁当を食べながら昼休みを過ごした。
昼休みが終わり、5限目が始まってもハルヒは帰ってこなかった。どうしたんだ?また何かやらかそうとしているのか?
 
本日の授業が終わり、俺はすぐ部室に向かった。部室に着き、扉をノックする。返事がない。よし、長門だけか。
中に入ると、案の定、長門しかいなかった。
「よう長門。ハルヒの姿が見えないんだ。あいつはまた何か企んでいるのか?」
俺はそう尋ねる。長門は読んでいる本から顔をあげ、一言、
「……浮気者」
は?どういう意味だそれは?
「……天蓋領域」
長門が怒っている。なんで怒っているんだ?昨日のことについてか?
長門との気まずい空気が続くなか、ノックの音が聞こえた。入ってきたのは朝比奈さんだ。
「こんにちは~、キョンくん、長門さん。あれっ?どうかしたんですかぁ?何か空気が…」
いや、どうもしてないですよ。勝手に長門が怒っているだけですよ…
「……朝比奈みくる」
「っひゃい!」
長門に呼ばれた朝比奈さん。びっくりしたのか泣き出しそうだ。いや、もう泣いているな。
長門がおもいっきり朝比奈さんを睨んでいる。マジデコワイヨ、ナガトサン…
「……あなたは、裏切り者」
それだけ言うと、長門は本を閉じ部屋から出て行こうとする。そして、ドアノブに手をかけ、
「古泉一樹は現在閉鎖空間にいる。古泉一樹からの伝言『まったく、とんでもないことをしてくれましたね。この借りは必ず、あなたの体で支払ってもらいますよ』と。わたしから言うことは何もない。……覚悟して」
言い終わると長門は部屋から出て行った。長門、古泉の真似うまいな。そっくりだったぞ。
それより、何を覚悟すりゃいいんだよ。
そんなことを考えていると、部室のドアが大きな音を立てて開いた。ノックしろ。ドアが壊れる。静かに開けろ。
 
入ってきたのは、もちろん、核兵器より危険な女、涼宮ハルヒだ。
「ねぇ~、キョン?あたし今から、独り言を言うわ。聞こえるかもしれないけど、気にしないでね」
入ってきていきなり、いつぞやの時と同じことを言い出しやがる。
まずい、いやな予感がする。これはかなりまずい状況だ。頭の中の危険値が大好調だ。今すぐ逃げ出さなければ!
しかし、俺の体は少しも動こうとしない」。こらっ、言うことを聞け、俺の体!
ハルヒは、悪人に裁きを下す閻魔様のごとく、話し始めた。
「朝、学校に着いたらキョンが寝ているのを見つけたの。SHRが始まっても起きそうもないから、起こそうとしたんだけど、あんたがあんまりにも気持ちよさそうに寝ているからそっとしといてあげたのよ。授業が始まっても起きないし、シャーペンで突付いたら起きちゃうかもしれなかったから、何もすることがなくて暇だったわ。そしたらね、あんたのポケットから携帯が落ちそうになっているのを発見したのよ。元に戻そうと思って手に取ったのはいいんだけど、急にね、あんたがどんな相手と電話したり、メールしたりしてるのか気になって、中を見たのよ。別になんとも面白くなかったけどね。最後に、バッテリーのとこのフタを開けたのよ。こいつもプリクラとか貼ってんのかなぁって。そしたら、どうだったと思う?中にプリクラが貼ってあったのよ。本当にびっくりしたわ。まさか、こいつが…ってね。それから、その携帯を持って学校を抜け出したのよ。真相を確かめるためにね。そして、今ちょうど、帰ってきたというところよ」
一気に話し終えたハルヒの顔は、既に般若と化している。息継ぎくらいしたほうがいいぜ。
それより、人の携帯勝手に取るな。そして、プリクラって何のことだ?全く分からん。
分かるのは、ハルヒがものすごい怒っているということだけだ。
「プリクラって何のことだ?さっぱり見当がつかん」
「ふぅ~ん。これでもまだ、しらを切るき?」
ハルヒは俺に携帯を突き出してくる。そこには、昨日佐々木と撮ったプリクラが貼られていた。
あいつ、いつのまに貼りやがった!
「さっき、佐々木さんの高校に行って話をしてきたの。これはどいうこと!って。そしたら、『見たとおりだよ。わたしとキョンは付き合っているのよ』って。あっ、場所は有希に聞いたの。すぐに教えてくれたわ。何でも知っているのね、あの子」
……佐々木のバカヤロウ。何でそんなしょうもない嘘つくんだよ!
たった今、お前のせいで、俺の携帯が曲がってはいけない方向に曲げられたじゃないか!
「ねぇ、どういうことか説明してくれる?」
どうするよ?、俺。
嘘をついて誤魔化すか?いや無理だ。あいつに嘘をついてもすぐばれる。状況が悪くなるだけだ。
正直に昨日のことを話すか?いや、話したら話したで、ハルヒが勘違いしてややこしくなるだけだ。
そうだ、朝比奈さんに昨日のことを説明してもらえば。期待をし、朝比奈さんの方を見る。
…だめだ。真っ青な顔で気絶していらっしゃる。よほどハルヒの顔が恐いんだな。俺も恐い…
 
「説明するのは佐々木さんのことだけじゃすまないわよ!昨日はみくるちゃんとデートしていたんでしょ?それに、周防九曜
って子ともイチャイチャしてたんでしょ?三股なんてサイテーよ!この、エロバカキョン!…あたしがいるのに……」
最後の方は、よく聞こえなかった。
しかしこいつ全部知っていたんだな。言い訳のしようがない…
腹をくくるか…
お父様、お母様、先立つ不幸をお許しください…
 
ハルヒに昨日のことを根掘り葉掘り聞かれ、俺はあきらめて全て正直に答えた。答える度に、ハルヒが俺の首を絞めるので窒息で死にそうだ。もう少しで三途の川を泳いでしまうとこだった。そして最後に、
「ふぅん。佐々木さんと付き合っているのは嘘というわけね。分かった、一応信じといてあげるわ。それよりも、昨日、団長を仲間外れにした罪は死刑より重いわ。罰として、今日から1週間、いや、永久にあんたはあたしの奴隷よ!ずっと一緒にいなさい!1秒でもあたしから離れたら、死刑よりもひどいことしてやるわ!」
部室に来たころとは打って変わって、最高の笑顔で言いやがる。言い出した本人の顔が少し赤いのは気のせいだ。
一生奴隷!?ふざけるなよ!それなら死刑のほうがマシだぜ。しかし、あいつは破ったら死刑よりもひどいことをすると言っている。それが恐いので俺は何も言えない。
やれやれだ。
 
気絶した朝比奈さんを背負い、ハルヒと一緒に学校から帰る。
坂道を下りながらハルヒの顔を見る。黙り込んで、少し俯いている。
ハルヒの顔が少し赤い。そういえば、さっきも赤かったな。熱でもあるのか?
「ハルヒ、風邪でもひいているのか?」
「えっ!べっ、別に何でもないわよ!」
「そうかい、まぁ、風邪には気をつけろよ」
「…ありがと」
 
その時のハルヒの顔は後ろで気絶しておられる朝比奈さんよりも魅力的だったな。思わず惚れちまいそうだった。
このことは、絶対にハルヒには内緒だ。
 
俺はなぜ閉鎖空間が発生したのかや、なぜ長門の機嫌が悪かったのかや、なぜ佐々木は俺の携帯にプリクラを貼ったりしたりして、嘘をついたのかや、なぜ風邪でもないのにハルヒの顔が赤いのかなど、色々考えながら、夕日に照らされた坂道を、ハルヒと共に歩いた。
 


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