放課後、ハルヒに下校デート計画についての呼び出しをくらった。
一応決行は今日ということになっていた。
俺はそこまで急がなくても、と思うのだが、他の三人は善は急げのタイプのようだった。
まったく、気が早い奴らばかりだぜ。

終礼が終わるとハルヒはすぐに俺のネクタイをひっつかんで廊下の隅へとひっぱりだした。
その手荒な扱いをそろそろどうにかしてくれ。どんどん寿命が縮まっていっている気がしてならん。
やっと首周りの苦しさから解放されたかと思うと、ハルヒはどこに隠し持っていたのか、
黒い塊みたいな機会を取り出した。トランシーバーかなにかか?それ。

 

「あんたバカ?今時トランシーバー使うくらいなら携帯使ってるわよ!」

 

じゃあなんなんだ一体。クソ眠かった午後の授業をようやく終わらせたばかりでまだうまいこと頭が働かん。

 

「これはね・・盗聴器よ!」

 

どこから入手してきたんなもん。ていうか一体全体そんな犯罪的なもの何に使うんだ。
プライバシーを侵害するためだけに存在してるような道具だぞ。
お前もとうとう変な趣味に目覚めちまったのか?

 


「何いってんのよ、いくらあたしでもそこまで外道なことはしないわ」

 

今まで散々犯してきた数々の外道たる行動を思い返してみると全くもって説得力にかけるね。
よくもまああれだけ悪知恵が働いたものだ。
で、本題に戻るか、目的は一体なんなんだ。

 

「有希とみくるちゃんのデートを備考するのよ!
 そんでこれであの二人の会話を聞きだすの」

 

おいおい、長門は二人きりで朝比奈さんと帰りたがってるんだぞ。
そこを尾行して盗聴なんてしたら実質的に二人にならないじゃないか。

 

「いーのよ別に。有希はいいっていってたし、
 団長であるあたしが直々に有希の恋路に協力してあげるっていうんだから、
 これぐらいは代償ってものよ!」

 

長門はどれだけ自分のプライバシーに関心がないんだ。
朝比奈さんとの時間を邪魔されなければ盗聴されようが尾行されようがなんでもいいらしい。
まあ、俺も本音をいうと、あの二人がどんな会話をするのか気になっていた。
というより、長門がうまく朝比奈さんを気遣ってやれるか心配だった。
・・多分無理だろうな、きっと誘ったのは長門のほうなのに、
何故か朝比奈さんがビクビクしながら長門に気を回しまくるんだろう。
片方が楽しいだけじゃ恋愛は成立しないんだぞ、長門。

 


「古泉くんは今日はバイトがあるからってメール入ったけど、きっと気利かせてくれたのね、
 あんた古泉くんにも有希のこと話したんでしょ、なかなか雑用としての役割が果たせてるじゃない」

 

にやにやしながらハルヒは俺の顔をまじまじと眺める。
お前には言えんが長門には借りがあるんだよ、いろいろとな。

一通りの話が終わって、俺とハルヒはそそくさと部室へ向かった。
ん?そういえば古泉がバイトでいないということは今頃長門と朝比奈さんは部室で二人きりじゃないのか。
長門は瞬間移動でもしてるのかってくらい部室に来るのが早いし、
朝比奈さんも律儀な人だから終礼が終われば真っ直ぐに部室に向かうし。
と思った矢先に朝比奈さんの「ふええぇえ」という逆に気の抜けるような悲鳴が聞こえた。
遠くのほうで長門がふらふらと部室から出てくるのが見える。俺は慌てて長門のもとに駆け寄った。

 

「どうしたんだ長門!」

 

目をぱちぱちと瞬きさせながら俺を見上げる。
こいつなりの動揺の仕方だろうか。

 

「ありのまま今起こった出来事を話す。
 中に入ると下着姿の朝比奈みくるがいた。
 推測するに、着替え中だったと思われる。
 そのまま定位置に座ろうと思うと悲鳴をあげて追い出された。何故?」

 

 

俺は思わず顔面に手のひらをあてて大きくため息をついた。

当たり前だ。お前今男なんだぞ。
女であったときに下着姿の朝比奈さんをいくら見ていようとも、
お前が情報操作したんだからもう男として接していかなくてはならないんだよ。
そして男が女の下着姿、ましてや朝比奈さんの下着姿なんて、見てしまってはいけない。常識的に。

すると長門は俺の話を聞いて納得してくれたのか、「そう」と呟いて目を伏せた。

 

「以前見ることのできたものがもうできないと思うと非常に失望した」

 

失望するな馬鹿。お前はいままで散々見てきたんだからいいだろう別に。 
ていうか長門ってこんなに抜けてるやつだったか?もっと上手く立ち回るやつだと思っていたが。
これが恋は盲目というやつなのだろうか。
などとぼんやりと考えていると、後ろからハルヒが悠々と歩いてきた。

 

「たまたま着替え中に入っちゃったのねー仕方ないわ。
 ただタイミングが悪かっただけの話よ。みくるちゃん着替えは終わったー?」

 

返事を待たずにハルヒはドアをガバッと開ける。
自分で言っといてお前にはタイミングのクソもないのか。
中にいた朝比奈さんは幸い着替え終わっていたが、ひえっとびっくりした様子でこちらを見ていた。
着替えが終わっていて残念に思ってしまうのは男の性ということで片付けてしまおう。



今日の部活動も、なんの目的もなくただ部室でぼーっとするだけであった。
やることがないのだから仕方ない。ハルヒはにらめっこでもしてるのかと思うほど
パソコンに向かってしかめっつらのまま乱暴にキーボードを叩いたりマウスをカチカチしたりしていた。
俺は、いつものオセロ相手の古泉が早退でいないので変わりに朝比奈さんとオセロをやっていた。
長門からじっと視線を送られ続けたのはいうまでもない。悪いな長門、俺にも目の保養くらいさせてくれ。

オセロを何戦やったかわからないくらい無駄な時間が過ぎていくと、ようやくハルヒは椅子から立ち上がった。
俺たちもそれを見咎めて、オセロを片付けはじめる。わりと手加減をしたのだが、
朝比奈さんはほとんど俺に勝てなくて残念そうな悔しそうな、微妙な表情をしている。
窓の外を見ると、もう秋で日が落ちるのも早いのか、そんなに遅い時間ではないのにもう夕陽が差している。
そんな景色をぼーっと眺めていると、パソコンを消し終わったハルヒが俺の腕をぐいと掴む。

 

「そんじゃ、あたしとキョンはちょっと寄ってくとこがあるから先に帰るわね!」

 

と、言うとお前も何か言えとでも言うかのように俺に視線をよこす。

 

「あ、ああ、そうなんだすまんな長門。じゃ、お先です朝比奈さん」

 

朝比奈さんは不安そうな表情で俺を見て、消え入りそうな声で「はい・・」と返事した
すみません、朝比奈さん、長門のことが苦手なのはよく分かってはいるんですが
長門に協力すると言ってやった以上、あいつの気持ちを尊重してやらないといけないんです。
腕をひっぱられながら部室を出ると、すかさずハルヒは盗聴器を取り出した。
別にまだ盗聴器を使わなくても、扉のあたりに顔を近づけて耳をすましていれば聞けそうなもんだが、
いきなり扉が開いてバーンというのは避けたいので、俺は黙ってハルヒの盗聴器に耳を傾けた。

 


最初はなんの音沙汰もなかったが、しばらくすると、盗聴器らしいくぐもった声が聞こえた。

 

『・・・・あ、あのう・・』
『日が暮れかけているから、今日は送っていく』
『ふぇ!?・・や・・あの・・その、
 着替えとかあるから遅くなるとおもうし・・長門くんに悪いです』
『僕はかまわない。別にいい』
『え!えぇ~・・と・・』

 

一度断っても粘り強く食いついてきたら二度目は断りづらい。
朝比奈さんは典型的なそのタイプなのだろう。俺もややそのタイプだから分かってしまう。
なんだ、断り文句みたいなのが無くなってくるんだよな。
朝比奈さんはしばらくええとうんとなどといって無駄に時間をとってハルヒをイラつかせたが、
ようやく決心したかのように言った。

 

『じゃ、じゃあお願いします・・』
『了解した。外で待ってる』
『はい、できるだけ早く済ませますね』
『急がなくていい』

 

なかなかお前にしては気をつかえているというか、人間らしいことが出来るじゃないか。
しかしやっぱりぎこちなさは取れない。古泉あたりならもっとさらりとこなせそうなんだがな。
がちゃり、と音がして扉から長門が出てくる。

 

「よかったな長門。結構無理矢理だったが」
「よかった」
「とりあえず第一関門は突破ね!おめでと有希!じゃあ校門のほうへ先回りしておきましょ」

 

またまたハルヒは俺の腕をぐいぐいとひっぱる。
なんだか今日はハルヒに腕をひっぱられっぱなしだな、気のせいか?
長門が意味深な目でこちらを見ていたような気もするが、ま、気のせいだろう。
あいつの目はいつだって意味深だ。またどうせロクでもないこと考えてんだろうきっと。
とりあえず俺とハルヒは二人を待ち伏せするために校門のほうへと向かった。

 

 

一方そのころ古泉くんウィズ機関の人々は・・

 

「萌えが足りない」

 

古泉は大きくため息をついて両手で顔を覆った。
何に対して絶望しているのかまったく森や新川には理解不能であった。

 

「僕が思うに、萌えキャラって独占してはいけないと思うんです。
 彼氏持ちの萌えキャラなんて更に外道ですよ、もしもギャルゲーをやってて
 狙ってたキャラが彼氏持ちだったらすぐさま僕はクソゲー認定してしまいますね。
 どうやってフラグ立たせるんだよって話ですよ。まあそういうのって結構あるんですけど。
 だから僕今すごく絶望してます」

 

「朝比奈みくるのことですか?あなた胸はあれより小さいほうがいいとか言ってたじゃないですか」

 

「そんなもの冗談に決まってるでしょう。ウソウソ、ウソっぱちです。
 胸なんて大きければ大きいに越したことはないんですよ。夢がたくさんつまってますからね。
 好きっていうのとは少し違うんですが、萌えが萌えの対象でなくなってしまうのは非常に辛いことです。
 仕事だからと割り切ってはいますが僕個人としては長門くんの感情を推奨はできませんね」

 

やれやれ、という風に両手を広げたが、森と新川はそっくりそのまま返してやりたいと思った。
北高に転校するまではまだまともだったはずなのだが一体どこでこうなってしまったのだろう。
そう思って心当たりを探してみると、一人の人物が念頭に浮かぶ。
恐るべし、朝比奈みくる。


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