夏休みが終わった。
夏休みが終わったからには新学期がやってきてしまうもので。
夏休みの間ハルヒに振り回されたにも関わらず、体は鈍っているらしく坂道が物凄くきつかった。
あの坂道を下りるのかと思うと憂鬱だね。やれやれ。
そんな事を考えながら部室をノックすると、朝比奈さんの声が聞こえてきた。
声に違和感を感じたが、入っても問題はなさそうなので扉を開け、挨拶を――
「キョンくん、こんにちは〜」
若い朝比奈さんがそこにいた。
いやいや、今でも十分に若い。だが流石にこれは若すぎる。
どう見たって幼児だもんな。あっはっは。どうすんだこれ。
……現実逃避をしている場合ではないぞ俺よ。
きっとまた何か事件が起きて未来から朝比奈さんが送られてきたのだ。
きっとそうに違いない。
では何故そんな事態になっているのだろうか。
ここで部室の隅にいる筈の宇宙人に説明を求めるべくそっちを向いた。
あれ? 居ない?
視線を少し下に落としてみる。
……長門さんも幼児化されてなさるんですか。
「…………」
長門はいつもの場所に座ってはいるが、
手にはいつもの分厚い本ではなく絵本を持っていた。
こ、古泉は!? たまには役に立ってみせろ!
「今日はオセロにしましょうか」
消えたー! 最後の希望も消え失せた!
古泉はいつもの胡散臭い笑みではなく、
俺の困惑顔に対抗するかのような無邪気な笑顔を浮かべている。
「あ、ああ、そうだな」
……心が、痛いなあ。
底知れぬ不安に胃も痛くなってきた気がする。 
「お茶ですよ〜」
純粋な笑顔に俺が心(と胃)を痛めていると朝比奈さんがお茶を持ってきてくれた。
といってもいつもの本格的なものではなく、冷蔵庫から取り出してきた烏龍茶だ。
朝比奈さんはお使いを完遂したかのような表情で俺を見つめている。
まあ、火は危ないしな。火遊びはダメ、ゼッタイ。
「ありがとうございます。美味しいですよ」
しかし小さい子供に敬語とは違和感を感じるな。
でもこの子は朝比奈さんな訳で……ええい、面倒臭い!
「おっまたせー!」
俺が訳の分からぬ葛藤に呑まれているとハルヒが入ってきた。
やはり、幼児の姿で。
ああ、これはきっと夢だな。
絶対そうだろう。これは夢オチなのだ。
フロイト先生も笑い死にだっぜ!
母さん。俺はロリコンでショタコンらしいよ。
うん、将来は保育士になろう。毎日が薔薇色だぜ。
よし、俺の将来は決定した。
きっと俺は保育士になるべくして生を受けた存在なのだ。
「うぉおおぉぉお!?」
いきなり携帯が震えた。
誰だ? 人が人生設計を立てているときにメールしてくる奴は。
俺は少し不満を覚えつつも律義にメールを開いてやる。
この寛大さに平伏すがいい。
……そのメールに書かれていた文面はこうだ。
 
 
ポケモンの151って数字が懐かしいですね。
 By 森

P.S.
何かSOS団のメンバーが幼児化しちゃったようなので頑張って面倒見てください☆
原因は涼宮さんが望んだからとかでもういいじゃないですか。
 
確かに『ひゃくごじゅういち』って歌もあったよなあ…今じゃ全く意味ないが。
って、森さぁああん!
何書いてんのこの人!?
本文とP.S.逆だし! ありがち! ありがちすぎるネタ!
てか、理由曖昧!
あれ? まだ下に文が……?
 
ちなみに、ありがちなネタとか言ったらはかいこうせん。
 
はかいこうせん撃たれる!
でもまだ下の方に文があるよな?
 
――かくして俺の子育て奮闘記は始まったのであった。
 
何だこれ!?
ん? 何だ長門。ズボンなんか引っ張って。
「これ……読んで」
古泉とのオセロが終わったら…………、あー、読んでやるよ。
オセロやりながらだからちまちまとだけどな。
俺にロリ属性は無いのだと言い聞かせながら古泉と長門、
そして何故だか不機嫌なハルヒと泣きそうな表情の朝比奈さんの面倒を見るのであった。


 
幼児化してしまったSOS団員は何と俺が連れて帰る事になった。
何の冗談だと思ったが、森さんいわく今の状態で家に返すのは危険だそうで。
俺ん家に連れ帰るのも家族がいるので危険だと反論したが却下された。
どうしようかと悩みに悩んだ俺は喜緑さんに泣き付いたら情報操作で家族が旅行に行く事にしてくれたらしい。
すごいよ! 喜緑さん!
やっぱり宇宙人組は万能な事を確信した!
丸投げ気味な機関とは大違いだっぜ!
でもそれなら団員の家族の情報を改竄してくれてもよかったんじゃないかなぁ……


そんな訳で下校時刻。ばれやしないかと不安だったが皆はすんなり受け入れていた。
情報操作のおかげ〜♪ ってか。……まあ、わかる人にしかわかんないネタはやめとして、
四人を家に連れ帰って来た訳である。
さて、問題は飯だ。ある程度なら作れるが毎日養うほどの腕と資金はない。
資金が問題だ。ココ、テストに出るぜ。よく覚えとけ。
「お腹がすきましたー」
お前は幼児化しても敬語か。光彦にでもなってバーローwwwwに出るつもりか。
そんなのお父さん許しませんよ!
「そうだなあ……何がいい?」
聞いてみたところ、オムライスやらハンバーグやら見事に子供らしいメニューを上げてくれた。
が、長門の静かな殺気に勝てる奴はいなかったようで今夜の晩餐はカレーに決定した。
よかった。作るの簡単なんだよな、カレー。
ここで俺流カレーの作り方講座ー。どんどんぱふぱふ。
……何だこの緊張感のカケラもない効果音。
ま、いいや。始めるぜ。どうでもいい奴は飛ばしてくれ。
 
・玉ねぎとジャガ芋を好きな大きさに切ります。
・肉を一口サイズに切ります。
・生姜をみじん切りします。
・鍋に生姜を入れ少し炒めます。油的な何かが出てきます。
・肉を入れて炒めます。
・肉が茶色くなってきたら玉ねぎ、ジャガ芋を入れ混ぜます。
・油的な何かが全体に回ったと思ったら水を入れます。
・煮詰めます。暇な奴は踊ってろ!
・砂糖、塩、ソース、醤油を本能の思うままに入れます。要するに適当です。
・カレー粉を入れ、また煮詰めます。暇だったらSS読もうぜ!
・ジャガ芋が柔らかくなったら完成です。ライスも忘れずに炊いときます。
・完成したんだから食いたくなったら食えばいい。
 
そこ、説明する気ないだろだって? その通り。
ちなみに人参は入れない。(作者が)嫌いだから
「飯出来たぞー」
殺気に圧されたとはいえやはり皆カレーは好きな様で、美味そうにほおばっている。
いやはや、そんな顔をされるとこちらとしても感激だね。
ハルヒなんかはネズミのパレードに匹敵するような輝く笑みを浮かべている。
大鍋一杯作ったのにすぐに空になっちまった。
皆実によく食べたな。特に長門はすごかった。
いつもの無表情を35%程緩ませたような表情で黙々と美味そうに食べていた。
ちなみに35%ってのは当社比なので見慣れない人には無表情そのものだろうって事を付け足しておこうか。
食い終わったので食器でも片付けようかと立ち上がると朝比奈さんが手伝おうとしてくれた。
いい事だと思うのだがこの人の事だ。食器を落として割る等のハプニングが起きるかもしれない。
断るかなと思ったが……あのラブリーチャーミーな眼差しで見つめられると断れる訳もなく。
ああ、心配だ。あー、心配だ。指に怪我でもしないか不安だ。超心配。
親バカとか言うな。親になったつもりはない。
扉の影からそぉーっと見守る事にしよう。すぐに反応できるしな!
「何やってんの! 遊んでー!」
ハルヒ、今は遊んでる場合じゃないんだ。朝比奈さんが心配で心配で。
ハルヒはむっとしかめっつらをしたかと思うと、俺を引きずって歩きだしやがった。
お前はどこからそんな力が出てくるんだ?
「いーから遊ぶの!」
何してだよ。
どうやら具体的な事は何一つ考えていなかったらしく、考える仕種をした。
「おままごと!」
……そーですか。いかにも子供らしい遊びですね。
「キョンはお父さんで、あたしはお母さんね。有希は子供。……古泉くんはペットでいいか」
最後にみくるちゃんは食器洗ってるから後で決めましょと言って、ハルヒはままごとの準備をしだした。
古泉が何となく悲しそうな表情だったのは気のせいだろう。
やれやれ、この歳で同級生(だよな?)とままごとするとは思わなかったぜ。
朝比奈さんは皿一枚割る事なく洗浄作業を終えたようだ。……洗い残しは多かったが。
昔を懐かしがりつつ微妙に楽しかったままごとは終了し、風呂の時間になった。
「俺は後で古泉と入るから三人で風呂入って来い」
流石に一緒に入る訳にはいくまい。
取ってあった妹の寝間着を拝借し、風呂の前に置いておく。
「古泉は俺と入ろうなー」
一応本人にも了承を取っておく。はーいと無邪気な笑顔で返してきた。
胡散臭い笑みよりはいいね。1.05倍くらい。
風呂に入りさっぱりした俺達は寝る事にした。
誰が俺の隣に寝るかで大乱闘になり、四人と部屋が汚くなってちまったけどな。
全く、余計な仕事を増やしてくれやがって。
 
 
……ほんのちょっぴり嬉しかったのはここだけの秘密だ。
 


 
幼児化したSOS団員を放っておくわけにはいかず、学校まで連れて来てしまった。
流石に教室まで連れてくるのは躊躇ったのだが……
部室で待つように言っても着いて来てしまう。
なんか捨てられた子犬みたいな目で見てくるし!
てな訳で教室まで連れて来ちまった。
谷口あたりがうるさそうだな……嫌になる。
そんな不安と憂鬱が入り交じる中扉を開ける俺。
さあ、どんな反応が待ってるのかな?
「ようキョン。今日も大変そうだな」
「昔からキョンは面倒見よかったからね」
「長門さんかわいー!」
……何で普通に受け入れてんだよ!
なんかうまい事記憶改竄されてるしな。情報操作すげえ。
 
まあ、問い詰められたりしても困るのだが。
実際朝倉が長門に抱き着いて、可愛い可愛い言いながらほお擦りしてるのにはどう反応したらいいか分からん。
っていうか、
「何でお前がここに居るんだよ!」
「情報思念体にこの事を報告したらね。こんな状態だったらバックアップも必要だろう、って」
ナルホドね。また刺したりしないだろうな。
「刺す訳無いじゃない。長門さんの面倒誰が見るのよ」
お前が見ろよ! つーかいつまでほお擦りしてんだ!?
「私だって見れるなら見たいけどね」
じゃあ何でだ。
「涼子じゃま。助けて」
「……長門さん達あなたになついちゃってるじゃない。忌ま忌ましい」
漫画みたいな落ち込みっぷりだな。人の台詞をパクるな。俺だってなつかれたくてなつかれてんじゃねえ。
「本当に変われるものなら変わって欲しいわ」
変わってやってもいいんだけどな。
「うん、それ無理。足元見てみなさい」
なんか縋り付かれてるんですがー!?
か、可愛い! じゃなくて動けねぇ!?
「この調子じゃ私が面倒見るって言っても却下されちゃうわね」
無言で見つめてくる子供達。
その瞳は叱られた後の子供のような、そんな目だった。
何て言うか、俺と離れるのが嫌だと言ってるような……自意識過剰か。
「俺が悪かったよ。帰ったらまた遊ぼうな」
皆が一瞬にしてぱぁあ、という効果音がぴったりな笑顔になった。
やっぱ俺が面倒見るしかない訳ですか。やれやれ。
ま、不思議と嫌ではないし、いいかもな。
朝倉、こっち睨むな。
 
 
俺、やっぱさっきの言葉撤回してもいいかなあ……?

「ねーキョーンーひまだよぉー」
「ちょっと静かにしてなさい」
今の状況を説明すると、俺は授業を受けていて、後ろの席でハルヒ達が騒いでいる! 以上!
岡部も注意するのはいいんだが、大半が俺に静かにさせろというものだ。
俺はこいつらの保護者……だったな、今は。
あー、中学の授業参観に妹が来た時の気分だ。小恥ずかしい。
「ねーキョーンーつーまーんーなーいー」
騒ぐなハルヒ。少しは長門を見習って、絵本でも読んでなさい。
「絵本じゃなくてしらゆきひめ。全然ちがう」
そうですか。
「終わったら僕にも見せてください」
「だめ」
こら、意地悪しない。
「……分かった。読んでいい」
「ありがとうございます」
よーし、長門は良い子だなー。
「私もなでなでして!」
してやるから静かにしろよ。
朝比奈さんなんか最初から一言も……
 
 
死んでる……
 
 
なんてのは嘘で、朝比奈さんは熟睡していた。
なんと愛らしい。こいつはエンマ大王様も地獄行きな所を変更して自ら天国に連れていきそうだ。
勿論朝比奈さんが地獄行きになるような事をしてる訳がないのだが。物の例えだ。勘弁してほしい。
思わず見とれちまうね。
「じゅぎょーは前を向いて受けないとだめなんですよ!」
古泉うぜぇええ! 小さくなってもうざい野郎はうざいな!
さっき可愛いと思っちまった感情返せ!
駄目古泉! 略して駄泉!
……少しクールになれ。子供相手じゃないか。
子供にムキになってどうする。
 
よし、落ち着いた!
「じゃあこの紙に絵でも描いてろ」
はーいと素直に返事を返して絵を描き始めるハルヒ。
元に戻ってもその素直さは残しといてくれよ。
……ん? 何だ長門。
「私も絵、描く」
本を読まないとは珍しいな。ほれ。
 
その後はいたって平和な物で、無事に一日を過ごせた。 帰り際にハルヒと長門が描いた絵をくれたのが物凄く嬉しかったな。
……朝倉が凄い形相で睨んでいたが。 
 



「……勘弁してくれ……」
正に疲労困憊という言葉がピッタリだ。
息が切れてまともに喋れないし、立てるような体力も残ってない。
「まだ! まだ遊ぶの!」
「これじゃあ、歩く事すら出来んぞ……」
 
さて、何でこうなったかというと。
 
学校でやるべき事は全てこなし(団活は部員不在の為休止)、
寝てしまった朝比奈さんをおんぶして帰るというなんとも嬉しいポジションで帰った。
が、家に帰ったら思う存分遊んでやるという無謀な約束をしてしまい――思う存分なんて言ったっけ?――
家に帰るなりおうまさんごっこやって、とハルヒがねだってきた。
……あれって意外と体力使うな。
しかも長門と古泉までやってほしいと言い出し、ハルヒに交代だと言ったが断固として譲らんので、
三人を一辺に乗せて部屋中はい回る事に。
そのうえ古泉はころころ落ちるし、ハルヒはもっと早く走れと急かすし。
唯一長門だけは静かにしてるなー。俺の背中に乗ってる意味がわからないなー。
 
とまあ、こんな訳だ。
 
「もう……動けん……夕飯どうしようか……」
むぅー、と睨みつけぺちぺちと背中を叩いてくるハルヒ。
そんなことしても痛くないぞ。視線は痛いがな。
長門も無表情に見ないでくれ。古泉は知らん。
「あー……手足いてぇ……」
「大変そうね」
「帰ってくるなり、遊びをせがまれてな……俺のライフはもう零だ」
って、んん?
「そう。いいことね」
「あ、あああさくらあ!?」
「そんなに驚かれてもね。反応に困っちゃうわ」
何故ここに? 俺を殺しに来たかそれとも!
「お前幼児誘拐殺人事件でも起こす気か!」
「そんな訳無いじゃない」
「いーや、殺人犯の言う事なぞ信用できん! さあ、吐け!
 俺の目が黒いうちは子供にナイフ一本触れさせんぞ!」
下手にナイフ振るって怪我でもしたらどうすんだ。
うちの子に怪我させたら許さんぞ!
「長門さん達の面倒見に来たのよ」
「お前、俺に面倒見ろとか言ってただろが!」
「それは統合思念体の決定だもの。観察という理由で来るならオールオッケーなのよ。オールオッケー」
何で二回言うんだよ。
「あ、これが俗に言うグサデレ「全く違うわ」
ぎゃー! 刺された!
「お前……幼子が居る前で惨殺シーンはないだろうが!」
「え、そっち? でも、そうね……長門さん達に悪影響が出ちゃうか。なら、」
何か唱えてますが何にも変わってませんよ?
「子供には血が見えないようにしたからこれで殺せるわね」
「殺されるー!?」
「殺しちゃだめ」「痛いのは人にやっちゃだめなんですよ!」「キョンいじめていいのはあたしだけなの!」
おぉお、子供達よ。ありがとう!
でもハルヒはちょっと待て。
「残念だけど仕方ないか」
残念言いましたかこの殺人犯。
「冗談はともかくとして、おでん作ってきたのよ」
俺は冗談で殺されかけたのか? ま、いいや。
「おぉ、ありがとう。夕飯どうしようかと思ってたんだよな」
「何か所帯じみた悩みね」
「気のせいだ。超気のせいだろ。そうに違いない」
えーと、まずおでんを火にかけといて。暖める間に風呂も沸かしちまうかな。
「朝倉、部屋掃除頼んだ」
「わたしには有機生命体の掃除の概念がよく理解できないけど」
「綺麗な部屋に住むことにより体の健康と共に心も健康にするという古くからの伝統だ。そんな訳でよろしく」
 
朝倉に掃除を押し付けてやった。
きっとハルヒ達がすぐに散らかすだろうがな! フハハハハハ!
……人間の器が小さいとか言うなよ。
あ、皿出しとかないとな。
 
「皆ー飯の準備出来たぞー」
はーい、と言って寄ってくる子供達+一人。和むなあ。
「じゃあ、いただきます」
「「「「「いただきまーす」」」」」
「な、何て事を……!」
「ん?」
何だよ。飯の間は極力喋るな。
「あなたは何を考えて生きているのかしら!」
「お前が声を荒げるのは珍しいな」
「荒げるわよ……おでんの卵に塩をかけるなんて!」
「それだけか?」
「それだけですって……?」
うーむ、異常な殺気が漂ってるなあ。
「どうでもいいが食卓を血で汚すなよ」
「おでんに血をかけるなんて事しないわよ。もったいない」
うむ。ならよし。
「でも、その暴挙だけは許せないわね」
「別にいいだろ。この方が好きなんだよ」
「おでんの卵はからしでしょ!? 塩なんてかけたらただのゆで卵じゃない!」
「異議あり! 味が付いてる時点でこの卵はゆで卵にはなりえない!」
「異議あり! おでんはからしで食べるからこそおでんなのよ!」
「異議あり!(ry」
「異議(ry」
「(ry」
「……このまま争ってても決着がつかんな……」
「そうね。馬鹿らしくなってきちゃったし」
「てなわけで、早速飯の続きを……」
そう思い、食卓に目を向ける。
「も、もう食べ終わっちゃいましたよぉ〜」
……おでんが見事に空っぽだった。
汁までないってどういう事だよ!
「涼宮さんと長門さんが飲んじゃいましたー」
ああ、そうか。洗い物が楽になるなあ……
「現実逃避!?」
現実から目を背けるのは止めとして。
朝倉はいつ頃帰るんだ?
俺としては今から洗い物するから、タイミング的に今がピッタリだと思うのだが。
「そうね。あまり遅くなっても危ないし」
「逆に返り討ちにしそうだ「失礼ね」
いてぇ!? 眉間刺すのはねぇだろ!
「女の子に失礼な事言った罰よ。また明日ね」
明日また会うのか、笑い事じゃないんだ。そう歌いたくなる気分を抑え「ああ」とだけ言っといた。
さーて、客人も帰った事だし洗い物しよう。
洗い物してる間にハルヒ達に風呂入っといてもらうか。
「おーい、ハルヒ、朝比奈さん、長門、風呂入れー」
「「はーい」」「わかった」
素直に返事が返ってくるっていいな。
大きくなってもその素直さだけは……! って、何回思ったかなコレ。
いい加減虚しくなってきた。
こういうのを本当の現実逃避って言うのかなあ……
誰か学校行かなくても、働かなくてもいい世界に俺を連れてってくれ。マジで。
「あがったー!」「あがりましたー!」「……あがった」
……んん、妄想世界に逃避してる間にそんなに時間が過ぎてたか。
「いい湯だったか?」
「まあまあよ」「いい湯でした〜」「……いい湯だった」
それはよかったな。じゃあ、俺達も入ってくるか。
「風呂入るぞ古泉」
「はーい」
「ああ、そうだ。風呂上がったらまた遊んでやるから三人ともいい子にしてろよ」
「「はーい」」「……そう」


たんだいまーっと。
「おかえりー!」
「いきなり飛び付くな。とりあえず五人でトランプでもするか……っと?」
メールか。誰からだ?


昨日、言い忘れてました。
成長の記録等を見たいので涼宮ハルヒ達に日記をつけさせてください(^_-)-☆
By森


……顔文字が……。
なんとなくムカついたのは俺だけだろうか。
つーかそういう事は言っとけよ! 日記帳はどーすんだ!?
……もう使ってないノートでいいや。
「よーし、トランプやったら日記つけるぞー」
「めんどくさいー!」「「はーい」」「了解」
うむ。皆の反応がどれだか分かっていただくと有り難い。

てな訳で、トランプ大会開催ー。


めんどくさいから省略するがトランプは一位から順にハルヒ、長門、朝比奈さん、俺、古泉だった。
順位が決まってるゲームなんぞおもしろくねぇえ!
そんな訳でさっさと日記を付けさせて寝かした。寝顔が可愛かった。
 


 
ハルヒ達を寝かした所で、俺は皆の日記をちょろーんと読んでみた。
一応言っとくが覗きじゃないからな。
森さん達に渡す前に見とくだけだ。
 
 
――ハルヒの日記――
 
今日はきぉんといっしょに学こうにいった。
みくるちゃんがねちゃったからきぉんにおんぶされてた。
うちには朝くらさんがきてくれた。
おでんおいしかった。
トランプでずっと1ばんになれてうれしかった。
 
 
「きぉんじゃなくてキョンだろ!」
 
 
――長門の日記――
 

とくになし。
 
 
「シンプルにも程がある! もっと何か書いてくれよ……」
 
 
――朝比奈さんの日記――
 
 
今日はキョンくんと学こうにいきました。
学こうではキョンくんが朝さんとむつかしいはなしをしてて、
ついねちゃいました。気ずいたらいえでした。
朝くらさんもきていておでんを食べました。おいしかたです。
おふろもきもちよくてよかったです。
明日もおもしろいことがあるといいな。
 
「なんか時々ある誤字が気になるな。まあ、内容的には問題ないしいいか」
 
 
――古泉の日記――
 
 
「文字が汚くて読めん。何て読むんだ? ……何て読むんだコレ?
 あー……き、ょ、は?
 駄目だ! 無理! 俺は暗号解読でもしてんのか!」
 
 
皆の日記は大体こんな感じだ。
個人的には古泉が1番意外だったな。

 


 

イベントとは、重なるものである。
と、個人的かつどうでもいい意見を述べた所でここでのイベントを明かしておこう。
一つは言わずと知れた団員の幼児化。
イベントと定義するには微妙だが、ここではこう言っておく。
そしてもう一つは、文化祭だ。
何もこんな忙しい時期にやらなくても……忙しいのは俺だけか。
とにかく! 今! 俺達のクラスは! 文化祭の準備で忙しい!
くどくどしく主張したが、俺はその作業には参加していない。その前に出来ない。
「ねー、コレ何ー?」
「それはかん板ですよ。ここにコレがあるって目印になるんです」
「古泉くんはもの知りですねぇー」
「……回りにもさもさのがある……かわいい」
このちびっ子達が居るからだ!
「それには触るなよ」
ちょっと見るだけだもんだの、このもさもさしたの頂戴だとか言う子供達。
駄目だろ。特に後半。やってたまるか。
「俺と隅っこで教室の飾り付け作るんじゃなかったのか?」
「僕、細かい作業って苦手で……」
俺だって得意の部類にゃ入んねぇよ!
細かい作業する嵌めになったのはお前等のせいなんだぞ!
お前等が俺の作ったもんをことごとく壊さなきゃなあ……
「そんなんだから将棋とかにも負けんだぞ。もっと細かく物事考えろ」
そう言うと、一瞬考える表情をしてからせっせと作業に戻った古泉。
なんというか、あれだ。うん。
……将棋が好きな幼児って渋いな……
 
暫く飾り付けを作る事に没頭していた俺達五人はハルヒだけでなく長門までもが飽き始め、
――そりゃ、あの輪っかを延々と繋げるだけの作業は飽きるが――
折り紙で思い思いの物を作ることになった。
ハルヒと朝比奈さんは1番後ろに付いてくる折り紙の取説? の物を作ろうと躍起になってるし、
長門はカメラやらパックマン等の一昔前に流行った物を作っている。懐かしっ。
「そんなの誰に習ったんだ?」
「涼子が、作るならこれがいいって」
「そうか。うまく出来たら俺にも一つ貰えないか?」
「……これ」
そう呟いて長門は淡い水色と白で出来たやっこさんをくれた。
「ありがとな」
そんなエピソードは置いといて、問題は古泉だ。
何も折れないと言うのでとりあえず鶴を折らせてみたんだが……、
こ れ は ひ ど い 。
どんだけ少なめに見積もっても5mmは誤差がある。お前は御剣検事か! ……そういや孤島でもリアクション真似てたな。
もういいよ。法廷立ってろ。ヒラヒラの代わりにヨダレかけ付けてやるから。
ヨダレかけを付けた幼児が法廷で異義ありを連呼し、無敗。殺人の罪を着せられ、親友の弁護士に救われる。
おお、シュール。だが見てみたい。
こんなSSあったら、俺は間違いなく読むね。
「ま、折れないなら仕方ないか。二人でさっきの続きするか?」
何言ってんだ俺はぁぁあ!
またさっきのある意味拷問とも言える作業を続ける気か!
クラシックの逆再生を聴き続けると、精神崩壊を起こすという拷問に匹敵する作業を!
しかし古泉はそんな俺の言葉を素直に受け止めてしまったようで。
こくこくと、首を上下に振った。…………、振るなよ。
 
「……ふう、こんなもんか?」
「よそう外に長くなりましたね」
何てったって軽く教室一周するからな。流石にやり過ぎた。
人間無心になればなんだって出来るんだな……。
まあ、現実逃避しながら手だけ動かしてただけだが。
「これでしょうぎうまくなりましたかね!」
古泉はすごいよ! マサルさんと言いたくなる程目を輝かせてそう言った。
「ああ、少しは強くなったんじゃないか?」
まだまだ俺には敵わないだろうけどな。と返してやる。
全くうまくなりそうに無いが……こう言っとかないと可哀相だろう。主に俺が。
一応言っておくが、
わざと負けてやるなんて気は全くないからな!勘違いすんなよ!
「じゃあしょうぎやりましょうね!」
「帰ったらな」
そんな他愛のない約束をして、輪っかを作る事を再開する。
え、再開しちゃうの?
もう十分だと思うのですが。
教室一周してるんですよ?
てか、俺がやりたくない。
ボスケテ。

 

 
結局今日はそれだけやって終わりましたよ。ええ。
……疲れた。

 


  

痛いほどの静寂が俺の耳を刺激する。
ぴん、と張り詰めた空気は座っているだけでも汗が滲んできそうだ。
そんな中、目の前にある塊に指を延ばし、物体を構成する一つを抜き取る。
部品を奪われた塊はそれでもびくともせずに、
ただ、そこに立ち尽くしていた。
「古泉、次はお前だ」
それを崩さぬようにふぅ、と息を吐き古泉に続きを促す。
古泉の指は俺の動きに沿うように、そろりそろりと塊に近付いて――触れる。
 
 
刹那、カタンと澄んだ音が部屋一杯に響いた。
 
 
音と共に古泉は顔を青くし、ハルヒと朝比奈さんは目を輝かせた。
長門は一見いつもの無表情に見えるが、やはり目が輝いている。
ま、俺もしてやったりな顔をしている訳だがな。
 
「さぁて、将棋崩しの罰ゲームだな」
 
心底意地の悪いだろう笑顔をしてるだろうな、と思いつつも、
ハルヒ達と四人で古泉の罰ゲームを考える俺であったとさ。
 
 
――キョンの子育て奮闘記 第七話――
 
 
数時間前の事だ。
学校での約束通り古泉と将棋をしていたら、三人が暇だ暇だ、と喚き出した。
ので、五人で将棋崩しを始めたわけだ。
将棋の戦績? 四勝一敗だよ。うっかり二歩をやらかしちまったからな。
……何も言うな。本当の本当にうっかりだ。うかつ。
「じゃ、罰ゲームは晩飯のおかわり禁止な」
正直温いと思うが、育ち盛りの子供にはこれでも恐ろしい罰なのだろう。
心底悲しそうに「はい」と頷く古泉。
いかん。ここで許してやったら罰ゲームの意味が無いぞ俺!
それでなくとも四人も子供がいるから食費が馬鹿にならないんだ我が家は!
しかもその内の二人は山のように食うし!
古泉もまあ、必ず二杯以上食うし。
ここまで大食らいが多いとちょっと少食な朝比奈さんが心配だ。
だが、やはりハルヒと長門の前ではどんな子供の食べっぷりも霞むからな……うーん。
あ、そういやもう米がなかったな。
明日辺り子供達を連れて買い物に行ってもいいかもしれん。
機関の方々の財布からどんくらいお札が消えるかね。
本当に、機関の援助がなけりゃ生きていけんからな。家は。
しかし、メシ代しか出さんとはケチだ。おもちゃ代も出せ。ケチ機関。
ケーチ、ケチ、ケチ。……俺は小学生か!
……現実を見つめた所で夕飯作るとしよう。うん、そうしよう。
今日は何作るかね。
 
「飯の時間だぞー」
まだ将棋崩しに熱中している子供達を将棋板から引っぺがして、
テーブルの前に無理矢理連れて行く。
味噌汁が冷めるだろが。
「今日のご飯はー?」
俺に持たれてるハルヒが聞いてくる。
ちなみに、今俺は四人同時に抱えていて、
今にもポロンと落としそうだ。
「今日は秋刀魚とジャガ芋の味噌汁とスーパーのお惣菜だ」
「地味」
「そんな事言うなよ長門……」
今は秋刀魚が美味しい季節なんだぞ。
大体そんな豪勢な物を毎日作れるか。
「ほら、いつもの所に座りなさい」
四人を降ろして、いただきます、と飯を食べ始める。
我ながらウマイな。やっぱ鮎と秋刀魚は塩焼きに限る。
 
飯も食い終わり、風呂タイムも終わらせた。
まだやる事はっと、
「今夜は何して遊ぶんだ?」
毎夜毎夜、よく体力尽きないな俺も。
誰か、代わっていいぞ。
むしろ代わって下さい。
「しょうぎくずしがいいです」
お前は罰ゲームを受けたのを忘れたのか。
「分かったよ。他の皆もそれでいいか?」
軽くOKサインを出されてしまった。
……武士の情けだ。罰ゲームは無しにしといてやろう。
 
疲れながらも楽しい一日でした――ってな。
 
 
□■□次回予告■□■
 
次回、団員の初めてのお留守番!
実現されない事も考えて、待ってなくていいです。
 
森さんの未送信メールより抜粋。

 


 

「じゃあ、ちょっと出掛けるから」
「「「はーい」」」「わかった」
「腹減った時は温めなくても平気なもん置いとくから、火だけは絶対に使うなよ」
いろいろと注意を促しながら、出掛ける準備を整えるキョン。
四人だけを残して出掛ける事に少々不安を覚えつつも、心配してもしょうがないか。
と、半ば開き直りつつキョンは機関へ食費を貰いに行きました。
「いい子にしてたら、買い物に連れてってやるからな」
やった、だのわーい、だの調子よく喜ぶ子供達。
騒ぐのはいいが、いい子にしてたらという前提条件を理解してるのでしょうか。
 
 
キョンの子育て奮闘記<<ちょっぴり>>番外編
   初めてのお留守番

 
「買いものつれてってくれるって!」
「で、でもぉ、いい子にしてないと……」
「いつもどおりにしてろってことよ! カンタンじゃない!」
やっぱり理解出来てませんでした。
いつも通りにしてたら、キョンが帰って来た時に片付けろ。と怒られる事必死です。
「家のことをやっといたらほめられて、おもちゃ買ってくれるんじゃないですか?」
おやおや、古泉がいい子ぶっちゃってますよ。
その意見は死亡フラグだとも知らずにやたら興奮して、
囲碁とか、花札が欲しいだのほざいてます。なんでそんな渋い物を。
「わたしは、えほんがほしい」
軽々しく絵本が欲しいとか言いますが、この子ほぼ全て読みあさってますからね。
もう絵本ではなく普通の本を読んでますからね。
小学校の教科書に載ってるような。
「おちゃがいいですー」
「あたしはね! ぷよぷよ!」
何でこの子達は年に合わない物を欲しがるのでしょうか。
それは書いてる人が分からないからです。駄目駄目です。
そんな事はどうでもいいですが、皆いい子にする気になったようです。


数分後、そこには元気に遊ぶ団員の姿が!
 
いい子にするという意気込みも虚しく、
遊びまくりです。散らかしっぱなしです。お約束です。
揚句の果てには将棋の駒でドミノをやり始めました。
何でわざわざ散らかる遊びを選択するのか。
「できた!」
最後の駒を置き終えたのはいいですが、倒す役目を皆で争ってます。
「じゃんけんで決めたらどうですか?」
「古泉くんぐっじょぶ! じゃあ、」
「「「「ジャンケン、ポン! ……あいこでしょ! …………、」」」」
――数回のあいこの末にハルヒが勝ったようです。
こんな事に能力使わなくても……と、思いますがきっとハルヒ達には重要なのでしょう。
いや、重用なのです。
「たおすわよー!」
皆はドキドキしつつもワクワクが隠せないといった瞳でハルヒの指先を見つめます。
ちょい、と触れただけで駒は心地よい音を奏でながら倒れていきます。
正に将棋倒し。誰しも倒れる時は何かを巻き込みたいですよね。
そんな心汚れた事とは無関係な笑顔で無邪気にはしゃいでいます。
綺麗に倒れたのが楽しかったのかもっかいやろ! 等と大騒ぎです。
騒いでいる中で古泉は将棋以外の物をせっせと片付けていました。
そんなに囲碁と花札が欲しいか。
 
結局何回かやったところで、飽きてしまいました。
何回も出来るところからして、凄いですよね。流石子供の集中力。
「……お腹空いた」
遊び終わった時、特有の疲労で腹が空いてしまったようです。
「キョンくんが置いてってくれたって言ってたの食べましょうか」
そう言ってみくるが台所まで食料を取りに行きました。
何だろうかと目をキラキラさせて話しているのを見ると、
相当腹が減っているのだろう事が分かりますね。
「持ってきましたよー」
みくるが持ってきたのはサンドウィッチでした。
確かにそれなら温めなくても平気です。あー、食いてぇ。
これおいしいだのと騒ぎながら、ぱくぱくむしゃむしゃと食べていきます。
頼むから一切れ! 一切れだけ!


………………


あれ?
 
「ただいまー、っと」
返事が無い事に訝しんだ表情でキョンはハルヒ達の元へ行きます。
まず、目に入ったのは散らかったおもちゃ。
叱ってやるかなと思いつつさらに部屋の奥を覗いてみます。
四人は仲良く雑魚寝していました。
「こりゃあ、叱れねぇな」
ふ、と笑って毛布を掛けてやり、部屋を片付けてます。
保父というより、保護者のような。
そんな温かな微笑みでした。
 
 
――初めてのお留守番は、いい子に出来たみたいです。

 


 

さて、昨日食費を貰いデパートにやって来た訳だが。

四人が迷子になった訳だが。

「どこ行ったんだあいつらはぁあ!!!」
柄にも無く道の真ん中で叫ぶ。
……これは叫ぶしかないだろう。
だって迷子だぞ? MAIGOだぞ?
放送してもらうか? いや、あいつらが素直に出てくるとは思えん。
「どうしよう。マジどうしよう」
「どうしたんですか?」
「あ、喜緑さん。実はカクカクシカジカで」
「ちょっと探してみますか? 情報操作なら簡単ですけど」
「いえ、そこまでお世話になる訳には……」
そうでなくても情報操作使いすぎだろ!
「そうですか、頑張ってくださいね」
「あ、はい」
でも俺は何で断ってしまったんだぁあ!
あいつらは今にも迷子でいる時間が長くなっているというに!
くそ、こうなったら走り回るしか『――キョン様、お連れの方々が――』
思わずこけたね。
何でキョンってあだ名で放送かけるかなあ…… 
 
「キョンくん……怖かったですよぉ……」
迎えに行くなり朝比奈さんが泣き付いてきた。
「何でもっと早く迎えに来なかったのよ!」
そうは言ってもな、どこにいるかわからんと来れないだろ。
「…………」
この無言は長門の物では無いぞ。なんと、古泉の物だ。
やはり怖かったのだろうな。笑顔が消えている。
長門? 無言で俺の足にしがみついてるぜ。
なんだかんだで皆怖かったんだろうな。
「怖かったな?」
怖くなんかなかっただの反論してくるが、気にしない。
「怖い思いさせて悪かった。そのかわり皆におもちゃ一つ買ってやる」
よしよし、皆いつもの100%笑顔だ。
やはりそのくらい元気な方がいいな。
ウーイエ、ZENZENヘッチャラ大丈夫ってな。
財布には優しくないが。

……俺が馬鹿だった。
もう何回反省したって仕切れん。
「あたしそれも買うー!」
だあああ! そんなに沢山買えんぞ!
うちは貧乏なんですからね!


もう奴らに甘い顔はせんぞ。絶対に。
ちなみに、今日は外食しました。

 


 

遊園地にやってきた。SOS団の五人で、だ。
何で遊園地に来てまで四人の面倒をみなきゃならんのか。
まず、どうして遊園地くんだりまでやって来ているのか。
……ちょっと状況を整理しよう。主に俺と、読者の為に。
一昨日の事だ。食費を貰いに行ったら、何でだか機関がチケットをくれた。
理由? どーせまたハルヒが望んだからじゃないか?
あの機関はハルヒの為なら何でもするからな。今更驚きゃしねぇよ。
ともかく、遊園地だ。
機関がくれたのはフリーパス的な物で全ての乗り物が無料らしい。
こんな物くれるとは、機関はケチだという俺の認識を改めねばならないか?
いや、騙されるな! 機関はケチなんだ。機関のケチケチケチケチ――。
よし、ケチだ! ……そうじゃないだろ!
落ち着け俺。クールダウン、クールダウン。
とりあえずは中に入ってからだ。話はそこから始まるんだ。
入場するために人数分の券を取り出し、四人に持たせ、列に入る。
途中、オバサンの世間話に延々付き合わされた。
兄弟の子守? だの、似てないわねだの。俺がしゃべる間もなくマシンガントークを繰り出してくる。
よって、似てないだろうな。兄弟じゃないし。という俺の反論は舌先で渇いただけだ。
オバサン達は最後に若いのに大変ね、と微妙な憐れみと共に自分達の話題に戻っていく。
正直、疲れました。
あの年頃のお方はあんなにしゃべる物なのだろうか。
イメージとしてはあってるのだが、あそこまでとはな。逆裁のオバチャンが何人もいた感じだ。
……キツいな。自分の勝手な妄想だが、こればっかりは俺の妄想力に後悔するね。
勝手に後悔しろと残酷ではあるが、もっともなもう一人の俺の声を聞き流し、
やっとこさ遊園地に入るまでにこぎづけたのであった。
 
さて、入ったはいいが何から乗ろうかね。
意見を聞いてみるが、あれに乗りたいこれに乗りたいと騒ぐのでお話にならなかった。
「……ったく。一番近いとこから乗るぞ」
四人は俺の意見に賛成らしく、地図を見て一番近いところはジェットコースターだとはしゃいでいた。
ちょっと待て? ジェットコースター?
 
 
……やっぱりか。
結論から言おう。身長が足りなかった。
すると、ハルヒがどこからともなくトンカチを取り出し――
「お前、何する気だよ!」
「カンタンな事よ!」
溌剌とした笑顔ではっきりと、恐ろしい言葉を吐き出したのだった。
「これであたしのアタマをぶんなぐるの!」
「はぁ?」
一瞬目の前が暗転したように思えたね。
「 そしたらたんこぶで背がたかくなるでしょ?」
「馬鹿か! そんな事したら痛い所じゃすまねぇぞ!」
「え〜?」
「え〜? じゃない!」
「だって金色のガッシュ!! でもやってたし!」
何でそれを実行しようとするんだよ。しかも正式名称だし。
「ガッシュでも止められてただろ! とにかくその意見は却下だ!」
やるのー、と駄々をこねるハルヒを引きずってジェットコースターの前を通りすぎた。
こら、そこの客。俺を見るな、こっちみるなよ。
ハルヒも静かにしなさい。
 
最初っから躓いた感が拭い去れないが、とにかく次だ。次の乗り物行くぞ。
MAPを見て、近くにある物を確認する。
「次はコーヒーカップか……まあ、妥当な所だな」
「よーし、思いっきり回すわよー!」
乗れなくて悔しかったのは分かるが、あまり回してくれるなよ。
俺の三半器官はそんなに強くないんだ。
むしろ弱いから。風呂に漫画を落とした時のハート並に脆いから。
その辺気をつけて、腫れ物に触るように扱いやがれ。
 
 
そんなわけで近くにあるコーヒーカップにやって来たのだ。
並んでるのはバカップルばかりでちょっと、いや、かなり腹が立った。
くそ、彼女欲しいなあ。
 
一つのカップに五人はキツイよなあ……。どう考えてもギチギチです。
ギチギチのまま、カップは回り始める。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる――
頭が狂いそうだ。……ちょっと回しすぎちゃいませんか?
「ながとさんー、目が回ってきましたぁー」
「な、長門……俺の為にも、スピード、落として、くれ」
胃から物が逆流しそうだ。
「問題ない。まだまだイケる」
風になるおつもりですか、あなたは。
 
やっとこさ降りると長門にアイスをせがまれた。
「……これ、欲しい」
「勘弁してくれ……」
宇宙人の三半器官は特別製ですか?
鉄の三半器官。そう名付けることにしよう。
 
全員酔っていて(長門以外)アイスを食べることは不可能だったので(長門以外は)、
酔い醒ましに適当に歩いてから食べることにした。
皆も同意見らしく(長門以外)珍しく反対はなかった(長門以外の)。
……根に持ってなんか無いぜ。ちょっと胃液が出そうになっただけだからな
それくらい何ともないぜ。ああ、何ともないさ。
「とりあえず次どこに行きたいんだー?」
「オバケやしき」
長門が呟くように提案した。
ふむ。歩けるし、涼しいし、いい案かもしれん。
「では、オバケやしきに行きましょうか」
古泉、先頭を歩くのはいいが場所知ってんのか。
「ふえぇ、怖いです……」
「大丈夫ですよ。俺がついてますから」
「ほらー! 早く行くわよー!」
 
 
あー、怖かった。
お化け屋敷とはあそこまでも作りこんでるものなのか?
あまりの完成度に一種の尊敬さえ感じたね。
途中でいい男が「やらないか」と迫ってきたり、
コーラにメントスを入れたり、
一ヶ月放置した弁当箱を見せられたり、
ドラクエのセーブデータが消えたりと、とても恐ろしかった。
もう入りたくないなあれは。
 
 
よし。酔いも覚めたし、昼飯食おうか。
 
諸君。遊園地はセコいと思わないか?
一歩外に出るだけで50円くらい得するだろ。
何で高くするかな。まあ、金出すのは機関だしいいか。
 
 
「とりあえず飯だ。いただきます」
 
「「「「いただきます」」」」
 
 
いやー、実にうまかった。
歩いたりアトラクション乗ったりしたせいか、
いつもよりもうまかった気がしたね。
「デザート」
ああ、アイスか。
買いに行くぞー。
 
 
「ほら。適当に買ってきたぞ」
「ペロッ……これは……」
「どうしたんだ古泉?」
 
「ヨーグルト味ですよ!? 絶望した! バニラがよかったのに!」
「黙って食えこの野郎」
 
ねぇ、どうしてここにいるの。教えてください、今すぐ。
俺の声で歌ってるのを想像してみてくれ、どう思う?
すごく……キモいです……。じゃなくて!
「なんでここにいるんだ?」
「いや、今回が最終回だと聞いてね。来てみた訳さ」
くつくつ、と笑いながらそんな言葉をもらした佐々木。
え、今なんと? 最終回?
 
 
最  終  回  ?
 
「って、何のだー!?」
「つまり子守が終わるって事だね」
「え?」
子守が、終わる?
「どういう事だ? 何でお前がそれを知ってる?」
「落ち着いて聞いてくれよ?
 昨日、森さんから連絡を戴いてね。
 キョンと小さくなった涼宮さん達がここに来るはずだから、この事を伝えて欲しい、と
 そこでこのフリーパスが着払いで送られて来たんだ」
……着払い……
てか森さんも直接俺に言えばいいのに。
「とりあえずお前一人で来たのか?」
「いや、友達とだよ。一人で来るほど虚しいことはないからね」
「ふうん……んじゃ、また今度な」
「…………、ああ。また今度」 
 
 
 
 
 
 
そして俺はおそらく最後であろう子守を目一杯――楽しんだ。
 
 
 
 
 
 
翌日。部室の前に突っ立って、あの一週間の事を思い出す。
 
子守は終わった。
終わったからにはいつもの団活が待っているわけで。
この一週間は面倒臭くも楽しかった。またやれと言われたら断固拒否するがな。
とにもかくにも、夏休み明けから唐突に始まった事件は、
今までと少しだけ違うだけの――日常の延長線上だと認めざるを得ないのだろう。
何故ならハルヒが原因で、ハルヒに振り回されただけだった。
それだけの事だからな。そう、電車が脱線したみたいな物だ。
ハルヒが望む限り同じような事はきっとまた起こるのだろう。
例え、電車の脱線だとしても、あの日々が楽しかったのは本当だ。
――いっその事保父にでもなってみようか。
文芸部室の前でふ、とそう思った。ただの妄言に過ぎないけどな。
とにかく、いつものレールでの生活に戻ろうと扉をノックし、返事を貰ってから挨拶を――
「こんにちは〜」
見慣れた朝比奈さんがそこにいた。
いや、見慣れたと言ってもここ一週間見てきたのは小さい朝比奈さんだ。
「長門っ! これは一体……」
……いない? 視線を少し下に落としてみる。
「……何?」
顎を少し、いやかなり上げて聞いてきた。
……察しのいい方はお気づきだろう。
 
「また小さくなってるかよぉぉぉおお!!!」
 
キョンの子育て奮闘記
        ――FIN?


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