「さすがの僕も今回は引き下がれません。長門さん、僕に謝って頂けませんか」
いつも通りのニヒルなスマイルで長門の前に立つ古泉。だがいつも通りでないところが一つ、目が本気で怒っていた。
対する長門は手元に開いてあるハードカヴァー本の細かく踊る文字達に目を落としていた。頁を捲る。どうやら古泉を
無視しているようだ。
「僕の焼き芋を全て食べてしまったのはわかっています。正直に謝ってくださるなら、今なら許してあげますよ」
やばいな、古泉は本当に激怒しているようだ。その証拠に手が拳になってぶるぶる震えている。よく見るとこめかみに
青筋まで立ってやがる。よほどその焼き芋が食べたかったに違いない。
やばいな、長門も本当に食べちまったようだ。その証拠に本を持つ両手がカタカタ震えている。よく見ると口端には焼
き芋の小さなカスが残ってやがる。よほどその焼き芋がおいしかったに違いない。
朝比奈さんは俺と同じくドン引きして涙目でおろおろとしていた。この大変珍しい状況を何とか収拾できるであろうと
思われる唯一の人物ハルヒは、こういうときに限っていない。何時だってタイミングが悪い奴だ、あいつは。
しかしそろそろ誰かが仲裁に入らないと最悪の展開になりそうだ。古泉の顔はどんどん赤くなっていくのとは対象に長
門の顔はどんどん青くなっていく。もっと見ていたかったが、仕方ないな。おい古泉、どういうことか詳しく説明しろ。
「……僕が先ほど購買部で本日限定の焼き芋を購入してきたんです。校内で焼き芋が食べれるなんて珍しいじゃないです
か?ですから、柄にも無く、僕は心を躍らせながらそれを持ってこの部室へやって来たんです」
そういえば今日だけ特別に売ってたらしいな。谷口がそれらしいことを言っていた気がする。
「ええ。それで部室へ入室したときにすぐに機関から電話がありまして、荷物を置いて少しその場を離れていたんですよ」
そのとき部室に長門はいたのか?
「ええ、いました。そして、電話から戻ってくるとみなさんがいて、僕の焼き芋がいなくて、です」
なるほど。しかしそれだけでは俺や朝比奈さんにも疑いがかかるんじゃないのか?どうしてすぐに長門だとわかった。
「あなたもわかるでしょう。長門さんの口元を見れば」
長門はハッとして咄嗟に高速言語を駆使した。今さら食いカスの連結解除しても遅いぞ、長門。
「このように犯行が明らかであるにも関わらず、いまだ謝罪しない長門さんが僕は許せないのです」
古泉のその笑顔は作り物ではなく本物だった。ただし、やはり目には般若が写りこんでいたが。背後の長門を見ると、
なんと、あの長門が少し目を潤ませ眉頭を二センチも引き上げながらフルフルと首を振ったではないか。俺のハートが何
かにどどん波された。しかし古泉、長門が実際に食べたところを見たわけじゃないんだろ?まだ本当に長門かどうかわか
らないじゃないか。
「いいえ、長門さんしかあり得ません。絶対に長門さんです」
古泉はキッパリと言い放った。駄目だこれは、完全に冷静さを失っていやがる。

 

 すると突然長門は本を閉じて立ち上がった。古泉もその気配を感じ取って振り返る。
「やっと謝ってくださる気になりましたか」
古泉は腕組をして睨んでいた。なんかだんだんこいつがムカついてきた。一方長門は頭を俯かせたまま逃げるように部
室のドアへと歩き出した。というか逃げた。
「そこまで素直でないとは思いませんでした。幻滅です。」
古泉が皮肉たっぷりの嫌味を吐き出して捨てた。こいつムカつく。
長門がドアを開けて廊下へ出る瞬間、唇が高速で呟いているのが一瞬見えた。はて何をしたのだろうか。よからぬこと
が起こらねばいいがと祈りつつ、消えようとする長門を追おうと立ち上がった直後であった。
「ぬああああ!!」
いきなりの奇声、だがこの声を最初に聞いたときは誰が発した声なのか全くわからなかった。とりあえず声がしたほう
を振り向いてみるとそこにはなんと……。
「胸がああああ!!」
髪がどんどん伸びて身体つきがきゅきゅきゅと締まっていき胸がボインボインに膨らんでいく古泉らしき女性がそこに
いた。ワイシャツのボタンが㌧でしまったようで、そこから露になった双子山をなんとかブレザーで覆い隠していた。し
かも完成度が高いことに声色は綺麗さっぱり女性のものとなっており、あろうことか顔を真っ赤にしている。あ、鼻血出
た。
呆然として見ていた朝比奈さんは次第に女体化していく古泉の変化に合わせて表情が驚きから嫉妬めいたものに変わっ
ていった。やはり朝比奈さんにも女性としてのプライドがあったようだ。なんか可愛い。
俺はというと、まるで同人誌の御都合主義の中でも王道のトップレベルを誇るであろうこの現象に直面しているにも関
わらず、これだとSOS団の中で雄の存在は俺だけになるな、みんなは『なんてキョンはうらやましい存在なんだ……』と
俺のポジションを羨望するだろうな、などという一種の狂気じみた事を考えていた。
我に帰った瞬間ちょっと死にたくなったが、それと同時にこの原因が長門であると直感的にわかった。長門!とすぐに
ドアを開けて廊下に出てみたが、長門の姿はもう既にそこにはなかった。これがもし長門なりの喧嘩の仕方だとしたら俺
たちにその恐怖を植えつけるには十分すぎるやり方だ。古泉はその人柱になったということになる。哀れ古泉グッバイ男
古泉。
部室に戻ってみると古泉はカーテンにくるまって体を隠し、顔だけを覗かせていた。てっきり同人の王道よろしく頬を
赤らめて困り顔をしつつ若干嬉しそうにでもしているのかなと思っていたが、そんな俺の二次元的妄想はやはり二次
元的でしかなく、実際の古泉の顔は真っ青になって絶望色が染み渡っていた。今にも泣き出しそうだ。

 

 ガタガタ震えている古泉を心配して朝比奈さんがフォローを入れた。
「こ、古泉くん大丈夫ですよ!似合ってて可愛いですから、きっと恵まれた人生が……」
どうやらトドメであったようだ。古泉はとうとう顔をも奥へと引っ込ませてしまいすすり泣き始めてしまった。あれぇ
という困惑した顔で朝比奈さんは俺を見る。朝比奈さん、あれはさすがに酷いですよ。
「そ、そんなぁ……あたしはただ……うえぇ」
あぁいやすいませんでした、朝比奈さんは何も悪くありません、悪いのは全て大人気ない古泉ですから。そう朝比奈さ
んを宥めると部屋内に響くすすり泣きと嗚咽がより険しくなった。いや事実そうだろ。
だが古泉は尚泣く。いい加減ウザいなぁと思っていると、朝比奈さんが涙目で俺に訴えてきた。
「キョンくんも何とかしてくださぁい。あたしが言うと余計に泣いちゃうんですぅ、ふえぇ」
朝比奈さんはうるうると潤んだ大きな瞳で、上目遣いで、俺に必死に懇願してきた。俺のハートが何かに気功砲された。
わかりました朝比奈さん、俺が何とかしてみせます。そう朝比奈さんに言って俺は少しばかり何とかを考えてみた。
しかしその何とかを考えることはすぐに諦めた。なぜなら、古泉の泣き声が途端に止まってしまったからだ。どうやら
俺が何とかすると言ったのが聞こえたみたいで、その俺の何とかを期待して待っているようだった。急に何か騙されたよ
うな気持ちになった俺は腹が立って最も適当で意味のない言葉で済ます事にした。ところが
「古泉まぁがんがれ」
はき捨てるように、どうでもいいように、呆れたという事を示唆するために投げやりに放つはずの言葉をなんと噛んで
しまったのだ。直後にぶほっと朝比奈さんが吹いてしまったため、何とか誤魔化していた羞恥心が大津波となって俺の顔
を覆っていった。耳朶まで真っ赤になるのを感じながら横にチラリと目をやると、朝比奈さんが両手で口元を覆って必死
に笑いを塞き止めている。俺は恥ずかしさで死んだ。
俺が心の中で『人生で最も恥ずかしいで賞』第3位授賞式を開いている間、古泉がいるはずである白き布の世界の奥は妙
な静かさを発していた。だがまもなく聞こえてきた音は同情を買ってほしいと言わんばかりのウザったい泣き声ではなく、
バンッと窓を勢いよく開ける音だった。
身体中にショックが走った。ちょっばっ!やめろ古泉!自殺なんて早まったことを!!
朝比奈さんを押し退けてすぐに古泉めがけて駆けようとしたが、直後に俺は猛烈な勢いでSOS団唯一のデスクトップパソ
コンに突っ込んだ。俺が盛大にコケたからであるのだが、更にそれには理由がある。それは古泉が
「おおおおろろろろろろろろろろろ!!!」
と窓からゲロ爆撃を投下し出したからである。あまりにあんまりな展開に俺は思わずガクリと体勢を崩してしまったわ
けなのだ。

 

 後頭部の鈍痛に目を覚ますと、世界が横たわっていた。薄く麻痺した後頭部を擦って、血が出てないことを確認しなが
ら体を起こす。どうやら保健室で眠っていたようだ。布団を剥いでベッドから立ち上がると、あちこちが軋み痛んで小さ
な悲鳴を上げた。あたたた。
「キョン?起きたの?」
ベッドを囲んでいたカーテンがシャッと開かれてハルヒが現れた。ふらふらする頭を支えながら開かれた部屋を確認す
る。どうやら保健の先生はいないようだった。あぁ今起きた、と呟きながら少し歩いて近くにあった椅子に座った。
「大丈夫?あんたものすごい勢いでパソコンに突っ込んだって言うじゃない。いったい何があったの?」
そういやそうだった。古泉が紛らわしいことをしたばっかりに……!後頭部のずきずきとする痛みが俺の中に殺意めい
たものを生んだようだった。古泉の暗殺計画を真面目に検討しようかどうか悩んでいると、隣にいたハルヒが少し怒った
ような口調で一体何があったのよと訊ねてきた。当然ありのままを話せるわけがなく、とりあえず古泉が長門を怒らせた
のが原因だということを話した。
「なんで古泉くんが有希を怒らせたの?どうして?」
ハルヒは瞳をパチクリさせた。どうやら長門が古泉の買ってきた焼き芋を全部食べちまったことが原因らしいんだ。
「……え?」
予想通りハルヒは驚愕して思わず聞き返してきた。そりゃそうだ、あの古泉がまさかこんな阿呆なことに本気で怒ると
は俺も思わなかったからな。しかし直後にハルヒは何故かおろおろと困惑しだした。どうしたハルヒ、何か変だぞ?
「……それ、有希のせいじゃないわ」
目を逸らしながら呟くように言ったハルヒ。どういうことだ。
「古泉くんの焼き芋を食べちゃったの、実は、あたしなのよ」
な、なんだってー?!

話をまとめるとこうだ。古泉が部室を出て行った後すぐにハルヒが部室に到着した。中に入ると目前にはほかほかと湯
気を立たせて香ばしい匂いを放つ紙袋があるではないか。ちょうど財布を忘れて学食を食い損ねていたハルヒは理性を即
フルボッコにして食べ始めてしまったそうだ。すると、いつの間にか隣で物欲しそうにじっと見つめる長門がいたので、
有希も食べたいなら食べちゃいなさいと言って焼き芋の一番デカいのをあげたんだそうだ。すぐに長門も食べ始め、ハル
ヒも他の焼き芋を全てペロリと平らげてしまった。食べ終わった後に何とか息を残していた理性がハルヒを責め立て始め、
焦ったハルヒは証拠を消そうと空になった紙袋をとりあえずかばんにぶち込んだのだが、後に襲ってくる罪悪感を恐れて
急いで焼き芋を買い直しにいったんだそうだ。そこへ入れ違いに俺と朝比奈さんが到着し、次いで古泉が帰ってきて事件
に至ったのだ。というかお前、財布ないのに何で買い直しに行ったんだ?意味ないだろ。

「うるさいわね、パニックになってたから気付かなかったのよ!それよりどうしよ、有希と古泉くんに悪いことしちゃっ
たわ……」
確かにお前が原因なのは明白だが一つおかしい所もあるな。今の話を聞くと長門も明らかに共犯者であるのに何であい
つは強情なんか張ったんだ。いや待てよ、むしろあれは意地を張ったというより冤罪を訴えるような風だったな。とすれ
ば長門は実は共犯者ではない?でもそれだと長門の口元にあった芋カスの説明ができないな。う~ん……。
「とにかく部室に戻ってみましょう。みくるちゃんも待ってることだし」
そういえばお前は何時来たんだ?
「あたしは、、、あんたがパソコンに突っ込んだときね。ドアを開けようとした瞬間にものすごい音がしたから吃驚した
わ。すぐに開けたらあたしの机とパソコンとあんたがぶっ倒れてて。いったい何が起こったのか全くわからなかったけど、
とにかくあんたが馬鹿やったのだけはわかったからすぐに手当てしたわ。それでも気絶したあんたをそのままにしておく
わけにはいかないから、あたしとみくるちゃんですぐに保健室まで運んであげたってわけなのよ。この慈悲深き団長様に
土下座しなさい!感謝なさい!!」
そうか、助かった。土下座はしないが礼は言うぜ、ありがとよ。
「べ、別に!団長が団員の身を案じるのも組織の治安維持のためなら必要不可欠なのよ!そそそれにキョ、キョンが」
そういやそのとき古泉の様子はどうだったんだ?
「……」
あれ、俺なんか地雷踏んだか?いきなりハルヒの機嫌が悪くなったんだが……。
「……古泉くんは知らないわよ。あたしが行ったときはみくるちゃんしか居なかったわ」
おかしいな。古泉はカーテンに包まってゲロを吐いてたはずなんだが気付かなかったのか?
「そんなの気付くわけないでしょ、カーテンの包まってるなんて。しかもいきなりあんたが倒れてるところなんて見たら
そこまで気が回るはずがないわ」
ということは古泉の姿は確認してないわけか。そりゃ良かった。
「何でいいのよ」
いや別に。ハルヒが女体化した古泉を見たらどうなるかわかったもんじゃないからな。最悪の場合は世界が終わるな。
「何ブツクサ言ってるのよ。だから、早く部室に戻るわよってヴぁ!」
そうだな、そろそろ意識も回復してきたし戻るか。
俺は少し勢いをつけて立ち上がった。あたたた。

  その後、俺たちは部室に戻ったが迎えてくれたのは朝比奈さんだけだった。古泉はどうやら帰ってしまったようだ。あ
の体にされてしまったのでは当分登校もできないだろう。しかも相手はあの長門のことだ、恐らく素直に謝らない限りは
一生あのままかもな。最悪の場合は降伏し従属しなければならないやも。哀れ古泉グッバイ古泉。
仕方なく俺の後頭部の慰安の為もあってその日はそのまますぐに解散することになった。

翌日、まだうっすらとした鈍痛を後頭部に伴いながらも俺はいつもの睡魔が支配する授業時間を午前のぽかぽか陽気に
包まれながら過ごしていた。だが俺はある推測を怠っていた。あの最強無敵宇宙人の、下手をすればデスビームで心臓を
撃ち抜かれたかもしれないあの長門に、あろうことか激怒した古泉が慈愛に満ちてるであろうその後の生涯をそのまま何
もせずに大人しく過ごすはずがないということを。そしてその事件は昼休みが終わって五時限目が開始して間もない頃だ
った。
平日の学校生活の中では間違いなく睡魔様が最もその能力を存分に発揮する時間帯であり、その睡魔様に魔貫光殺法で
心臓を見事に撃ち抜かれていた俺は机の上で寝息をたてて死んでいた。夢の中で長門におでんを食べさせてもらおうとあ
ーんと口をあけた瞬間、悲鳴と驚愕の叫び声によって俺はすぐさま長門とおでんから引き剥がされてしまった。
寝惚け眼で辺りを見渡すと、教壇に上がって幾何学模様を描いていた教師と、めいめいが適当に教科書やノートを開い
ていたクラスメイトが、教室の前と後ろの両方の扉から現れたSWATの警備隊のような格好をした奴らを一心に見つめてい
た。別の夢を見始めたのかと思ったが、後ろのハルヒが俺を起こすためであろうか椅子を細かく蹴ってきたのでどうやら
現実であるようだ。
「動くな!この学校は我々KHBが既に掌握した!!全員手を頭の後ろに回してその場に伏せろ!!」
ヘルメット越しからまるで映画のような台詞を吐いたKHBなる奴らは、重々しそうな鈍い光を反射している機関銃をし
っかり構えながら次々と入ってきた。クラスの奴らはみんな下手に抵抗することなく言われた通りに伏せたが、俺とハル
ヒだけはそれをしなかった。いや、俺たちは逆にそれはさせてもらえなかった。何故なら、KHBのうち一人が俺とハルヒ
の前で銃口を上に避けながら
「あなたが涼宮ハルヒですね?そちらは、ええと、キョンでしたか。あなたたち二人はこちらに来てください」
と言ったからだ。俺はあまりに接近してくるこいつにハルヒが下手に抵抗して最悪の事態を引き起こさないかとハラハ
ラしていたが、意外にも大人しくしていたハルヒにホッとした。だがすぐにその安堵は激烈な怒りへと変わる。何故なら
ハルヒは恐怖していたからだ。俺とハルヒは大人しくそいつらに従ったが、俺の心の中は全くもって穏やかにはならなか
った。
言葉を失って目を見開いていたハルヒの汗だらけの表情からは、なんであたしとキョンだけ?もしかしてあたし達は殺
されちゃうの?という畏怖の疑問が心中を渦巻いているのが読み取れた。

 「ハルヒ、落ち着け。いざというときは俺が絶対にお前を守ってみせる。まずは、落ち着くんだ。冷静になれ」
俺は耳元で囁いた。ハルヒは震える瞳を閉じて短く深呼吸をすると、引きつった笑顔で言った。
「あんたにしては頼もしいわね」

俺たちはKHBの奴らに体育館まで連れて行かれた。途中通った他のクラスも同じように制圧されていたことから、
本当にこの学校は占拠されたようだった。体育館の重い扉を開くと、広々とした空間の一辺にあるステージの前に
無表情のままハードカヴァー本を小脇に抱えて佇む長門と、その長門の腰近くのカーディガンを掴んでへたり込ん
でいる朝比奈さんがいた。
「有希!みくるちゃん!」
叫んだハルヒは二人めがけて走り出した。両脇に控えていたKHBの奴らに注意しつつ俺もハルヒの後を追う。こち
らを振り向いた長門にハルヒは抱きついた。よほど心細かったのだろう、何故二人がここに集められているのかに
はまだ疑問符がつかないようだった。すぐに追いついて来た俺に涙目でぷるぷる震える朝比奈さんは聞いた、一体
何が起こってるんですかぁ、と。いや俺もまだよくわからないです。が、この面子が揃ったということは……。
ある確信をした瞬間、目の前にあるステージの両脇からいきなりブシュウウウウッと煙が噴出し爽快でリズミカ
ルな音楽が流れ出した。俺たちの注目を一瞬で集めたその煙の奥から現れたのは──スラリと伸びるブーツを履い
た脚、キュッと締まってクビレた腰の上には濃い目のデニムスカート、朝比奈さんよりは控え目ながらも十分豊満
な乳房の魅力を最大限に引き上げる赤のタンクトップに黒の革ジャン、そしてそのグラマーすぎる体つきとは反対
に背中まで垂らした可愛らしいポニーテールをした──化粧の濃い女の人だった。女性はサタデーナイトフィーバ
ーのポーズのままでずっと空高くを指さしていた。色々センスが疑わしい人だということだけはわかった。
俺も含めて皆が呆気に取られていると、いつの間にか俺たちの周りを少し遠めに包囲していたKHBの奴らが拍手を
しだした。わざわざヘルメットの隙間から手を捻じ込んで口笛を吹く者まで。何だコイツら、ムカつく。
音楽がフェードアウトしていくと、女性はKHBの一人がささっと持ってきたマイクを掴んでスイッチを入れた。
「あー、アー、まいくてす、マイクテス。えー、本日は」「あんた誰よ?!」
びしっと人差し指をさしてハルヒはマイクに負けない怒声でツッコんでいた。そこでツッコむのかよと思いつつ、
そのツッコミは恐らく俺達全員の心の代弁でもあるだろうなとも思った。ツッコまれた女性は仰天した。
女性はステージの上で円を描きながら歩き始めた。何やら悩んでいるようである。俺がどうせ正直に答えてはも
らえないだろうなと予知していると、しばらくして女性はこちらに向き直り申し訳なさそうにマイクに呟いた。
「こ、古泉です……」
俺とハルヒと朝比奈さんが吹いた。

 

 俺は腹を抱えて笑った。涙が滲むほど笑い、腹筋が引きつって呼吸困難に陥るかと思ったほどだ。ハルヒもドツ
ボにハマッてしまったようで、腹を抱えて笑い転げていた。朝比奈さんはへたり込んでぷるぷる震えていたが、そ
れはやはり恐怖からではなかった。何故なら、右手を思いっきり床に叩き付けながら顔を真っ赤にして爆笑してい
たからだ。長門はいつの間にかハードカヴァーの本を読んでいたが、すぐにそれはカモフラージュであることがわ
かった。鼻先に本を開いて顔を隠していたからである。よく見ると若干前屈みで少し震えてもいた。
4人がお互いのウケっぷりを見てさらに笑いに相乗効果が生み出される。しばらくの間、体育館には3つの笑い声
のみが木霊し続けた。俺はひーっひーっと引きつる呼吸に耐えながら何とか立ち上がり、深呼吸をして何とか平常
を取り戻した。ハルヒと朝比奈さんもじきに立ち直り、あー面白かったと汗を拭きながら満足な笑顔を作っていた。
長門もまもなく本を閉じた。無表情ではあったがよく見るとびっしょりと汗をかいていた。頸筋に流れる雫が光る。
ところで俺達は何をしてたんだっけ?とハルヒたちと顔を見合わせていると、いつの間にかステージとは反対側
の、俺達の背後のほうに古泉とKHBの奴らがいた。どうやら古泉はあの厚化粧を落としたようだった。ノーメイクで
あるなら古泉を古泉だと判断するのは容易である、ということが証明された。
古泉はこちらに緩やかな歩調で近づく。周りのKHBの奴らは銃を構えたままその場を動かなかった。俺はやっとこ
の危機的状況の感覚を取り戻し、ハルヒをチラリと見た。恐怖に押し潰されそうになっているハルヒを俺は命に代
えても守ろうと思ったからだ。ところが、ハルヒは腕を組んで仁王立ちをしながら余裕の表情を見せていた。さっ
きまでのリスのように縮こまった愛くるしいハルヒはどこに?と不謹慎ながらも少し落胆してしまった。どうした
んだ、急に余裕綽々になりやがって。ハルヒは俺の耳元に囁いた。
「さっきのでやっと気付いたんだけど、これって古泉くんのドッキリイベントよ。あたしがちょっと前にビックリ
イベントの企画を頼んどいたから、たぶんこれがそうなのよ。ここでネタバレしちゃったら面白くないじゃない?
ノるなら最後までノッてこのイベントを存分に楽しまなくちゃ!!」
なぬ?じゃあこれは古泉の芝居なのか?それにしては壮大すぎる気もするが、とツッコもうかと思ったが止めた。
ハルヒの瞳の中の小宇宙が復活していたからだ。やはりハルヒはこのワクワクとしている笑顔が一番似合っている。
古泉はニヒルなスマイルを保ちながら、長門の手前で止まった。古泉は静かに口を開く。
「私はまだ引き下がれません。長門さん、私に謝って頂けませんか」
今度は長門は無視をせずしっかりと古泉を見据えて言った。
「嫌」
レビテトのかかった空気をピリピリと肌に感じた。朝比奈さんは冷や汗をタラーリと一筋垂らしながらその場に
固まっていた。ハルヒも険しい顔を作る。同時にチラチラとKHBの奴らにも目を配らせ始めたが、何故か唇の端だけ
は笑っていた。何だ、何か企んでるのか?俺は隣で他と同じくグラビデをかけられていたのでただ佇むしかなかった。

「どうして謝っていただけないんですか」
「その必要はないから」
長門の即答に古泉はそうですかと溜息を漏らした。徐に右手をスッと頭の高さに揚げると、KHBの奴らが機関銃を
構え直す音がした。銃口の向きから推測すると、どうやら俺達全員に向けられているようだった。古泉が憂いた顔
を作って、まるで今まで大事に大事にしてきたぬいぐるみを捨てるときのような哀しみに満ちた表情で右手を勢い
よく前へ突き出した。
咄嗟にヤバいことを悟った俺はハルヒを庇おうと振り向いたとき、ハルヒはなんと(゚∀゚)という顔をしていたの
だ。これは某巨大掲示板ではキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!と使われるときの顔じゃないか!こいつ、も
しかしてこうなることを望んでいたのか?!
「キョン危なーーい!!」
とハルヒは笑顔で俺にアメフトタックルをしかけた。おまっそこは普通庇うように相手を抱きながら伏せるだろ
うというツッコミの代わりにうぐひゃっと情けない声を上げて俺は吹っ飛ばされた。高い連続した発砲音が何重に
も重なって響き騒ぎ、朝比奈さんの悲鳴を掻き消した。まもなく静寂を取り戻した世界を恐る恐る見てみると、朝
比奈さんはその場に蹲ってぷるぷる震え、ハルヒは伏せたまま周りを見渡し、長門は右手を前に突き出していた。
銃の弾丸は長門の開いた右手によって展開された不可視バリアに埋もれているように、全て平行に止まっていた。
その右手をふっと下ろすと、宙に固定された弾丸もバラバラと落ちて転がった。
古泉もふっと右手を下ろすと、KHBたちの前列の奴らが後ろに引き下がり、後列の奴らが前へ出た。後列に下がっ
た奴らは素早くマガジンを取替えた。
「やはりただの銃などでは対抗できませんか。しかし私はここで諦めるわけにはいきません。さて、涼宮さん」
いきなり呼ばれたハルヒは伏せた状態のままえっと返した。
「私はこの後どのような方法で長門さんに対抗すると思いますか?」
できれば具体的に答えてください、と付け足してハルヒに問い出した。何だ、いったい何を考えてるんだ?ハル
ヒがうーんと少し悩み、頭上に電球がパッと点いて答えた。
「そうね、とりあえず古泉くんは実は超能力者でその超能力を駆使して有希と闘うと思うわ!能力は、そうね……
時間を数秒止められるとかロードローラーを持ってこれるとか舞空術ができるとか……」
何て具体的過ぎる設定なんだ!そして待てハルヒ!それは古泉の策略だ!!
そう俺が叫んだ頃には時遅し、古泉は既に浮き上がり始めていた。
「いやぁ大正解です、涼宮さん。実は他にももっと物騒な能力がある設定なのですが、それは涼宮さんが望んだ場
合のみ出てきます。どんどん当ててみてください。因みに、私と長門さんの力の差はどれほどでしょうか?」

 

 そりゃあ長門が圧倒的に強いに決まってるだろ、うちの長門はすっごい強いんだぞとまるで互いの父親の優劣を
決めたがる子供のように俺は言った。
「もちろん、五分五分で僅差はないわ!どっちが勝つかがわかっちゃうような闘いをあたしが好むはずないじゃな
い!!」
だが、いつの間にか立ち上がって腕組をしていたハルヒのよく通った怒声に無残にも掻き消されてしまった。ま
ずい、これは非常にまずい。恐らく古泉は長門と対等に渡り合える力を手に入れたに違いない。何故ならハルヒが
そう決めて信じ望んだからだ。今すぐにこの闘いを止めさせないと、二人の身体的な面にも精神的な面にも最悪の
結果を齎すかも知れない。
無駄にカッコイイポーズで上昇していく古泉とブツブツと呟き始めたハルヒを一瞥して、俺は長門の元へ行った。
どうする長門、このままだと取り返しのつかないことになっちまうぞ。
「あなたも闘って」
あぁ、加勢できるものなら幾らでも加勢してやる。だが、俺にはあいにく超能力者的殺人力も宇宙人的未知力も
未来人的洞察力もない。極一般的平々凡々どこぞの馬の骨程度にもならない俺には何もできることが……。
「……これを」
そう言って長門は丸い底が深いプラスチックの弁当箱を差し出してきた。手に取ると暖かかった。中身が見える
ように透明になっている蓋を覗くと、ほかほかのおでんが入っていた。おでん?
「そう」
どういうことだ?これでハルヒの機嫌を宥めて古泉を戦闘力5のゴミにすればいいのか?
「その方法は推奨しない。何故ならこのおでんは筋肉隆々おでんだから」
なんぞそれ。
「説明はもうできない。間もなく彼が攻撃を始める。ここから早く離れて、食べて」
長門は俺を力強く押し退けて身構えた。と同時に目の前に何か黄色いデカいものが降ってきた。急いで巻き込ま
れないようにダッシュで離れると、やっと何が起きているのかわかった。古泉がどこから召喚したのか説明がつか
ないほどの巨大なロードローラーを長門目掛けて落としたのだ。そして長門はそれを残像が残ってまるで千手観音
の手のような高速なラッシュを叩き込んでいた。気合を入れるためか長門にしてはやたら野太い低い掛声も放って
いる。落としたロードローラーにそのまま乗ってきた古泉もロードローラーを上から叩きまくっていた。なんか顔
が凄い濃ゆい、オカマっぽくなってる!
壮絶な二人のラッシュを俺は唯呆然を見ていることしかできなかった。やがて長門が、あの長門が力負けをして
叩き潰されるその瞬間がきてしまっても、一歩も動くことができなかった。

 

 長門!! 俺は膝をガクリと落とし、泣いた。俺の耳に届いたのは古泉のオカマになった笑い声だけだった。
悔しい、悔しい! 何もできない自分の矮小さを今五感の全てで体験した。それでも尚足がすくんで震えている
自分に、一番悔しい!!
満身の拳で両足をガシッガシッと殴り、俺は何とか無理矢理足を立たせた。長門、俺はお前のことは忘れない。
例え古泉が俺を殺そうがハルヒが世界を終わらせようが、絶対に俺のこの思いだけは消させない! 長門! 俺
はお前のためにおでんを食うぞ!!
長門の死によって止まらない涙の味付けがされたおでんを俺は食べた。大根、ちくわ、卵、おっとガンモだけ
は忘れられねぇ。おでんの中には数多くのカプセル薬が入っていたが俺は構わずどんどん口に突っ込んだ。長門、
食ったぞ俺は、お前が残していったおでんを。
すぐに変化はあった。その変化は俺の体自身に直接影響していったのだが、その影響力の強さは凄まじいもの
だった。俺の身体中の筋肉という筋肉がムキムキという擬音を擬音たらしめるほどのわかりやすさで増強してい
き、ついには着ている服が全て張り裂けてしまうほどだった。何この某ブロリーみたいな筋肉!! だが幸いに
も伸び縮みに定評のあるブリーフを履いていたおかげで18禁にはならなかったものの、今の俺の体裁は下手をす
れば21禁になってしまうのではというものだった。でもそんなの関係ねぇ!
俺の変態に目を奪われていたのか古泉はハッとして何故か赤くなった後に叫んだ。
「ふ、ふん。そんな私を魅了するようなことなんかしても意味はないですよ! あなたもすぐに彼女の後を追わ
せてあげます!!」
俺は激情した。㌧でもないくらいの巨大な怒りが心の底から噴き出した。
「……のことか」
「え?」
「長門のことかー!!!」
満身の力を込めて叫んだ俺の声はビリビリと体育館内を震わせた。がぁっという気合と共に黄金のオーラが俺
の身体全体を纏った。一年十月の映画撮影のときに感じたハルヒへの憤りとは比べ物にならない激怒が俺を瞬時
に古泉の目の前まで移動させた。驚愕の表情の古泉目掛けて右拳を叩きつけたが、直前で古泉の姿が消えてしま
った。
「いやはや、危ないところでした。まさかあなたがそのような能力を身につけるとは……油断していました」
背後から安堵の色も混ざった声が届いた。すぐに振り返った俺の目の前には、しかし、変化してぐにょーんと
伸びてきた古泉の左手があった。その手先は鋭い刃になっている。変態によってずば抜けた動体視力がその手刀
の軌道が右肩鎖骨から入って左脇下を抜ける袈裟切りであることを残酷にも俺に教える。駄目だ、避けれない。

 

 俺は覚悟を決めて目を瞑った。しかし、俺の体が切り裂かれる感覚は来なかった。代わりに古泉の小さな呻き
声が聞こえた。そして目を開いた俺は驚愕した。なんと、朝比奈さんが右手の指先から黒い煙を吐き出し、その
煙に包まれた古泉の左腕が急速に腐り落ちていったからだ。朝比奈さんはかなり機械的なフォルムの箒に跨って
いた。
「キョンくん、大丈夫ですか?! 古泉くんは時間を止める力があるようです。気をつけて!」
ありがとうございます朝比奈さん、助かりました。
古泉はくっと苦渋の表情を作って体勢を立て直すためかKHBの奴らのほうへと下がった。俺はすぐにぺちゃん
こに拉げたロードローラーの元へ行き、長門を探した。やはり長門は本当に潰されてしまったようだった。硬く
光ったコンクリートの塊の下から力なくはみ出た腕が、否応なしに俺を哀しみの淵へと陥れる。俺は素早く、だ
が慎重にロードローラーを持ち上げた。幸い見た目は酷い様相ではなかったが、床に埋もれた横顔の開かれたま
ま動かない瞳が全てを物語っていた。俺はロードローラーをそこらに投げ捨てると、静かに長門を掘り出して抱
きかかえた。ぺちゃんこの胸がさらにぺちゃんこになっていたこのやり場のない怒りはどうすればいい。俺はた
だただ長門の胸に涙を落とすことしかできなかった。
「キョンくん……」
朝比奈さんが隣で俺達を見守っていた。朝比奈さん、長門は、長門はもう……。悲しみに暮れた俺に朝比奈さ
んは言った。
「もしかしたら、長門さんを生き返らせれるかもしれません」
俺はバッと顔を上げた。どうやってですか?! どうすればこいつを、こいつを!!
「わたしに長門さんをまかせてもらえますか」
そう言った朝比奈さんは今までの朝比奈さんではなかった。その表情には決意に満ちた意志が見えた。朝比奈
さんは俺がそうしていたように長門を抱きかかえた。
「失礼します」
そう言った朝比奈さんの唇は、次の瞬間には長門の唇と重なり合って、深い接吻をしていた。俺は驚いた。そ
れは朝比奈さんのレズビアン的行為にもなのだが、そんな瑣末なことなど気にしなくなるほどのことが起きたの
だ。だらりと垂れた四肢がぴくぴくと痙攣し始め、長門の瞳に光が戻り始めたのだ。青白かった肌には徐々に朱
色が差し、次第に胸の呼応が再起した。暫く虚ろを見つめていた長門の瞳はふいに朝比奈さんを確認し、唇との
繋がりを離した。しかし、ぷはぁと息をした朝比奈さんの舌からはまだ繋がっていたいのだろうか、とろとろし
た涎が長門の舌と結ばれていた。
むくりと機械的に起き上がった長門の頬は、生命活動を取り戻したばかりのせいかポッと赤くなっていた。

 

 俺はまた命を吹き返した長門に喜んだ。良かった。本当に良かった。朝比奈さんも涙で目を滲ませている。俺
は朝比奈さんに聞いてみた。どうやって長門にザオリクをかけたんですか?
「わたしにも力が与えられたんです。恐らくは、涼宮さんから。その力というのが魔法を使えるというもので、
わたしの口からでる黒い煙の魔法は生命を修復できるものだったんです。でも、もし長門さんの命の灯火が僅か
でも残っていなかったら、例えこの魔法でも復活はできなかったでしょう。一刻を争う事態だったので、長門さ
んの体に直接その魔法を入れたんです。本当に、間に合って良かったです」
俺はこれほど朝比奈さんに感謝したときはなかった。いつも俺の眼福役として働いているが、いざ緊急事態と
なると古泉より役に立たない朝比奈さんを俺は心の隅で軽視していたからだ。すいませんでした朝比奈さん、あ
なたを酷く蔑んでいた俺をどうかお許しください。
心の中で懺悔をしていると、長門が立ち上がって言った。
「今はそれどころではない」
心読まれたどうしよ。焦って何のことだいと言った俺に長門は言った。
「情報統合思念体が今までの情報を基に今後の展開を予測した。この後の展開は目標古泉一樹にまずあなたがス
ーパーゴーストカミカゼアタックを、次に朝比奈みくるがアンデルセン神父より授かりし祝福儀礼された剣を、
最後に私がポジトロンライフルを放つ。しかし目標はそれら全てを時間を消し飛ばすことにより回避し、我々へ
の反撃を開始。両手から繰り出される強靭な糸を自在に操る攻撃によって朝比奈みくるを亀甲縛りにし、最も厄
介な能力である回復魔法を封じる。だが、あなたが瞬間移動を駆使した連続攻撃を始めたため目標は次の攻撃へ
の移行を中止。その間に私がコードギアスもとい情報操作をして体育館内のKHBらを手駒にするも、即座に目標
が放った『弦之介の瞳術』によりKHBらは全員自害。目標はハニーフラッシュによりキューティーイツキへ変身、
あなたが谷間に怯んだ隙に筋肉ドライバーによって体育倉庫へと叩き落す。テクマクマヤコンによって涼宮ハル
ヒへと擬態した私は目標へと接近、一瞬の隙をついてオーヴァ・ドライブ→停滞のルーン→DSCのコンボを展開、
目標を瀕死にする。しかし目標は最後の力でライディーンへとフェードインし、乗り込むことに。対抗するため
私が朝比奈みくるの糸を除去、朝比奈みくるは魔法陣グルグルによって人造人間エヴァンゲリオン零号機・初号
機・弐号機を召喚。それぞれ私・あなた・朝比奈みくるが搭乗し、舞台はクライマックスへ。目標は応援を要請、
十三機のウナギエヴァが飛翔してくるも、暴走した朝比奈みくるの弐号機が全てを再起不能へ。私の零号機がセ
ントラル・ドグマより手に入れたロンギヌスの槍を目標へ投げつけるが、誤ってあなたの初号機のコアを貫いて
しまい、人類補完計画が発動してしまう。これら全ての展開を操作しているのが、涼宮ハルヒの呟きによるもの」
起伏のない棒読みで一度に早口で喋った長門は大きく息を吸い込んだ。よくわからんがもしその通りに全てが
進んでしまった場合は世界規模で取り返しのつかないことになるんじゃないか?

 

「なる。だが、都合によりこれらの過程は全て削ぎ落とされることになるから、大丈夫」
都合って、誰の都合だよ。
「それは、私」
長門の?
「そう。私はもう、今の混沌の状況が耐えられない。一刻も早く元の世界へと戻りたいから」
そう言うと、長門は唇を高速回転させた。光に包まれた俺は元の体へと戻って制服を着ていた。
「行って。涼宮ハルヒを止められるのはあなたのみ。今ならまだ間に合う」
長門は俺を見つめた。その瞳に宿る希望の光に、俺は約束した。わかった。
「キョンくん、お願いします。涼宮さんを、わたしたちの運命を……」
そんな不安な顔をしなくても大丈夫ですよ、朝比奈さん。俺があいつを何とかしてみせます。あいつは、そこ
まで馬鹿じゃないはずですから。
長門と朝比奈さんを残して俺は背後のステージの上で腕組をしているハルヒの元へと駆けた。まもなく後ろか
ら響き始めた轟音と声が、その惨状を物語り始めている。
ハルヒは本当に面白そうな表情で瞳を煌かせながら争いを鑑賞していた。だが唇はずっと細かく動いており、
やはり始終呟いていた。ハルヒ!
「何よキョン! 今一番面白いところなのよ! たぶん次は有希がコードギアス使うだろうから見てなさい」
ネタバレで悪いんだがハルヒ、もうそろそろこれクライマックス入るんだ。
「ちょっ何ネタバレしてんのよ! あぁもう興冷めじゃない、最悪!」
さらにネタバレするとこの後の展開は古泉のハニーフラッシュが失敗してまいっちんぐマチ子先生のように全
裸になった後で長門と朝比奈さんのガチレズによるAV撮影が始まるんだ。だが俺はそんなのは見たくないから、
お前の団長命令で今すぐこのイベントを中止にしてくれないか?
「……ちょっとそれ本当なの? いくらなんでも気持ち悪すぎて嘘くさいんだけど。ていうか古泉くんのあれっ
て女装じゃなかったの?」
お前知らないのか? 昨日長門と古泉の喧嘩の話したろ、あの後本気で切れた長門が古泉を脅し始めてな。し
かも長門と朝比奈さんがガチレズで出来上がってたから朝比奈さんも長門と一緒に強迫しだしたんだ。それで次
やるびっくりイベントで古泉の醜態を晒すっていういじめ紛いな企画を提案されてな、古泉が俺に泣きついてき
たってわけだよ。さすがに俺もどうにかしてやりたいとは思ったんだが、結局どうもできないまま今のいままで
きちまってなぁ。古泉のあれは確かに女装だが、それでもかなり精巧にできてるみたいなんだ。
「……それって、本当なの?」

 真顔で青ざめながらハルヒは言った。なんと、俺でもアホかと思う作り話に本気で信じるとは。恐らく長門と
古泉の喧嘩の原因を作ったという責任が思い込みを手伝ってしまったんだな。しかしこれは好都合だ。
あぁ本当だ。だから今すぐこのイベントを中止させて部室で緊急会議だ。そこでまず先にお前が二人に謝って、
それから二人を仲直りさせるんだ。もしこのいじめがこのまま執行されたらSOS団は崩壊するぞ。
「それじゃあ……仕方ないわね……」
俺達の誰か一人も何故すぐに団長であるハルヒに話さなかったのかという疑問も思いつかないほどのダメージ
を受けてるな。なんか可哀相なことをした気になるが、仕方ないな。

その後、ハルヒのイベントは中止という掛け声とともに混沌とした空間は消え去った。古泉はすいすい浮いて
いた体が急に力を失い落下し、危うく脊髄骨折で下半身不随となるところだったが、西郷四郎を彷彿とさせる見
事な受身によって無傷ですんだようだ。しかも気付けば男に戻っていて制服を着ていた。朝比奈さんも変な箒や
魔法は消え去り、長門もボロボロだった制服がいつの間にか綺麗に直っていた。KHBの奴らは古泉の命令によっ
て迅速に退去していった。後日談になるのだが、古泉にKHBとは何の略かと聞いたところ、機関反乱部隊の略だ
という。せめて英語に直してから略せよと俺がツッコんだのは言うまでもないだろう。
「古泉くん、有希、本当にごめん!!」
ハルヒは拝み手を合わせて二人に深々と頭を下げた。指定席に座っていた古泉は驚き、指定席に座っていた長
門は無表情だった。訳を話してもらった古泉は、そうだったんですかと溜息をついた。
「僕は本当に勘違いをしていたようですね。長門さん、大変申し訳ありませんでした」
古泉も深々と頭を下げた。そんな古泉とハルヒに対して長門は
「いい」
と一言だけ言った。朝比奈さんもにっこりしていた。どうやら古泉も長門も、体育館で存分に暴れたおかげか
何と無くすっきりしているように思えた。まるで全国大会の決勝で全力を尽くして戦いあった後のライバル校同
士のような爽やかさだった。とかいう俺もめちゃくちゃ面白かったがな。ちょっと怖かったけど。
「本当にごめんね! お詫びに今度SOS団で仲直りのための親睦合宿考えてるから、本当にごめん!」
ハルヒが謝罪なのかどうか怪しい言葉を発していた。意味わからんがまぁほっとこう。
「でね、このままじゃ古泉くんに申し訳ないから代わりと言っては何だけど、おでんを買ってきたのよ」
ハルヒはかばんの中からごそごそとタオルに巻かれたものを取り出した。タオルを取ると、底の深い弁当箱が
出てきた。それを見て俺は妙な気持ちになった。なんか見たことがあるような。
はい! とハルヒはおでんを古泉に渡した。

 

「一人で食べるのも何だか気が進まないので、せっかくですしみなさんで食べましょう」
わあと朝比奈さんが喜び、長門はピクリと動き、ハルヒはいいの? と聞いた。古泉はええ、皆さんと一緒に
食べたほうが楽しいでしょうと言って蓋を開けた。美味そうな、しかしやたら見たことのあるおでんを眺めなが
ら俺達は箸を取った。そして食べる直前で俺は気付いた。これって筋肉隆々おでんなんじゃないか?
俺はそっと耳打ちした。長門、これって……。
「大丈夫。薬は全て除去した」
長門は淡々と答えた。カプセル薬がなければ大丈夫なのか?
「そう」
じゃあおでんに入れる必要は全然なかったのか?しかもなんでわざわざハルヒのおでんなんだ?
「…………」
…………。まぁいいか、この雰囲気を壊すわけにもいかんし、長門が大丈夫だというならいいだろ。
ハルヒは卵、朝比奈さんはこんにゃく、長門はなんこつ、古泉は巾着、俺は大根をそれぞれ取った。
「いただきまーす」
それぞれがおでんの口に運び、みな美味そうに咀嚼していた。ところが、一人だけ徐々に複雑な表情を作って
いく奴がいた。古泉である。何やら口内に違和感を感じているようで、ごくりと飲み込んだあとに何かを口から
吐き出した。どうしたんだ。
「……こんなものが混ざっていました」
そう言って見せたものは片方のみのカプセル薬だった。おい、これってまさか!
すぐに変化はあった。古泉の筋肉という筋肉がムキムキという擬音を擬音たらしめるほどのわかりやすさで増
強していき、ついには着ている服が全て張り裂けた。ハルヒと俺と朝比奈さんと、古泉も口をあんぐりと開けて
いた。
「除去し忘れがあった。迂闊」
そう言った長門の顔は、俺の見間違いでなければ、必死に堪えた笑みが隠されているように見えた。

 

 後日、俺は長門に聞いた。なんでお前も焼き芋を食べたのにあんなに意地を張ったんだ。
「彼は私たちに一人一つずつ配る計算で焼き芋を五つ買ってきていた。そして私が食べた分は一つのみであり、
それは与えられた配分から少なくなくまた大きくもない。また、私が焼き芋を受け取ったのは涼宮ハルヒからで
あり、涼宮ハルヒは人間概念の社会的地位から見て古泉一樹より上である。よって、古泉一樹より涼宮ハルヒの
命令が最優先されるべきであり、したがって私が謝罪に該当する事項はない」
……長門、そういうのを頑固だと言うんだぞ。いくら言い訳しても、あの時点で古泉の心に傷がつけられたの
は事実なんだからな。俺から見たら少なからず加担していると思うぞ。
「……そう」
わかったか?
「よく、わからない」
そうか。
「でも」
でも?
「楽しかった」

おわり

 

 

 

 

 

Special Thanks

ID:5VhKdAIk0
>>
がんがれ(これをそのままお題にwwww)

ID:+rGTz5Dp0
古泉女体化は書いてて面白かったぜ

なんて>> はうらやましい存在なんだ……

ID:5/8uHVIv0
古泉と長門の喧嘩

ID:4xj1kREi0
焼き芋

ID:qUrT0oqo0
平日授業中の学校を襲撃した機関反乱部隊とSOS団との激闘。

ID:KdaUu74jO
合宿

ID:qDScbOUw0
革ジャン

ID:AvYcR5rw0
きんにく

 

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|  ^o^ | < AND YOU!!
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