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関連:お姉さんシリーズ教科書文通シリーズ

 

 

 

 穏やかな午後の昼下がり。 いつもよりほんの少し早く授業が終わってルンルン気分で向った文芸部部室。  今日は新しいお茶っ葉を用意してきたのです!  黙っていつもどおりに出したとして、一体誰が最初に気がつくのだろうかと考えただけでワクワクします。  勢いよく飲んですぐ真っ先に感想をくれる涼宮さんでしょうか?  対照的にゆっくりと味わって飲んでくれるキョンくんでしょうか?  知識が豊富な古泉くんならじっくり吟味した後に銘柄まで当ててくれるかもしれません。 ああ、でもやっぱり一番最初に気がつくのは……
 
 そこまで考えてから、目の前の文芸部部室と言う名のSOS団本部へと繋がるドアノブに手をかけます。

すると――
 
「朝比奈みくる。 待っていた。 相談がある。 聞いてもらいたい。」

 部室のドアをあけると、長門さんが、あの長門さんが、ドアの真ん前でわたしを待ち構えていました。  しかも、今にも土下座すらしそうな雰囲気でです。 きっとこれは宇宙的な大きな問題が起こったのかもしれません。 聴き茶どころではありませんね、一体、何が起きたのというのでしょう? 長門さんが私に相談を持ちかけるほどです。
きっと未来的な力や知識は必要となるのでしょう。 ああ、わたしにそんなことを相談されてもお力になれるかどうか……!!

 思わずパニックになる私です。 だって、長門さんから話しかけられること事態稀で、しかもこんな状況。  誰だってびっくりするに決まってます。 

 でも次の瞬間、長門さんの口から飛び出した相談事は、わたしの想像の範囲の斜め上を滑空し行き、すとんと私の頭に降りてきました。  別の意味でびっくりです。

「私服を見立ててもらいたい。」

…………はい? お洋服……ですか?  正直ちょっと当惑気味です。 それ以上にびっくり、でしょうか。  いつもいつも、お休みの日でさえ高校の制服をお召しになられている長門さんが私服、しかも、そのお見立てを私に、というのはどういう風の吹き回しでしょうか?

「一体、どうされたんですか? 急に……」

「今週末、美術館へ行くことになっている。」

 そういえば、今週末は珍しくSOS団主催の不思議探索はありませんねぇ。  きっと涼宮さんたちはデートなのでしょう。 羨ましいなぁ。 私も誰かとデートしたいなぁ。

ふぇっ。 そうじゃありません、今はわたしの話ではありません。 長門さんです!

 美術館……ですかぁ。 図書館ではなくて、美術館と言うあたり、 発案者は長門さんではなく、誰かからお誘いでもお受けになったのでしょうか?  長門さんを美術館にお誘いする人……一体どんな人なんでしょう?

「その際に着ていく服を見立ててもらいたい。」

「美術館は美術品を観に行くところですから、おめかしは必要ないのでは?」 

これはちょっとした意地悪かもしれません。 どこかへお出かけをするのにおめかしをしたい相手。 長門さんにもそんな人が出来たんですねぇ。  お姉さん嬉しいです! でも、何の情報もなしにただお洋服をお見立てするんじゃ面白くありませんからね。
ほんのちょっとからかっちゃいましょう。 いいんですよ、いつも長門さんにはいつも驚かされてばかりなんですから。

「一人で行くわけではない。 一緒に、美術館へ行く人物がいる。 美術館へもその人物から誘いを受けた。」

「その人にお見せするために、おめかしをしたいと?」

「…………。」

押し黙る長門さん。 解かりやすいです。 いつも以上に長門さんがわかります! やはり、言葉を発しない方が伝わることと言うのもあるものなのですね!

「男の、人ですか?」

「生物学上では、その人物は男性にあたる。」

「私の知っている人ですか?」

「…………。」 

 ふぇ、また黙られてしまいました。 と、いうことはわたしの知っている人なのですねぇ。  一体どなたなんでしょう? 私と長門さんの共通の知り合いで長門さんを美術館に誘いそうな人……。  ああ、もしかして……!!

「その人のことを長門さんはどう思ってるんですか? と、言いますか、どう思われたいんですか?」

「……答える義務はないはず。」

「ありますよぉ。 相手に同思われたいかによって着る服だって変えなくちゃいけないんですから。」

「……そういうもの?」

「そういうものです。 元気で活発な人が好きな方に会うなら明るい装いで、 おしとやかな感じを好む方なら落ち着いた装いで立ち向かわねばなりません!」

「………。」

「美術館にご一緒する方は、一体どのような感じな人なんですか? その人の人柄で大体の好みはというものは解かるものですよ。  もしくは、好きな色とか好きなものとか、ああ、その人自身がどんな風な服の着方をするかによってもわかりますね。」

 ああ、いけない。 ついノリノリになってまくし立ててしまいました……。わたしだって女の子ですからね、こういう話題は大好きなんです。  でも、SOS団ではそういう雰囲気の話はなかなか出てきそうにありませんし、鶴屋さんもそういうのには興味なさそうで……。  それなのに、一番そういうお話をする機会がないだろうと思っていた長門さんの色恋事ですからね、ついつい身を乗り出してしまうと言うものです。 

「………。」

 長門さんはと言うと、お誘いの相手を思い浮かべているのでしょう。  ほんの少し視線をわたしの目から上げて何もない天井を数秒沈黙を持って眺めています。 その頬がほんの少し桃色に染まっているのは気のせいでしょうか?

 また暫くの沈黙の後、長門さんはぽつぽつと言葉をつむぎだしました。  いつものまるで流れるような専門用語の羅列とは違う途切れ途切れの言葉です。  おそらくこれは、対有機生命体コンタクト様ヒューマノイドインターフェースとしてではなく、一女子高生である長門有希さんの言葉なのでしょう。

「……その人物は、一言で言えばお人好し。 いつも自分のことではなく他者のことばかり考えている。  性格は真面目で、よく笑っている。 ラフ、ではなく、スマイル。 好きな物はおそらくボードゲームの類。 しかし、恐ろしく下手。  好きな色は……解からない。 でも、彼の私服には落ち着いた色のものが多く、その着こなしも崩さずにきちんとしている。」

 ……長門さん、それだけ喋ればお名前を言わなくても誰か分かってしまいます。 そうですね、彼ならデートに美術館と言う選択肢は考えられます。 なんてったってSOS団一の薀蓄おしゃべり君ですからね。  しかし、あの子も幸せモノですね。 あの長門さんがわたしに相談してまでおめかしをしてくれるそうですよ。

「なら、こちらも落ち着いたおしとやかで清楚な感じがいいですねぇ。 ワンピースなんかどうですか? 白の。  あ、ちょうど今日発売日だったんで朝コンビニでファッション誌買ってきたんですよ。 それ参考にしましょう。」

「……見る。」 

 それから、次に部室にたどり着いたキョンくんが現れるまでわたし達は、色とりどりのページをめくりながら、 ああでもない、こうでもないと頭を寄せ合っていました。 
正直言いまして、長門さんとこのようなお話が出来る日が来るとは夢にも思いませんでしたねぇ。  ああ、今回は長門さんがわたしにだけお話してくれたことなので仕方がありませんが、今度は涼宮さんも交えて三人でいろんな種類のファッション雑誌を広げてファッションショーみたいなこともしてみたいなぁ。

 その翌日、団活を適当な理由をつけて早抜けして長門さんの手を引きショッピングモールを駆けめぐったのですけれど、そこで最終的に決めた真っ白なレースやフリルがたっぷりと、しかし品よくあしらわれたシンプルなワンピースを纏った長門さんの可愛らしいこと!  同じブランドの小さな篭バックは、わたしからの餞別と言うことでプレゼントさせていただきました。

 これで長門さんに好意を抱かない人がいたらおかしいですよ。 自信を持ってください、長門さん。
 
お姉さんは、応援しますよ。 

<長門編 END>

 

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