暴走端末のその後

 長門有希は団活を終えて自宅に帰ったところだった。

「あら、今日は遅かったわね、長門さん」

 部屋には誰もいなかったが、聞こえてきた声は空耳ではない。

「なぜここにいるの? あなたには、天蓋領域のインターフェースを観測する任務があるはず」
「だって、あの九曜って娘、全然動きがないんだもん。つまんないわよ」
「任務を怠っていては、有機身体の再構成の許可も期待できないものと思われる」
「分かってるわよ。でも、同じく暴走したのに、私は有機情報連結を解除されて再構成されず、長門さんはそのまんまなんて、不公平だと思わない?」
「私も、あなたの再構成については何度も申請している。しかし、許可が下りない。単純に主流派と急進派の勢力の差に起因するものと思われる」
「全く気に入らないわね。もう一回暴走しちゃおうかしら」
「再度暴走すれば、喜緑江美里が今度こそ黙ってはいない。私がいくらかばっても、あなたは情報生命構成を消去されて『死ぬ』ことになる。そもそも、あのときだって、私が彼女の侵入をブロックしてなければ、確実にそうなっていた。穏健派は、主流派や急進派と比べて、暴走に対しては寛容ではない」
「はいはい。分かってるわよ。じゃあ、退屈な九曜ちゃんの観測に戻るわ」

 朝倉涼子が「出ていく」気配を感じて、長門有希は素早く付け加えた。

「天蓋領域の出方によっては、あなたの戦闘能力が必要になる可能性もある。そのときがあなたが再構成される可能性が最も高いときかもしれない」

「期待しないで待ってるわ」

 朝倉涼子は、そういい残して「去って」いった。



 期待しないで待っているわ──その言葉の意味を、長門有希も充分に理解していた。
 朝倉涼子の戦闘能力が必要になる事態というのは、自分にとっても、情報統合思念体にとっても、そして、SOS団にとっても、決していいことではない。
 そんな事態は発生しないに越したことはないのだ。


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