「今日はいつもと違うものを持ってきたんですよ。」
そう言って古泉が出したのはジェンガ。
ご存知の人も多いと思うが、ブロックを積み上げ塔をつくり、そこから一本一本抜いていく。
その度に塔が不安定になっていき、塔を崩してしまった人が負けである。
……ほんとお前は、いろんなもん持ってくるよなあ……
「あ!面白そうなもの持ってきてるじゃないの古泉くん!」
早速ハルヒが目をつけやがった。お前こういうの好きそうだもんな。
「みんなでやりましょ!こういうのは人数が多い方がいいわ!
ほら有希もみくるちゃんもこっち来なさい!」
「コクン」
「ふぇ~……」
とことこと歩いてくる長門とハルヒに引っ張られる朝比奈さん。
ああ、いつも通りだなあ……
「あの~、私このゲームのルールを知らないんですけど……」
「……わたしも。」
「何?ジェンガも知らないの?しょうがないわねえ、教えてあげるわ。」
ハルヒは長門と朝比奈さんにルールを解説し始めた。
どうでもいいがお前、なんでジェンガごときでそこまで得意げになれるんだ。
別に知っててもそんな偉いってわけでもなかろうに。
「……ま、大体こんな感じよ。」
「わ、わかりましたぁ。塔を倒さなければいいんですね?」
「……理解した。」
「じゃあ始めるわよ!あ、そうそう。負けた人には罰ゲームだから!
そうねえ、あのカエルの衣装着て校庭一周!」
「ひえぇぇぇ~~」
ちょっと待て!それは俺や古泉も含まれるのか!?
「当然でしょ!みんな平等!もちろんあたしが負けたらあたしがやるわよ?」
そりゃお前は目立つのを気にしないだろうが、俺達は気にするわけでなあ……
「つべこべ言わない!古泉くん、セットできた?」
「ええ、完了しています。」
「じゃあ始めるわよ!あたしから!えいっ!」
ハルヒは棒を勢い良く取った。
勢い良くっておい……こういうのは慎重に取るべきでなあ……
「あたしはそういうまどろっこしいの嫌いなの!」
今確信した。コイツはこのゲームに根本的に向いていない!
おそらくコイツが塔を崩す確率が1番高いと思われる!
さあ次は古泉だ。
「ふふ、ではいきましょうか。」
古泉は塔に手を伸ばし……っておい!どこに手を伸ばしてやがる!
1番下の段の右側の棒だと……!?ふざけてんのか!!
「あえて困難な道を選ぶ、それ故に燃える。これが、漢と言うものです!!」
いやいやこんなゲームに漢を見せられても困る!
コイツはいつからこんな熱血漢になりやがったんだ!
だが古泉は神のごとき手さばきで、1番下の段の棒を……抜き取った。
「僕はジェンガ界の神となる!」
なんかおかしなことを言い出した!コイツおかしい!おかしいよ母さん!
古泉がなんかとち狂ったおかげで、既に塔はグラグラしてる。いつ倒れてもおかしくない!
で、そんな状態で次にやらねばならないのが、俺だ。
古泉の前が良かったぜ……
だが、そんな愚痴を言っているわけにもいかない。負けたらカエルだ。それだけは避けねば!
よ~し、とりあえずこの無難そうなこれを……
「ハックション!!」
うおっっ!!!
突然のハルヒのわざとらしいクシャミで、驚いて手をひっこめてしまった
危ねぇ、もし棒をつかんでたら崩してたぜ。
「ごめんごめん!つい「うっかり」クシャミをしちゃったわ!」
コイツ、絶対わざとだろ……
再チャレンジでは流石に妨害はなく、なんとか生き残ることが出来た。
さて次は、朝比奈さんだ。
朝比奈さんには申し訳ないが、彼女がこのグラグラを切り抜けられるとは思えない。
おそらくここで終わりだろう……カエル一周頑張ってくださいね……
「さあみくるちゃん取りなさ~い、ふふふ。」
ハルヒがニヤニヤしてる。きっとここでミスると思っているのだろう。
まあなあ、仕方ないよなあ~。
朝比奈さん、ここでミスっても悪いのはトチ狂った古泉ですから、気にしないでくださいね。
ん?そういやいつもならここらへんで「ふえぇ~」とか「ひぇ~」とか聞こえるはずなんだが……
そう思って朝比奈さんを見ると……そこには!
「…………」
物凄い鋭い目つきをした朝比奈さんが居た。あの~……どちら様?
ギロリ!
「ひっ!」
朝比奈さんに睨まれ思わずビビるハルヒ。なんなんだあの目は……
あの目は……まさに……狩人の目!!
「なるほど……彼女もまた、ジェンガに命をかける者の一人というわけですね……。」
また古泉がおかしなことを言い出した!
そもそも朝比奈さんはついさっきルールを知ったんだぞ!
まあコイツは放っておくとして……
朝比奈さんが手を伸ばしたのは下から2段目の棒。え……?マジですか?
「………捕獲。」
セリフだけ見たら長門の言葉に見えそうだが、朝比奈さんのセリフだからな、コレ。
棒を抜き取った瞬間、いつものエンジェルスマイルに戻っていた。
「ふぇぇ~、緊張しましたぁ。結構面白いですねぇ、このゲーム。」
……さっきまで狩人の目をしていたとは思えないほどの、いつもの舌たらずの萌えボイス
さっきのは幻覚か何かだったんだろう。うん、そう思うことにしよう。
さて次は長門だ。もはや立っているのが奇跡と言っていい状態だ。
そりゃ1番下と2番目に下の棒がなけりゃそうなるよなあ……
おや?長門が何か小さな声でボソボソ言っているぞ?
「……パーソナルネーム゛ジェンガ゛周辺の空間を固定……」
ストーーーップ!!!
「……何?」
「お前今、インチキしようとしてたろ。」
「していない。」
「目が泳いでるぞ。」
「泳いでいない。」
「ちょっと有希!インチキはダメだからね!」
「……チッ」
おいおい、この人今舌打ちしたよ!確かにしたよ!
結局そのまま棒に手を伸ばす長門。抜こうとした……その瞬間!!
ガラガラガラガラ……
塔はあっけなく崩れ去った。勝負あり、だな。
「はーい有希の負けー!いくら相手が有希だろうと容赦はしないわよ!
私は団員平等をモットーとしてるの!さあ着替えなさい!」
おいおい、何が平等だ。いつも俺は理不尽な差別を受けているぞ。
そんな俺の心の叫びを聞くわけもなく、長門を着替えさせるからと古泉と一緒に部室から追い出された。
「まったく、みんなジェンガごときでマジになりすぎだろ。」
「おや、あなたも結構マジになっていたようですが?」
「そりゃカエルはイヤだからな。だが限度ってもんがあるだろ。
長門なんて呪文使いかけてたぞ。たかがジェンガに。」
「それほど真剣だったということですよ。いいことじゃないですか。
僕達と一緒にいることを楽しんでいる証拠です。」
まあ、あいつが楽しんでるなら俺はそれでいいけどさ、あんまりムキになるのもどうかと思うぞ。
そういや、コンピ研とのゲームの時もムキになってたな
長門が負けず嫌いなのはあいつの性格なんだな、きっと。
余談だが、カエルの着ぐるみを着てえっちらおっちら走る長門はなかなか可愛かった。
終わり