薄明の夜。そろそろ秋も近いですね。月がきれいです。
今度はお月見の場所探しですかね、僕の仕事は。
疲れますが、構いません。
僕のしていることで少しでもあなたの気が和らぐのなら、それくらいたいしたことではありません。もっと、彼のようにこき使ってくれてもいいくらいです。
・・・・・・・・・・・・少しばかり、僕の独り言に付き合っていただけますか?
 
 
以前までならさほど気にはならなかったんですけどね。
閉鎖空間が生成して、そこに行って、神人を倒す。
神人を倒すことで少しでも早く彼女の精神に安定をもたらし、それが世界の崩壊を食い止める。それが僕のやるべきこと。それが僕のバイト。中学生のときはルーティーンワークみたいなものでした。
けれど今は違う。
 
彼女のことはもちろん転校する前から知っていました。それ以前だって僕のバイトはあったんですから。
「機関」の観察対象として、顔や姿はもちろん家族構成に友好関係や行動パターンなどの身辺の周辺データもある程度把握していました。
最初のうちは正直な話、面倒でしたね。何で僕がこんなことをしなくちゃいけないんだ。危ないし、怖いし。でもだんだんコツを掴んできてからは少し楽しくなってきたんですよ。灰色の空の下で暴れまわる怪物を特殊な能力でばったばったと倒すヒーロー。かっこいいじゃないですか。秘密の組織に身を置く正義の味方、古泉一樹。倒すべきは青白き神人。なんてね。事態が事態ですからね、リアルなゲームみたいなものでしたよ。
でもそれも飽きてくると、別にどうでもよくなってきました。ただ「機関」からの手当てはびっくりするほどいいし、関連施設も充実してる。何でしょうこの天下り官僚コースは、みたいな?やめられないですよね。涼宮さんありがとう。あなたのおかげで僕の懐はホカホカです。そんな感じでした。
 
そして転校して、SOS団に引き込まれました。
あの日、いきなり教室の扉が開いたかと思うと、転校生ってのはどの人かしら、なんて大声で9組にのり込んできたんですよ。データ通りの人だな、ああかったるいな、特別手当でるかな・・・。なんて思ってましたっけ。
その時僕は涼宮ハルヒという対象と初めて話をしました。
僕の問いかけに返ってくる言葉、腕をつかまれたときに感じた体温、新しいおもちゃを見つけたような上気する顔。
そのとき当たり前のことに気付いたんですよ。ものすごく、当たり前のことなんですけどね。
ああこの人僕と変わらない人間なんだ。普通の女の子なんだ、と。
もちろん「普通」ではないのですが。
けれど、僕の目の前にいるのは自分の卑小さに悩んで、恋をして、友達とおしゃべりして放課後を過ごす女の子でした。
気付けば観察対象なんて言葉で捉えることはできなくなっていました。
僕は彼女に恋をしました。お恥ずかしい話です。
けれど彼女は彼のことを好きみたいですね。僕にだってわかりますよ。
 
そう。僕にはわかってしまう。何故かはわからないけどわかってしまうんです。
彼女が悩んでいるということが、悲しんでいるということが、傷付いているということが。
それがこの不思議な力の能力。
それがどれほど彼女の精神を痛めつけているのかが、文字通り見えてしまう。
彼は気付かないけど。いや、気付けないけど。
屈託なく笑う涼宮さん。
彼と楽しそうにしゃべる涼宮さん。
突然の思いつきに瞳を輝かせる涼宮さん。
なのにその夜僕の携帯電話が鳴ったりする。そんな時もありました。
どうして?今日は楽しそうだったのに、と。
何も悩みなんて無い様に見えるけど、何かを抱えているんです。
もしかしたら本人も意識はしてはいないのかもしれないですけどね。
僕に見えるのは街を壊す神人だけです。荒れ狂う彼女の感情たち。ですから、理由など判断の仕様もありません。
僕にだけわかってしまう。けれど原因はわからない。わかるのは苦しんでいる、ということだけです。
それがやるせない。
バイトが入るたびにあなたに言いたくなる。
何かお悩みでも?僕でよければ力になりますよ。
言ってみたところでどうにもならないのはわかってますよ。
彼女のことです、悩みなんて無いと言うでしょうし、自覚すらしてないかもしれない。
以前彼にこう言ったことがあります。彼女の精神に関しては専門家ですよ、と。
なんとなく言ってやらないと気が済まなかったんですよ。あなたにはわからないでしょう?って。卑屈で、むなしいだけの事とはわかっていたんですけどね。彼が僕のことを心配なんかしてくれるから、余計に自分が嫌になる。
 
僕にできることはただ一つだけ。
 
月明かりに透かされる僕の空虚な想いは、自分の肉体の疲労と、彼女の精神的な苦しみとの重ね合わせ。
好きな人が苦しんでる。僕も一緒に苦しむことができる。
それだけで十分です。
僕も一緒に戦ってますよ。涼宮さん。
 
あなたはどうしてこの力をくれたのでしょうか。
僕は何のためにこの力を使うのでしょうか。
なぜ、僕だったんですか。
なぜ、僕ではないんですか。
 
でも最近はどういうわけか、いえ、わけなんてわかりきっているんですが、バイトの回数もぐっと減って────
・・・・・・・・・・・・おや、携帯が震えてますね。
この辺までにしておきましょうか。
彼も彼女も僕の大切な友達ですよ。
 
笑うしか、ないでしょう?
 
 
 
おしまいです。


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