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季節は過ぎ、夏。
二月から随分と過ぎてもう七月である。
僕たちは、もう二年生だ。
 
第六話「歪之國之少女(アリス)」
 
「進藤日和は、お前ももう見ただろうが我々とは違う超能力者だ」
それの説明を受けたのはあれから数日後の事だった。。
「あいつは全ての修正を受け付けず、かつ自分にとって有利な空間に作り変える能力がある」
だから朝倉さんの作ったあの空間内であれだけの能力を使えたわけですか。
「我々はそれを進藤日和の能力にちなんで侵食結界もしくは”水晶渓谷”と呼んでいる」
言い得た名前ですね。進藤さんにぴったりというわけですか。
と、ここで疑問が浮かび上がって僕は新川さんに尋ねた。
「・・・あ、進藤さんが現という意味は?」
その質問を聞いた途端に新川さんの顔が少しだけ険しくなる。
「進藤日和には進藤カゲノという姉が居るんだ」
字はこうだ。そう言いながら書いた文字は「陰乃」。これでカゲノと読むらしい。
何だか言い得て妙な名前ですね。字も名前も。
「進藤日和の能力は現実に作用するのに対して姉の陰乃の能力は空想に作用する。現と夢の差はこれだ」
そう説明する新川さんの難しい言葉に少しだけ首を捻る。
駄目だ。さっぱり理解できてない。ベルヌーイやアンダーソン局在はすぐに理解出来たのに。
「・・・どういう事ですか?」
「陰乃は何も出来ない代わりに、全てを出来る、という事さ」
「・・・?」
「いずれ古泉にも解る日が恐らく来るだろう」
僕は更に聞こうとした。だが、出来ない。
もうこれ以上触れるな。まるでそんな空気を纏わせていたのだから。
あれから特に何という訳もなく、閉鎖空間も比較的小さな物ばかりが多発していた。
小さなイライラが多発するというのも何だか困り物。
ですが、巨大なイライラがたまに発生するよりかはずっと良いのだと思います。
だって、神人さんが強い苦しみに耐えなくて済むんですから。
強い閉鎖空間はそれだけ神人さんを引きずり込もうとする。
だから、弱い方が良い。彼女の為にそれが良い。
「いっくん」
「・・・あ、はい。何でしょうか?」
現実に引き戻された。随分と長い間、物思いに老けてしまっていたらしい。
時計が、知っている時間より分針半周以上周っている。
30分以上もボケーッとしていたわけですか、僕は。
「ぼーっ、とし過ぎだよー」
「すいません・・・」
僕も彼女も苦々しく笑った。
「疲れてるんじゃないかな? 少し寝た方が良いと思うよ?」
「・・・いえ、大丈夫ですよ」
「えー。駄目! ちゃんと休んで? じゃないと怒っちゃうんだからね!」
ぷんぷんと言わんばかりに頬を膨らませて怒るものだから、可愛くて反論する気が失せる。
「仕方ないですね。解りました」
僕は神人さんに押されるがままに自室のベッドへ入り込んで目を閉じた。
自覚は無かったのですが本当に疲れていたのか、僕はすぐに眠りの世界へと溶けた。
 
・・・・・・・・・。
 
暗い。何も見えない。歩けば床が雫の落ちた水面のように波打つ。
「・・・・・・・」
何処か解らない。何か解らない。そして、
 
コツン、
 
”夢”の世界へ踏み入った。
 
見渡す限り花畑。ブバルディアの花畑。
僕はその中を歩いている。
ゆらゆら。まさにそんな感じだ。僕が僕で無いかのように歩いている。
虚無がひたすらに僕を侵していく。
 
―――ようこそ、虚無と陰惨からなる穢れた美麗の世界へ。
 
「!!」
その言葉で、僕は僕を取り戻した。
「ふふっ・・・私の妹は役に立ったかな?」
はっきりとしてるのに、まるで蜃気楼。そんな少女の見目が振り返って、そこに見えた。
「・・・貴女が、進藤陰乃・・・?」
「そう。それが今の私を示す言葉にして、私を示さない言葉。確かに存在している夢と空想」
「なるほど・・・ブバルディアの花なのは、そういう事ですか・・・」
空想、夢。それがブバルディアの花言葉。
空想は存在しないながら空想として存在する。
夢は、今まさにこの状況。語るには十分すぎる自己紹介をしてくれています。
「ここはそういう空間だから。夢は何でも出来る。だから、私は何も出来ないけど何でも出来る」
くすくす。
笑い声はとても澄んでいる。それは恐ろしい澄み方だ。
何にも汚されていない声。ぞくりとする美しさが恐怖として耳の鼓膜を震わせている。
だがぼやけている。澄んでいるのにぼやけている。
少女は全てがそうなっていた。
「夢は人に繋がって、人は夢に繋がっている。夢の見ない人は死んでいて、死んでいる人は夢を見ない」
「・・・そうですね」
夢を見ていないという人もレム睡眠中は外界の音に反応する。
それは頭が動いているから。
つまりは反応だけはする。それは音に対して動く状況を頭はイメージをしているからだ。
ならばイメージはどう見るか。夢。人は誰でも夢を見ている。
「夢は全てに繋がる。夢で何かが起きればそれは全てに繋がる。私はそういう存在」
楽しそうに笑う。それ以上になお笑う。
純粋な狂気に僕は問うてみた。
「貴女は何か今までの中で影響を与えた事はありますか?」
「あると言えばあるけど、無いと言えば無い。夢は繋がるけど、繋がった夢は断ち切るのが難しいから」
「・・・・・」
言ってることは難しいが理解は出来る。だが、
「だから、貴女の可愛い少女は苦しんでいる」
その言葉には思考停止をせざるを得なかった。
顔を上げれば恐ろしく明瞭でありながらじんわり霞む少女がしっかりと笑っている。
「何ですって?」
「クスクスッ・・・彼女はいつも夢見てたから、形を与えてあげたの。人として」
「・・・・・」
「だけど彼女には涼宮ハルヒが形成する空間内での破壊者という元々の形があるから、それが異物として今の形を無理矢理引き剥がそうとする」
私はそこまで考慮に入れてなかった。陰乃さんはそう言ってクスクスと笑った。
「・・・貴女が、神人さんを現実世界に人の形を与え、引っ張り込んだ張本人ですか」
「そうだよ。見てて可哀想だもん。だって、何回も味わいたくないよね?」
「何をですか?」
「”好きな人に殺される感触”・・・だよ?」
「!」
強調されて、それを言われて過去に神人さんを殺したという事実に立ちくらみが起きた。
何回も僕は彼女を殺している。自分への怒り。少しだけ僕は歯軋りをした。
「だから、人にしたの。おかしいかな?」
本当に純粋な疑問を浮かべている。
「それが彼女の望みなら、構いませんが、貴女はそれ以外の人間の願望も貴女の物差しに当てはまれば叶えるのですか?」
「私はね、仮にも貴方と同じ組織に属する超能力者。超能力の種類は違うけど仲間。不利益な事は叶えないよ。だけど」
「だけど?」
「ちょっと予想外な事が起きちゃって。・・・あのね、どんな事があっても彼女の傍に居てあげて。絶望しないで切望して」
「・・・どういう事ですか?」
「さぁ? 私は知ってるけどそれを解らない。これ以上詮索されるのは嫌だから、そろそろ現に戻って貰おうかな」
「目覚め、か・・・」
「私は常に人々の夢の中にある存在。夢は人々に繋がる。私は人々に繋がっている」
「・・・・・」
「彼女に手を出す存在は私が全部火葬するから、彼女本人から生じる弊害は貴方が助けてあげてね」
「本人から生じる弊害?」
「私は自分のとった行動に責任を持たないといけない。では、古泉くん。au revoir...」
「ちょっと待って下さい! 本人から生じる弊害って―――――」
 
そこで、僕は現実世界に戻った。
目を開けたらそこには僕が寝てる間に布団に入り込んだのだろう。一緒に眠る神人さんが居た。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・。
 
数日後。夢が語った事が現実となって、反機関の組織の一つが瓦解した。
神人さんを捕まえようとしていた機関だ。瓦解と言う表現はおかしいかもしれない。
組員全員が焼死していたのだ。それも、着ている服はまったく無傷で、体だけが焼け爛れていた。
中には、外皮は無事で体内の臓器や肉だけが完全に炭化している者も居たらしい。
僕がその報告を受けたのは日付の変わった0時過ぎ。
奇しくもそれは人々の願いを綴り、その夢を叶える日。七月七日の七夕だった。
「よし・・・書きあがった、と」
「どんな願い事を書きましたか?」
「死んでもお前には言わん」
「おやおや。何かお恥ずかしい事でもお書きになりましたか?」
「んなわけあるか」
SOS団関係者がほとんど部室に揃っている為、少々騒がしい部室。
「鶴屋さんは何てお書きになりましたか?」
「いくらみくる相手でも秘密っさー」
「キョンくーん! ハサミ貸してー!」
「妹よ、そこにあるだろ」
学校は休みでしたが、集まってみんなで願い事を短冊に書く事になり、今の現状。
僕の知り合いがくれたといういつもの設定で部室内に入る程度の笹の葉を運んで入って朝比奈さんが飾っている。
・・・しかし、何かクリスマスと勘違いしているような気がしますね。
誰も突っ込まないので、まぁ、どうでも良いですが。
因みに涼宮さんの願い事は『宇宙人、未来人、異世界人、超能力者に遭遇しますように』でした。
もう揃ってるんですけどね。異世界人は神人さんだとすれば。
さて、その隅っこの方に小さく『キョンが振り向いてくれますように』と書いてあったのに気付いたのは僕だけでしょう。
「いっくん」
「何でしょうか、神人さん」
僕の方に神人さんが歩み寄ってきた。
「上の方に飾りつけ出来ないから脚立持ってきてだって」
「解りました。あ・・・そういえば、願い事は何て書きましたか?」
「『いっくんとずっとずっと一緒に居られますように』って書いた」
平然と語る神人さんでしたが、その顔は仄かに赤かった。
僕も何となく顔が熱くなってきました。
「それはそれは・・・叶うと良いですね、本当に」
「で、いっくんは何て書いたの?」
神人さんは目をきらきらとさせて僕を見つめている。
しかし正直に答えるのは面白くない。どうしましょうか。
さて、ここで願い事を言わないように逃げる方法には何か。
と、ここで彼に飾り付けを手伝って貰っている朝比奈さんを見て思いついた。
「それは・・・そうですね。禁則事項です」
「あー!ずるい!!」
僕は自分の短冊を胸ポケットにしまうと脚立を取りに走った。
「教えたんだから教えてよぉ~!」
後ろから神人さんが走ってついてくる。僕が何て書いたか不安なんでしょう。
でも、大丈夫ですよ。
だってそうでしょう。僕が書いた願い事は、
『どんなに長い久遠の時の中でも、神人さんと離れずずっと一緒に居られるように』
貴女と一緒なんですから。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 
くすっ。
 
「こうしている間にも歪んでいく。ウサギとアリスが追いかけっこの間にも。
 歪の国はゆっくりと歪んでいく。ウサギとアリスが笑っているこの間にも。
 書いた願いさえも歪んでいく。ウサギとアリスが同じように願ってるから。
 彼女は歪みの国のアリス。歪みは歪みを生んで歪んでいく・・・うふふ」
 
何処かで空想の夢がそう詠って、嗤う。
終焉の幕が今、静かに動き出す。
 

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