お盆を前にした立秋の日だった。
単調とも平穏とも呼べる俺の日常にわずかな非日常が去来した。
今年も順調に暑い。
梅雨明けが遅かったせいか遅れて鳴き出した蝉の大合唱が音量過多な交響楽を奏でる中で、俺は待ち合わせの喫茶店に入る。
喫茶店といえばあの頃は近場のターミナル駅で待ち合わせて、さんざん通いつめた例の場所を思い出す。……が、今日来たのは全然別の場所で、全国に展開しているチェーンブランドの憩い場であった。
数年ぶりに会うその男は、記憶に違わぬ如才のない人好きのする笑みをたたえて、やって来た俺に黙礼をした。
「よう」
「こんにちは。お久し振りです」
古泉一樹。
数年来の親友であり、かつて共に奇妙な日常を共有した仲間である。
「今日は時間大丈夫なのか?」
俺は人もまばらな午後の店内に目を配りつつ腰を落とす。
「えぇ。仮にどんな用事があろうとも、僕はこちらを優先させますよ」
途端に記憶が高校時代まで遡る。
そう、あの時もこうやって机を間にして俺たちは座り、益体もない会話をしては伝統あるアナログゲームの数々に興じていたのだった。
「しかしお前も見た目には何ら変わりがないな」
俺がメニューに目を落としつつ言うと、古泉は数年越しの微苦笑を見せつつ、
「そう言ってくれるのもあなたくらいのものですよ。周りの人は皆、特別な感想を述べることもありませんからね。無関心なのか、忙しいだけなのか解りませんが」
すると古泉は自分が手にしていたメニューを元に戻し、
「お決まりでしたら言ってください。今日は僕が奢りますよ」
その言葉に俺は思わずニヤっとしてしまう。
「できれば高校時代に奢られたかったぜ」
「まあその分も含めて、ね。さすがにチャラにはならないでしょうけど」
最終更新:2009年06月21日 13:19