昼休み。
「おい、あれお前の連れじゃね?」
「んぐ?」
から揚げを頬張りながら谷口の指差す方を見ると、
放課後まで見たくもないエセスマイルを携えた古泉が突っ立っていた。
視線が合い、あいつの気味悪いウィンクが発動する前に俺は席を立ち、古泉の元へ駆け寄った。
「お食事中申し訳ありません」
そう言いつつ全然すまさそうじゃない感じで長門ばりにごく若干、頭を下げた。謝るくらいなら来んじゃねえ。
「いえ、事は重大なもので」
笑みは変わらず、口調がほんの少しだけ厳かになるのを感じ、俺は肩を竦めた。
「だからってなんで昼休みに・・」
「見たところ涼宮さんはここにはいらっしゃらないようですが、何処へ行かれたのか分かります?」
ハルヒに用?
俺はてっきりまたハルヒが何かわけのわからない現象やらを引き起こしてその相談で古泉の演説を聞かなきゃならんと暗澹としていたのだが、
その回答に俺は少しばかり驚いた。
「いや・・いつも昼休みになるといなくなる。学食とかじゃねえの?」
「そうですか。ありがとうございます」
再び軽やかてか軽薄な口調に戻りそう言うと駆け足でその場を去っていった。
駆け足か、これはちょっとらしくもないぞ。
俺はハルヒに何のようがあるのだろうと思案しかけたが、
谷口が俺の弁当からから揚げを搾取しているのを見るなり思考中断、
谷口に駆け寄りアクロバットをかまして自分の弁当に唾をかけた頃にはどうでもよくなっていた。
だから、当然思いも寄らなかった。
古泉が、ハルヒに愛の告白をしようとするなんてことは。
昼休みも終わりに近づき、
俺は次の授業が行われる化学室へと向かっていた。足取りは重い。
文系志向の俺にとって理系科目は無論苦痛なのだが、
化学はことさら俺の気分を緞帳を下ろすが如くに暗くさせる。
教師と折がが合わないってのが一番の理由だ。端的に言って、うざい。どううざいかっていうとこれが筆舌し難いんだな。
まあ古泉のニヤケながらの理屈ったらしい演説に近いような―――
「あ・・」
そこまで思考して、ようやく俺は先程の古泉とのやりとりを思い出した。
歩きながら再び考察し始めたが、正直、全くわからん。
事は重大とか言っていたが、何故俺ではなくハルヒに用なんだ?
ここで俺はかつて野郎とハルヒ神説の話をした時のとある会話を思い出し、ぞっとした。
『ならあいつを捕まえて解剖なりしたらどうなんだ』
『そうゆう強行手段を主張する過激派達も機関に存在します』
まさか――――
いやそれはないだろう、いやでも、と葛藤し始めた俺に、
「やっ少年!どういたんだいっ?こんな暗い顔してっ!悩みがあるなら相談に乗るにょろよっ!」
「うふ、キョン君こんにちわ」
お二人の天使が目の前に降臨なされた。
「こんにちわ」
軽く頭を下げ、二人の穏やかな、
そして朗らかな天使の笑みを受け俺は先程の葛藤が嘘みたいに晴れ晴れとした気分になり、
そういえば朝比奈さんの制服姿を見るのはなんだか久しぶりだなあ、とか、
いつもは部室でウェイトレスやらメイドの格好しているなあ、とか、
またバニーガールやってくれないかなあ、とか、
『古泉君をあまり信用しないで・・』
―――妄想が無意識に回想へとシフトされた。
瞬時に、先程の葛藤で頭一杯になった。
かつて朝比奈さんが言ったこの言葉。
これはつまるところ・・・・・・。
奴はあくまで主流派に属していたはずだ、あの話を聞く限りでは。
が、最近は少数派になりつつあるとも漏らしていた。
そして朝比奈さんの、信じるな、という若干抑えられた忠告。
「?どしたの?」
不意に視界に鶴屋さんの???な顔が映り、はっとして、
「ああいえ、次の授業、化学なんですけど、俺化学嫌いなんですよ」
と言って、
いかんいかん、確かにいけ好かない野郎だが疑心暗鬼になってはダメだ、
と頭を振り払うように心の中で呟いた。
「うふ。嫌いでも頑張って勉強しなきゃダメですよ?」
「そうだよっ!そんなんじゃいつまでたっても古泉君に勝てないよっ!」
お二人の激励を受け取り、
再度会釈し俺は先程とはうって変わって足にフットパーツを装着したかの如くの足取りで化学室を目指した。
しかしまたしても俺は5限目が始まってから再び気持ちを入水させることとなる。
ハルヒは5限目が終わるまで、化学室に姿を現さなかった。
5限目が終わり、俺は速攻で1年9組の教室に行った。
古泉、お前何の目的でハルヒを探してたんだ?
事と次第によっちゃその憎たらしいまでに整った顔を谷口の垢を煎じて飲ますくらいのアホ面にしてやるぜ。
「古泉!!」
9組に入るなり俺は柄にもなく大声で叫んだ。
が、ぱっと見渡したところ古泉の姿はどこにもなく、
なんだこいつと言いたげな教室内の連中の視線を受けながら、
俺はいよいよこれはマズいんじゃないかと内心汗諾々となっていた。
「おい!」
「きゃっ!」
俺は不意に教室を出て行こうとした女生徒の肩を掴んだ。
デリカシーのない、なんて自分ツッコミする余裕はなかった。
「古泉はどこだ!?」
「えっ?あ・・知らない・・」
女生徒はおびえたような目付きで俺を見、たどたどしく答えた。
俺はそれを聞いて、ちっと他人から見れば演技掛かっているような舌打ちをかますと、
猛ダッシュで教室を出て、再度自分の教室へと向かった。
なんとなく、というかほぼ確実にそこにハルヒも古泉もいない気がしたが、とにかく行かずにはいられなかった。
「やっぱりいないか・・・」
間も無く帰りのHRの始まる5組の教室内。
俺の席の後ろには誰も座っておらず、ばっと教室を見渡してもハルヒ、そして当然といえば当然、
古泉の姿は見受けられなかった。
「よお、お前さっきから何かおかしいぞ」
「ほんとだよ。授業中もずっとそわそわしてたし。これじゃゴールデンウィークも補習だね」
悩める俺に話しかけてくる谷口に国木田。
ええい黙れ今それどころじゃないハルヒが古泉に拉致されて解剖されて世界が破滅・・・・。
あ。
「はあ?お前とうとうイカれちまったか?」
ゴールデンウィーク。
そうか。それがあったか。
「まああの教師を嫌うのも分からなくはないけどさあ」
「いや、すまん。少しばかり気が触れてた」
氷解した。
バレンタインデーといいこれといい全く何だって俺は重要な行事を忘れるんだろうか。
あと1週間でゴールデンウィークだ。
つまり、ハルヒはまた合宿か何かでもする気なんだろう。
それで古泉にまた別荘やらエセ推理ゲームやらの計画を持ちかけているんだ、そうに違いない。
はぁ、と安堵の溜息をつくと同時に、
俺はさっきから一体何を一人でテンパっていたのだろうと段々恥ずかしくなってきた。
そういえばさっきの九組女子、いきなり肩を掴んで問い詰めたりしてすまん。許せ。
全くデリカシーのない。
「あ、そういえばさっき朝比奈さんに会ってね、
化学教えてあげるからHR終わったら私の教室来てって伝えておいてなんてこと言ってたよ」
馬鹿野郎、何故それを早く言わない。
俺はまだ何か言いたげな国木田とそして谷口を無視し、HRも忘れて朝比奈さんのいる教室へと猛ダッシュで向かった。
あっという間に朝比奈さんの在籍する教室まで辿り着き、
朝比奈さんとのマンツーマンレッスンを脳裏に浮かべながら、
逸る気持ちを抑えて、
「失礼しまーす」
「お久しぶりですね、キョン君。貴方にとっては去年の12月以来かしら」
―――あーなんというか。
またですか。
そこには家庭教師ルックに身を包んだ愛くるしい我がSOS団のマスコット朝比奈みくるさんではなく、
という俺の妄想はいいとして、いや朝比奈さんには違いないが、
朝比奈さん(大)が柔和な笑みを浮かべて教壇の上に立っていた。
・・・まあ、いやこれは朝比奈さん(小)は責められない。あの人にとっては規定事項、
おそらくは上司のこの人の命を忠実に実行しているだけだろうから。
しかしそうは言っても今度部室で是非ご指導願おう、化学。
それはそうと。
何の用かは知らんが、
俺は2月のあのよくわからんタイムトラベルの事で訊きたいことがまだあったことを思い出し、
いやその前に篭絡云々は置いといてチョコありがとうございますと言おうとして、
「今回は、私に対する貴方の質問の回答全てが禁則事項に該当するので、そのつもりで」
いきなり釘を刺された。これには唖然としたね。
そういえば2月のあの日、
そろそろ未来への重大な分岐点がやってきますとかなんとか言っていたけど、もしかしてその事か?
俺は幾分か身を強張らせ、朝比奈さん(大)の言葉を待った。
しかし、発せられた言葉はあまりに意味のよく分からないものだった。
「自分の気持ちに正直に。自分の気持ちを偽らないで」
はい?
すいません朝比奈さん、全く意味が分かりません。
「以上です」
いやいやちょっと待って下さい、
たったそれだけの文系版長門みたいな意味不明の指令だけで未来を俺に委ねるだなんて言うおつもりですか?
禁則事項です、ともう前持って釘を刺していたからかのか朝比奈さん(大)は何も答えなかったが、
代わりにふとその表情に淋しげというかなんかそんなアンニュイな雰囲気を帯びた微妙な笑みを浮かべると、
「それじゃ、またね」と儚げに言い、唖然とする俺の横をすり抜けて廊下へと出て行った。
「ちょっと待って――」
はっとして俺が再び廊下に出たときには、もう朝比奈さん(大)の姿は見えなかった。
朝比奈さん(大)の言葉の意味を吟味しながら、俺は部室へと向かっていた。
自分の気持ちに正直に。自分の気持ちを偽らないで。
―――全く分からん。
そりゃそうだ。
俺は文系志望とはいったがそれは国語だとかが得意だからというわけではなく、
ことさら理系が苦手だったからという消極的理由故で、
国語の点を競うライバルは谷口と言えばお分かり頂けるだろう。
こうなったら。
どうせ古泉の野郎はゴールデンウィークのことで苦しんでいやがるだろうし、
朝比奈さん(小)は朝比奈さんで先程の件を謝っては何も知らないです禁則ですとうろたえるだけだろう。
もう長門だけが頼りだ。
しかし感情があるのかないのか分からない有機アンドロイドにこんなメッセージが伝わるのだろうか。
こんなにも長門が頼りになさそうに思えたのは初めてだ。全く。
一応ノックをし、誰の声もしないのでドアを開ける。
「・・・・・・」
いつものように自分の席で俺に目を掛けるまでもなく黙々と本を読んでいる長門を見て、
ますますこいつで大丈夫か?と思ってしまったが、
とにかく今は長門しかいないのだからしょうがない。
俺は、「実はさっき」と言いながら長門に近づき、
「今日午後1時12分、現時空間から涼宮ハルヒと古泉一樹の存在が消失した」
朝比奈さん(大)といいこいつといい、
何だっていきなりそういう重大発言を何の前触れもなくかますんだ。
「どういうことだ!?」
内心の不満はそこそこ、俺は先程の女生徒よろしく反射的に長門の肩を掴み、
またまた柄にもなく大声を張り上げてしまった。
「・・・・・・」
相変わらずの3点リーダー返しに、俺は明らかな苛立ちを覚えていた。
おいいい加減にしろよ長門、さっさと答えろ、今あいつらはどこで何をしている?
二人で一体何をしているんだ!?
「落ち着いて」
「・・・・・」
今度は俺が3点リーダーを返す番だった。
いや、これは俺が体験してきた様々な超常体験に匹敵する驚愕だった。
「落ち着いて」だなんて相手を気遣う(と捉えよう)ような発言もそうだが、
何よりその声量に、だ。
初めて聞いた。長門のハルヒにも劣らぬデカイ声。
しかしデカイ声ではあったが、声色は普段と変わらない無機質な物だった。
「落ち着いて」
再度、今度は普段の声量でそう言い、俺は慌てて長門の肩から手を離した。
「その、なんだ、すまない」
「いい」
言いながら、長門が団長席を指差した。
「―――――――――」
何か、いた。
その存在を感知すると同時に、
俺はそいつを初めて見た時と同じ、えも言われぬ悪寒のようなものが背筋に走った。
何でここにいる!?いやていうか何故俺はそいつがいたことに気付かない!?
「――――周防―――九曜――」
知ってる。いや正直名前は微妙に忘れていたが、とにかく。
俺は冷静を装いつつ、
「長門、これはどういうことだ?」
「そのイントルーダーは今回の涼宮ハルヒ古泉一樹両名の時空間異動に関与していない」
そう言うと、まるで自分の役割を終えたかのように長門は再び視線を本に戻して、
俺らがここに存在しないかのように読み始めた。
おいおいまだ俺には訊きたい事が山ほどある。
なんでこの天ナントカ存在とかいう宇宙人と一緒にいるんだ。敵ではなかったのか?
そして俺の受け取った朝比奈さん(大)のメッセージの意味だって―――
「――――着いて・・・・来て―――――」
結局あれから何を言っても長門は口を開かなかった。
こうなってしまっては、もうこの現状を打破する手立ては一つだけ。
このナントカ宇宙存在というか幽霊的存在と言った方が差し支えのないアンドロイドに着いて行くしかないということだ。
しかし。
長門の言うとおりこいつがハルヒ古泉の消失に関与していないとしたら。
そしてこれが朝比奈さん(大)の言う、未来への大きな分岐点だとするのであれば。
―――古泉の偽悪的な笑みが一瞬脳裏に浮かび、すぐに消えた。
或いは、疑心に満ちた先程の考察を再度思い起こさなければならないかもしれない。
そんなことを考えながら、
いつの間にか到着したらしい。
「ここは・・・」
SOS団課外活動での集合場所となっている、いつもの喫茶店だ。
ここに一体何があるんだと思案し、
ふと横目を見たら周防九曜とかいうアンドイドが人込みに紛れて見えなくなる直前だった。
もう何だかとそのアンドロイドについて思案し始めて、
「やあ、キョン。3日振りだね」
―――佐々木がふんわりとした笑みを浮かべながらやってきた。
思わずどきっとした。
急な思わぬ人物が現れたからではなく、いや正直それも少しはあるが、
「・・・・・・よう」
「どうしたんだい?怪訝そうな顔をして。僕の顔に何か付いているのかい?」
・・・・・・とにかく。
俺は立ち話もなんだし、と喫茶店の中へと入った。
それどころではないのだが、
ここまで誘導してきたあの宇宙存在、そしてそいつに着いて行けと言った長門。
佐々木がキーパーソンであることは間違いないのだろう。
「話は聞いているよ。橘京子さんからね」
「橘京子って・・・確か」
古泉と敵対する機関の重要人物だ。朝比奈さん誘拐の件は今は目を瞑ろう。
俺は思い出すなり、早口で言った。
「何て言っていた?涼宮ハルヒを捕まえて解剖するとかそんな事言ってなかったか?」
「いや?僕が聞いたのは涼宮さんとあと古泉、って言ってたっけ、あのハンサムな彼。が閉鎖空間に取り込まれたってことだけだが?」
佐々木の口から古泉がハンサムだなんて出て軽くイラっと来たが、
今はそんなことどうでもいい。
閉鎖空間。
畏れていた仮説が真実である可能性が高まった。
あそこに入れるのは古泉――機関の連中に、そして。
そいつらの手を握った人間だけだ。
「そうか・・・・・・」
焦燥感が増して行く。
どうすればいい?
仮に閉鎖空間に取り込まれているのが事実とするならば、
どうしたって行くのは不可能だ。
機関の他の人達――新川さんや森さん、多丸兄弟――は古泉の仲間だった。
あいつだけがもし造反を企てていたとなれば或いは彼らの協力を得ることも可能だがしかし、
常に冷静沈着ニヤケスマイルの奴の事だ、俺の行動を見通してそこらへんの連絡遮断は周到になされているかもしれない。
無論、機関の連中全員が古泉と同じ思想に染まっていれば、それこそもうアウトだ。
「ところで」
佐々木の声でふと我に帰る。
「少しばかり話が脱線するのだが」
できればやめて欲しい。今はそれどころでは、
「―――キョンは、私の事、どう思っているの?」
あー・・・・・・なんというか。
そういえば先日の部活勧誘の時に朝比奈さんの着ていたチャナドレス、
やばいくらい似合ってたな。
あれ、朝比奈さんだったっけ?着てたの。
「キョン」
はいっ。
いけないいけない、
あまりの突飛な佐々木のペルソナチェンジについ現実逃避してしまった。
なんだって?私のことどう思っているかだって?
いや待てその前に何故俺にそんな女みたいな言葉で話しかける?いや佐々木は女だが。
お前は女子と喋る時にしかそんな喋り方しないはずだ。
全くわけがわからない。
「ふふ・・・鈍感ね。キョン」
言った。
「私、キョンのことが好きなの。女の子として、ね」
あーそうだ。
思い出した確か部活勧誘の時チャイナドレス着ていたのは―――
いやいや今はとにかく。
佐々木。
「すまん」
即答した。
「あーなんというか、佐々木はとても魅力的な女性だと思う」
ああ、今日。初めて気付いた。
会った時のあの笑顔。
だけどな。
「俺は、お前とはその、なんだ、友達としてこれからも付き合っていきたいと思う。ダメか?」
これが正直な気持ちだ。
なんだか急にいたたまれなくなって、頼んだカフェラテをがぶがぶと飲んだ。
そういえば恋愛は病気の一種。そんなこと言ってたっけ。
佐々木と、あと、
「いや、こちらこそすまなかった。急に変な事を言ってしまって」
いきなり元の口調に戻ったかと思うと、くつくつと喉を鳴らし、
「すまないが、脱線する前の話の続きは外で話さないか」
ここは僕が払うよ、と佐々木は明細を手に取った。
喫茶店から出た俺と佐々木は駅前広場の一角にあるベンチに腰を下ろしていた。
脱線する前の話といっても、後は周防九曜なる出来損ないの宇宙人がハルヒ古泉両名の消失を感じ取ったこと、
今日午後4時半に今俺たちのいる場所に誰かが来るということをあのいけすかない自称藤原の未来人野郎が言っていた、ということだけだった。
前者はどうでもいいとして、後者。
これはどういうことだ。
何故朝比奈さん(大)はそのことを言ってくれなかったのか。
ひょっしたらあの藤原とかいう未来人野郎は朝比奈さん(大)と敵対している宇宙人で、
朝比奈さん(大)の望まない未来―――大きな分岐点の、
あってはならない未来への軌道修正に加担してしまっているのではないか?
いや、でも朝比奈さん(小)はあの野郎から散々毒吐かれたのにも関わらず
「あんまり悪い人じゃなさそう」とも言っていた。
一体どうすればいいのかと思案している内に、
「どうやら来たようだ」
佐々木の声にはっとして、公園中央、噴水の真ん中にある時計台を見た。
4時半になっていた。そして。
「これはこれは。部活をさぼってデートですか。お羨ましい」
会いたかったぜ。とってもな。
「どうゆうことか説明してもらおうか。古泉」
如才ない笑みを浮かべて、古泉は肩をすくめた。
「誠に申し訳ありませんが、佐々木さんは席を外してもらえないでしょうか?」
「ああ。そうさせてもらうよ。ではキョン、古泉君。またいずれ」
そう言って、佐々木は立ち上がり、
俺と古泉に軽く会釈をするとゆっくりと駅の方へ向かっていった。
去って行く際、「ふふ・・・。涼宮さんには妬いちゃうな」なんて言っていた気がするが、気がしただけだろう。
「ここで話すのもなんですから」
「喫茶店には行ったばっかだ」
「でしょうね。ですから・・・・・・」
古泉が握手を求めるように、俺の前に手を出してきた。
その手を見て、俺はほんの一瞬、躊躇した。
いや、ここから閉鎖空間に行くのだろうということくらいは分かる。
が、何だか世界の命運を再び俺に委ねられそうな気がしたからだ。
しかし。
今更だな、そんな事は。
「早くしろ」
「目を瞑ってください」
意を決して古泉の手を握ると、俺は目を瞑った。