東奔西走しながらハルヒの思い付きに付き合う――と言うか処理する――俺と他のSOS団の面々が、
 中心的人物のまだいない部室で、お茶を飲みつつ束の間の休息に身をゆだね、
 学生の宿命かつ天敵である定期考査もしばらくはないから気楽なもんだ、とか取り留めのない事を考えていると、
 出てくる源のはっきりしないエネルギーを体中にたぎらせたハルヒが特殊部隊も呆然の荒々しさで部室に突入してきた。
 身代わりをとっさに探してしまったのはハルヒが厄介事を呼び込む例の笑顔を浮かべていたからだが、
 涼しげな雰囲気を纏っている長門も存在だけで俺を癒してくれる朝比奈さんも、
 宮司のような古泉も、特に変わった反応はしめさなかった。ま、そりゃそうか。これがハルヒのデフォルトだしな。
 ハルヒは目をキラキラ輝かせながら、上空一万mまで舞い上がったようなテンションのままで、
 ルーズリーフ大の紙を何処からか取り出し、やや乱暴に開いて朗々と読み上げた。
『ヒニチジョウへのご招待!
 たった一夜の限定イベント!
 だれ一人として見たことのない奇跡を貴方は目撃する!」
 のっけからハイペースな我らが団長であることよ。なあ、たまにはお淑やかにしてみろよ。
 人が違ったように見えることを、この俺が全身全霊をもって保証してやるさ。
「間違ってもあんたにだけは保証されたくないわ」
 にべもなくハルヒは言った。
 はっきり言い過ぎだ。もう少し遠回しな言葉遣いも覚えないと、将来苦労するぞ。
「興味ないわ、下らない会社勤めに使うしか道がないものなんて」
「味も素気もないような物だって大事だぜ? 働かないで食ってけるわけないだろ。引き込もるなら別だが」
「あたしだって仕事の大切さが分からないとは言わないわよ。でも学生のころ位ハメはずしてもいいじゃない」
 りんとした様子で言われりゃ、はい、そこまで。反論するだけ労力の無駄だな。
「まあ、それはそれとして。今度はなんだ? UFOでも墜落したか? あるいは猫型ロボットでも完成したのか?」
 せっつかれたハルヒは腕を交差させて、
「ん、外れ。マジックショーの招待券よ。親父が昨日会社の人からもらったんだって」
「これは、興味深いですね。マジックショー、……良いじゃないですか」と、身を乗り出しつつ古泉。
「のりのりだな、お前」と、俺は言った。
「中々こういった機会はありませんし、何より昔からそういったものに興味があったんですよ」
 にこにこスマイルが平常と比べて格段に輝いてる所をみると、マジで好きらしいな。
 宇宙人はタネなんて一目で分かるんだろうな、と思いつつ長門を見ると、本から顔を上げ、しかしすぐ読書に戻る。
「宙に浮いた箱からの脱出マジック?」と、紙を手に取りながら朝比奈さん。
「人が消えるのよ、箱から。スゴいと思わない?」
 未来人ならいくらでも出来るんだろうな、TPDDとやらを使って。もしや、こいつ未来人か? ……なんてな。
「来週開催ですか」と、朝比奈さんから紙を受取りつつ、古泉は言う。
「人づてに聞いたんだけど、海外じゃスゴい評判らしいわ。と言う訳で、来週はマジックショーに行くわよ、良いわね」
 異議が出ようはずもない。灯台下暗しを実践しつつ市内を歩き回るよりは余程体に優しそうだし、
 世間一般では、こんなショーを見に行くのが有意義な休日とか言うんだろうしな。


 界隈では物凄い盛り上がりだったのだが、
「人数制限があったなんて迂濶だったわ。親父ももう五枚くらい招待券ふんだくって来れば良かったのに」
 超が付きそうな常識。普通は一枚の招待券で五人も入れない。せいぜいペアが良いとこだ。今回みたいに。
「能書き垂れてないでなんとかしなさいよ、この状況」
 力もうがなにしようがどうしようもねえって。二人だけ入って三人は「はい、さよなら」じゃ冷たいにも程があるし、
 者共かかれ、なんて強行突破したら敢えなく御用だ。法治国家万歳。
「がんばれば何とかなるわ。頭捻りなさい!」
「いいですよ、僕たちは。折角のペア招待券、どうぞお二人で」と、さらり言ってのける古泉。
 ただ事じゃ済みそうにない提案をしやがるな、お前。
「らぶらぶ」
 あー、長門さん? アーユーオーケー? ……つーか、どこで覚えたそんな言葉と仕草。
「たのしんで来て下さい」と一歩引きつつ朝比奈さん。
「しかたないわね……。でもホントに良いの? 皆はどうする?」
「のんびりしてますよ。実は知り合いがこのあたりで喫茶店を営んでまして」
 と、古泉が言えば、
「ここに前から行ってみたかったお茶屋さんがあるんです」と、朝比奈さん。
 ろくすっぽ何も言わず、ただ首を小さく縦に振ってから大型書店の方へ視線を向ける長門。
 にが虫を噛み潰したような、それでいて笑いと、薄い朱色を浮かべた顔で俺の方を向くハルヒ。
『来場誠にありがとうございます、間もなく開場となります……』と、アナウンスが流れ始める。
 なんだ、まあ、あれだな。……ありがとよ、三人とも。
「さあ、行くわよ! 三人の分まで楽しむんだからね!」と、俺の方に手だけ向けてハルヒが言う。
「いいぜ」と、返事しつつハルヒの手を握る。
 以上も以下もない、これが俺の日常。
 上機嫌なハルヒと手を繋ぎながら俺はこんな日が何時までも続けば良いと、そう思った。
FIN





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