「頭痛ぇ・・・」
学校へと続く坂を上がる俺の脳を、かなり凶悪な頭痛が襲っている。俺の身分が仮にサラリーマンか何かだとしたら、
その頭痛の原因として飲み会をあげることになったとは思うが、生憎俺は高校生だし、呑んでも居ない。
なのに何故か頭が痛い。肩こりか?とも考えたが、肩がこるような重労働をした記憶が無い。
加えて、風邪でもない。
何故なのか?
・・・思い当たる節が無いわけではない。
ある夢を見た翌日には、必ずといっていいほど頭痛になるんだ。初めのころは頭痛なんてなかったんだが・・・そうだな。
融合事件が終結を見てから2日後くらいから謎の頭痛が襲ってくるようになった。
謎の頭痛が謎の夢がトリガーとなって襲ってくるなんて、ある意味本当の”悪夢”だな。
しかし、メカニズムが全く判らんし、ちゃんと頭痛薬を飲めば頭痛も消え去ってしまうのでさほど気にしては居ない。
ただ、ひたすら灰色の空と焦土と化した廃墟、大地が広がり、どこからとなく悲しい歌声・・・そうだな。バンシーが歌っているとでも云おうか。
そんな感じの歌が聞こえてくる夢なので、少々気味が悪い。起きると必ず奇妙な虚無感に襲われるしな。
俺は誰かに呪われたのか、それとも現在進行形で呪われつつあるのか・・・

ま、登校途中にこんなことを考えても仕方が無いわけで。
ひとまず長門にでも相談を持ちかけてみるかと考えながら、いつもの様に心臓破りの坂の攻略に着手した。

 

 

Sing in Silence 0.「序幕」

 



融合事件解決から3日。
涼門みるきから分離してチョイデレ長門へと変化を遂げたと思ったら、数日後メランコリー長門へ変化し、

その翌日不機嫌ユッキーへと変化した長門さん。
何がそんなに気に入らないのかは知らん。殴られたからではないと自身で言明している。
俺も殴られたくらいで長門がそんなにへこたれるとは思っちゃいないので、本当なんだろう。
じゃあなんで不機嫌なんだ?
長門に訊いても怒られる。他の奴に訊くわけにも行かない。
・・・だから、見守っておくしなかった。
そんなこんなで例の一件から二、三日は大して会話も持ってくれない・・・いや、昔の長門に比べれば圧倒的に言葉を紡いでくれるし、愛想笑いもしてくれるが、
殴られる前の状態にまでは回復していなかった長門さん。
しかしながら、窓際で読書”浴”をしているうちにエネルギーを蓄えたのか、
昨日くらいから再び殴られる前の水準に戻りつつある。嬉しい限りだ。
「何が?」
いや、こっちの話さ。長門。
「そう」
含み笑いをする。これがまた可愛いんだ。長門の一挙手一投足がこれまた可愛くて仕方が無い。
「そ、そう?」
「ついでに長門の弄り方も判ってきた」
「ばか。あとえっち」
「えっちは余計だ」
「えっちじゃないの」
「じゃあお前がいきなりシャツたくし上げて胸に俺の顔押し付けたり、ただ抱きしめてるだけなのに達しちゃうってのはえっちじゃないんだな?」
「え、え、あ・・・うん」
あ、うんってお前。
「じゃ、俺はえっちじゃないよな」
「・・・そ、そう」
顔の変化を悟られまいとして読んでいた分厚い洋書を眼前に持ち上げて顔を隠した。
バレバレだぜ長門さんよ。
「・・・・・・ばか」

 

 

そうこうしている内にハルヒがその口元にニンマリと笑みを蓄えつつ部室に突入して来、
その後一分程度の間隔を置いて小泉と朝比奈さんがやってきた。
そして例によってSOS団定例ミーティングが始まる。
「昔の人は”木を隠すなら森の中”と云ったわ。だから明日は北口駅じゃなくて、もっと人の多い埋田に行くわよ!!
喜びなさい!交通費に関しては有希が支給してくれるそうよ!!」
謎の頭痛のせいで絶賛メランコリー状態に突入しかけている俺にとってはまた頭痛の種が増えかねない提案だったが・・・
ま、たまには良いだろうね。
・・・って何で長門が交通費支給係になってるんだ?
「私がこの計画の発案者。藩急藩神HDの株式を持っている。株主の特典として共通回数カードがもらえるんだけど、その期限がそろそろ切れそうなので、ここでみんなに放出するというわけ」
なるほどな。しかし良いのか?
「みんなが楽しめるなら、これで良い」
と長門は控えめににこっと笑った。
まったく、団員の鏡みたいな奴だね。
「有希!ただ今を以ってあなたをSOS団副団長補に任命するわ!!」
「・・・ありがたく拝命仕り候」
ハルヒ、俺は?
「あんたは何もしてないでしょ!!ちっとは貢献しなさい!!ヒラ、いえ雑用だわ!!」
・・・・・お前の知らないところで大活躍してたりもするんだけどな。
まぁいいか。いや、”まぁいいか”じゃなくて”もうどうでもいいや”って言ってしまった方がいいかな。
「・・・・・・伊勢国屋・・・あと、古書街にも行きたい」
とは今回の探索立案者であり、埋田までの往復乗車券を提供してくれた資産家の長門有希の弁である。
長門、そういうのは明日のグループメンバーに言ってくれ。
「・・・・・・だめ?」
・・・・・・なんだ、くじに細工でもして俺と一緒に行動できるようにしたいのか?
「・・・・・・」
長門は黙ってしまった。若干顔を赤らめながら。

 

 

 

 

「こら!!団長様がありがたいお話をしてるって時に、コソコソ話はしない!罰として会話の内容すべてこのあたしに向かってぶちまけなさい!
ああ、キョンだと嘘付きそうだから、有希、あなたから言って頂戴!」
「・・・・・・明日の昼ごはん、何処で食べるのか訊いていただけ」
「本当?」
ああ、そうだったと言わんばかりの表情でハルヒは
「そういえば、埋田ってあんまりしらないのよね。どこか美味しい店はある?」
と俺に聞いてきた。
埋田は俺のシマじゃないんだ。長門に訊いてくれ。
「有希、どこか美味しいところ知ってる?」
「うーん・・・・・・一人で行くときはもっぱらナビオ裏の揚子江ラーメンなんだけど、あそこはカウンター席だけだし」
「あら、そこでいいんじゃない?で、そこ美味しいの?」
長門はこくっと頷き
「五目ラーメンが秀逸」
「長門、幾ら位だ?」
「予算は600円あればいける」
安いな。
「・・・・・・安さと美味さで勝負している。はす向かいにある、ネームバリューで釣っている脂ギトギトラーメンの比ではない」
・・・カレーもそうだが、ラーメンにも一家言ありそうだな、長門は。
「・・・・・ちなみに、あれは一●堂ではなく痛風堂」
そうかい。
「さっ!そうと決まれば埋田よ埋田!!色々調べなくっちゃ!」
そう云うとハルヒはパソコンでネットサーフィンを開始した。
・・・・・・やれやれ。

そういや頭痛の件だが、なんだかどうでも良くなっちまった。
変な夢の一つや二つだれだって見るだろうし、第一そんなこと相談したところで長門がどうにかしてくれるわけでもなさそうだ、と考えたからだ。
それに、この俺のグダグダさが後々になってマリアナ海溝の底より深い後悔を生むことになろうとは、この時点でまったく気がつきもしなかったからね。

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