……やばい、セリフをド忘れしちまった……。
 たしかロミオに独り言で求愛する悪夢のような内容だ。
 舞台は静まり返っている。早く言わなければ!
 ここでジュリエットの独り言がないと物語が進まないんだ。
 くそ、気持ちだけが空回りして出てこない。
 俺がセリフを言い終わるのを待っている佐々木の顔が思い浮かんだ。
 想像の中でもあいつは偽悪的に笑っている。
 これが俺の好きな相手だっていうんだから笑っちまうね。
 演劇練習で一緒にいる時間が増えて自覚してしまった。俺はこいつが好きなんだって。
 あいつを今待たせてしまっている。早く、早く言わなければ……。
   
「佐々木、好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
 
 静かなステージに俺の声が響き渡った。
 ………………俺、今なんて言った? 
  取り返しのつかないことを叫んでしまった気がする。
 セリフを思い出そうとしていた時以上に頭が働かない。働かせたくねぇ。
 
 Q.俺は今いるのはどこだ?
 A.体育館だ。
 
 Q.体育館には誰がいる?
 A.全校生徒が集まっている。
 
 Q.彼らは何をしてる?
 A.俺の言葉を聞いてざわざわしている。
 
 Q.何故ざわざわしている?
 A.俺の佐々木への告白を聞いたから。
 
 ぐあああああぁぁぁ!!!! 死にてええぇぇぇぇえ!!!
 どうすりゃいいんだ、ここから。
 誰か今すぐ俺に銃を渡してくれないか。
 持たせられないってなら、かわりに頭を撃ってくれていい。既に俺は死刑台に上がった囚人の気分だ。
 
 俺が告白した相手は、恋愛は精神病の一種だと否定してる女だ。
 OKをもらった男は俺の知る限りいない。
 佐々木は困惑の表情をしていた。
 お前のそんな顔を見るのは辛すぎるぜ。
 困らせるつもりはなかったんだ。今のは事故だ、忘れてくれ。
「キョン。公衆の面前で告白を受けるのは僕も初めてで戸惑っている」
 俺は最悪に近い方法で告白してしまった……。
 もともと希望はないが失恋決定だ。しかも全校生徒の知るところになる。誰か俺を今すぐ殺せ。
「とりあえず劇を続けよう。皆で協力して作った舞台を放棄するのは無責任だ」
 ……そうだ、こういう女だった。
 脱力したね。振るならさっさと振ってくれ。
 あの告白じゃ振られて当然だ、うん。
「演技に集中できなそうな顔だな。ああ、言い忘れてたよ」
 佐々木はくすくすと――普段と全然違う感じで笑った。
「わたしもキミが好き。こんなの間違いだってずっと否定してたんだけどね。
でも好きになっちゃったから……その……よろしくね」
 恥じらう彼女は誰をも恋に落としそうな可愛らしさだった。
 俺は同じ人に再び恋をした。
 しかし、ひとつ言っておきたい。惚れた相手でもこれは言わせてもらう。
 ……先に言え。
 さっきまで俺は苦しまないで死ぬ方法を考えていたぞ。
 
 
END
 

|