本日、今日は何の日? と聞かれて眉間にシワを寄せようものなら、そいつは話し手君によって現実とは成りえない思いを抱かさせられた操り人形になるだろう。もしくは心の中で失笑しつつ、話し手さんに付き合ってあげる賢く悪どい奴も居るかも知れない。
今俺の目線の先に居るヒューマノイド・インターフェースは恐らく前者であろう。表情など変えもしないだろうがね。一冊くらい本日を舞台にした本があったかもしれん、と思い問いかけてみた。
「長門、今日が何の日か知ってるか?」 
「……」
 静かに首を横に振る、やはり知らないか。ここで相手が谷口でもあろうものならこの俺の鍛えられたスキルによる最大級の虚言を吐く所だが、長門にそんな事をしてもどうなるかは分かっているので素直に教える。
「今日はな、エイプリルフールって日なんだ。宇宙的にはそういうもんはないのか?」
「……ない。そのような"日にち"という概念は存在しない。」
「まぁ、そりゃそうだな。でな、エイプリルフールの日の午前中は害のないウソをついてもいいんだ。それで相手の反応を面白がったりするってのが一般的だ。まぁ高校生になってまで張り切ってウソつく奴はそうそういないと思うが。」
いや、いる。珍しく今日は俺よりも遅い我らがイベント愛好家の団長が。遅刻の理由は本日の準備といったところかもしれんな。



 春休みも中盤戦に突入したもののいつもより少ない課題への焦りはなく、まして素晴らしい季節の恩恵によりSOS団がなければ一日中寝ていてもおかしくない気分の俺は部室の机に突っ伏し、団員二名と団長の出勤を待っている。
団活が秘密探索でなければ嬉しいのだが、昨日の荷物持ちで腰痛と筋肉痛が酷い。俺は腰からの要望でうーん、と背伸びをしようとする。
「……」
「んん?」
いつの間にか長門が俺の座る机の対面に立ち竦んでいた。
「どうしたんだ長門? ウソでも思いついたか?」
「郷に入れば郷に従え。」
「は?」
 刹那、長門の姿を見失った。あれ? そして唇には過去味わったものに近い柔らかい感覚。
えーと、状況理解に苦しむね。OK把握した。


長門さん、何をしておいでですか?

「エイプリルフール。」
それとこれがどう繋がるというのか。勘違いしたというならなら甚だしい。
「感情を行動で表した。私は情報統合思念体に嘘をついた。」
俺との、今の行為がどう関係してるんだよ。



 重い沈黙を破ったのは長門だった。
「以前から私はあなたに好意を抱き始めていた。しかしあなたと涼宮ハルヒの関係を保持するよう情報統合思念体に指示された。私の気持ちは閉ざすように。私は渋々同意した。」
……。言葉を失う俺の姿を見て、とは違うだろうが珍しく続けて長門が話す。
「だけど今日はエイプリルフール。嘘も思念体に対し許される。でも私の気持ちは本当。」
「長門……」
 あのパラレルワールドの長門の様に頬を赤らめたりはしない。しかしその瞳は澄み切っていた。
「……あなたは私以外の人に好意を抱いているのは既知。だけど可能ならば今日は私に好意を向けてほしい。」
長門がこんなにも逆接表現を使うとは。それも俺に対して。

「ダメ?」
不覚にも、長門の瞳に映る俺の顔は照っていた。
「いや、いいぞ。」

 

 長門の頬が僅かに緩んだのを見たのは俺だけだろう。

 


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