ザー。
「・・・」
雨の日は憂鬱になる。理由は空が重いから、というわけではない。
いつもいつも大変で疲れる不思議探索は無いが、だからこそ憂鬱なんだ。
マイ・スウィート・エンジェルの朝比奈さんに出会えないからな。
家の窓から外を眺めても、雨は止まない。そりゃそうだ。
妹が隣でせっせと照る照る坊主を作っているが、それが効くかも解らないんだからな。
まぁ、願うなら効き目抜群のを妹が作ってくれる事を祈るさ。
そう思わずにはいられない。
だが、どうしても某魔法陣漫画に出てくる褌穿いた風の精霊にしか見えないんだが。
あれは角があってこれは角は無いけど。
まぁ、効き目があればそれで良いんだ。俺としてはね。
だって、晴れたら会いに行けるからな。


―――ピンポーン。


そんな事を考えていると、玄関で呼び鈴が鳴った。
「キョンくん、出てー。私、照る照る坊主さん作りで大変だから」
そんなん打ち切れ。
って言ったら何だか俺の我が侭のように聞こえなくも無いのでそうも言っていられない。
仕方なく、俺は立ち上がって玄関に向かう。そして、鍵を外してドアを開けた。
「えへへ・・・会いたくて、来ちゃいました」
そこには、ずっと見たかった天使の恥ずかしそうな微笑があった。
「えっと・・・迷惑、でしたか?」
「いえ。俺も会いたくて仕方ないところでしたからね。どうぞ、上がって下さい」
「あ、はい・・・お邪魔します」
俺は二階へと朝比奈さんを連れて上がっていく。
妹を見てみると、照る照る坊主の材料を更にかき集めていた。
・・・何個作るんだ、あの角無しギップリャー!!を・・・。
「あ、キョンくん。熱湯ありますか?」
部屋に入る前、朝比奈さんがふと尋ねてきた。
「えぇ、ありますよ」
「良かった。キョンくんの為だけにブレンドした茶葉を持ってきたんですよ」
朝比奈さんはそう言って手に持っていたカバンを指差す。
そして、にっこりと微笑んだ。うむ、素晴らしいスマイルだ。
「俺の為ですか・・・それは楽しみです」
部屋の扉を開けて、自室へ入る。見慣れた部屋だ。
その俺の後ろを朝比奈さんは少しだけびくびくとしながら入ってきた。
多分、この関係になってから初めて二人きりになるもんだから緊張してるんだろう。しかも俺の部屋だ。
そのせいか部屋に入るや否や、微妙な空気があたふたと溢れかえってくる。
二人で固まる。緊張して、場がどんどんと静まり返る。
呼吸だけしか聞こえない。何もしないせいでどんどんと重々しくなっていく。
仕方ない。俺から話題を切り出そう。
っていうかこれが男の仕事だよな。仕方ないじゃないだろうが、バカキョン!バカ俺!!
「朝比奈さん」
「ひゃ、ひゃい!?」
朝比奈さんは不意に俺が声を掛けたせいか、物凄い裏返った声を出した。
そして顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。可愛い。
そのプリティーな顔で何て話しかけようか忘れちまったぞ。やれやれ。
「熱湯、そこにありますよ」
とりあえずこれしかないよな。話しかけるネタ。
「え?あ、はい。えっと・・・ごめんね、変な声出して」
「いえ、別に構いませんよ。可愛かったですしね」
「そ、そんな事無いですよぉ~・・・」
からかうとすぐに紅くなる頬。何度見ても飽きない表情ですよ。
「じゃ、じゃあ、お茶淹れますね」
まだ、少し恥ずかしさを引きずっている朝比奈さんの手つきは微妙に危うい。
何か妙に震えてるし、妙にテンポ悪いし。俺は不安で仕方がない。そして、
ガシャン。
案の定、目の前で湯のみを落として割った。ふぅ、安物でよかった。
慌てた様子で謝罪の言葉を並べながらあたふたとしていた。
そして、何を考えたのか素手で割れた破片を集めだした。
「いたっ・・・!!」
「朝比奈さん、大丈夫ですか!?」
「えへへ・・・少しだけ指切っただけですから大丈夫で―――ひゃぅっ!?」
例のごとく可愛い悲鳴を上げる朝比奈さん。理由は簡単。
口の中に、血の味が広がる。その血は朝比奈さんの。
甘くて甘い、気が狂いそうなくらい甘い朝比奈さんの血。
俺は指を口の中に入れていた。
「はわわわわわ・・・!!な、何やってるんですかぁ~!?」
俺は口にくわえていたその白い指を抜く。
「消毒ですよ?」
「しょ、消毒・・・キョンくんの・・・消毒・・・あぅ~・・・」
赤の上に赤を塗り重ねたような色の顔に俺は思わず頬が緩んだ。
「湯飲みは、俺が処理しておきますからお茶をお願いします。ちなみにティッシュそこにあるのでそれで拭いてください」
「ひゃ、ひゃい!」
俺はとっとと箒を取りに一階へと降りた。
ふと角無しギップリャー!!もとい照る照る坊主を作っている我が妹が気になって様子を見る。
・・・何か物凄く材料らしき物体が増えてないかね?
それ以前にそれは照る照る坊主なのか・・・?
何だか知らないが、軒下に飾ったら雨が上がるどころか、逆に雨や雪よりも氷が落ちてきそうな見目形だ。
俺は箒と塵取りを手に二階へと、静かに上がった。
何故静かにか、って?朝比奈さんに気付かれぬようにそっと何をしているのか見るのさ。
例えば人が見てない時どんな感じなのか知りたいだろ?見たくない?そうか、俺は見たいんだ。
そっと二階に着くとそっと半開きの扉に足をかけてそっと開ける。
「朝比奈さん」
「!?」
びくっとした朝比奈さんがこっちに振り向く。
さっき、俺が咥えていた指を咥えていた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
さて、どうしたものかな。ティッシュに触れた痕跡為し。という事は明らかに俺の唾付きなんだが・・・。
「ひゃ、ひゃのれすね、ひょれは・・・」
「指を口から抜くの忘れてますよ」
「ひゃい・・・あ、えっと・・・えっと・・・お茶淹れました」
明らかな話逸らし。だから、どうした。朝比奈さんのお茶を飲むのが先だろう、常識的に考えて。
「飲みます」
今更ながら、紅茶を急須と湯のみで飲むというのは中々趣なる物だ。
味は俺の為にブレンドしたというだけあってなかなか好みの匂いと味だ。
「凄く美味しいです」
「本当ですか?」
「えぇ。本当に美味しいですよ」
「良かったぁ・・・」
嬉しそうに微笑む。その顔が、可愛い。
可愛い?いや、愛しいというべきかもしれないな。
っていうか、俺はさっきから何回可愛いと心で連呼してるやら。
ふと雨が気になって外を見ると、雨量が恐ろしい事になっていた。
窓の外の様子を目視で確認すること不可なり。そういう状況だ。
苦笑いが出る。これは、間違いなくあの照る照る坊主のおかげに違いない。
「天気こんな状態ですけど、帰り大丈夫ですか?」
俺はとりあえず尋ねてみた。
「え?あ~、凄い・・・大丈夫かな・・・・・」
「何なら家に泊まっていきますか?」
「ふぇ!?そ、そんな事したら迷惑掛かりますし、冗談ですよね!?」
「俺は、構いませんよ?あ、別に下心があるじわけじゃないんですよ?」
「怪しいです・・・。でも、良いんですか?」
えぇ、当然ですよ。
「貴女は俺の彼女ですからね・・・」
「彼女、か。何だか嬉しいです・・・えへへ・・・」
そう言って照れ笑い。あ~、何か抱きしめたくなる衝動が湧き上がってきた。
どうしようか。まぁ・・・とりあえず、
「ひゃっ!?きょ、キョンくん、突然ぎゅっされると恥ずかしいです・・・!」
衝動に逆らわず抱きしめとくさ。
「言っとくけど離しませんよ」
非難の声を上げてるけど抵抗しないんだから。
「良いです・・・逆に、離さないでって言いますから」
さて、こんな時どんなセリフが良いかな。そうだな、あの猫からセリフをいただこうか。
「僕のアリス、キミが望むなら」

で、その後なんだが、朝比奈さんは俺の家で泊まっていった。
それだけだ。何もしてないぞ?本当だぞ?
強いて言えば・・・まぁ、一緒に風呂入った、ぐらいか?
もちろん、タオルはお互いに巻いたぞ?本当だぞ?
朝比奈さんも恥ずかしがっていたが俺も物凄く恥ずかしかった。
うん、そりゃもう恥ずかしかったとも。
ちなみに、我が妹は降ってきた恐ろしい雨量に照る照る坊主を作るピッチを上げていた。
そして翌日の朝。
晴天を隠すかの如く窓を多い尽くす百数十個のぬらりとした笑顔の照る照る坊主に朝比奈さんが悲鳴を上げたのは秘密だ。
 
 

 

 


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