俺は地平線を目指して歩いていたと思ったら地平線なんて歩いて到達できる地点ではないとようやく気づいた。
しかし俺の頭上には砂があったし足元にはちゃんと地面があるし空は青いしもう訳が分からん。
早く俺の日常を返してくれ。
「ふぇぇぇぇぇ、疲れましたよー」
そう言ってへたりこむのは朝比奈さん。言わずもがな(小)の方だ。
何故か例の映画で使ったウエイトレスの服の下にバニーガールの衣装を着ている。
何で分かるかって?そりゃあ、朝比奈さんの頭と足を見てみろ。ウサギの耳に網タイツ。一目瞭然だ。
「休みませんか、キョン君?」
「さっき休んだばかりでしょう」
そういいながらも俺は休憩のために砂の上に座る。俺と朝比奈さんが座っているどっちが本当の地面なのかはこの際気にしない。
「朝比奈さん、ここがどこだか分かります?」
「禁則事項です」
「俺はどうやったらここから出られるんですか?」
「禁則事項です」
「じゃあ…」
質問したいことは山ほどあったが朝比奈さんが潤んだ目でこっちを見てきたのではこちらとしても対処のしようがない。


「じゃあ、動き出しましょうか」
「ま、待ってくださいぃ~」
朝比奈さんのこういう声に俺は弱い。いつだったかの古泉の言葉を思い出す。
俺を篭絡するために…?朝比奈さんに限ってそんなことがあるか。あってたまるか。
「じゃあもうちょっといましょう」
そして夜がきて昼になっても朝比奈さんはまだ動かない。
「駄目なんです…禁則事項なんです…」
またこれか。しかし俺は質問せざるを得ない。
「早く俺は動きたいんですよ」
「で、でもっ…あたしにはそんな権限はないんです。許してください」
しょうがないのでまた座る。いい加減眠りすぎたせいで頭の中ではオリオン座と夏の大三角との位置まではっきり分かっている。
しかしここの季節はいつだろうか?昨晩、これらの両方を見たのに。
「き…禁則事項です…言えないんです……」
朝比奈さんは禁則事項ばかり繰り返して今にも舌を噛んでしまいそうだ。
舌足らずで愛らしい朝比奈ボイスは俺の癒しだがいい加減俺は歩き出してしまいたい。
座ったままクラウチングスタートの姿勢をとる。
「駄目です!それは禁則事項で禁則事項が禁則事項になって禁則事項を禁則…」
もう訳が分かりません。俺は俺のいる方の地面を駆け出す。すると朝比奈さんの叫び声が真上でする。
「ひゃあああっ!」
真上を見ると朝比奈さんがローラーブレードを履いて駆け回っていた。何てこった。
あのお方のことだ。いつか絶対転ぶ。
「朝比奈さん!」
「無理です、止まれません!!」
朝比奈さんがバランスを崩したその時、黒く長い髪が俺の頬を叩いた。痛っ。


「あはは、ごめんごめん。ごめんよーキョン君」
鶴屋さんの髪の毛は逆立っていてまるでホラー映画のようだったが俺の今おかれている状況の方がもっとホラーだ。
きっと今流行りの実写映画化も不可能だろう。
「でもハルにゃんならできるんじゃないかな?」
あいつは別格ですよ。
「そりゃそうだねーあっはっはっ」
鶴屋さんが笑う。視界が歪む。くーるーきっとくるー。何だこの感じ。
「さあねー。あたしにはさあーっぱり分かんないや」
あっはっはっ。鶴屋さんの笑い声が高くなる。耳が痛い。
「じゃあみくる、帰るよっ!」
「待って下さい鶴屋さん!どうやって帰るんですか!!」
俺は思いっきり叫んだ。鶴屋さんと朝比奈さんが耳を塞ぐ。
「み…耳…痛くなっちゃったな…。ま、そういう事なんで、じゃあねっ!」
「あの…本当に、ごめんなさい。禁則事項が禁そk」
朝比奈さんが全て言い終わらないうちに、いつの間にか黒塗りの高そうな車が、鶴屋さん・朝比奈さん両名を乗せて落ちて行った。


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