真夜中のテレフォン
 
 過去にやってきて随分たった、お母さんとお父さんは元気かな・・・・
やっぱり家族にずっと会えないで一人でいるのは寂しい。
そうだ彼に電話をしてみよう、彼ならこの寂しさを紛らわせてくれるから・・・
「もしもしキョン君?」
『こんばんは朝比奈さん、どうしたんです?』
なぜかわからないけど彼の声を聞くと安心する
「ごめんなさい、こんな時間に電話しちゃって・・・迷惑ですよね?」
『朝比奈さんからの電話ならテスト中だって迷惑じゃありませんよ』
受話器越しに彼の優しさが伝わってくる・・ふと涙がこぼれた
「・・・ありがとう」
『なにかあったんですか?俺でよかったら相談にのりますよ』
彼はいつもわたしのことを心配してくれる、なんの役にもたてないこんなわたしを
「ううんなんでもないの・・・ただキョン君の声が聞きたくなって」
いきなりこんなこと言ったら彼を困らせてしまうことはわかってる、
わたしが彼とこれ以上仲良くしちゃいけないこともわかってる、
でも・・・
「ごめんなさいごめんなさい、今のは忘れてください!」
『・・・・こんな声でいいならいつだって電話してください。喜んでお相手しますから」
優しい言葉に涙がとまらない、こんなに弱い自分が情けなくなる。
誰の役にも立てなくて、迷惑をかけることしかできなくて・・・・
「それじゃ・・・これからもたまに電話してもいいですか?」
なにを言ってるんだろうわたしは、こんなこと許されるわけもないのに、
でもせめて電話くらい、それくらいなら・・・
『もちろんですよ、むしろ毎日かけてほしいくらいですね』
「それじゃ・・・また明日」
『はい、それじゃ』
電話が切れた途端にまた無性に寂しくなる・・・早く明日にならないかな、
彼の声が聞きたいから

 幸せな日常
 
 翌日
[コンコン]
ノックするのは彼か古泉くんしかいません、昨日あんな電話したからまだ彼の顔を見る
心の準備ができてない、どうか古泉くんでありますように
「はーい」
少し声が上ずっちゃった気がする、今彼が入ってきたら赤面しちゃうこと
間違いなしです
「こんにちは朝比奈さん」
よかった、入ってきたのは古泉くんだった、でもちょっと残念、はやく彼の
声が聞きたい
「こんにちは古泉くん、今お茶煎れるんでちょっと待っててくださいね」
古泉くんは礼儀正しく会釈をしていつもの様に一人でチェスを始めた、
一人で練習かな?でも彼にいつも負けているのはなんでだろう、彼はそんなに
強いのかな、それともいつもわざと負けてるのかな?
[コンコン]
ノックの音がした、ああどうしよう、どんな顔をして彼に会えばいいのかわからない、
どうしようどうしよう、でもいつまでも放っておくこともできないし古泉くんが
どうしたんですかと声をかけてくるし、早くドアを開けないと
[ガチャ]
ドアを開けると彼が立っていた
「あれ?いたんですか朝比奈さん、返事がないからてっきりだれもいないかと」
なんでだろう、彼の声を聞いただけでさっきまでの不安が消えて
幸せな気分になれる
「ご、ごめんなさい、お茶がのどに入ってお返事できなくて」
彼もわたしが下手な嘘をついてるのはすぐにわかったと思う、でも
「そうですか、変なタイミングでノックしちゃって俺のほうこそすいません」
と言って微笑んでくれた。思わずわたしも微笑んでしまう、古泉くんが変な目でこっち
を見ていることも気にならない
「今お茶煎れますから」
彼はまた微笑んで古泉くんの正面に座る。彼のためにとびっきりのお茶を煎れてあげよう、
彼の喜ぶ顔が見たいから、わたしにはこれくらいしかできないから
「はいどうぞ」
彼と古泉くんの前にお茶をおく、彼はとってもおいしそうにお茶を飲んでくれる。
わたしもすごく嬉しくなる
「どうですか?」
「とっても美味しいですよ」
古泉くんもおいしいと言ってくれたけどほとんど耳に入ってこない、彼の笑顔を
見るのに忙しかったから
イスに座って彼と古泉くんのチェスを観戦する、でも本当は彼の顔しか目に入らない、
不意に彼がこっちを見た・・・・彼は目をそらそうとしない、わたしもそらさないで
見つめる、こんなところ涼宮さんに見られたら大変ですね、今日は涼宮さんこないと
いいのになぁ・・・・
[ガタン!]
「ヤッホー、みくるちゃんお茶ちょうだい!」
涼宮さんが元気良く言った、はぁ・・・
ずっと彼のことを見ていたいのにな、仕方ないですね、
「はいはいただいま」
と言ってお茶を煎れる、3秒でおかわりをする涼宮さん、せっかく煎れたんだから
もうちょっと味わって飲んで欲しいな、もう
「ん?どうしたのみくるちゃん、あたしの顔になんかついてる?」
「な、なんでもないですぅ」
「そう」
涼宮さんの勘の鋭さにはびっくりです、気をつけないと。
イスに座ってまたチェスを観戦、やっぱり今日も彼の勝ち、なるべく彼の顔をボーっと
見ないように気をつけたけどついつい見ちゃった、でも涼宮さんはパソコンをいじるのに
夢中で全然気がついてないみたい。このまま時間が止まればいいのにな・・・・
長門さんが本を閉じて今日の部活は終わり、みんなが部室を出て行った後で制服に着替えて
昇降口に向かうとそこには彼が立っていた。
「どうしたんですか?」
「朝比奈さんの様子が気になりまして」
彼はわたしのことを心配して待っていてくれたみたい
「でも・・・・こんなところ涼宮さんに見られたら大変ですよ?」
「どうしてです?」
「どうしてですって去年にあったことを忘れたんですか?」
「大丈夫ですって、別に一緒に帰ってるところを見たくらいで世界が終わるなんてこと
 ないでしょう」
「で、でも」
「あんな奴のことなんて気にすることないんですよ、それよりなにかあったんですか?」
彼に見つめられると嘘がつけなくなる・・・
「・・・・寂しくって」
「・・・・え?」
「そ、その、家族のことを考えてたら急に寂しくなっちゃいまして・・・・・・
 ごめんなさい」
「謝らないでください、むしろそんな時に電話してもらえるなんて嬉しいですよ」
「・・・ホントですか?」
「もちろんですよ」
なんで彼はこんなに優しいんだろう、わたしは上を向いて走り出す
「どうしたんですか?」
「・・・・・・なんでもないんです、なんでも」
彼がどんな顔をしているのかはわからない、
上を向いてないと涙がこぼれてしまうから、彼を困らせてしまうから・・・

 ある雨の日
 
 それから毎日電話をかけた
彼はわたしの話を聞いてくれる、彼のことを話してくれる
この関係が続けばいいと思う、でももっと彼に近づきたいと思う自分がいる
許されないとはわかっているけど・・・・
『・・・・なさん?朝比奈さん?』
「あ、すいませんボーっとしちゃって、なんの話だった?」
『明日は暇ですか?って聞いたんです、もしかして予定入ってます?』
「え!?・・・・暇だけどどうして?」
わかる気がするけど聞いてみる
『映画でもどうですか?』
とってもとっても嬉しい・・・けど二人で出掛けるなんて禁則中の禁則
「ごめんなさい、とっても嬉しいんだけど・・・」
『じゃあ遊園地なんてどうです?』
「それもちょっと・・・」
彼の声が少し寂しげになる、彼はなんにも悪くないのに
『・・・俺と二人で出掛けるのは嫌ですか?』
「そんなことないの・・・ただ」
『またハルヒですか?』
「・・・はい」
『ハルヒのせいで俺は朝比奈さんをデートに誘えないんですか?』
彼の声が怒りを帯びてきた、めったに怒ることなんてないのに
わたしなんかのために怒ったりしないで
「仕方ないです、また世界が改変されることになったら大変だから」
自分に言い聞かせる
「わたしもキョン君と出掛けたいです、でもだめなんです」
『・・・・・』
彼は黙ってしまった
「キョン君?」
『・・・俺はあなたのためなら世界が終わっても構わない」
「え?」
『明日の10時に駅前で待ってますから』
「ち、ちょっとキョン君!?」
『すっと待ってますから、じゃあ』
と言って彼は電話を切った・・・どうしたらいいんだろう、
彼と出掛けられるのはとってもとってもとっても嬉しい、けど・・・
 
 翌日10時
[・・・ルル、プルルルルルル]
彼が電話にでてくれない、本当にわたしが行くまで待ってるのかな、行ったらもう
この思いを止められなくなる、彼の優しさに溺れてしまう・・・
 12時
何回かけても彼はでてくれない
 16時
彼はケータイの電源を切ったみたい・・・
 18時
雨が降ってきた・・・
 20時
やっぱり電話にでてくれない・・・ちょっと見に行ってみようかな、約束の時間を
もう10時間も過ぎてるし、いなかったらもう彼に電話をするのはやめにしよう、
彼もわたしも傷つくだけだから、でももしまだ待っていたら・・・
20分後駅前についた、傘を差してる意味がないくらいわたしはびしょ濡れ・・・
「キョン君!!」
彼は土砂降りの雨の中立っていた、傘も差さずに震えながら、わたしは傘を投げ捨てて
彼に駆け寄る
「ごめんなさいキョン君!わたし・・・わたし」
「遅刻ですよ朝比奈さん、喫茶店代は朝比奈さん持ちですよ?」
彼はそう言って微笑んだ、震えながら、
わたしは彼に抱きついた、泣きながら・・・
震える彼がわたしを抱きしめる、わたしは彼にキスをした、長い長いキス
このまま時間が止まるように、彼をずっと放さないように。
 
 約束

 目を覚ますといつも一人だった、でも今日はちがう。
隣に彼がいる、彼の匂いがする、いつかは未来に帰らなきゃいけないこともわかってる、
でもこの幸せが永遠に続くと信じたかった。
 ベッドからでて服を着ると彼の声がした
「おはようございます朝比奈さん」
なんだかとっても恥ずかしいな、でもすごく幸せ
「おはようキョン君」
彼の目が少し赤く腫れていた
「泣いてたの?」
「ゴミが入っただけです、今日は映画に付き合ってもらいますよ?」
彼は目をこすってちょっと恥ずかしそうに微笑む
「はい」
もう躊躇うことなんてない、彼と一緒ならどこだっていけるから
「じゃあ朝ご飯作りますから、なにか食べたい物あります?」
「朝比奈さんが作ってくれるなら何だって食べますよ」 
「フフッ」
彼のために朝ご飯を作る、なんだかお嫁さんになったみたい。
わたしが作ったご飯を美味しそうに食べてくれる彼の顔を眺めていると、
彼のケータイが鳴った
「もしもし」
誰からの電話だろう、
「すまんな、今日は忙しいんだ」
お友達かな?
「俺にだって休日の予定くらいはあるんだよ」
あ・・・電話の相手がわかった、
「なんだっていいだろ、じゃあな」
彼は電話を切って微笑んだ
「ハルヒからです、いつもの不思議探しに行くって言うんで断ってやりました」
やっぱり涼宮さんだったみたい
「でも、それじゃ涼宮さん怒るんじゃ」
「いいんですよ別に、朝比奈さんは俺と映画に行くよりそっちのほうが
 よかったですか?」
彼はわざと悲しそうな顔で聞いてくる
「もう、わかってるくせに」
「ハハハ、そのうち朝比奈さんにも電話かかってくるんじゃないですかね。ちゃんと
 断れますか?」
「わたしだって子供じゃないんだから、意地悪ばっかり言うとご飯下げちゃいますよ?」
「すいません・・・なんか新婚さんみたいですね」
彼が照れながら言った
結婚できないことなんて彼もわたしもわかってる、わかってるから今彼といられるこの
瞬間を精一杯過ごそう
「フフッそうですね」
彼と一緒に食器を下げて、彼と一緒にお茶を飲む、こんな時間をなによりも大切に。
「ハルヒから、電話かかってこないですね」
わたしといる時に涼宮さんのこと考えてたのかな
「そうですね、なんでだと思う?」
わたしはわかる気がするけど彼はどうだろう
「どーせ俺がいないと自分が奢るハメになるからとかそんなとこでしょ」
・・・やっぱり彼はわかってないみたい、ホントにそういうところは鈍感な人
「朝比奈さんはどう思います?」
「わ、わたし?」
どうしよう、もしホントのことを言ったら・・・
「わたしもキョン君の言った通りだと思います」
「ハハ、やっぱりそう思いますか」
彼に嘘をついてしまった、だってホントのことを言ったら彼の心が涼宮さんに
傾いてしまうかもしれないから、彼を誰にも渡したくないから。
 お茶を飲み終わって一緒に家を出る、彼と二人で出掛けるのはわたしが誘拐
されそうになった時以来かな?
あの時のことは殆ど覚えてないけど彼の温もりと匂いは覚えてる、
目が覚めたら彼にオンブされてて、でも長門さんがいたから恥ずかしくって
すぐにおろしてもらった、もうちょっと彼にオンブしてもらってたらよかったな、
そうだ、恥ずかしいけど今頼んでみよう、ここの道なら人通りが少ないから
「朝比奈さん観たい映画あります?」
「オ、オンブしてください」
彼が言うのと同時だった
「え!?」
「え!?」
どうしよう、彼がびっくりした顔で見てる
「な、なんでもないです」
恥ずかしくてすっごく顔が熱い、言わなければよかった
「朝比奈さん」
彼を見ると
「はいどうぞ、朝比奈さんのお願いならなんだって叶えますよ、俺ができることなら」
と言ってしゃがんでくれた。
すこし躊躇って彼の背中に乗る、やっぱり恥ずかしいな
「どこまでいきますか?お姫様」
「それじゃああそこの曲がり角まで」
「わかりました」
彼の体温が伝わる
「キョン君あったかくてとってもいい匂いがする」
「朝比奈さんにはかないませんよ」
「フフッ」
あっという間に曲がり角
「着きましたよお姫様」
「まだ降りたくないです」
「それじゃあ駅までいきますか?」
「重くない?」
「ぜんぜん重くなんてありませよ」
「じゃあお願い」
「よろこんで」
角を曲がると結構人通りが多くなる
「キョン君わたし達すごい目立ってない?」
「じゃあここで降りますか?」
「降りません」
「わがままなお姫様だ」
「嫌いになった?」
「むしろもっとわがままを言ってほしいくらいですよ」
「・・・じゃあ今日一日わたしの言うことをなんでもきいてください」
ちょっと調子に乗りすぎたかな
「わかりました」
「ホント?」
「ホントです」
オッケーしてくれるとは思わなかった、ホントにいいのかな
「約束ですよ?」
「約束です」
約束してくれた・・・・・・何をお願いしようかな、そうだ
「今日一日敬語は禁止です」
「禁止ですって朝比奈さんも使ってるじゃないですか」
「いいから今日は禁止!いい?」
「わかりました」
「ちがうでしょ?」
「・・・わかったよ」
「フフッ」
「もう駅だよ」
ちょっと困ったように彼が言った、さすがに駅前は人が多いから彼から降りる
「切符買ってくるからちょっと待っててくれ」
敬語じゃない彼は新鮮で、ちょっと面白いな
「じゃあいこうか」
「もう一つお願い」
「なんですか?」
「・・・・」
「なに?」
「手つないで」
「これでいいか?」
と言ってわたしの手を握る
「あったかいね」
「ああ」
「男の人と手を繋いで歩くなんて初めて」
「ホントに?」
「ホントに」
「俺がはじめてなんですか?」
「うんはじめて」
「はなはだしく意外ですね」
「前にもこんな話しなかった?」
「しましたっけ」
初めての不思議探索、わたしの正体を彼に告げたとき、彼は驚いてたけど決して
わたしが嘘をついてるなんて言わなかった・・・あの時から彼のことを好きだったのかも
しれない。
「電車来たみたいですね」
「・・・あ、敬語」
「すいません、やっぱりタメ口は慣れなくて」
「喋りづらい?」
「かなり」
「じゃあ敬語禁止タイムは終わり、普通に喋っていいですよ」
「よかった、助かりましたよ、正直途中から敬語で喋ってませんでしたけど
 朝比奈さん気付かないから」
「ホント?」
「ホントです」
「もう」
「ハハハ」
やっぱり彼といると時間がたつのがはやい、もう駅についた
「なにか見たい映画ありますか?」
改札を出たところで彼が言った
「わたし映画って見たことないから」
「未来には映画ないんですか?」
「あり・・禁則事項です」
「・・・じゃあ恋愛ものでも観ましょうか」
といって手を握ってくれた、このお願いはずっときいてくれるみたい
映画館について見た映画は軍人さんと恋人のお話で最後は彼が戦場で死んじゃって
でも女の人のお腹には赤ちゃんがいて一人で育てるってなったんだけど実は
彼は生きていたっていうとってもいいお話でわたしは涙が止まらなかった
「どうでした?」
「う・・・う・・う」
涙が止まらない、こんなんじゃ彼に嫌われちゃう、泣いてばっかりじゃ・・・
「朝比奈さん」
彼が抱きしめてくれた・・・もっと涙が止まらなくなる
「涙が止まるまでこうしてますから」
途中からは映画のことなんて考えてなかった、
彼と離れたくない、もう未来なんて帰れなくていい、家族に会えなくても彼と
いられるのなら構わない、
ずっとこのまま・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「もう、大丈夫」
どれくらい経ったかわからないけど、ずっと彼は抱きしめていてくれた
「もう大丈夫だから」
彼は離してくれない
「・・・俺は朝比奈さんを離しませんから、なにがあっても絶対離れませんから」
彼の声はなぜか震えていた
「キョン君?」
「約束してください俺から離れないって」
「どうしたの?」
「・・・約束してください」
彼の声がいつになく真剣だった
「はい、離れません約束します」
「・・・・なんてね、映画を観たらカッコいいこと言いたくなっただけです」
「ホント?」
「ホントです、あ、この会話今日三回目ですよ」
「ホント?」
「何回やる気ですか?そろそろいきましょう、腹も減ってきましたし」
「はい」
彼と並んで歩く、もちろん手は繋いだまま

 いつかまた

 手を繋いで街を歩く、この時はまだ、別れがすぐそこに迫っているなんて
わたしにはわからなかった。
「そろそろ帰りますか?」
時計を見るともう六時、
「そうですね」
家についたときはもう七時近くになっていた、
玄関を開けたると彼が不意に言った
「今日泊まってもいいですか?」
「え?でも明日学校ですよ?」
彼の目はとても真剣で、でもなぜか涙を堪えているようだった
「離れたくないんです」
と言ってわたしを抱きしめた
「・・・離れたくないんです」
彼の体は震えていた
「わたしは構わないけど・・・今日のキョン君なんか変だよ?」
「気のせいですよ、ちょっと疲れただけです」
やっぱりなにか変、なにかあったのかな
「俺もう腹減っちゃいまして、なんか作ってください」
わたしから離れた彼の目はいつもの優しい目に戻っていた
「それじゃあ美味しいご飯作るから待っててね」
「手伝いますよ、鍋振るくらいならできますから」
「はい、じゃあお願いします」
初めて二人でつくった夕飯はとっても美味しくて、幸せってこういうことを
いうんだと思った
お茶を飲みながら他愛のない会話をする、ふと時計を見るともう10時になっていた
「お風呂汲んできますね」
わたしがソファーから立ち上がると彼がわたしの手を掴んで言った
「今日は離れないでください」
「でも」
「いいから」
と言って唇を重ねてきた
「せめてシャワー・・・」
「いいから!」
「あ・・・」
そのまま彼と愛し合った、何度も、何度も、お互いの存在を確かめるように

「・・・だ!!・・・・でも止・・・」
どうしたんだろう、大きい声を出して
「いくらあなたの言うことでも俺は絶対に嫌だ!!」
目を開けると彼が誰かと言い争っている、誰だろうあの女の人は
「どうしたの?」
彼は驚いた顔でこっちを見ている、
「起きちゃったのね、でもそれも既定事項です」
どこかで聞いたことのある声
「あなたは誰?どうしてわたしの家にいるの?ねえキョン君!」
彼は黙って女の人を睨んでいる
「わたしは5年後のあなた、あなたを本来の時間に連れて帰るためにきました」
「え?」
「これ以上あなたがキョン君と一緒にいるととってもまずいことになるのは
 あなたもわかるでしょう?」
「そんなこと関係ない!!俺は朝比奈さんと一緒にいたいんだ!!」
黙っていた彼が急に怒鳴った
「俺は絶対に朝比奈さんを離さない!!」
彼が痛いくらい強くわたしを抱きしめる
「ごめんねキョン君、でもこの時間のわたしが未来に帰ることは既定事項なの
 だってわたしもそうやってあなたと別れたから」
「嫌だ!!」
「朝比奈みくる、第一級厳礼です、わたしと一緒に帰ります」
「だめだ!!」
痛いよキョン君・・・
「ごめんねキョン君・・・わたしの意思に関係なく第一級厳礼は遂行しなくちゃ
 ならないの・・・」
「・・・朝比奈さん?」
わたしの肩が彼の涙で濡れる、泣かないで、わたしも耐えられなくなるから
「ごめんなさい、わたしも帰りたくないの、でも・・・・」
「離れないって約束したじゃないですか!」
「・・・・ごめんなさい」
「朝比奈さん!いかないって言ってください!!」
・・・もう耐えられない
「わたしだってキョン君と離れたくない!キョン君とずっと一緒にいたい!でも
 仕方ないの!わたしの力じゃどうにもできないから!」
「未来は不確定だって言ったじゃないですか!!じゃあ俺とずっと一緒にいる
 ことだってできるはずだ!」
「TPDDで過去に来る時に命令には逆らえないようにするの、
 それは本人の意思ではどうにもできないこと、うまく言語化できないけど
 絶対に破れない誓いみたいなもの、だからだめなのキョン君、
 わたしでもどうにもできない、未来が変わってしまうから」
未来のわたしも泣いていた
「わたしだってこんなことしたくないの・・・でも既定事項だから」
「そんな既定事項なんておれには関係ない!」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい」
「なんで謝るんですか!?駄目です!!絶対に嫌だ!!」
「ごめんねキョン君・・・・」
「あ・・・」
わたしを抱きしめる力が急に弱くなった
「彼には眠ってもらいました・・・ごめんね」
彼から離れると彼はそのままベッドに仰向けに倒れた
「帰るから準備して」
「わかりました・・・じゃあ服を着るからちょっとまっててください」
泣いたって仕方ない・・・いつか未来に帰らなきゃならないことはわかっていたから
けど、もっと一緒にいたかった、もっと話したかった、もっと見ていたかった。
必死に涙をこらえようとする
「我慢しなくていいのよ?泣きたい時は泣かないと、それにこれが永遠の別れになる
 わけじゃないから」
未来のわたしが抱きしめてくれた・・・
「う・・うぅ・・・・うぅぅ」
どれくらい泣いただろう、もう一生分泣いたと思う、けどまだ涙が止まらない
「そろそろいかないと、最後にしたいことがあるでしょう?」
未来のわたしも泣いている、わたしは5年経っても泣き虫なんだな・・・・
最後にしたいこと・・・手紙を書こう、わたしの時代には手紙なんてないけど
思いを伝えるのには一番いい方法だから・・・
 「はい、書けました・・・ホントに彼に会うのはこれで最後じゃないですよね?」
未来のわたしに問い掛ける
「ええ、現にこうしてわたしが彼と会ってるでしょう?」
なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう
「でも・・・五年経たないと会えないんですか?」
「・・・それは禁則事項。あなたの頑張り次第よ」
頑張り次第、か・・・・でも会えないわけじゃないと思うと少しだけ楽になった
「それじゃあいきますよ?」
「あ・・・最後に」
寝ている彼に布団をかけてわたしは最後のキスをした・・・


 部室で

 五年前に未来のわたしは頑張り次第と言ったけど、
結局五年経ってしまった。でもやっと彼に会える、彼の声が聞ける。
さっき授業の終わりの鐘が鳴ったからそろそろくる頃かな
最初になんて言おう、でも今から会う彼はわたしのことをまだほとんど
知らないんだ・・・そうだわたしとあんまり仲良くしないでって言っておこう
あの日が少しでもつらくならないように・・・・

終わり


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