「ちょっとまって有希んこ!」
まだ倒れないでぇ・・・私は・・・キョン君にっ・・・言いたいことが・・・
「はあ・・・はあ・・・キョン君・・・キョン君はぁっ・・・」
有希ちゃんの指の示すところにキョン君はいた。けれど・・・
「もう・・・手遅れ・・・?」
そんな・・・。
キョン君は、苦しそうな顔をしたまま、床に倒れていた。
だから早く二人の所に行って、言えばよかったのにぃ・・・。
私の馬鹿ぁ・・・。もっと早くみつけて・・・キョン君を
もう一度、思いっきり、抱きしめて言えばよかったのにぃ・・・。
「キョン君・・・大好き・・・って・・・!」

ハルにゃんと他の三人の正体については、薄々気がついていた。
きっと、古泉君は超能力者で、みくるは未来人、有希ちゃんは宇宙人で・・・
ハルにゃんは・・・
「神様・・・なんだよね?」
有希ちゃんは首をゆっくり縦に動かし、肯定した。
「うすうすは気づいていたの・・・。だけど、言うのがとても怖かったから・・・」
私は、誰に謝ろうとしているのだろうか。

キョン君を探しているときに、有希ちゃんとキョン君が話しているのを見かけた。
本当はもっと早く二人のところに行けばよかった。
けど、足が動かなかった。
                                                                      ハルにゃんの正体を、この耳で聞いてしまったからだ。
恐怖で、前に進もうとも動けない。
私の予想が的中してしまった。みくる、古泉君、有希ちゃんとハルにゃんの正体を。

おそらく、キョン君の記憶を消した理由は・・・
「将来・・・結婚するんでしょ・・・?キョン君と・・・ハルにゃんがぁ・・・」
完全に涙声になってる。けど、もうどうでもいい。
有希ちゃんが、私の言葉に
「そう」
と返事をしたからだ。

「未来の・・・決まりごとなんだよねっ・・・」
有希ちゃんが頷く。
「やっぱり・・・そうだよぉ・・・。無理だったんだ、最初からぁ・・・」

「キョン君とぉ、お付き合いしようなんてぇ・・・!」
有希ちゃんは、ずっと私を見ている。
「許婚とか嘘をついてまで家に連れて行って・・・
私のことを・・・好きになってくれるって・・・そう思っていたけど・・・」
やっぱり、無理だった。
みんなは、キョン君をだます作戦に参加してくれた・・・。だけど・・・
「勝てないよぉ・・・ハルにゃん・・・」

                                                                            私は、自分のことをあんなに全部言うつもりは無かった。
だけど、キョン君を見ていると、私のいろいろな事を知ってほしいって・・・ずっとそう思っていて・・・
「あ~あ、私たちの劇はこれで終演にょろね・・・」
誰に言うわけでもなく、私はつぶやいた。
私まるで、舞子さんのようだったなあ。踊っているときは、
別世界にいるかのような感覚になるのに、演舞が終わると、
現実の世界に叩きだされる。

ずっと、永遠に舞っていたかった。
だけど、いずれ疲れ果ててその夢も終わってしまう。
限界が、恨めしい。
「どうせ私の記憶も消すんだろっ?」
「そう、あなたと彼との特別な
「恋愛感情にょろっ!」
(・・・あ・・・言ってしまった・・・)
急に顔が熱くなる。
(ここ・・・こんなに恥ずかしいなんて・・・)
ああ、有希ちゃんがずっとこっちを見ている。
だけど、恥ずかしがってばかりじゃいけない。
「有希ちゃん!」
「なに」
「二十秒・・・いや、十秒だけ、キョン君の目を覚まさせて!
その時の記憶も消していいから!」

むちゃな質問とは分かっている。
だけど・・・
「なにをするの?」
ずっと心に決めていたことを言う。
大丈夫、きっとキョン君も、それを望んでいるはず。

私が今からする内容を有希ちゃんに言うと、
「問題は無い。ただ、怪我だけは注意して」
・・・怪我するかなぁ。ひょっとしてそんなものだったりして。
・・・なんせ初めてだもん。
自然と心臓の高鳴りが速まる・・・。
(だめ・・・もうこれ以上我慢できない・・・)
「有希ちゃん!お願い!」
「了解した」
キョン君の体が、ぴくりと動いた。久しぶりに感じる、彼の匂い。
ゆっくりと、キョン君の目が開いた。


あれ・・・なんだ・・・目が覚めたぞおい・・・。
鶴屋さんと別れる覚悟がついたのに・・・
とりあえず目を開けてみようか・・・。

何も変わらない気もするが。
「あれ・・・ってあ」
むぐうっ!!??
急に口が塞がれた。
・・・これは夢だ、夢に違いない。
俺のあまりの情熱が作り出しだ、幻影だ!
・・・しかし、やけに現実身があるな・・・
暖かかった鶴屋さんの唇の温度が、今ちょうど俺の唇に・・・。

ふと目を正面に向けると、鶴屋さんの顔がそこにいた。
ああ・・・これは幸せな夢なんだ。
こんなにいい夢が見られるなんて・・・。
夢、そうですよね、鶴屋さん。

・・・だから、夢の中で泣かないで下さい・・・。
涙が俺の唇を伝う。笑ってください。お願いだから・・・笑って・・・。
笑って、別れましょう。

あなたに・・・泣き顔は似合わないからっ・・・!
(大好きです、鶴屋さん・・・)
俺は、夢の最後まで鶴屋さんの笑顔を願った。


急に力が弱くなったと思ったら、キョン君は体をだらりとさせて、
ゆっくりと床に倒れた。
十秒が一時間のように思えた。
キョン君の顔を見て、私は安心した。
キョン君が、もうあの苦しい顔をせずに、優しい顔で眠っていたから。

もう、これで決心をつけた。心残りは無い。
「有希。さあ、私の記憶を消して」
「・・・本当にもういいの?」
初めて見せた有希ちゃんの優しさに戸惑う。けれど、
「わがまま言っちゃいけないよ。これ以上すると、キョン君の記憶を守ろうとして、
大事なSOS団の部員、有希ちゃんを殴ってしまうかもしれないから」
たとえ、私の大切な記憶が消えようとも、大切なSOS団に傷をつけたくない。
それが、私の決心したことなのだから。

すっと、有希ちゃんの手が私の方に向けられる。
後悔は、もう無い。

―キョン君・・・私・・・たくさんの秘密をばらしたから、キョン君の秘密も、貰っちゃうね。

あなたが・・・私のファーストキスの相手だということを―

ゆっくりと、意識が途絶えるのを感じた。






彼女の意識の凍結を確認。
直ちに情報操作を行う。

・・・?うまくいかない。
原因は、おそらく私。
私の何かが拒んでいる。
何故拒む?
解答は、得られない。
だが、実行に移さなければ、彼らの意識は途絶えたまま。

強制ファイルを起動。

情報操作は実行され、・・・無事終了。

あとで古泉一樹の機関の手により、彼を家に戻させる。
彼とその家族の記憶も修正した。
この屋敷にいる全員の記憶も書き換える。

これで、すべては規定事項に従った。

だが・・・
彼の言葉とその顔が、無意識に蘇る。

『その何パーセントに賭けてみようとか思わないのか!?』
悲痛なその顔。
どうして私は思い出す?
私にとっては不要な情報のはず

いや、違う。
彼のその顔が、私の神経に大きな衝撃を与えたから。

『私ハソノ賭ケニ挑ムノカ?』
自分に聞く。答えは、確立論がそれを制する。
『無謀ダ』
そのはず。ではなぜ、彼の顔がいつまでも頭に残っている?
そっと、私の本当の答えが浮かんできた。

「彼と彼女の感情を失いたくない」
無意識に声が出てしまう。

つまり、私はごく僅かな可能性に賭けるのか?

『無謀』という言葉を消し去る。
私は今後、「規定事項に反する行動」を行うだろう。
たとえ規定事項を犯しても、未来に大きな変化が起きなければそれでいいはず。
むしろ、
「私が今の規定事項に反することをするのが、本当の規定事項?」
正しいかどうかは分からない。
だけど、
「可能性があるなら、私はその可能性に賭ける」
彼がこの思いを失ったまま未来を迎えるよりかは、

この可能性を信じていくほうがいい。

「必ず、あなたたちを幸せにする」
そう、決心した。
彼女と、同じように。



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