「ちょっと、なにを話していたのよ」
鞄を持って帰ろうと部室に戻ってきた俺に、好奇心と期待感、そして暇だから
こそくるイベントへの「飢え」がうまいこと中和して100Wぐらいは出るのでは
ないかという笑顔を浮かべたハルヒが話しかけてきた。
「別に。ただ鶴屋さんと話をしただけさ」
「話ってなによ」
俺は肩をすくめ、
「プライバシーの問題だ」
と、ここからハルヒの「SOS団に秘密ごとはないのよ!」といった攻撃が始
まった。まあ、はじめから想定はしていたことだ。が、俺の「騒いでいるうち
に即ドアを開けてゴー!」作戦(ハルヒみたいだな)が使えそうにない。なぜか?
ハルヒが怖すぎたからだ。体験した事もあるだろ?先生に職員室に呼ばれ、説教
されているまさに其の 時に等しい。逃げればいいという単純なことができない。               先生の怒った顔が子供 にとっては鬼であるかのように、俺はそこに立ちつくすことしかできない。
ちょうどいまハルヒは、俺にとっての鬼になった。
「ちょっとキョン、聞いているの?!」
ハルヒ、胸倉掴むな。なんでそんなに怒るんだよ。マジで怖いから!この状況、
なんとかして打破せねば。鶴屋さんが校門前で待っていてくれている。これ以上
待たせるわけにはいかない。というかいい加減左にいる古泉のにこやかスマイル
に耐えられなくなってきた。ちくしょう、なにが面白い?!
本当のことをいうか?
「俺、一日だけ鶴屋さんの彼氏になったwww」
とか言ってしまおうか?いや、それはそれで鶴屋さんに迷惑がかかる。このとんでも
ない女のことだ、すぐさま鶴屋さんを見つけ出してはいろいろと聞き出すだろう。
というか俺が鶴屋さんの彼氏になったということすら「言い訳」ととらえて納得し
ないだろうな。
鶴屋さんの家に行く」はどうだ?いや、そうするとハルヒたちが押しかけてく
るかもしれない。ただでさえ「しきたり」の忙しい準備に追われている中、あのハルヒが来たら…
なんか先生の前で言い訳を考えているみたいだな。事実だが。
「なんか言いなさいよ!」
お前そんなに退屈なのか。まあ年がら年中暇をもてあましているからな。
バタン
長門の本を閉じる音が聞こえた。それに伴い、一瞬、ハルヒの注目が俺からそれた。
今だ!
「明日話す!」
と俺は一目散に逃げた。こういう「ここしかないチャンス」にぶち当たると、意外と
体は言うことは聞いてくれるのだな。
「あーっ!ちょっと待ちなさ・・キョン!」



「すいません、遅くなりました」
俺は校門前に止めている黒塗りの車の中にいた鶴屋さんに、遅れたことを謝った。が
「・・・」
反応なし。
校門前にある時計台を見た。5時・・23分か。鶴屋さんが俺を呼んだのは5時。
そして鶴屋さんが車に乗ったのは、まあ10分からか。13分でこんなに怒る人だったか?
「どうぞ」
と運転手らしき人(おそらく初老あたりだろうか)がドアを開けてくれた。
やけにぴりぴりしているな。
「あ、どうも」
運転手が怪訝な顔を見せる。俺は心のなかで
(どうも、はまずかったかな)と舌打ちをした。
車で走ること3分経過。一向に口を開かない鶴屋さん。気まずい空気が車の静寂を作り出す。
これが長門相手なら気も楽なのに。普段明るい性格の人が黙ると、
それだけで元の明るさと比例するように、静寂の場を作り出すパワーが強くなる。
俺はそんなことを考えていた。
「あと、どれくらいで着くのですか?」
と鶴屋さんに聞いてみた。とにかく、この空気を換えなければ。
「後、10少々で着きます」
言ったのは運転手じゃなかった。
鶴屋さんだった。
俺は(緊張しているのか?) と思い、鶴屋さんの顔を見た。緊張なんかしてない。
むしろ凛とした顔つきで、窓に顔を向くことなく、真正面を向いている。
俺は驚きと共に、(まるで、別人だな・・・)と感じた。
やけにうけを狙っている性格のアイドルとかを見ていると、一発で
(私生活ではだらしない格好で、はしたないことをしているのだろうな)
というのが想像できる。
だが、今の鶴屋さんを見たら、これが不思議なことに、いつもの鶴屋さんの顔が
頭の中で浮かび上がらない。まるで、これが本当の性格であるかのように。

まさか・・・学校では嘘の性格を使っていたのか?とすると、よくもまあ
ハルヒのテンションに付いていけるものだ。
「あら、私の顔に何かついているのかしら?」
と、今度は鶴屋さんが逆に話しかけてきた。
俺はずっと鶴屋さんの顔を凝視していたことに気づいた。
「あ、ああ、すみません。つい、見とれてしまって」
正直、マジだ。本気と書いてマジだ。
鶴屋さんはにっこり、
「口がうまいのですね」
と微笑んだ。
この瞬間、俺の顔が赤くなっているのを感じた。
赤い顔を見られまいと、すぐに窓のほうに顔を向けた。
背後からにこやかに笑っている鶴屋さんが想像できる。というより、
見えます。窓に鶴屋さんが、まさに「美しい笑顔」をしているのを。


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