新川さんがあまりにもすさまじい変貌を遂げていたので少しばかり現実から意識を手放していた俺だが。
「ちょっとキョン、なにぼーっとつったってんのよ。さっさとコートの中に入りなさい!」
俺の耳元で響くハルヒの大きな声で現実に引き戻された。それにしてもコートの中とは何だ?確か、ハンドボールするには人数が足りないんじゃなかったか?
と、いうよりだ。屋外の校庭でハンドボールをするってのもおかしいと思うんだぜ?
「はあ?なに言ってんのよあんた、大丈夫?ハンドボールはできないからドッヂボールをすることになったってさっき説明したじゃない」

My name was... 第二話「ハンドボールの代わりにドッチボール」

どうやら俺が現実逃避している間にハンドボールの代わりドッヂボールをすることになったらしい。
どんな紆余曲折があってハンドボールがドッヂボールに変わったのかについては説明してくれなかった。
でも、別に聞きたいとも思わない、どうせハルヒの気まぐれと思いつきとゴリ押しでどうにかしたのだろう。
これが古泉の言うハルヒの望みだったりするわけか?「みんなでドッヂボールをする」……それはない……よな?
いや、ハルヒだからわからん。どうしてドッヂボールなのかはハルヒにしか知りえないことだろうしな。
「なあ、どっちにしろ岡部の側の人数が少ないことには変わらないんじゃないか?」
なんせ岡部を含めて三人しかいないとかいうSWATもびっくりな超少数精鋭チームだ、谷口や国木田が精鋭とは思ってなどいないがそこは言葉のあやだ、気にしたら負けだぞ。
「まあ、こっちとしては七対三でよかったんだけど向こうがあまりにもうるさいから、仕方なしにこっちから二名相手チームに移ってイーヴンってことになったわ。全く、公平をモットーとする心優しき団長様じゃなかったらこうはならなかったでしょうね。感謝してほしいものだわ」
いや、そりゃ七対三ってのに文句の一つも出るのは当たり前じゃないだろうか。しかし、言うに事欠いて『公平をモットーとする心優しき団長様』だ?全く正反対にもほどがあるぜ。
「なによその顔、なんか文句あんの!」
文句ね、お前に対する文句を紙に書き移したら四〇〇字詰め原稿用紙が天井に届くぐらいには重なると思うがな。
だけど俺は紳士で空気の読めるナイスガイだから、そんなことを思っても口には出さないのである。
口に出したら被害をこうむるのは俺だしな。まあ、つまり結局は利己的な考えなわけだから紳士とは言えないかもしれない。
「そんなことより、その二名ってのは誰と誰だ?」
「もちろん助っ人の二人よ、SOS団同士で戦うわけにはいかないでしょ?」
ああ、つまりは鶴屋さんとスネ……新川さんのことか。SOS団同士で戦わないようにするというが鶴屋さんだってSOS団の名誉顧問だったはずだがな。
しかし、そんなことを言ったら谷口も準団員だし収拾がつかなくなるしハルヒだってわかってるだろうから揚げ足を取るなんてことはしないのだ。
俺は紳士だしな。
「じゃあ、そろそろ始めるわよ!負けたりしたら許さないんだからね!」
そう言い残すとハルヒは元気よくコートの中に走って行った。俺もそれについてコートにはいる。
どうやら、他の人たちもドッヂボールを始める準備はできているようだ。全員既にポジションについている。
見る限りこちらの初外野は長門で向こうの初外野は谷口らしいな。
初外野とは文字通り最初からいる外野であり、外野が二人以上になったら好きなタイミングで内野に戻ることができ、もし戻らなかったとしても時間切れになった場合内野として数えられるというものだ。
これにより試合に微妙な戦術性が付与される。
例えば内野に居てもすぐやられてしまう朝比奈さんを初外野にして最後までもどらせなけれ内野人数が底上げされるなどだ。
しかし、上の例は初期の外野の攻撃力が皆無になってしまうのでお勧めできない。
初外野には能力の高い選手を配置するのがセオリーだ、それを考えると長門は適任と言える。
向こうの谷口というチョイスもそのセオリーに従ってのものだろう。あいつ運動神経はなかなかいいからなあ。(作者注:実際にそんなルールやセオリーがあるかどうかなどは不明)
コートの真ん中でハルヒは岡部と話をしている。最後に細かいルールの確認でもしているのだろうか。ふと、相手コートの隅に目を向けるとそこには大きめのダンボールが鎮座していた。
なんでこんなところにあんなものが――――?
俺のその疑問は、「ボールはハンドボールを使用!あと、一度外野になったら戻って来れないわ!一度負けた奴がのうのうと戻ってくるなんて見苦しいわ!」
ハルヒのやたら響く声とともに掻き消された。
「うむ、ハンドボールを使用とは実に素晴しい」
岡部がそんなことを言っている。ハンドボールが絡めばなんでもいいのかこいつ。
ハンドボールはドッヂボールと比べると小さいからキャッチし辛いな……。これは少し注意が必要かもしれない。
しっかし、一度外野になったら戻って来れないとは、なんともハルヒらしいというかなんというか、このルールだと早いこと勝負がつきそうだ。
「ジャンプボールは背の高い古泉君がやるわ、そっちは誰?」
「俺がやろう」
どうやら向こうは岡部がジャンプボールをするらしい。それに対してこっちは古泉だ。岡部を相手にするには、少々頼りないと言わざるをえないだろう。
なんたってハンドボールをこよなく愛する男だ。俺の知識ではハンドボールは空中戦が要らしいので恐らく岡部のジャンプ力もかなりのものだろう。
「古泉君、がんばんなさいよ!あと、キョン!しっかりやらなかったらあとでひどいわよ!」
ひどいっていったいなにをされるのだろうか、畜生、考えたくもない。あと古泉、その緊張感ないニヤケ面をなんとかしやがれ。やる気あんのか?あ、一応あるんだ、そう。
「へいへい、団長様の命令にしたがいますよ。つか、お前も開始早々アウトとかにならないようにな。なったらおもいっきし笑ってやる」
実際、こいつがそんなことになるとはこれっぽっちも思っていないがな。コートに一人こいつだけが佇み敵は全て倒れ伏す様が容易に想像できるぜ。
「ふふん、言うようになったじゃない。上等よ!もし、あたしが先にアウトになったら何でも一つだけ言うことを聞いてあげるわ!そのかわり、あたしよりあんたが先にアウトしたらあんたは一日あたしの奴隷ね!」
「ちょっとまて、俺が先にアウトになった時の方が心なしかひどい処遇に感じられるのは気のせいか?」
一回言うことを聞くに対して一日奴隷じゃ割に合わない。せめてこちらと同じにしてくれよ。
「気のせいじゃないわ。これでも譲歩した方よ?あたしがキョン如きの言うことを聞いてあげるんだからそれぐらいは当たり前でしょう?ああ、文句は受け付けないわ、これにてこの議論はしゅーりょー。じゃあ、そういうことだから!」
言いたいことだけ言ってハルヒは去って行った。どうやら朝比奈さんを激励もといセクハラしにいったようだ。
それにしても朝比奈さんの体操着姿は実に似合っていて美しい。まあ、朝比奈さんに似合わない服装などこの世界に存在するとは思わないがね俺は。
「よーし、じゃあはじめるわよ!ジャンプボール!」
朝比奈さんを解放したハルヒが元気の良い声で仕切る。そういうのは審判がやるもんじゃないのか?ん――――?
「まて、ハルヒ。審判は誰がやるんだ」
「あ――――――――」
案の定、ハルヒは審判を決めていなかったようだ。ハルヒは私が選手兼審判をやるとかなんとか言っているがこいつが審判をやったが最後、自分に都合の悪いことは全部目をつぶる極悪審判になるだろう。
というわけで、俺らはまず審判探しに学校内を東奔西走する羽目になったのだ。忌々しい、ああ忌々しい。最初から審判ぐらい用意して置けよ岡部。
しかし休日に学校に居る生徒は運動部の方々ばっかりで、こんなことを頼めるほど暇そうにしている人はなかなか見つからないわけでして。
「みつからんなあ」
「みつかりませんねぇ」
おい、古泉、なんでお前まで隅っこでさぼってんだよ。俺の分もきりきり働きやがれ。
「さぼりとは人聞き悪いですね。休憩ですよ休憩。ほら、コーラです。いつも奢られていますのでお代は結構ですよ」
「おう、サンキュ」
なかなかどうして気がきくじゃないか。長い間外にいて喉が渇いていた所だったからな。
ふと、右を見てみると長門がコンピ研の部長の袖をひっぱって連れて来ているのが見えた。長門に袖を引っ張られるだなんて、うらやましいなこのヤロウ。
「………つれてきた」
「ああ、見れば分かる。あと、報告はハルヒに頼むぜ」
「涼宮ハルヒは今校舎内に居る。なので、先にあなたたちに報告した」
頼むから校内であまり問題を起こさないでくれよハルヒ。SOS団ってだけで俺までみんなから白い目で見られるのは御免だからな。
「それでは、コート脇に戻りましょうか?朝比奈さんも既にそこにいますし涼宮さんを待つならそこでよろしいかと」
古泉の言う通りに俺たちはコート脇に移動することにした。
移動中、ふと思ったことを長門に問いかける。
「にしても、なんで部長さんなんだ?彼にも用事があるだろうし、もっと適任が居るだろうに、喜緑さんとかさ」
「彼女は申し出を拒否した、彼女自身が必要以上に涼宮ハルヒと関わることは彼女にとって好ましい事象ではないからだと思われる。情報統合思念体は――――――――」
「あー、わかった。だから、こいつってわけか……。部長さんは断らなかったのか?」
「ぼ、僕は断ったとも!これから用事が「……黙って」すみません」
はあ、この人も災難だな。ハルヒと関わったばっかりに不幸になっていく人達は実に多い、その筆頭としてこのコンピ研の部長さんがあげられる。
ところで、長門さん。断られたのに無理やり連れてくるのはどうかと思いますが…………。
「………断られてなどいない、彼は自分の意志でここに来た」
「嘘だっ!僕は無理やっ、ぐぇっ、すいませんでしたっ、うぐっ、うっ、はなしてくっっ」
思いっ切り胸倉を掴み上げる長門に恐怖を覚える今日この頃――――。
――――ってぇ!なにやってんだ長門!
「……………交渉」
それは脅迫と言うんだ長門、彼を放してやれ。いくらなんでもやりすぎだ。
「そう」
手を放す長門。崩れ落ちるコンピ研部長。
「がぅっ、はぁ゛っ、はぁっ……」
「きゃっ、大丈夫ですかぁ?しっかりしてください」
部長氏を助け上げようと手を伸ばす朝比奈さん、ぬかった!まさかここまで朝比奈さんと接近していたとは!接触だけはどうしても避けなければならない!ええい、ままよ!
「死ねぃ!」
「ほげっ!」
「ひゃぅ!」
俺のとびひざ蹴りが部長氏の人中にクリーンヒット。倒れこむ部長氏。すまない、恨むなら朝比奈さんの優しさを恨め。
「ちょっとキョン君なにやってるんですかぁ!死んじゃいますよぅ!」
「大丈夫です峰打ちですから、それにこれは事故です」
「そうなんですか、安心ですぅ」
「膝蹴りに峰打ちなんてあるんですね。いやはや初めて聞きましたよ」
古泉がもっともな突っ込みを入れるような真っ赤な嘘だが朝比奈さんの天然ハートはそれを信じ切ってしまったようだ。
未来の人はみんなこうなのか?それとも朝比奈さんだけがこうなのだろうか。おそらくは後者だろう。
「にしてもなかなか起き上がって来ないですね。やはりどこか強く打ちつけたりしてしまったのではないでしょうか?」
「しゃしゃんな古泉」
いつも思うが、ぐだぐだうるさいんだよ。
「ぶち殺すぞ」
「すいません」
誰だ俺の事をヘタレだとか言った奴は?そりゃ、いつものスマイルのまま耳元でそんなことをつぶやかれたら誰だってこうなるだろう?
ああ!?誰がチキンだって?誰にも……チキンだなんて言わせない………!!
っと、少し頭に血が上りすぎていたようだ。別に俺には時間旅行のできる車を持つ博士が知り合いにいたりはしない。
「はぅぅ、どうしましょう、救急車よばなきゃ」
「………必要無い、あと数十秒で彼の意識は回復する。……命に別状もない」
長門がそう言うならば安心だろう。よかった、この歳で前科持ちになるのは御免だったからな。
「全く、みくるちゃんったら心配性ね。こんなのこうすれば起きるのよ!」
いつの間にかあらわれたハルヒが部長氏をゆすって頬を叩き始める。いつの間に現れたんだ、ブヨかこいつは。
「起きろー、起きろー」
ぱあん、ぱあん、小気味よい音がリズミカルに辺りに響く。心なしかどんどん力が強くなっている気がする。
「涼宮さん、その辺にしておいた方が………」
「いいの!こういうのは殴れば起きるって相場が決まってるんだから!ああ!もう!起きなさいよ!」
ハルヒが大きく拳を振り上げて部長氏の顔に振り下ろす。
――――ぼぐり
嫌な音がした、そして周囲から音が消えた、だがそれも一瞬、みんなが目の前に広がる状況を確認できるようになった途端。
「きゃああああああっ!?」
「どわああああああっ!?」
「ひぃぃ!ひえぇぇぇぇ!?」
「…………ユニーク」
「これは…………」
辺りに悲鳴がこだました。
五者五様の反応を見せた後にもう一度現状を確認する。目の前には先ほどと同じように力なく横たわる部長氏がいる。
先ほどまでと違う点は唯一つ、彼の首が半回転していることだった。
「こ、これって大丈夫なんですかぁぁ!?」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとこれ!どうすればいいのよキョン!」
「俺に訊くな!まず、落ちつけハルヒ!素数だ!素数を数えろ!」
えと、2…4…6…8…10…しまったこれは偶数じゃねぇか!
「あなたこそ落ち着いて下さい、教えてさしあげた呼吸法が乱れています。勇気です。恐怖で乱れた呼吸を勇気で整えてください!人間賛歌は勇気の賛歌!首が半回転していても部長氏は勇気を知らないっ!ノミと同類よォォォォッ!震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!」
「そう言うあなたこそ錯乱している。ここでする呼吸法として波紋呼吸法は適切ではない。私が今からする呼吸法を真似るべき。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
そうか、さすが長門ッ!このような状況でも冷静に判断して俺たちに適切な指示を与えてくれるゥッ!そこに痺れるッ!憧れるゥッ!!
「「「「「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」」」」」
「………なにやってんだあいつら」
「………なんかめがっさ声をかけづらい雰囲気にょろ」
「鶴屋さんでも声をかけれないんだったら僕には到底無理だなあ」
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ってちがぁぁぁぅ!!!これは出産するときにやる呼吸法じゃねーか!たしかラマーズ呼吸法とかいう。
あれ、なんか俺たち変な目でみられてません?
「………そうだった、うかつ」
いや、うかつとかそういうことじゃなくてだな……。
「ええと、長門もしかしてお前でも手遅れだとか・・・?」
こくり、とわずかに首を傾ける長門。マジかよ。長門でもどうしようもない状況ってことはもう死んでるってことじゃ……。
「………生命活動は続けているが極めて危険な状態、早急に処置することが望まれる」
まてい、だったらさっさと治療しろよ。情報操作は得意なんじゃないか、おい。
「それでは早くその処置とやらをしましょう!」
ようやく少し落ち着いてきた古泉が部長氏に駆け寄る。
「やめておけ、若いの。素人が触ったら治るものも治らん」
しかし、それを制止する者がいた。自称、イロコィ・プリスキン――古泉が言うには執事の格好をしていない時の新川さんらしい――である。
「でも、早いこと処置をしないと……!」
お、珍しく古泉が慌てている。脳内itukiフォルダにこの光景を保nって何をやってんだ俺!
「落ちつけ、俺に任せろ、お前は手伝ってくれれば良い」
新川さんは部長氏の傍にしゃがみ込むとそう言った。
「はい、わかりました。では、まず何をすれば良いのでしょう」
「サバイバルビュアーを開いてキュアーを選択しろ。骨折には固定具と――――」
新川さんの適切な処置と彼が与えた軍用携帯糧食により部長氏は奇跡的に一命を取り留めたどころか完全に回復をしたのであった。
致命傷が治るだなんて、あの携帯糧食欲しいぜ。
「それじゃあいろいろあったが、審判をお願いできるか?」
「ああ、やらせてもらうよ………。断ったら碌なことにならなそうだからね……」
「あれ、あんた審判だったの」
新川さんが放置していたレーションを食べていたハルヒが意外そうな声をだした。
それ確かフナ虫が付いていたから捨てた奴だぞ。まあ気づいてないようだから黙っておく。
「って、知らなかったのかよ」
「そりゃそうよ、校庭に出てみたらあんたたちが倒れているこいつを囲んでいたから火事だ祭りだって感じで飛び出しちゃっただけだもん」
こ、こいつは……。なんの事情も分からないままマウント取って平手打ちを始めたというのか。ホント、とんでもないヤツだ。
******************************
「じゃあ、気を取り直してゲーム開始よ!」
ピィーと部長氏の持つホイッスルが鳴らされてボールが宙高くに舞い上がる。それを追い古泉と岡部が飛び上がる。
この空中戦を制したのは。
「ふんぬらばっ!」
予想通りハンドボール馬鹿の岡部、ほぼ最高点の高さにあるボールを掴みそのまま空中で投球モーションに入る。おいおい、ルール違反じゃねぇのかそれ!?
「いくぞっ!くらえぃ涼宮!」
馬鹿か、投げる前に誰を狙うか叫んだら簡単に、ってうおっ!!あぶねぇ!ボールが頬を掠めやがった。
「ちぃ……」
この舌打ちは岡部の者だ。ニャロウ、最初から俺を狙っていやがったな。
撹乱のためにハルヒの名前を叫ぶとは、なんてダーティーな奴だ。教師ってのは聖職者じゃねーのかよ。
「ふっふっふっ、勝つためにはどんなことをしても許されるのだよ」
まったく、どこの悪役のセリフだ。さて、こんなことを考えている暇は無い。既に外野の谷口は投球モーションに入っている。
その視線の先にあるのは――――俺だ。
「うおぉぉぉぉっ!」
咆哮と共に大きく振りかぶる谷口。それに合わせて俺も回避行動をとる。
しかし、待てど暮らせどボールは飛んでこなかった。そう、谷口はボールを握ったまま投げなかったのだ。
――――フェイントか!
が、気づいた時には既に遅かった。谷口のボールは――――朝比奈さんに優しく放られた。
「ひんっ!」
ぽすっと肩にボールが当たり可愛い悲鳴をあげる朝比奈さん。そして、コロコロとボールは転がるボールはハルヒによって拾い上げられた。
「谷口……。堕ちたわねあんた……。勝利のためにか弱いみくるちゃんを狙うだなんて」
「ま、最初のうちに人数減らしておかねぇといけねぇし。こっちも単位がかかってるんでな」
若干怒りのこもったハルヒの射抜くような視線受けながら谷口は飄々と答える。
優しく投げたとはいえ朝比奈さんにボールをぶつけた罪は重いぞ。いつか東京湾にコンクリート漬けにして沈めてやる。
「か弱い女の子相手でしかアウトが取れないだなんて東中ドッヂ最速の男が聞いてあきれるわ。昔は女にボールは投げないとか言っていたくせにね」
「いつの話だ。それにあれはボールを投げたうちにははいらねぇ。俺が投げたらお前らに視認できる球速にはならねぇからな」
「は、いうじゃない?東中ドッヂ最強の私にも見えないってこと?ありえないわ」
「ふん、これからの試合でそれはわかる。精々今のうちに強がっておけよ」
「あっそ、じゃあさっさとあんたを内野に引きずり出してやるわ!」
何かよくわからない自分達の世界に入り込んだ会話が終わると同時にハルヒはボールを投げる。
その球は烈風の如く空気を引き裂きながらコートを横断し、一直線に外野に居る長門の元に飛んで行った。
そして、ボールを受け取った長門は――――コートの端でぼーっとしていた国木田に軽くボールを投げた。
「あいたっ、やられちゃったかあ」
国木田はそのままやる気なく歩いて外野に出て行った。なんか気が抜けるなおい。さっきまでの熱血な雰囲気はどこに行ったんだよ。
「こらーっ!国木田っ!なにやっとるかー!」
「国木田っ!てめぇっ!」
岡部と谷口の怒号が飛ぶが国木田は気にしない様子で。
「どうせ避けようとしても長門さんが当てるつもりなら避けれるわけないだろうし、仕方無いと思うけどなあ。」
とかのたまっていた。まあ、それは真理だ。長門が本気で当てるつもりならそれこそブラジルあたりにいる奴でも簡単に当ててしまうだろう。
谷口はまだ外野からもどるつもりはなさそうだ。国木田に良い働きは期待はできそうにないから当たり前か。
こちらも、朝比奈さんは外野にいることにはいるが全く役に立つ気配がないしな。
今ボールを持っているのは鶴屋さん。楽しそうにボールをもてあそびながら誰を狙おうかと目を輝かせている。
「ドッヂボールとか久し振りだねぇっ。鶴にゃん張り切っちゃうよっ!覚悟っ!」
そういうとボールは俺に向かって投げられた。なんか妙に人気だね俺。弱そうに見えるのか?
だがしかし、がしりとボールをしっかりキャッチする俺。残念でしたね鶴屋さん、実は俺ドッヂボール得意なんですよ。
「ありゃりゃ、簡単にキャッチされちゃったよっ。ちょっと自信無くすなあ」
「いえいえ、かなりの球威でしたよっとっ!」
俺はボールを岡部に向かってぶん投げる。が、いとも簡単にキャッチされる。
「甘い、甘すぎる!」
そう言うと岡部はボールを谷口にパスする。谷口はそれを受け取ると姿勢を低くし力を溜めるような動作に入った。
その動作の間に皆の後退は終了している。何故、そのような動作を?と思っていたら谷口が口を開いた。
「行くぞ、涼宮……」
「わざわざそんなこと言わないでさっさと投げた方が良かったんじゃない?不意打ちでもしないとあんたがあたしに敵うはずないんだから。ほらっさっさと投げなさい」
「言ったな―――――ならば喰らうか、我が必殺の一撃を」
「さっさと投げろといったでしょ?どうせあんたにあたしを超えることなんてできないわ」
谷口が投球モーションに入る。嫌な予感がする。ハルヒが谷口に負けるだなんて想像できないが。
何故かこのままいけばハルヒは負ける気がする。このままじゃ、まずい――――!
「押し開ける(wawawa)――――――――」
ハルヒをサポートしようとしたが、動けない。谷口の放つ圧倒的なプレッシャーに圧され足が動かない。
それだけじゃない、嫌な汗と悪寒までしてきた。まるで蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
この空間で自由に動けるのはもはや谷口のみ――――!
「教室の扉ッ(ワスレモノ)――――――――!!」
しなやかな動きと共に谷口から撃ち出されたボールはこの静止した世界の中ゆっくりと――実際はものすごいスピードなのだろうが今の俺には、何故か一コマ一コマをスローモ-ションで再生しているかのように見えている。脳内麻薬が何だかんだってやつか?――ハルヒに吸い込まれていく。
それをハルヒは横にステップをしてかわそうとする。この球威で球は小さいハンドボールだ、キャッチすることはあきらめたのだろう。
ハルヒは確かにボールをかわした。このままいけばボールはハルヒを掠めるだけで当たることはない。
はずだった。ハルヒがボールをかわした瞬間、ボールはあり得ない軌道を描きハルヒの胸に吸い込まれていった。
「なっ――――」
その驚愕は誰の物か。確かにかわしたはずのボールが一度外した対象を再びを捉えたのだ。そしてそのままボールはハルヒの胸に命中した。
ボールはハルヒに当たった後に数回バウンドすると転がったが古泉が拾い上げられた。
ぴぃとホイッスルがならされる。ああ、つまりこれは。
「お前はアウトだ涼宮。らしくねぇな、昔のお前ならこれくらい回避できただろうに、こんなんじゃ興醒めだ」
「…………くっ」
ハルヒが悔しげに喉をならす。そりゃ悔しいよな。なんてったって谷口に負けたんだもの。
俺だったら自殺ものだね。だって谷口だしな。
ハルヒが外野に行き。ここで、長門が内野に戻ってくる。こころなしか長門も悔しがっているような気がした。
「なあ、長門」
「………なに」
こちらの呼びかけに答え、俺にその黒曜石のような目を向ける長門。
「ハルヒの弔い合戦だ。お前の気持ち思いっきりそのボールにこめてぶつけたやれ」
「……………そうする」
長門は僅かに首を動かすと古泉からボールを受け取った。
悪いがお前らの負けは今ここで確定した。長門を怒らせて無事ですむ人間などこの世界には存在しない。
「長門有希、スポーツテストの結果を見る限りお前がチーム最強だろうな……。来いっ、貴様を倒せば我々の勝ちは確定する!」
コートの真ん中にいた岡部が芝居がかかった口調で長門を挑発する。
「……………許可が出た、――――肉体限界限定解除」
長門は不吉な言葉を呟くとボールを思い切り振りかぶって投げた。
――――轟と凄まじい音が響いた。
次の瞬間、そのボールを受けた岡部は、ぐへぇと情けない声を出しながら地面に垂直に吹き飛び、フェンスに直撃した。
フェンスはその衝撃で崩れ、岡部はそれに埋もれている。ええと、長門さんよ。
「……………なに」
思いっ切りとは言ったがちょいとこれはやりすぎではないだろうか。いくら岡部とはいえこれは致命傷を負っているかもしれないぞ。
「……………大丈夫」
そうだよな、長門も死なないように手加減ぐらい「…………情報操作は得意」っておい!!
岡部が最初から居なかった事にするつもりかよ、いくら自分が殺人犯になるのがいやだからとはいえそれでは何の解決にも。
「…………違う」
あ、そうか……。SOS団が問題を起こしたことにもなるんだよな。すまな「………殺人ではないこれは事故」そっちかよ!
「安心してください。彼はまだ生きています」
生死を確認してもどってきたのは古泉、先ほどとは違って落ち着いている様子だ。お前の成長に感激だ。
「さきほど『機関』の経営する病院に運ばれました。どうやら全治三か月程度だそうです」
全治三か月!?百メートル近くぶっ飛ばされてコンクリのフェンス粉々に砕いて全治三か月だって!?
人間なのかあいつ?いや人間ではない。生物学上人間と呼ばれるものだとしても、こんな目にあって全治三か月で済むような生物を俺は人間と認めない。
「これで岡部はアウトね!次行くわよ次!」
「待て!まだ試合を続ける気かお前!」
人が一人病院に運ばれたんだぞ。普通ここは中止だとかなんかじゃないのか。
「SOS団の辞書に中止の二文字は存在しないわ!やることは最後までやる!それがSOS団のモットーよ!」
その辞書の販売停止処分を言い渡したい気分だ。
ボールを拾ってきたハルヒは投げる構えをとった。
「さあ、この程度じゃ終わらないわ。どんどん行くわよ!」
ボールが鶴屋さんめがけて投げられる。鶴屋さんはそれを受け止めるが勢いを殺しきれず一メートルほど後ろに滑ったがなんとかキャッチに成功した。
なんだよあのボール、投げる瞬間がみえなかったぜ?投げるハルヒもすごいが受け止めた鶴屋さんも只者ではないな。
「あいたたた、きっついねぇこれっ!こうなったら鶴にゃんも必殺アタックいっちゃうよ!」
必殺アタックだって?まってくれよ、そんな危険そうな球を俺に向かって投げないですよね……?
鶴屋さんを信じよう。いくらなんでもごく普通な一般人の俺にそんなボールを投げるはずが、、、
「キョン君狙うからね!」
あったー!!Why?何故、どうして!?なにゆえに!?
「一番リアクションがおもしろそうだったからだよっ!」
Oh,まんまと乗せられたぜベイベー?全く勘弁してくださいよ。
「じゃあ、めがっさきっついやついくよっ!にょろ~っ!」
妙な掛け声と共に打ち出されたボールはにょろ~んという奇妙な音を出しつつ、これまたにょろーんと超低速でせまってくる。
確かにこれは魔球とかその部類に入るだろう、しかし、必殺アタックというには少し厳しいのではないだろうか?
いや、触った途端に大変なことになるのかもしれない、なんせ鶴屋さんだ、それくらいのサプライズはあってしかるべきだろう?
故にこの場合、このボールには触れないように回避するのが得策だ。
しかし、名指しして投げられたボールを目の前にして、受けずに一目散に逃げ出すだなんて俺のプライドが許さない。
たとえ、その結果が惨敗だとしても、ここ退くわけにはいかない――――!!
意を決してボールを受ける。が、特に何ということはなく簡単にキャッチできた。
頭の中に疑問符を浮かべつつもそのボールを鶴屋さんに向かって投げる。
そのボールは特に何も起こらないまま鶴屋さんに当たった。
「にょろーん……。鶴にゃんの必殺アタックがやぶられたにょろ……」
アウトになった鶴屋さんが本気で落ち込んでいる。どうやらあれが正真正銘の必殺アタックだったらしい。
鶴屋さんを買い被り過ぎたか?
さて、あと内野にいるのは――――「忘れ物だぜ!キョン!」
――――なっ!?
さっきまで外野にいたはずの谷口が既にボールを拾い上げ投球モーションに入っていた。
「しまっ!」
「最速の肩書きは伊達じゃねぇぜ?」
谷口の放ったボールは下から撃ちあげるように俺の胸にヒットした。このままいけば俺はアウトだ。
ボールが地面に着く前に拾えば良いのだがボールは空高く舞い上がり、着地地点はコートの外だ。
避けられない、受けられない。そして当たればボールはコートの外に出る。故に必殺。
谷口のその球を受けて無事な者などいない。
――――しかし忘れるな谷口、我がSOS団には最強の万能選手がいることを!
「ふんもっふ!」
ボールと同じように空高く舞い上がり、ボールをキャッチしたのは、SOS団の万能選手、長…古泉ぃ!?
なんでお前が!空気読めよ!そこは長門だろ!ほら、長門も出番とられてびっくりしてるよ!
「セカンドレイドォ!!」
俺の突っ込みなどお構いなしに痛い技名を叫ぶ古泉。そして、ボールは中空高くから谷口の足を狙って放たれた。
「うおっ!」
とっさにジャンプで回避する谷口。ボールは地面に当たると回転を受けてたのか一直線に外野に居るハルヒの元に飛んで行った。
そう、古泉は足を狙って投げたのではない。あたかも足を狙ってるかのようにハルヒに向かってバウンドパスを通したのだ。
「しまったっ!見誤ったか!」
「もう遅いわ。空中じゃ身動きは取れない。あんたの負けよ!それっ!」
ハルヒの投げたボールは谷口に当たると同時にヤツの体をコートの外まで弾き飛ばした。
「ちっくしょ、今回は俺の負けか。だが一勝一敗だ。だから、決着は勝負の結果でつけるぜ?」
「望むところよ。せいぜい外野としてがんばんなさい」
なんか男の友情チックな雰囲気がプンプンするぜ。さて、谷口がいなくなったということは残りの内野は――――
「外野としてがんばる?ああ、もう外野としての仕事ははじまってんだぜ?」
谷口がコートから弾き飛ばされた時の格好のままそんなことを言った。
「どういうことよ……?」
「おいおい、ボールの位置ぐらい確認したらどうだ?」
ボールはさっきまで確かに谷口の傍にあった。だが今はどうだ、そこにはなにもない……!
「俺はちょこっと力を加えてやっただけだ。コートの中に入るだけのエネルギーをボールに加えてやっただけ……」
な、まずい!いつの間にかボールが敵コートに入っている――――!
「キョン!避けて!」
ハルヒが叫ぶ。なんとボールがひとりでに浮かび俺に向かって飛んできた。
意表を突かれた俺は顔面にボールを当てられ無様に倒れ伏す。
「がっ……、なんだぁ!?」
そんなことを言っているうちに古泉まで同じ様にアウトにされた。コート端にあるダンボールが動いた様子はない。あの中に新川さんが入っていたのではないのか?
「長門さん!体温です!体温で索敵してください!」
「…………わかった」
古泉は立ち上がり体の泥を払い、外野へと向かった。俺も長門を後ろに見ながらそれに倣った。
長門はボールを拾い上げて何もない空間に向かってボールを投げつける。
「くっ!」
そのボールは何故かなにもない空間で止められた、その空間は既に何もない空間とは呼べなくなっていた。
ばりばりと電撃と衝撃が走り閃光を発した後にそこに現れたのは。ボールを受け止めている新川さんの姿だった。
「壊れたか、まあこんなものにいつまでも頼るつもりはない。最後の一人は普通にいかせてもらう」
唖然として声が出ない、新川さんの正体は透明人間だったとでもいうのか?
「ステルス迷彩です。光学迷彩の一種で周囲の光を屈折させて装着者を透明にする軍用兵装ですよ。『機関』にあったとは初耳ですが……」
「なんだそりゃ、もはやなんでもありだな『機関』ってのは」
透明人間になれる機械とはなんともSFチックだ。
「まあ、宇宙人や未来人がいるんですからいまさらこの程度なんともないんじゃありませんか?」
「ああ、確かに俺はそうだが、ハルヒにはどう説明するんだよ」
ものすごく驚いた顔しているぞ。
「ええ、少し困りましたね。新川さんがこのようなことをするのは予想外でしたので。今回も僕が適当に説明しますよ」
「頼む」
古泉はハルヒの元へと行き、なんやかんや説明している。ハルヒもなんか時折うなずいたりしているところを見ると納得しているようだ。
これでハルヒの方はどうにかなりそうだな。問題は試合の方だ。
長門は岡部の一件以来、俺に人間として不自然な力を出すなと能力に制限をかけられている。
だが、それは人間として不自然じゃなければ良いということなので、長門の身体能力は非常に高いままだ。
しかし、長門はそれでも抑されぎみであった。スネーク……じゃなくて、新川さんは長門の球をことごとく受け止めて投げ返している。
一方長門はたまに受けるのを諦めて躱すこともあり、その時は後方から谷口の攻撃にさらされていた。
このままではいずれ負ける。そう思った俺はどこかに勝利への糸口がないかと思い、新川さんの動きをよく見ることにした。
――――ん?
何というか動きに違和感を感じる。まるで何かを庇っているかの様な感じの動きだ。
もう既に内野は新川さんしかいない。それならば庇うものなんて――――あ、あった。
新川さんの後方にある空のダンボール。どういうわけか新川さんはそれを庇って戦っている。
理由はわからないがこれはチャンスだ。そう思い俺は長門に指示を出す。
「長門!ダンボールだ!後ろのダンボールを狙え!」
長門は僅かに首を縦に傾けると。コートの端からボールを持ったまま助走をし、ダンボールに向かって思い切りボールを投げた。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
新川さんは走ってそれに追いつこうとするが間に合わない。このままいけばボールはダンボールを粉々にするだろう。
がしかし、そんなことをあの男が許すはずが無かった――――!
「さぁせぇるかぁぁぁぁぁっ!!」
ボールが当たる寸前にダンボールとの間に飛び込み前転で割り込む新川さん。
もちろんボールを受ける体勢じゃないのでそのままボールは頭に当たり、新川さんは倒れこんだ。
「アウト!試合終了!」
ピィーとホイッスルが鳴り響き長かった試合が終わった。最後は間抜けな終わり方だったが、なかなか白熱した試合だったと思う。
最後に全員で並び握手と礼をする。その時谷口がハルヒに「お前がナンバーワンだ」とか言っていた、どこの惑星の王子だお前は。
新川さんはというと「今日は楽しかった、また会おう!」と、言い残すと去って行った。おーい、最後キャラが違うぞー。
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「まっ、私が居るんだからこの勝利は当然よね。じゃあ、この勝利を祝して乾杯!」
「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」
試合が終わった後、俺らは例の如く近くのファミレスで宴会を開いていた。
「今回もキョンの奢りだから、ジャンジャン食べちゃって!」
「まてい、どうしてそうなるんだ」
俺の小遣い事情を考えてくれ。ここ最近収入が全てSOS団の為に使われているんだぞ。
「団長の決定は絶対なの!団員は言うことを聞く!」
何かもう定番となっているよな俺が奢るっての。ここまでくると、ハルヒの力が働いているとしか思えない。
「言うことを聞くね……、そういえばハルヒ」
「なによ?」
どうやら、こいつは忘れてるようだな。かくいう俺もさっきまで忘れていたわけだが。
「俺より先にアウトになったら一つだけ言うことを聞くって言ってたよな」
「あ…、わすれてたわ。でなに?あたしに奢らさせるつもり?空気読みなさいよ」
確かにそれもいいかも知れないが、なんせあのハルヒが一つ言うことを聞くんだ。もっと有意義に使いたいと思う。
「いや、実はまだ考えてないんだ。だから保留ってことでいいか?」
「なによ、決めてないのに話題にだしたの?バカじゃない?………はぁ」
はいはい、どうせ俺はバカですよ。にしてもみんな奢りだからって食いすぎだろ。
それに――――
「うめぇなこれ、ウェイトレスさーん。これとこれ追加で、え?セットにした方がお得だって?あえて別々でお願いします。はっはっは、問題無いですって」
「ゴチになるよ、キョン」
「なんでお前らがここにいる」
てめぇら敵チームだったじゃねぇか、そうだろ谷口と国木田よぉ?
「昨日の敵は今日の友ってやつだ、ま、気にすんな!」
「まあ、キョンだしねぇ……」
こいつら……!
「迷惑だったかなっ?だったらあたし達は自分で払うさっ」
いえいえ、鶴屋さんは構いません。SOS団の名誉顧問ですし。元はこちらの助っ人として来ていただいたんですから、正当な報酬です。
単位に目がくらんだ谷口なんかとは比べ物になりませんよ。
「そういわれるとうれいしいねぇ、まっ今度なんか奢ってあげるから元気だすにょろ!」
それはもしかしてデートのお誘いですか?
「あはっ、そうしたいなら別にあたしは構わないけどハルにゃんがなんていうかなっ?」
「なんでそこでハルヒの名前がでてくるんですか、団長だからってプライベートにそこまで干渉されちゃかないませんよ」
「あちゃー、これは重傷だわ」
そのまま談笑していたが、鶴屋さんのいう重症とはなんのことだかよくわからないまま会話は終わった。
そりゃあ思い当たることが無いわけでもないがハルヒだし流石にそれはないと思うんだがな。
「いやあ、今回も無事に終了してよかったですね」
「ああ、全くだ。だが、コンピ研の部長が死にかけた時にはあせったぜ」
そういえば彼はこの場にいない。あんな目にあうだけあってフォローなしとは、なんとも不憫な事だ。
「そーいや、お前らやたらと錯乱してたもんな。傍から見るとコントだぜあれは。あっ、ウェイトレスさん、このデラックススーパーダイナイマイトパフェください。ええ、五つ」
谷口は高い物から注文していくという最悪なことをやっていた。五つも食えるのかこら、食えなかったら体中の穴という穴に余ったパフェを無理やり詰め込んでやるぜ。
「これ以上頼んだらお前だけ自腹切らせるぞ」
「それって、ずるくねぇ?」
「ずるくなどない、お前がここに居る時点でおかしいんだ」
「違いねぇ」
へへへと笑いながらパフェをほおばる谷口、にしても、この上なく似合わない絵だ。
「ところで、お前とハルヒはドッヂボールにどんな因縁があったんだ」
試合中もやたらと話していたしな。
「別に、大したことねぇよ。ただのライバル同士だっただけだ。決着つかないままだったがな」
「それで今回決着がついたというわけか」
試合の結果で決着をつけると言っていたのでハルヒの勝ちというわけだ。
「ま、そういうこった。この歳になってまたドッヂボールやるとは思わなかったがな」
「俺もだ」
小学校のころ以来だぞドッヂボールだなんて。
「でも、面白かったですね。僕も白熱しましたよ」
「お前は正直痛かった、なにセカンドレイドって」
谷口の言う通りだ、セカンドレイドってなんだよって感じだったねあの時は。
「あ、あなたが言いますか!あなただってwawawa忘れ物とか言ってたじゃないですか!」
「ありゃ、俺の決まり文句みたいなもんだろ?」
「ああ、あれは谷口の決まり文句みたいなもんだ。変態、童貞、wawawa忘れ物の三つで谷口は構成されているんだぜ?」
「どどどど、童貞ちゃうわ!」
はいはい、言い訳は見苦しいぞ。
「いやだからちげーよ?まあいい。つまりは、セカンドレイドってのは流石にないってことだ」
「あれ、気に入ってたんですけどね……」
ははは、まじかよ、スゲーな。明らかにガキ臭い技名じゃねーか。それ以前に、ドッヂボールで技名叫ぶってのがまず痛いと思うんだが。
「ははははっ、バカだこいつ。気に入ってた?ひゃひゃひゃあひゃははははははははっ!わひゃっ、、ひゃっ。。」
谷口が大笑いしている。なんか見ていてムカつくぐらい大笑いしている。古泉を指さして机をバンバン叩いてまで大笑いしている。
おお、古泉が笑顔のままこめかみ青筋を立てている!ピクピク痙攣している顔が非常に怖いぜ。
「………マッガーレ」
「へぶっ!」
古泉が妙なことを呟きながら手を谷口の前にかざすと、谷口の動きが止まった。なにが起こったんだ?
閉鎖空間でなくても超能力が使えるとかそういうオチでしょうかー?
「どうやら寝てしまったようです。笑い疲れでしょう。ええ、そうです」
本当、何をやったんだ………古泉………。
「………濃度の薄い酸素を手の中に創り出しそれを谷口に吸わせた、おそらくは格闘技の一種」
長門が淡々と説明を入れる。ちなみに、その傍らには積み上げられた皿が並んでいる。
こいつが大食いなのは今に始まったことじゃないし、今回一番の功労者なので咎める気はないが、もう少し気を使ってほしいものだ。
「……………食べたいの?」
いや、そういうんじゃなくてね。
「……………あーん」
いや、だからそういのじゃな――へぎゃっ、そこは目っ!目だってっ!ぎゃあああっ!必要以上に加熱されたハンバーグと鋭いフォークが目に、目にぃぃぃぃっっ!
「……………一つ一つのリアクションが甘い、掴みもリアクションに持って行くまでの経緯も甘い、だから上島のポジションを奪えない。人気が出ない」
こ、これは長門なりのジョークか?ってそれどころじゃない、だれか水かなんかをぉぉぉっ!
「大丈夫ですかキョン君、これ濡れタオルです。目、見えますか?」
「ありがとうございます。助かりました。ええ、どうやら大丈夫です」
心優しい朝比奈さんによって一命を取り留めた。全く、最近の長門はどこかおかしいから困る。
「…………おでんの方がよかった?」
「違う!食べ物はリアクションの道具などではない!」
「…………初耳」
むむむ、バカにされてるのか俺は………。
「キョン君、目真っ赤ですよぅ?本当に大丈夫ですか?」
「いいのよ、みくるちゃん。そんなバカ放っておいて。鼻の下延ばしてあーんなんてしてもらうとか考えているからだわ」
待てい、俺は鼻の下など伸ばしてなどいない。長門に冷静な突っ込みをいれていただろうが。
「あっそ、まんざらでもないって感じに見えたけど?」
そりゃお前、ねぇ?健全な高校男子で女の子にあーんとやられて嫌な奴はいないだろう?
「それじゃあ僕がやったらどうです?」
やめろ、気色悪い。スプーンをこっちに向けるな。ふーふーするな。
「そうですか・・・。残念です。」
なにが残念なんだ、おい。まさかお前………。
「あなたが言わんとすることは大体分かりますが、違いますよ」
そうだろうな、同性愛者(ガチホモ)なんてそうそういるもんじゃない。
「ええ、僕は同性愛者なんかじゃなくてただ、あなたのことがs――――」
「ら り る れ ろ !ら り る れ ろ !」
急に長門が叫び始めた。なんなんだ!?もしかして、敵性宇宙人の攻撃かなんかか!?
「………問題無い、ただの音波妨害の手段として大声をだしただけ」
「そうか、ならいいんだが」
ちっとも良くない、いきなり奇声をあげるだなんて無口キャラにあるまじき行為だ。ハルヒだって驚いてるではないか。
あっ今、なんかの間違いだということにしてるな、あの顔はそうだ。
そういえば、そのせいで古泉が何を言っていたか聞き取れなかったな、何か長門に不都合のあるようなことを言おうとしたのか?
「ちっ」
古泉が舌打ちをする、どうやらそうらしい。一体何を――――。
少しばかり考えたが思いつくことが無かったので考えるのをやめた。
それより今は目の前にある料理を食べることに集中しよう。
**************************
「さて、次は、二次会といった所かしらね!」
この宴会で俺の財布がどこまでも軽くなったにもかかわらず、まだはしゃぎ足りないらしい、このお方は。
「うおっしゃぁ、二次会!二次会!」
「あ、僕たちは帰ります」
「こらぁぁ、、放せ国木田あぁぁっ!」
谷口がはしゃいでいたが国木田に引っ張られてどっかにいってしまった。
「鶴にゃんも予定があるからここでお暇させていただくさっ。あとは若い方でごゆっくり~っ」
鶴屋さんは最後まで元気いっぱいだった。あの人といいハルヒといい一体何食えばあんな風に常に元気になれるのだろうか。
それにしても、若い方ってあなたは朝比奈さんと同学年でしょう。
「ねぇねぇ!有希の家、大丈夫?」
長門はこくりと首肯をした。
「そう、じゃあそこで二次会と行きましょう、キョンと古泉君はアルコール買ってきて!」
酒飲むのかよ……。これはまた、大変なことになりそうだ。
まっ、なんだかんだで楽しんでいる俺が居るわけだが。
「なんだかんだで言って楽しそうですね」
「人のモノローグ読むな。ま、確かに今日は疲れたが楽しい一日だったぜ」
実際まだ一日は終わって無いわけだが。
「ええ、そうですね。できればいつも今日みたいであった欲しいものです」
「俺は御免だね。人死がでかける毎日なんてな」
岡部やらコンピ研部長の事だ。
「ええ、確かにそれは僕も困りますが、そういうことではなく、これからもみんなでワイワイと騒げていければ非常に好ましいと思いまして」
「これからもそうなるさ、なんてったってSOS団の団長様はハルヒだぜ?あいつがそれを望む限りこの日常は変わらないさ」
「そうですね。はい、その通りです。さあ、急ぎましょうか涼宮さんを待たせて彼女の機嫌を損ねないようにしましょう」
「ああ、団長様を待たせちゃいけないよな」
俺は両手にチューハイの入ったビニール袋を持ち坂道を駆け下りていった。
第二話「ハンドボールの代わりにドッヂボール」終わり

第三話「谷口青年の遭遇」に続く


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