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パラレルワールズ 

第一章 ファーストデイ

第一節 キョンの場合[I]

俺が教室に入ってからしばらくするとハルヒが飛び込んで来た。俺の方を
みながらやけにニヤニヤしている。はっきり言って不気味だ。なんで
ハルヒはこんなに上機嫌なのか。
「涼宮さん、最近、機嫌がいいわよね。やっぱり彼氏ができたからかしら」
という声を耳にして、振り返り、俺は凍り付いた。つぎの瞬間、俺は椅子から
飛び上がると窓にへばりついた。
「お、おまえ、ここで何してるんだ!」
「何しているんだとは御挨拶ね。代表委員が自分のクラスにいるのがそんなに意外?」
そう言いながら俺に笑いかけているのはまぎれもなく朝倉涼子だった。
「あなたが涼宮さんとつきあい始めてから、涼宮さんは落ち着いてきたわよね。
よろしくね」
朝倉はいつ戻って来たのか。なぜ、誰も騒がない?カナダに転校した同級生が
予告もなく登校してくれば教室は大騒ぎになってもよさそうなもんだ。
が、誰一人、朝倉がいることを不審に思っている形跡はない。
「ハルヒ」
「何よ?」
「朝倉はいつからここにいるんだ?」
「はあ?何いってんの?頭がおかしいんじゃないの?」
「だって、あいつはカナダに転校したはずじゃ」
「キョン、あんたって前から変わったところがあるとは思ってたけど、
相当おかしいわね、やっぱり」
おかしいのはどっちだ、ハルヒ。いっしょにマンションに行ったのを忘れたか?
「マンションって誰のよ?有希のマンション?」
どういういことだ?それに朝倉はさっき何と言った?俺とハルヒが「つきあっている」と?
昼休みに疑念は確信に変わった。鞄をみると、確かに朝、いれたはずの弁当がない。
うわ、このまま飯抜きですごすのは地獄だな、と思っていると、ハルヒの声が聞こえた。
「何やってんのよ。早くたべなさいよ」
振り向くと、ハルヒの机の上には二人分の弁当。
「今日のは結構、凝ってるんだからね。残したりしたら死刑だから」
「おまえ、なんで弁当を作って来たんだ?」
「キョン、本当に頭大丈夫?毎日作って来てるじゃないの、あんたの分も。何が言いたいの?」
俺は返事もせずに教室を飛び出した、「ちょっと待ちなさいよ」というハルヒの声を無視して
廊下を走った。目的地は部室。というより、そこにいるであろう長門有希だ。
ノックもせずに部室に飛び込み、そこに長門がいることを確認すると腰が抜ける程安心した。
が、安心するのはまだ早いかもしれない。この長門はあの長門ではないかも知れない。
俺は尋ねた。
「長門、おまえか?」
長門は本から顔を上げると、俺の方のじっと見た。
「俺が解るか?」
長門はかすかに首をかしげた。
「情報統合思念体をしってるか?」
長門は微かにうなずいた。ふう、第一関門は突破か。
「長門、今何が起きているか把握しているか?」
「している」
助かった!
「長門、どうなっている」
「あなたが既に予想した通り。世界は改変された」
「いつ?」
「それは問題ではない」
「じゃあ、誰がやった。お前か?どう変えたんだ?」
「わたしも改変を行った」
「おまえ『も』?」
「そう。改変を行ったのは今回はわたしだけではない」
「じゃあ、誰と誰だ」
「SOS団員全て」
何?5人が同時に改変を行った?そんな能力、お前とハルヒ以外にはないだろ?
「本来はそう。しかし、今回は複雑な事情により、5人が世界を改変する能力と機会を
与えられた」
なんと。じゃあ、5人同時に世界を改変したのか。よくそれで改変に矛盾が生じなかったな。
「矛盾は生じようがない。5人がそれぞれ、独自に世界を改変した」
何?じゃあ、どうなるんだ?
「通俗的な言語で言うとパラレルワールドの発生。5人の意志で改変された5つの世界が
同時に存在している」
なんで、そんなことをお前は知っている?
「他の4つのパラレルワールドにいるわたしと同期できるから」
なんてこった。元に戻せないのか?
「簡単ではない。戻す場合には5人全員の意志が必要。一人でもこのままがいいと思えば
元にはもどれない」
マジかよ....。で、他の世界ではどうなっている?
「自分が作った世界に満足しているものもしていない者もいる」
なんでだ?自分で作った世界なんだから、不満なんか無いだろ?
「そうとはいえない。願望は潜在的なものの場合もある。潜在的な願望が具現化した場合本人は認めたくない願望の場合もある」
そういうものかな。あ、待てよ。5つってことはお前も作ったのか?
「そう」
でも、おまえに『願望』なんてあるのか?
「明示的なものは無い。抑圧されたものは存在可能」
俺は、長門が世界を改変したことを思い出した。
「そうか、で、その世界の『長門有希』は満足しているのか』
「彼女はしている。彼女は改変世界を戻すことに賛成しないと思われる」
いや、参ったな。じゃあ、このままなのか。俺たちは...。まてよ
「長門」
「何?」
「お前には誰がどの世界を作ったのか解るのか?」
「解る」
「俺たちがいるこの世界は誰の願望だ?ハルヒか?」
俺には自明と思える質問を放った。この世界と元の世界のもっとも顕著な違いは、
俺とハルヒの関係だ。この関係は俺が望んだものではない。となると、ハルヒの望んだ世界と
いうことしかありえなそうだった。が、長門の答えは意外なものだった。
「そうではない。涼宮ハルヒの望んだ世界は別にある」
「じゃあ、誰の願望なんだ?ハルヒ以外に誰が、俺とハルヒのこんな関係を望むんだ?」
「それは...。」
長門が口ごもった。なぜだ?長門が口ごもるところなど初めてみた。
「この世界を望んだのは、あなた」
何だって、そんな馬鹿な、そんなことはありえないぞ。俺はかなり頭が混乱した。だが、これは
まだまだ混乱の始まりにしか過ぎないことにおれはまだ気づいていなかった。

第二節 長門有希の場合[I]

朝。目覚めると、長門はすぐ異変に気づいた。
「目覚める」と言ってもヒューマノイドインターフェイスに有機生命体と
同じ様な意味での「睡眠」があるかというと微妙な問題だ。が、とりあえず、
外面上は機能を停止して休眠状態になる機能を付与されてはいる。特に
必要が無い場合は24時間のうちのある時間帯は「睡眠」をとっていた。いずれにせよ、
観察対象たる涼宮ハルヒが機能停止している時間に起動していてもさしたる意味は無い。
更に言うならば、目覚めてすぐ異変に気づいたのも長門が有している超人的な種々の
能力のおかげではなかった。もし、長門が目覚めたとき、長門が今いる場所に
存在しているのが単なる有機生命体であったとしても、異変に気ずくのは造作も
無かっただろう。なにしろ、長門のとなりには別の有機生命体が寝ていたのだから。
長門には睡眠モードに入る場合に、隣に有機生命体を「はべらせる」習慣は
無かったから。その当該有機生命体は、長門が目覚めたのに呼応してごそごそと
目覚めると、
「おはよう」
という音声を発してから、顔を近付け、唇と唇の軽度の接触を行った後、
「うーん」
と伸びをして起き出した。どうやら、この有機生命体にとっては起床時に長門有希が
隣で寝ているのはごく普通の状態のことに過ぎないようだった。
長門はすぐさま、情報統合思念体にアクセスし、事態の把握に務めた。事態は
かなり深刻だった。世界は5つのパラレルワールドに分解し、それに伴って
情報統合思念体も5つに分裂してしまったため、思念体は自己同一性を求めて、
5つのパラレルワールドの個々の思念体が互いに同期を確立しようと悪戦苦闘していた。
重複部分を消去して、差分を整理しなくてはいけない状況に陥っており、
長門のアクセスにまともに対応できる状態ではなかった。なにしろ、処理すべき
情報が突然、5倍になったのだ。いくら、性能が5倍になったとしても、その情報を常時「統合」し続けないといけない言うのは並の負荷ではなかった。
つぎに長門は、他のパラレルワールドに存在する分身たる自分と同期を図った。
あるものはすぐに同期に応じなかったが、しばらく試みるうちに、同期は
確立され、長門は事態を把握した。これ以上無い程、混沌に満ちた「事態」では
あったけれども。
長門は布団から出た。自分自身、および、くだんの有機生命体が衣服をまったく
身に付けていないという事態がすでに、自分がいかなるパラレルワールドに
招き入れられたかを如実に物語っていた。そういう意味では自分は5つの
パラレルワールドに存在する5つの分身のうちではもっともラッキーだったろう。
くだんの有機生命体は、トイレにいったらしく、戻って来るとまた「唇と唇の
接触」を行おうとしたので、長門はそれを遮った。有機生命体は怪訝そうに
「どうした?」
と尋ねた。
「緊急事態が起きた」
「ハルヒか?」
「部分的にはその疑問に対する答えはYES」
「あいかわらず、よく解らない返事だな」
「当面、あなたには特に問題は起きない。いつもどおり行動してよろしい」
「おいおい、『当面』じゃ問題なくても長期的には問題が起きるのか?」
「そうは言っていない」
「で、何が起きたんだ?」
長門は嘘をついた。
「言語では伝達不可能」
「そうか。ま、お前みたいのとつき合っているのだから、これくらい慣れないとな。
じゃ、てきとうに飯くって俺は登校するから」
「そうして」
当該有機生命体は朝食と命名されたエネルギー補給を行い、身体の部分的な
清潔渡を向上させ(洗顔と歯みがき)、衣服を身に付けると「唇と唇の
軽度の接触」を行った後、部屋を出ていった。
長門は思った。これが自分が望んだ世界なのか。抑圧された欲望が具現化された
世界。この先のことを考え始めた。この改変世界に自分は異存無い。が、他の4つの
パラレルワールドは?それぞれの「改変主」はどう思っているのか?
さっきこの部屋をでていったばかりの有機生命体は真実をしったら、自分の
「感情」が改変によって強制されたものだとしったら、どう思うだろうか?
長門はマンションの窓から、あくびしながら学校に向かって歩いて行く
有機生命体の後ろ姿を見送りながら、思った。他の有機生命体から
「キョン」と呼ばれている有機生命体の後ろ姿を。

第三節 朝比奈みくるの場合[I]

みくるは今、心臓が胸から飛び出しそうな程、どきどきしていた。
何しろ、朝起きたらキョン君が隣で寝ていたのだ。しかも、すっぱだかで。
ショックのあまり大声を出しそうな口を大慌てて抑えるとキョン君を起こさないように
こっそりと布団を抜け出した。そしてニ度目のショックを受けた。
全裸なのはキョン君だけじゃなかった。顔を洗うために洗面所に行き、
鏡を見て三度目のショック。首筋に赤い小さなアザ。
ここまで証拠が揃っては、「昨夜自分がキョン君と何をやったか」に
疑いを持つのはかなり難しい。いくら、自分には何の記憶も無くてもだ。
その時、脳内ディスプレイが起動した。定時連絡の時間である。
自分は重要な観察対象の「鍵」に「手を出して」しまったのだ。
おそらくは一時の感情に負けて(何も覚えていないけれど)。
召喚は確実だ。もう二度とこの時間平面には戻ってこれまい。
もうニ度とみんなに会えない。思わず、流れて来る涙をこらえることは
みくるには難しかった。
「朝比奈みくる」
「はい」
「定時連絡を」
「...。「彼」がわたしの布団で寝ています。それも全裸で」
みくるはそこまで言うのがやっとだった。隠しても無駄なことだ。
ばれるのは時間の問題。
「それだけか?」
「は?」
「朝からのろけてくれと頼んだ覚えは無いぞ。以上だ」
脳内ディスプレイはそのまま閉じた。
どういうこと?なぜ、何の叱責もないの?
叱責どころか、管理官は驚きもしなかった。「のろける」?何が?
「みくる」
みくるはいきなり声をかけられて心臓が飛び出す程驚いた。が、慌てて
振り向いてすぐ、目を逸さなくてはいけなかった。キョン君はあいかわらず
何も着ていなかったから。
「どうした?」
キョン君は前を隠すでもなく、右手で尻の肉をぽりぽりかきながらそう
みくるに尋ねた。いくら鈍感なみくるでもキョン君との関係が昨日今日
始まったものではないことは理解できた。
「あ、あの、朝ごはん作りますね。何か着てください」
「ああ」
みくるは台所に向かいながら、自分もまだ何も着ていないことに気づいて
真っ赤になった。キョン君に見られてしまった。が、きっと彼はみくるの裸を見慣れているはずだった。いまさら、はずかしがってもおかしい。
突然、うしろから抱きすくめられて、みくるは大声を出しそうになった。
「続き、しないか?」
「あ、あの、今日は早く行かないといけないし、そんな時間は...」
「そうだったけな。じゃ、おあづけか」
そういうとキョン君は離れていった。
おちつけ、みくる、自然に振る舞うんだ。なんとかしてこの場を切りぬけないと。
手早く朝ごはんを作るとテーブルに並べる。身支度を終えたキョン君が
テーブルにつく。
「あー、みくるのつくるものは何でもすごくおいしいなあ」
「あ、ありがとう」
こんな状況なのにキョン君とふたりっきりで食事をしていると思うと、
微笑がこみ上げて来るのを抑えることができなかった。わたし、しあわせなの?
キョンは食事を終えると、みくるが片付けを終えるのを待って、
「行こうぜ」
というと外に出た。当り前のように、肩を並べて歩くキョンとみくる。
駅から学校までの坂道でいろいろな人達とすれちがう。
「いっやー、みくるー、朝からお熱いことだねー。みせつけてくれちゃってさー。
おしあわせにー」
これは鶴屋さんだ。
「キョン、あいかわらず朝比奈さんと仲良く登校かよ。あー、
羨ましくて死にそうだぜ、俺」
と言いながら合流したのは谷口くんだ。
学校に入ると、彼の教室に向かう。どうもそこまで行ってからお別れを
言うのが毎日の習慣らしい。教室に行くと言うことは....。
「キョン、遅い!」
教室に着くか着かないかのうちに、涼宮さんが飛び出して来てキョン君に
何かをまくしたて始めた。その間中、ずっとキョン君はわたしの肩に手を
まわしたまま。にも関わらず、涼宮さんは顔色ひとつ変えず、話し続けている。
ふいにわたしの方を向くとこういい放った。
「あ、みくるちゃん、もう行っていいわよ。キョンはあずかるから」
「え、でも....」
怒らないんですか?といいかけたがハルヒは更にこう言った。
「大丈夫よ。とったりしないから。部活が終わったらちゃんとのしをつけて
おかえしするわ。女房灼く程、亭主もてもせず、っていうでしょ?」
「なんだ、人をものみたいに」
「いいのよ、そんなことよりさあ...」
キョン君は涼宮さんに引っ張られていってしまった。
どうやら、この世界では、みくるとキョンがねんごろな仲になっているという
以外に、何の変更も起きていないようだった。キョン君と涼宮さんの関係さえ
何も変わっていないようだった。一体全体、こんな中途半端な世界改変は
誰によって行われたのか?答えをしっていそうな人物には、みくるはたった一人しか
心当たりはなかった....。


第四節 古泉一樹の場合[I]

古泉一樹は爽やかな気分で目覚めた。彼は僕のことを誤解していて
僕の爽やかそうなみてくれはみせかけて作り物であり、
本当は何を考えているか解らない奴、と思っているようだったが、
実際に、僕は本質的には外見通り、中身も爽やかな人間だ。
ただ、いろいろ頭も使っているので単純ではなく、そこが誤解を呼んでいるのだろう。
が、その日の爽やかな目覚めは隣に誰かが寝ていることに気づくまでしか
続かなかった。それも全裸で。となりで寝ていたのは...、なんと「彼」だった。
僕はすばやく頭を回転させた。昨日、寝たときに一人だったことは確かだ。
もっともありうるシナリオは世界が再び、改変された、ということだ。
彼を起こさないようにそっと布団から抜け出そうとしたとき、その予想は確信
に変わった。彼が僕の手をそっと握って、こう言ったのだ。
「起きるのか?一樹?」
彼が自発的に僕の手を握って来るなど金輪際あるわけはない。彼が目覚めて
同じ様に仰天してくれないかと言う淡い期待は見事に裏切られてしまった。
「ええ、ちょっと定時連絡が必要なもので」
「そうか、なるべく早く戻って来いよ。寂しいからな」
「はい」
動揺してはいけない。いけないのだが怖気がでるのはいかんともしがたい。
さて、この改変はどこまで及んでいるのだろうか?まずは機関が巻き込まれているか
どうかの確認が先決だ。携帯を取り出すと機関に連絡を取った。
「なんだ。まだ、定時連絡の時間じゃないだろ」
「はい。ただ、彼が隣で寝ていますので...」
「....。だから?」
「いえ、別に」
「何が言いたい?古泉一樹。お前がバイセクシャルなのはお前の自由だが、
それはプライベートにしまっておけ。仕事場に持ち出すな。俺はヘテロだし、
殆どの機関員もそうだからな。解ったか?」
「はい」
携帯は切れた。あの連絡員は僕のことをなんと言った?バイセクシャル?ここでは
僕は両刀づかいってことになっているのか。
「一樹?」
おっと彼が起きて来たようだな。
「どうした?すぐ戻って来いと言ったろう?」
「いえ、急用ができまして」
「閉鎖空間か?」
「はい、まあそんなようなものです」
「まったくハルヒの奴、こんな時間まで人の楽しみを邪魔しやがって」
どうやら、涼宮さんはこの世界にもいるらしい。能力の設定も変わってはいないようだ。実際には何と何が改変
されたのか?変わったのは僕と彼の関係だけ?
「そういうことですので」
「わかったよ、じゃあしょうがないな」
彼は一人で戻っていった。服を着るとまだ明け方前の暗い夜道に歩きだした。
いくら僕でも彼の「お相手」を実際にする根性は無い。機関が巻き込まれている以上、
頼るべき人はたった一人しかいないだろうな。僕は携帯をとりだした。
携帯の住所録を呼び出すと『長門有希』という項目が目についた。彼女がこの改変の
「外」にいるかどうかはわからないが、とにかく、存在はしているらしい。
ついでにスクロールすると『キョン氏』『涼宮ハルヒ』『朝比奈みくる』
『森』『新川』『鶴屋さん』『谷口』『国木田』...。登録しただけで一度も
かけたことのない番号も含めて、あらかたの登場人物は保存されているようだ。
設定まで保存されているかどうかは不明だが。とにかく、まず、電話をかけるところは
あそこしかない。
「もしもし、長門さんですか?...」


第五節 ハルヒの場合[I]

ハルヒは、掃除当番を終えると、大急ぎで部室に向かった。手には半徹で作り上げた詳細な市内探索プランが握られていた。喫茶店でクジを引いて適当に歩き回る、
などといういきあたりばったりの計画で不思議などみつかるものではない。
必要なのは詳細かつ具体的なプランだ。ターゲットも具体的にしぼる必要がある。
ドアをばーんと開けて、団長机に突進し、さっと飛び乗ると振り返り、
演説を始めた。
「みなさん、明日の市内探索ツアーの方針を発表します。いままでのやり方は
誤っていました。詳細かつ具体的なプランこそ必要なのです!」
そこまで一気にまくしたててから、ハルヒは聴衆を睥睨した。
みくるちゃんはいつも通りの不安な面持ち。有希は全くの無表情。
古泉くんはいつもながらのスマイルで、キョンは...、ああ、またかよって
顔つき。失礼な奴!
「さすが涼宮さん、いいところに気づかれました」
そうそう、そうこなくっちゃ。さすがは副団長。キョン、あんたもちょっとは
見習いなさい!
「さて、明日の具体的なターゲットは宇宙人の探索と....」
「ちょっと待て」
何よ、キョン、人が話しているのに聞きなさいよ!
「お前、この上、もう一人宇宙人を探してどうする?」
もう一人?ってなんのことよ!
「もう宇宙人は見付けたろ」
キョン、何いってんのよ。とうとう、頭がいかれたの?
「いかれたのはおまえだろ、ハルヒ」
なんですって?団長に向かってその言いぐさは許せないわ、ちょっと外にでなさい!
「まあまあ、涼宮さん。僕もそこのところは彼と同意見ですね。もう一人
宇宙人をみつけてどうするつもりですか?」
もう一人って、一人目はどこにいるのよ?
「ハルヒ、これはどういう遊びなんだ?おたがい相手が誰だが知らないふりする
新手の遊びか?」
ちがうわよ、本当に誰だかしらないのよ。
「理解できないしわらえないな。この部屋の中にいる宇宙人といったら
長門有希に決まってるだろ!」
有希、有希って宇宙人だったの?
「そう」
そんなの嘘でしょ!
「はあ、つかれる奴だな。それにしつこい。長門見せてやれよ」
有希が立ち上がると部屋の中が見たこともない異空間に変貌した。
有希が座っていたパイプ椅子を持ち上げるとそれは槍に変化した。
有希が槍を投げると反対の壁にぶすりと突き刺さる。
有希が再び、腰をおろすと、空間は元に戻り、槍はパイプ椅子に戻って
床に落ち、ガシャンと音を立てた。
「もういいだろ?」
解らない。これは夢なのか?それとも、あたしってば発狂したのかしら?
「じゃあ、みくるちゃんは?みくるちゃんはなんなのよ」
「未来人だ」
「え、うそ」
「はい。わたしは未来からこの時間平面にやってきた未来人です」
「いつの未来よ」
「禁則事項です!」
「古泉くんは?」
「超能力者です」
「ど、どんな超能力よ」
「涼宮さんが作った閉鎖空間に侵入し、巨神を倒すという超能力です」
「あたしがつくった、なんですって?」
「ハルヒいい加減にしろよ。まさか本当に頭がおかしくなったわけじゃないよな?」
「ち、ちがうわよ。じゃあ、キョンは異世界人なの?」
「違うよ、何いってるんだ。俺だけは普通の人間だよ」
涼宮ハルヒにはここがどこなのか全く解らなかった。夢かも知れない。あるいは、
異世界にワープしてしまったの?確かなことはここでは自分の望みが適っていると
言うことだ。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探していっしょにあそぶこと、
という目的はここでは完遂されているのだ。ハルヒはよろこんでいいのか、
悲しんでいいのか、解らない気持ちだった。なぜ、望みが全て適ったのに、
あたしってばうれしくないの?この喪失感は一体何?
その時、有希がぼそっとこういうのが 聞こえた。
「それはあなたが望んだ世界だから。望みが適った世界では人は
必ずしもしあわせではないから」
有希、あなた、これが何なのかしってるのね?この状況を理解しているの?
「多分」
おしえてよ、これはなんでなにがどうなってるの?...






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