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正月休みも、年明け四日目ともなると流石にやる事が無くなる。
まだ子供の居ない俺とハルヒだから尚更だ。
大晦日には大掃除…
元旦には初詣…
その次の日には手近な親戚回り…
まあ昨日まで忙しかった俺達夫婦には、やる事が無いくらいで丁度良いのかもしれないが。

そんな訳で今日は、朝からコタツに足を突っ込んで、お互いに寝転びながらダラダラと過ごしている。
つけっぱなしのテレビから流れてくる楽しげな声…
食べかけの蜜柑の甘い香り…
ああ…今日は一日中このままでいいや…

お互いに向かい合わせに座ったまま寝転んだから、こちらからハルヒの様子は判らない。
だが、パラパラと雑誌か何かをめくる音がゆったりとしたペースで聞こえて来るところをみると、おそらく俺と同じ気持ちでいるんだと思う。

いつも休みともなれば「どこか出掛けよう」と煩いハルヒだが、さすがに疲れてるのだろう。
いやいや、結構な事だ。

俺も何か雑誌でも読もうかと、コタツから少し離れた所にある新聞受けに手を伸ばす。
そしてガサガサとあさっていると、その向こうにあるストーブに赤いランプが点滅している事に気が付いた。

「ああ…灯油が切れたか…」

灯油を入れなくちゃ…だが億劫だな…と思ったその時、コタツの向こう側でハルヒがムクッと起き上がった。

「う~トイレ、トイレ!こう寒いとトイレが近くてしょうがないわねっ」
「おっ?丁度良かった!ついでに灯油も入れて来てくれないか?」
「いやよ!寒いもの!大体、こういうのは旦那様の役目でしょっ?それよりトイレ~」

全く…都合の良い時だけ旦那様か。
普段ならここで仕方なく俺がやってやる所だが、今日は何だか気分が乗らない。
てゆうか正直「たまにはハルヒがやれ」と思う。

やがてトイレからハルヒが、パタパタとスリッパを鳴らしながら戻って来た。

「あー寒かった!トイレにも暖房付けようか?」
「よせよ、もったいない」
「何よ!キョンはいつも何かにつけて『もったいない、もったいない』ってさ?それより灯油は?」
「まだ」
「早くしなさいよ!」
「…いつも俺じゃないか。たまにはハルヒがやれよ」
「あっ!優しくないんだっ?……そうだ、アタシに勝負で勝ったら灯油を入れてあげても良いわよっ?」
「勝負?」
「そう!『コタツから先に出た方が灯油を入れる勝負』!」


…くだらない。非常にくだらない。
だが、この際だから是非ハルヒの奴に灯油を入れさせてやろうと思う。

「のった!」
「よーし、今からスタートねっ?ルールは簡単、いかなる理由があろうともコタツから先に出た方が負け!良いわね!」

簡単だ、こんな楽な勝負は無いぜ?
コタツなんて、死ぬまで入っていたって良いくらいだからな。

「…ふふん、まあ今のところはアタシが有利ね。なにしろトイレに行ったばかりだし」
「何っ?トイレに行くのも『負け』になるのかっ?」
「あたりまえでしょ?『いかなる理由があっても』ってのが公式ルールよっ!」

しまった…
まんまとハルヒの悪知恵に乗せられた…
だって俺、朝に行ったきりトイレに行って無いし…

「もうスタートしてるからねっ!先にコタツから出たら、観念して灯油入れて来なさいよっ!」
「あ…ああ、望むところだっ!」

俺はコタツに腰まで入ると、とりあえず雑誌を読み始める。
ハルヒの様子が気になるが、持久戦では『相手を意識し過ぎると負ける』というのが定石だ。
雑誌に集中しつつ、勝利のその瞬間を待つ事にする。

「ね~え?キョン」

コタツの向こうからハルヒが呼ぶ。

「なんだよ」
「コタツってさ?長く入ってると喉が渇かない?」
「ん?まあな…」

そういえばそうだ…喉が渇いた気がする。
考えてみれば、今日は朝にコーヒーを飲んで以来何も飲んでないや。

「アタシね…さっきトイレに行ったときに、キッチンから冷たいコーラを持ってきたんだ~。今から飲むけど、一口あげようか」
「ん…ああ、悪いな」
「じゃあ…コタツから出て、こっちに来なさい?」
「だったら、いらん!」
「あーあ、残念!一人で飲もうっと」

プシュッとペットボトルを開ける音ががする。
そして「ゴクッ、ゴクッ」と喉を鳴らす音…

「ぷはぁ!うまいっ!コーラ最高っ!」

ちっ、心理作戦かよ。
なんて姑息な…

俺も何か反撃をしてやろうと考える。


そうだ…向こうが飲みモノで攻めてくるなら…

「なあ、ハルヒ…」
「何よ」
「お前、月曜九時からのドラマって視てたよな」
「え?うん…」
「来週やる第五話のあらすじが詳しく載ってるぜ?この雑誌に」
「えっ、うそ!?ちょっとその雑誌、こっちに渡してよ」
「嫌だ。コタツを一回出て、こっちに来い」
「ふん、じゃあいい」

双方共に退かず、戦闘は膠着状態に突入した。
お互いに無言。
相変わらずつけっぱなしのテレビから流れてくる楽しげな声と、時計の音だけが部屋に響く。

なんだか本当に喉が渇いたな…
少しトイレにも行きたくなってきた気がする。

しかも…ちょっと馬鹿馬鹿しくなってきた。
少しでもハルヒを懲りさせてやろうと始めたこのゲームも、今となっては酷く不毛な争いに感じる。

仕方無い…降参してやろうか…

そう思った瞬間!
ハルヒの足がコタツの中でモジモジと動いた!

まさかっ!

「なあハルヒ?お前トイレに行きたいんじゃないのか?」
「べ…別に大丈夫よ」
「本当か?我慢は体に良くないぜ?」
「ほ…本当に大丈夫だって」
「ふ~ん、ならばコレでどうだ?」

コタツの中にあるハルヒの下半身を、足を使って揺すってやる。

「あ!やめなさいよっ!このエロキョン!」
「ほれほれ、我慢するなよ~」
「いやっ…本当に違うのっ…やめて…」
「ほらほら、降参しろ~」
「やめてっ…出ちゃう…」
「えっ?」


『ぷすう~』


な、何だ『ぷすう~』って…
もしかして、オナ…

「バカッ!キョンのバカッ!最低!信じられないっ!」
「あ…ご…ゴメン」

謝る様な事じゃ無い気もするが、おもわず謝まってしまう俺って…

「もうっ!絶対嫌だっ!キョンとは口利かないっ」
「そんな…怒り過ぎだろ…」
「…………」
「なあ、ハルヒ?」
「…………… 」

駄目だ、本気でダンマリを決めこみやがった。
仕方がないからコタツから出て、ちゃんと謝ろうか…
でも、待てよ?
またいつかの様に、本気で謝った瞬間に「へっへ~ん!キョンの負け~!」なんて舌を出されるのは嫌だな…

とりあえず、もう少し様子を見る事にする。
が…コタツの向こうからは物音すらしない。

「おーい、ハルヒ…」「……… 」
「俺、少し悪ふざけが過ぎたよ」
「………」

駄目だ、もう…俺の負けでいいや。

コタツから出て反対がわへ…
ふてくされて丸まっているハルヒの顔を覗きこむ。

「おーいハルヒ……あれ?」


…寝てやがる。

全く…しょうがないな。

俺は少しだけコタツの温度を下げてやると、灯油を入れる為にストーブのある廊下へと向かった。


おしまい

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