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■エピローグ~宇宙最強!天地無用!!
あの後に知ったことだ。
どうやら俺はあの世界で若干の記憶操作を受けていたらしい。日付の感覚だけを、終業式以前に操作されてたってことだ。
まあ時間の流れすら違ったって話だ。今更驚きゃしない。
つまるところ、俺との関係が進展しないまま終業式を迎えてしまったハルヒが閉鎖空間を生み出したってのが今回の騒動の真相らしい。
……とはいえ、騒いでたのは俺一人だけってのが実情なんだけどな。
まあ、今となってはそんなのは些細なことだ。それよりも今俺がしっかりと受け止めなきゃいけない現実は――。

「カナダから転校してきました、朝倉涼子です。みんな、またよろしくね!」

この予想外の――いや、全くの想定内の転校生の存在さ。


結局、やっぱり長門と喜緑さんは事の顛末を知っていた。
長門は喜緑さん経由で統合思念体の許可を受けて朝倉涼子を再構成し、情報操作で進級した俺のクラス――やっぱりハルヒと
谷口・国木田コンビ、それから阪中は同じクラスだった――に転校生としての新たな人生(っていうのかね)を与えた。
その時、朝倉がさりげなく俺の方にウインクを送ってきたが――。
もうこいつの笑顔に恐怖は感じなかった。


それから、長門はもう一人、新しいバックアップを統合思念体から受け取っていた。
そう、長門沙希だ。
全くこの辺は統合思念体の思考ってやつを疑いたくもなる話だが、あの世界にいた長門沙希と設定的には全く一緒らしい。
一つ違うのは人間ではなくれっきとしたインターフェースだってことで、長門や、俺たちの身に危険が及んだ時には
インターフェースとしての能力が解放されるらしいのだが、それまでは能力は制限されていて、それどころか自分が
インターフェースだってことすら知らないらしい。会ってみたら本当にあの長門(沙希)そのままだった。
長門曰く、「彼女にはあくまで普通の人間としての道を歩んでもらいたい」とのことだ。
統合思念体もよく許したもんだ。
……ちなみに長門(沙希)にとっての長門(有希)への認識は「魔法使い」らしい。
そうすりゃ確かに情報操作能力とやらは長門(沙希)の前でも使えるかもしれんが……。
まったく、やれやれだ。


それから――。
やっぱりあの世界のことは誰も覚えていなかった。
いや、誰かに確認したってわけじゃないから正確なことは言えないんだが、みんなの俺への対応がいつもどおりだったことから察するに、
誰もこのことは知らないんだろう。多分。
何か、みんな微妙に上機嫌に見えたのは気になったけどな。
ハルヒも新学期初日とは思えない元気っぷりだったし。
まあ……今はまだ、その時じゃあないってことかもな。


それと、これはちょっとした余談。
谷口と国木田は俺の記憶どおりにアホと天然の毒舌で、うほっなことは一切なかった。いや、実によかった。
ついでに古泉のことなんだが――。
ウホ泉でなかったのは当然として、後に俺は意外な事実を知ることになる。

「実はあの幽霊騒動以来交流がありましてね。それからですよ、彼女の魅力に惹かれ始めたのは」
普段どおりの如才ない笑みでこっ恥ずかしいことを言う奴である。
「いやあ、それにしても意外だったのは僕の方です。まさか彼女が僕に好意を抱いてくれていたとは」
さっきから古泉の言っている彼女というのは、俺やハルヒもよく知っている、かつて幽霊騒動をSOS団に持ち込んだあの人物――そう、阪中である。
そう言えば何だか俺たちが見てない隙に妙にいい雰囲気を作っていた二人だったがまさか付き合うことになろうとは。
……なるほど、あの世界で阪中が古泉宛の――と言っても俺名義のだが――ラブレターを持っていたのはこういうことだったのか。
「まあ、近いうちに他の皆さんにもお話しするつもりですよ。ですから――」
ですから、何だ。
「あなたも頑張ってください」
何を頑張るってんだコノヤロウ。



話を元に戻そう。
そしてこの日――。
もう一人の転校生が北高にやってきた。


昼休み。俺は珍しく食堂へと向かっていた。ただし、弁当持参で。
とはいえ目的は食堂じゃない。では購買かというと、弁当派の俺は購買にも用はない。
用があるのは、ほら。あの購買に並ぶ列の端で、ぽつんと立っているあいつの方さ。

俺は購買に並ぶ長蛇の列を所在なげに眺めているそいつに声をかけてやった。
「春日」
「…………」
俺の呼びかけに振り向いたそいつは、ふくれっ面を隠そうともせずに俺を見上げてくる。
自分の名前を俺が知っていたことにこいつは何の疑問も感じていなさそうだ。その理由を俺は知っている。
同じように俺が自分の名前を知っている理由をこいつは分かっているだろう。
「次はもう少し早くこないと間に合わないぜ」
「…………」
頬を膨らませたままの春日に、俺は近くのパン屋で買っておいたヤキソバパンを差し出して、
「購買のじゃないと不満か?」
「…………っ」
一瞬顔を赤らめた春日は俺の手からヤキソバパンを掠め取るとニッと笑って俺を指差し、
「遅刻、罰金!」
やれやれ。いったい俺はヤキソバパン何個買ってやったら許してもらえるのかね。


俺が弁当をもさもさと食う向かい側でもぐもぐとヤキソバパンを頬張る金髪のツインテール――そう、春日実花だ。
こいつは古泉と同じ九組に編入してきた天才少女――とかいう扱いになってるらしい。
何でこんなことができたか、なんてのは言うまでもないだろう? あの怪しげな<機関>の力さ。
「本当にお前、来ちまったんだな」
「…………」
春日はパンを食う手を止めて、行儀よく全部飲み込んでから口を開いた。
「何よ、悪い?」
「いいや」
予測できたことだからな。驚きはしないさ。
「今はこっちがあたしの世界」
「ん?」
「あたしだってみんなと一緒に楽しいことしたいもん」
それだけ言うと春日はまたパンにパクついた。
こうして見てると、本当にハルヒそのままだな。
ただ若干サイズが縮んで、ちょっとだけ素直になったって感じだが。
「始業式に3人も同時に転校生が来るんだ。ハルヒが見逃しゃしないさ」
そう言って俺は箸でプチトマトを摘み上げ――何だ? 何で春日は急に目を見開いてるんだ?
「それ」
「あん?」
「近づけないで」

……プチトマトが苦手なのか?
「何で?」
「だから近づけるなぁっ!」
怒られた。
「……苦手なのよ」
「何が」
「……赤くて丸いのが」
「何で」
「……だってあたし、<神人>だもん」
「…………ぷっ」
「っ!わ、笑うなぁっ!」
「いや、すまん、悪かったって」
「……むぅっ」
春日は頬を膨らませて、またパンにかじりつく。何よりも食い気か。ってか何でそんなにヤキソバパンが好きなんだ。
<神人>だから赤くて丸いのが苦手ねえ。……古泉のことはどう思ってるのかね。
「……イツキのことは別に嫌いじゃないよ」
「そうなのか?」
それは意外だ。てっきり古泉みたいな超能力者は嫌ってるもんなのかと。
「だってしかたのないことだもん。それに、最近は喧嘩してないし」
喧嘩って。
「それでも、赤くて丸いのは苦手なのっ!」
分かったから、飯は落ち着いて食いなさい。


始業式の夜。俺は自室でいろいろなことを考えていた。
長門・朝比奈さん・古泉の大胆告白を聞いたり、朝倉に襲われたり、閉鎖空間に連れて行かれたり、
ハルヒが世界を作り変えようとしたり、野球したり、時間旅行したり、作り物の殺人事件に遭遇したり、
ハルヒが夏休みをループさせたり、長門がコンピ研相手に本気で怒ったり、朝比奈さんがビーム出したり、
長門がそれを阻止したり、偶然見つけた野良猫が世にも珍しいオス三毛でそいつが突然喋りだしたり、
ハルヒと長門がバンドをやったり、長門が世界を作り変えたり、朝倉にまた襲われたり、また時間旅行したり、
長門が勘違いの一目惚れをされたり、冬合宿でどこぞの宇宙人的な奴らの罠にはまったり、
その冬合宿で用意された殺人事件の謎を解くことになったり、朝比奈さんと一緒に眼鏡の少年を助けたり、
朝比奈さんが二人だったり、胸くそ悪い未来人と<機関>と敵対する組織の女やその他諸々に
朝比奈さんをさらわれたり助けたり、生徒会というか<機関>の陰謀で機関誌を作るハメになったり、
幽霊騒ぎに巻き込まれたり――。
この一年、いろいろなことがあった。それこそ、思い出すのも疲れるくらいに。
だが、どれ一つとして「楽しくなかった」なんて言える思い出は、今となっては存在しない。楽しくなかったことなんて、
このいろいろありすぎた一年間の中じゃ記憶の隅に追いやられてるだろうしな。
そして、これからはもしかしたら、そんな楽しい思い出ばかりじゃすまなくなるかもしれない。
だが、長門も言っていたことだ。俺は恐れてなんかいない。
何故なら――。
俺には信頼できる仲間が、何人もいるからな。

朝比奈さんとは別口の未来人に古泉の<機関>と敵対する組織に長門たち情報思念体とは別の広帯域宇宙存在?
知るか。来るなら来てみやがれってんだ。こっちには神様に異世界人まで揃ってるんだぜ。もう怖いものナシだ。
俺たちは宇宙最強のドリームチーム、SOS団なんだからな。


さて、世はなべて事も無し――。
そろそろ、何かでかい事件の一つでも起きちまうんじゃなかろうかね。
まあ、俺にとっての当面の心配事は――。
あの夢が本当に現実になってしまうのかどうかってことだ。

ま、そんなことになったとしても、この際俺は全く構わないけどな。
全くもって――世界は驚くほどにセンセーショナルだぜ。





                                            【天地無用!SOS】  完
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