夢というものは、見るのが当然だそうだ。人間としては、それが正常。
夢も見ないでぐっすり眠ったという人も、目覚めたときに忘れているだけで、やはり見ているのだという。
もっとも、眠れればのことだけど………。
あたしが今こういうことを考えているのは、なぜか眠ることができないから。
ベッドの上で何度も寝返りを繰り返しても、いっこうに眠気というものはこない。
なぜだろうかと、あれこれ考えてみるが、これといって原因も思いつかなかった。
あたしは、何気なく今日の生活を思い出してみる。

今日も、いつもと同じく何も変わらない生活だった。あたしの一番嫌いな一日。
ましてや授業のことなんて、思い出す要素が何もない。授業で教わったことなら、ノートを見ればいいだけのこと。
放課後にも、不思議なことは何もなかった。時間がたつだけの、毎日だった。
あたしは、今日を振り返るのが憂鬱になり、ベッドに全身を包んだ。

しかし、どんなことをしても眠くはならなかった。
夕方ごろから、昨日より急に暑くなり始めてたから、気候のせいにしたりもした。
しかし、冷房を入れるほどでもない、そんな中途半端な暑さだった。日本の初夏にありがちな天気ね。
だからあたしは、毛布をかけたり外したりした。

それでも、眠くはならない。あたしは、発想の転換をしてみる。
そうよ、無理に眠ろうとするからいけないのよ。明日、学校に早く来る理由は何もない。
たまには遅刻したって、どうということもない。それでいいじゃないの……。
気は楽になった気もした。しかし、眠くならないのはさっきと変わらなかった。
あたしはベッドから降り、両親を起こさないようにリビングへ行き、水を飲んだ。
そのままベッドに戻り、寝そべって漫画を読んでみる。しかし、眠気はこない。
無理にあくびをしてみても、同じことだった。

どうしてなの?どうして眠くならないの?この変な感じは何?
あたしがそう思っているそばで、時間は流れる。そして、朝が来てしまった。
太陽が昇り、やがては小鳥のさえずりが聞こえるだろう。ニワトリの鳴き声、とまではいかないけど。
仕方ないので、あたしはベッドから降りる。しかし、睡眠不足の疲労感という気分はなかった。
母さんに言われるがままに、朝食を食べ、学校へ行く。学校を休む理由は何もない。

あたしが来たときには、クラスの半分ぐらいの生徒は先に来ていた。
そして、あたしの席のひとつ前の、ある男子生徒も既にそこにいた。
「よおハルヒ。元気か?」
はぁーあ、元気なわけないじゃない。
「そうか?見たところ、お前の体にはどこにも変調がないように見えるが」
あたしね、昨日寝てないの。だから今日の授業、うっかりして寝ちゃったら……。
「なんだ。実は、俺も昨日は寝てないんだよ」
え、キョンも?そういう風にはぜんぜん見えないけど。
「谷口や国木田にも聞いたけど、あいつらも昨日寝てないって話だ」
まったく、どうなっちゃってるんだろ…………。

結局あたしは、授業中一度も眠ることのないまま、放課後を迎えた。
あたしはいつものように、文芸部室のドアを開ける。SOS団の団員は、全員いた。
何もすることがないまま、昨日のことに話が進む。

ねえみくるちゃん。
「はい、なんでしょう」
みくるちゃんは昨日、眠れた?あたしはぜんぜん眠れなかったんだけど。
「わ、わたしも昨日は、ぜんぜん眠れなかったです」
そう。古泉君と有希は?
「僕も、涼宮さんや朝比奈さんと同じく、眠れなかったです」
「………同じく」
そう………どうして、みんな眠れなくなったと思う?
「「「「さあ………わかんねえな」わからないです」今日は眠れると思いますよ」……」
各人それぞれの話を聞いて、あたしは帰った。

きっと今日は眠れるだろう。
あたしはそう確信していた。いや、そうとしか思えなかった。
何せ、昨日はまるで寝ていないのだ。これで今日も眠れなかったら、体のどこかがおかしいのだろう。
そう思いながら寝床に着いたが、あたしの意に反して今日もまったく眠れなかった。
眠りの精に見放されたかのようにあくびすら出ない。やれやれ、明日病院に行くことになりそうね。

思わずキョンの口癖をつぶやいたあたしに一人で苦笑しながらも、もちろん眠気はこなかった。
これはどういうことなのかと、考えてもわかるはずもなかった。
むしろ、そんなことを考えるからこそ眠れないんだとすら思えてきて、考えるのをやめてみる。
そのまま目をつぶって、ぼんやりとしてみる。しかし、やはり眠くならない。
目をつぶっているのが無意味に思えたあたしは、なんとなく目を開けてみる。すると………。

そこには、キョンが立っていた。
あたしのそばで、ただ立っていた。かすかに微笑んでいる気もする。
あたしは、声をかけてみた。しかし、何も答えてはくれなかった。
なぜここに来たかなどの、いくつかの質問をしてみたが、キョンは返事をしてくれなかった。
あたしはいらいらして、キョンにビンタを喰らわそうとした。

しかし、それはうまくいかなかった。
なぜかというと、あたしが振り下ろした右手はそのままキョンの顔を通り抜けたからである。
あたしはベッドから降り、キョンにいくつかの蹴りや突きをしてみた。
しかし、それらのいずれもキョンの体をすり抜け、攻撃は不可能だった。
あたしは改めて、キョンらしきものを眺めなおす。いやにはっきりとしていた。
うす暗いところに現れる幽霊と違って、細部まではっきりとしていて、向こう側が透けて見えることもない。
手を伸ばすと、何の抵抗もなく、キョンの体を突き抜けて、入った部分は見えなくなってしまった。

気体でできた、色つきの精巧な人形という感じを、あたしは受けた。なかなか芸術的な例えでしょ?
いらいらさせ、むなしくなるけど、面白いところもいろいろとあるわね。
少なくとも、今夜の眠れそうにない夜のひまつぶしには悪くないと思った。
そのとき、隣の部屋から、母さんと親父の悲鳴がした。

行ってみると、そこにはかなりの年を召した老人と、少し太った感じの男の人が、母さんや親父といた。
どうしたの、そんなに大きい声出して。
「ハ、ハルヒか。起こしてすまんかった」
いいわよ別に。あたしも眠れなかったし。…それで?何であんな大きな声出したの?
「母さんも父さんもなかなか眠れなくて、目を開けたら、こんなのがいて……」
あら、あたしもそうよ。これがそう。あたしのクラスメートよ。
「そ、そう。……こ、こちらは、あたしの父さんで、ハルヒにとってはおじいちゃん」
おじいちゃんって……確か三年前に死んじゃったあの……。
「そうよ。死んだはずのおじいちゃんが急に現れたから、つい…ごめんね」
ううん、こんなの見たらあたしでも大声を出しそうなもの。……それで、こちらの方は?
「こ、これはお父さんの会社の部長だ。いつも怒鳴られているから、突然出てきたときはびっくりしちゃってね」

おじいちゃんも親父の上司も、あたしのキョンと同様だった。
……なんだか、「あたしのキョン」って言うと誤解が生じそうだわね。まあいいけど。
でも、なぜこんな幻のようなものが出現したかは、わからなかった。
テレビをつけても、それについての報道はされなかった。深夜だからだろう。
しかたなく、あたしたちはラジオを聴くことにした。ラジオからはこんな放送がされていた。

( ^ω^)<しばらく放送が中断してしまい、ごめんなさいだお。局の中で、何か混乱が起こり、電波が途切れたせいだお>
( ´_ゝ`)<あんた誰よ?何その由比正雪スタイル。勝手に入ってきちゃあ困るぜ。
     ……しかたない、いてもいいけど静かにしてろよ>
( ^ω^)<……とにかく、番組を続けるお。さて次のコーナーは、『DJブーンのお悩み相談室!』
     このコーナーでは、はがき抽選で選ばれた方に、このDJブーンが電話で身上相談をするというものだお!それでは、最初の方はどうぞ…>
(*‘ω‘ *)<えーと、あたし本当はにきびの治療法を質問するつもりだったっぽ。でも、別なことにするっぽ>
( ^ω^)<産業でおk>
(*‘ω‘ *)<・あたしは中学三年生
  • 高校入試のために勉強していた
  ・すると、そばにあたし自身が立っていた>

( ^ω^)<ちょwwwwww返答に困るお。ドッペルゲンガーかお?>
(*‘ω‘ *)<なんでその、ドッペル何たらというものが出てきたんですか?>
( ^ω^)<えー………>
その後も電話相談は数件あったが、その内容はどれも同じものだった。
( ^ω^)<理由はともかく、けっこうなことじゃないかお。好きにすればいいお。
      しかし、なにやら大変なことになってるようだお。心理学の専門家に、ご相談願いたいお>
川 ゚ -゚)<何だね、こんな夜中に>
( ^ω^)<こちらはラジオの深夜番組だお。お休みのところですがサーセンwwww>
川 ゚ -゚)<いや、私もこのところ、眠れないのだよ。しかし、今ちょっと来客中でね……>
( ^ω^)<どんな来客だお?>
川 ゚ -゚)<聞いても笑わないでくれ。ヒットラーだ>
( ^ω^)<mjd?wwwwwww気は確かなのかお、先生?>
川 ゚ -゚)<私は、独裁者の心理学を専攻している。そこへの出現。どう見てもヒットラーなのだ本当にありが(ry
   しかし、私がいくらヒットラーに質問しても、ちっとも答えてくれない。>
( ^ω^)<しかし、ヒットラーは死んだはずだお。そんなのが先生のところにくるわけないお>
川 ゚ -゚) <私もそう思い、自己精神診断をしてみたのだが、狂っている様子はない。不思議なことだ>
( ^ω^)<先生のところだけではないみたいだお。各所に、いろいろなものが出現しているみたいだお。
     ちなみにブーンのところには、由比正雪がいるんだお。鮮明な幻影、といったところだお>
川 ゚ -゚) <幻影なのは、間違いないだろう。少し気が楽になった>
( ^ω^)<安心もいいけど、この現象の解説はないのかお?>
川 ゚ -゚) <そう急に言われても困るが、立体テレビの試験電波が流れているのかも…>
( ^ω^)<ねーよwwwwwwww>
川 ゚ -゚) <となると、宇宙人が円盤から…………>
( ^ω^)<ちょwwwwwwwwwwwwwww>

心理学者は、専門以外のことに関する無知をさらけ出した。まあしかたないことだわね。
弁護士に医学的見解を求めることと同じようなものよ。
脱走しかけるのをDJが引き止め、会話もやっとそれらしきものになってきた。

川 ゚ -゚) <…昨日の夜から、多くの人がずっと眠れなくなっている。それに関連があるようだ。
   不眠の原因については、私からはなんともいえないが、皆が眠れないでいるのは事実だ。
   それに基づいての仮定だが、このヒットラーや、そちらの由比正雪、これらは全て夢だ>
( ^ω^)<な、なんだってー(AA略>
川 ゚ -゚) <夢というものは、見るのが当然だそうだ。人間としては、それが正常。
夢も見ないでぐっすり眠ったという人も、目覚めたときに忘れているだけで、やはり見ているのだという>
( ^ω^)<その話は、聞いたことがあるお>
川 ゚ -゚) <人間の意志にかかわらず、夢は必需品。われわれは夢を見なければならない。
    しかし、最近は人々が皆不眠状態になってしまった。そのため、夢のほうから出現してきた>
( ^ω^)<しかし、この夢は他人にも見えるらしいのですが、なぜですかお?>
川 ゚ -゚) <前例がないので断定はできないが、夢が体外に投影される形となってしまったのではないか。
   本来は夢は脳内で見るものだが、それが不可能。レンズのような作用、とでも言うべきか>
( ^ω^)<わかったような、わからないような気分だお。それで、この現象はいつ終わるのですかお?>
川 ゚ -゚) <私の解説が正しければ、この不眠の流行がおさまれば、終わりの時なのだろう。まあ、気長に待つことにしよう>
( ^ω^)<貴重な意見thxだお………>

「なんとなく、わかったような気分にさせられたな」
「電波媒体と解説の力は偉大なものだわね。……ハルヒ、もう怖くないわね?」
怖がってんのは、母さんたちのくせに………。
「しかし、ハルヒはなんでこんなクラスメートの夢を………」
「もしかしたら、その子が好きなんじゃないの?」
バ、バカッ!そんなわけないでしょっ!!あたし、もう寝るから!おやすみなさい!
「「眠れればね……おっと」あらやだ」

「寝る」といったものの、いっこうに眠くはならない。目を閉じても、あたしの隣のいるキョンの夢が気になるからだ。
そして、眠れないまままたも朝を迎えてしまった。
要するに、夢の出現のために、ますます眠れなくなってしまった。だれでもそうだろうけど。
しかし、あたしはこの現象について、少し心がときめいていた。
そうよ。これ以上の謎はないわ。これが、あたしが望んでいたものなのよ。
眠れなくたっていい。明日から、SOS団の本格的活動が始まるんだから!
………あたしの夢が、ヘッポコでバカでただの平凡な人間のキョンなのは気に食わないけど。

翌朝のテレビのニュースは見ものだった。どのテレビ局も、真っ先にこの問題を取り上げた。
そうよそうよ。それでなくっちゃ本物の謎とはいえないわ。
テレビの解説も、昨夜のラジオで話した学者の解説と大同小異だった。まあ、頭の固い大人の考える説なんて、大体そういうものよ。
そのニュースの終わりはどのテレビ局も、早く事態に慣れて事故に注意を、というものだった。

学校に来る途中で、あたしは苦労した。なぜなら、みくるちゃんがあちこちにいるんですもの。おかげで、夢のみくるちゃんに声をかけそうになったわ。
みくるちゃんの夢の持ち主は、大体が男子生徒だった。だから、夢の中のみくるちゃんが、
その人によって違って見えた。
女子生徒は、それぞれが思う学校のイケメンを連れてきていた。その中には古泉君もいっぱいいた。なんであたしはキョンなのよ。
珍しいのが、キョンだった。キョンが連れてきた夢は、男子生徒の中でただ一人、あたしの夢だった。
「よおキョン。涼宮の夢を連れてくるなんて、お前らしいぜ」
「うるさい谷口。俺が連れてきたくて連れてきたんじゃないんだ」
…あたしも、別にあんたを連れてきたかったわけじゃないんだから!

時間はいつもどおり流れ、一応ホームルームになった。
「席に座れー」と怒鳴る岡部の後ろには、水着姿の美女がいた。
しかし、いつものように連絡事項を話す岡部の話を、まじめに聞こうとする人はいなかった。
授業になっても、それは同じだった。先生さえも、授業をする集中力が失われていた。
あたしは暇なので、キョンに話しかけてみることにした。

とても授業にならないわね。
「まったくだ。何百種もの映画フィルムをバラバラにつなぎ合わせ、見せられているようなものだからなあ。
こんな生活を続けていると、神経のほうが参ってしまうぜ。やれやれ……」
でも、SOS団にとっては待ちかまえていた謎、研究してみる価値はあるわよ。そう思わない?
「はぁ~?こんなわけわからんものをか?止めといたほうがいいと思うが」
なに言ってんのよキョン。この謎を突き止めることができたら、大手柄よ!
「はいはい、大手柄は分かったから、止めとけ。それだけは言っておこう」
むぅ~、このバカキョン!ヘタレ!
「おいそこ、うるさいぞ。一応は授業中なんだから静かにしてろ」
「やれやれ…………」

あたしは、この異変について徹底的に調べることにした。
でも今日は、この夢をじっくりと見物することにしよう。本格的な活動は後ででもいい。
SOS団のほかの団員の夢も、チェックしておきたいし。団長には、それだけの権限があるはずよ。

「涼宮さん、お茶です。どうぞ」
そういってお茶をあたしの前に置いた、メイド服の人の後ろには、変な人が立っていた。
現代にはないような道具を、いろいろ持っている人。例えるなら、未来人。
みくるちゃんも、未来人に興味があるのね。さすがはあたしが見込んだ団員だわ。
その隣で、あたしの夢を連れたキョンとチェスをやっている古泉君の隣には、森さんと新川さんが立っていた。
この二人といえば、思い出されるのがあの孤島の事件ね。あたしの名推理、いかがなものだったかしら?
隅っこで本を読んでいる有希は、朝倉と、もう一人の北高の人を連れていた。
えーと誰だったかな……そうだ、喜緑さんよ。コンピ研部長の彼女で、部長失踪の依頼に来た人よ。
そういえば、有希が死んでしまったとき、本で生き返らせたのも喜緑さんだったわね。
そんな人の顔を忘れてしまうなんて、あたしは何で恩知らずなんだろ。
それにしても、有希と朝倉と喜緑さんってどんな繋がりがあるのかしら……。

「おや、あなたの涼宮さんが寝ていますね」
「その言い方は止めろ。せめて、『夢の』という言葉を追加してもらいたいんだがね」
ふと現実のほうのキョンを見ると、確かにキョンの夢のあたしは寝ていた。
夢の持ち主が眠れずに、夢の中の人が眠るなんて……って、夢のあたしパンツ丸見えじゃない!
あたしは夢のあたしに駆け寄り、パンツが見えてる部分を隠そうと夢のあたしに覆い被ろうとした。
しかし、あたしの体は夢のあたしをすり抜け、あたしはそのまま地面に激突した。
「ん?なにやってるんだハルヒ?」
「見ないで!あたしを見ないで!」
「何言ってんだハルヒ。このハルヒは夢のハルヒだろ。お前が気にすることはない」
「ではあなたは、涼宮さんの夢のあなたが突然裸になってもいいというのですね?」
「い、いやそういうわけでは………」
そうよ。それとも、そんなにあたしのパンツが見たいわけ?このエロキョン!
「わーかったよ。……あ、お前の夢の俺も寝た」
それがきっかけとなり、夢たちは次々と眠り始めた。あたりの光景が、いくらか穏やかになる。

でも、眠っている夢たちを見てると、なんだか不思議な気分になる。
いったい、この奇妙な現象はいつまで続くのだろうか。ずっと続いたら、あたしたちはどうなるのか。
いっこうに眠くならないが、こないだからの肉体的、精神的な疲れはかなりのものだ。
このままだと、気が狂うかもしれない。なんともいえない不安が、あたしを襲う。

と、その時。
みくるちゃんの夢である未来人らしき人が、目を覚ました。
床から起き上がり、少し伸びをし、軽い声を出した。夢が初めて声を出したのだ。
ふと、みくるちゃんに視線を送ると、そこには異様な光景があった。
「あ……わたしの体が……消えてますぅ」
み、みくるちゃん!
「「朝比奈さん!」」
「ふぇぇえ、どうなっているんですかぁ」
あたしはみくるちゃんの腕を引っ張ろうとしたが、その腕も消えた。
「朝比奈さんが……」
「わたし、どうなっちゃうんですか?消えたくないですぅぅ………」
まもなく、みくるちゃんの姿は消えた。古泉君が焦るように語る。
「どうやら、僕たちが夢と化してしまったようです。いずれは、僕たちもああいう風に……」
そんな!あたし、まだ消えたくないわよ。どうすればいいの、キョン!
「俺に聞かれてもわかるはずないだろ。くそっ、長門!お前なら何とかできるだろ」
「………無理。今のわたしは何の力も持っていない」
「しかし長門………」
「古泉一樹の言うとおり、今のわたしたちはもはや夢。今のわたしが力を発揮しても、それはこの世界に何の影響力もない」
「ということは、俺らはこのまま消えるのを待つしか………」
まもなく、有希の夢である朝倉と喜緑さんが起きて、有希は消えた。

ど、どうすればいいのよ。このままだとあたしたち……。
「まあ、要するに、世界は終わりを告げた。そういうことだろ、古泉」
「ええ。正確に言えば、僕らと夢が逆転しただけなんですけど」
そ、そんなのいやよ。あたし、キョンと離れたくないの!
「そんなこと言ったって、どうしようもないぜハルヒ。
それに、夢の世界でも俺らは一緒にいれるんだから、いいじゃないか」
なに言ってんのよキョン。夢の世界のあたしじゃ意味ないのよ。
この気持ちを持っているあたしじゃなきゃ……。
「……何が言いたいんだハルヒ」
つ、つまりは、あたしはキョンのことが好きなの。だから、この世界のキョンと離れたくないの!
「……………………」
あ、あれ?何であたし、こんなこと言って……。
「ハルヒ。俺が言おうとしてた言葉を、先に言うな」
え?な、何言って………。
「まあいいか。………俺も、お前のことが好きだぜ」
こんな世界の終わり方って、どの小説にもないんじゃないかしら。
まあ、こんなのもいいかもしれないわね。あたしは、キョンに体を預けた。

「おや、どうやら僕はお邪魔虫のようですね」
わざとらしい口調で話す古泉君の存在にあたしは気づき、キョンから体を離した。
「古泉、お前絶対にわざとだろ」
「いえいえ、僕はこの状況における自分の立場を確認しただけですが」
古泉君、もしかして、嫉妬してるの……?
「めっそうもない。僕にはその方向への興味はまったくありませんよ」
「嘘つけ古泉」

そうこうしている内に、あたしたちの夢が起きた。と同時に、あたしたちの姿もどんどん消えていく。
もうすぐこの世界とも、そしてキョンともさよならね。

「なあハルヒ。俺たちが、また会える日は来るのだろうか」
この世界のあたしたちのこと?さあ、さっぱり分からないわ。
「この世界の住民が、われわれの夢を見てくれればいいのですが、あまり期待はできませんね」
「そうか……」
キョンはそういうと、あたしの肩をつかみ、顔を近づけてきた。
そして、古泉君の存在などおかまいなしに、あたしの唇はキョンのそれと重なった。
それはあたしにとって最初の、そして最後の長い、長いキスだった……………。


【涼宮ハルヒの憂鬱 meets 星新一 第十一部 「重なった情景」】
原作:星新一「ごたごた気流」に収録 「重なった情景」

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