当面の敵はみくるちゃん、有希も以外と侮れないかもしれない。
みくるちゃんはおっぱい揉めばなんとかなりそうだけど、有希にはないからなあ、おっぱい。
本でも渡せば無問題かしら。
でも、あの娘って案外頑固なところがあるし、中々言うことを聞かないかも知れない。
こういう時の無表情キャラは難敵ね。
うーん……ん、胸がない?
ふふ、これ、結構いい案かもしれないわね。
明日にも試してみようかしらね。

ねぇ有希、あなた、悩みなんかない?
「特にない」
へぇ、そうなの。
でも、私はあるのよ、聞いてくれる?
有希は無言でこちらをみている。
ちょっと強引だったかな?まあいいわ、このまま押し通そう。
私ね、最近なんだか肩凝るのよね、おっぱいがどんどん大きくなってるみたいなの。
成長期だから当然かもしれないけどね。
「そう」
これって、結構つかれるのよ――有希にもそんな事なかった?
「……特にない」
有希の反応が一瞬遅れた。
どうやら、この話題はビンゴだったみたいね。
ここは一気に攻め落としましょう!
「へぇ、なかったんだ――ねぇ有希、あなたも体験してみたくない?」
しばし、沈黙が場を支配した
明らかに、有希は迷ってる。
いつもは無い表情が、微妙に垣間見える……様な気がした。
そして、長い沈黙は有希の声で破られた
「……未知の経験に対する興味がないわけではない」
チェックメイト!
やっぱり有希は気にしてたんだ、私の感、凄い。
と、まずはこのまま押し通しておかないと。
「私ね、おっぱいを大きくする方法をいくつか知ってるの――だから」

これで有希は驚異になり得なくなったわ。
後はみくるちゃんの行動に注意しておけば当面は安心ね。
まったく、なんであいつ一人の為にこんなに頭使わなきゃならないのよ。
なんか、ムカついてきたわね。
明日あったら買い出しでも言い付けようかしら。
一人じゃ持ちきれないくらい買わせてやるんだから。


ハルヒと二人で街を探索するなど、いつ以来だろうか。

昨日の晩、風呂上がりにシャミセンをいじっているところに、ハルヒから電話があった。
『明日、商店街まで買い出しに出掛けるわよ。 待ち合わせは正午丁度に駅前の時計下ね』
ずいぶん唐突だな。
しかも言葉のニュアンス的に、俺も行かなきゃならないようだが。
『当たり前じゃない、SOS団の備品を買いに行くんだから団員が行くに決まってるでしょうが』
そんなの他の奴らと行ってこい、俺は行かないぞ。
(朝比奈さんが参加するなら話は別だが)
『それが、他の皆は捕まらなかったのよ。 荷物持ちが必要だから、あんたは必ず来ること』
おい、勝手に配役するな。
『団長命令よ、来なかったら月曜日に罰金ね、以上!』
言いたいことだけ言って、電話が切られた。
相変わらず強引グマイウェイな奴め。

などと一方的なやりとりがあったわけだが、何故か俺は身仕度をして駅へ向かっていた。
無視してしまえばよかったのだが、罰金を取られるのも嫌だったし、なにより暇だったのだ。


そういえば、何を買うのか知らされていない。
来年の文化祭ようの衣裳だろうか、続編を作るような事を言っていたはずだ。
もしそうならば、役得として朝比奈さんのコスプレのバリエーションをいち早く確認できることになる。
前回がバニーとウェイトレスだったから、今回はネコ耳とメイド服か。
いや、メイド服はデフォルト装備だから違うだろうか、しかし、バニーも最初のコスチュームだったな。
まだ、そうと決まったわけではないのだが、朝比奈さんを乗せた妄想トラックは一度走りだすと中々止まらないのだ。

実に有意義な時間を堪能しているところに、携帯の着信音が鳴り響く。
『あんた、今、何時だと思ってるの!?』
怒気を隠そうともしない大声が携帯から聞こえてくる。
そういや、今何時だっけ?
『もう十一時半よ! いつまで待たせる気?』
どうやら、かなり時間が経っていたようだ。
『あと一分で来なかったら今日の買い出しの費用、アンタ持ちだからね。 もたろん経費は落とさないから』
もういっそ帰った方がいいをじゃないかと思ったが、どうせ後で請求されるだろうことは明白なので
――第一、生徒会が認めるとは思えない――、多少の出費を覚悟する事にした。
…‥少しはまけてくれることを祈りたい。

電話が切れてから駆け足で五分、駅前まで後二、三分程だろうか、土曜日の野外活動ですっかり慣れてしまった道は、妙にざわめきたっていた。
道行く人も、そこかしこで噂話をしている。
速度をやや落として、通行人を避けながら進んでいく。
「それにしても、非道い事故だったな」
すれ違いざまに会話が耳に入ってくる。
どうやら事故があったようだ。
だが、今は待ち合わせ場所に迎うのが最優先だ。
特に気に留めず、時計下へと急いだ。

駅前に到着すると、人だかりができていた。
事故は駅前であったらしい。
と、まずはハルヒを探さなきゃな。
「事故にあったの、高校生ですって」
「あっという間で避ける間もなかったらしいわよ」
人身事故だったのか
歳が近いな、災難な人もいたものだ。
「可哀想に、女の子みたいよ」
ドキリとした。
まさかな、そんなことあるわけが無い。
「誰かと待ち合わせをしていたみたいよ」
「まあ、彼氏かしら、どっちも可哀想ねぇ」
ハルヒが事故に遭うなんてあるはずが無いんだ。
だって、そうだろう?
アイツが事故を望むわけが無いからだ。
だったら、何故俺の足は時計に向かっている!

「こちら現場から状況を報告します」
どこかで救急隊員らしき人の声がした。
辺りを見回して、発声源を確認する。
通信機器で話している人の後ろで、数人が担架で被害者らしき人を移送している。
「被害者は少女一名、頭部及び全身を強打、さらに多量の出血も確認」
全神経を耳に集中させる、どんな小声も聞き漏らさない。
隊員のぱらぱらと手帳を流し読みしていた手が止まった。
「携帯していた生徒手帳から、身元を確認。 県立〇〇高校一年生」
ドクン――心臓が跳ね上がる。
落ち着け、まだ決まったわけじゃない、決まったわけじゃないんだ、いい加減止まれっ、俺の心臓っ!!
「氏名は――」
すべてを聞く前に、救急隊員の制止を振り切り、担架に移送された被害者に駆け寄った。
俺には見えたんだ。
その[彼女]の元から落ちた、見慣れた黄色いリボンが。




「涼宮ハルヒ」      




君が望む憂欝





「まったく、あなたという人は……あれ程涼宮さんの様子には注意して下さいと忠告しておいたのですがね」
「……黙りですか、いいでしょう。 ここからは僕の独り言です」
あの日――涼宮さんが事故に遭う前日、僕は神人退治に駆けずり回っていました。
最近、神人の出現率が増加していたのですが、その日は最も神人が多く現われたんです。
ですが、晩になると、神人の出現はぴたりと止んでしまいました。
再び出現したのは翌日の十一時前後、大体あなたと彼女との待ち合わせ時間に当てはまりますね。

ああ、誤解しないで下さいよ?
待ち合わせの情報は、警察内部の仲間から貰ったんですよ。
決して盗聴や尾行をしたわけではありませんから。

まあ、神人の増加も初めはそれ程憂慮すべき事態ではなかったのですがね。
十一時十五分を過ぎた当たりから雲行きが怪しくなりはじめました。
いくら倒しても限りが無い程、大量に、続々と現われ始めたんです。
これが何を指し示しているか、判りますか?
ああ、そういえば独り言でしたね、すみません。

では、仕切り直して――僕は、涼宮さんは不安だったんじゃないか、と考えています。
せっかくのデートなのに――少なくとも、彼女はそう認識していたでしょうね――相手が遅刻、しかも連絡の一つもよこさない。
普段から自分より、周りの女の子に気を遣うあなたに、彼女は少なからず嫉妬していた事でしょう。
そこに、あなたは彼女の気も知らず、待ち合わせに遅刻する。
彼女は不安になった。
彼は自分に興味がないのではないか、また、他の誰かに好意を寄せているのではないか、と。
ここで重要なのは、あなたの心情ではありません。
あくまで涼宮さんの心情が第一ですから。
そんな不安が蓄積し、涼宮さんは不意に、こう考えてしまった。

「私が事故にでも遭えば、キョンは気に掛けてくれるのだろうか」

細部はどうであれ、大まかにはこう考えた筈です。
そして、世界は涼宮さんが望む通りに動いた。


僕の考察は以上です。
これが正しいとは限りませんが、結構、自信はあるんです。

と、そろそろ時間が来たようです。
知っての通り、涼宮さんは現在昏睡状態です。
しかも、不安を残したまま意識を失っているものだから、大きな改変でないにしろ、それなりの規模で神人が暴れているんですよ。
そういう訳で、しばらく会えないでしょうが、自殺、なんて事だけは絶対に考えないでください。
それこそ、[この]世界は消えてなくなるでしょうから。



そうだ、最後に一つだけ。

その日、涼宮さんは、あなた以外には連絡を入れていないそうですよ。


あれから一週間、何をするでもなく、ただただ放心していた。
日々が悲しみで埋められて去き、何も考えず過ごしてきた。
たまに、古泉の独り言を思い出す程度で、何に対しても気力が湧かなかった。

――その日、涼宮さんは、あなた以外には連絡を入れていないそうです。

古泉が去りぎわに残していった言葉。
何故、ハルヒは嘘をついてまで俺と出掛けようとしたんだ?
違う、そんな事は分かり切っている。
ハルヒはただ、本当に、俺と出掛けたかっただけなんだ。
じゃあ、解っているのに、なんでこんなに胸くそ悪いんだ。
……くそ、余計な事を言うだけ言って行きやがって。




何をするでもなく自室で惚けていると、チャイムの音が鳴り響いた。
階段を降り、インターホンへ向かった。
はいはい、どちら様でしょうか。
『あ、朝比奈と申しますが、キョン君はいらっしゃいますか?』
インターホン越しにもくりくりした声は、未来から来た可愛らしい先輩だった。
ドアを開けると、未来人の隣に、無表情な宇宙人製の文芸部員もいた。
「……」
まあ、とりあえず、あがってください

「キョン君、その……元気だして?」
自室に迎え入れると、朝比奈さんは恐る恐るといった様子で声をかけた。
彼女の姿を見ると、こちらが悪いことをしている気になってしまうから不思議だ。
実際に、迷惑を掛けているのに違いはないのだろうが。
「不幸な事故だったけど、そんなに気に病まないで下さい」
朝比奈さんは強いですね。「いいえ、私もお話を聞いたときは驚きました」
でも、もう立ち直ってる。
やっぱり強いですよ、俺なんてまだこの様です。
「キョン君は涼宮さんの、その……みてるから、仕方ないですよ――あっ、ごめんなさい!!」
いえ、いいんですよ。
それはもう大分慣れましたから。
「本当にごめんなさい、なんと言ったらいいのか……」
「少し、黙ってて」

謝り続ける朝比奈さんを鎮めたのは意外にも、先程から彼女のとなりで無言でたたずんでいた長門だった。
朝比奈さんは長門に苦手意識をもっている様で、その一言でぴたりと口を閉じた。
「今、彼に過度の精神的負担を掛けることは好ましくない」
長門からこんな言葉を聞けた事も驚きだが、少しばかり朝比奈さんにそっけなすぎると思うぞ。
「あなたを心神喪失状態にするわけにはいかない、その為にある程度の強意表現も有効と判断した」
一応、俺を心配してくれているようだ。
すまなかったな、お前にも迷惑かけちまってたんだよな。
「涼宮ハルヒが目覚めたとき、あなたが存在しないと判れば、彼女の能力が暴走する」
なんだ、結局ハルヒが中心なんだな。
かくいう俺も十分巻き込まれているわけだが。
「それだけではない」
長門は感情を一ミクロン程表にだして、言葉を続けた。
「私個人としても、あなたが心配」
ああ、わかっていたよ。
ちょっと意地悪しただけだ。
「そう」
長門はもう、いつものペースに戻っていた。
うん、こっちの方がしっくりくるな。

「事故の原因は古泉一樹から聞いた?」 
あくまで機械的に長門は問う。
ああ、ヤツは想像てことにしてたが、多分本当なんだろ?
「大体は」
やっぱり、俺が原因なんだよな?
「それが判っているなら問題はない」
ん、どういう事だ。
理解不能の発言に一瞬気をとられて、長門の動きを察知できなかったのは失敗だった。

「もう、大丈夫」
「ふぇっ!?」      んなっ!?
俺と朝比奈さんは同時に感嘆符と疑問符をあげた。
いや、これを見たら今は寝ている能天気なハルヒや、いつでも胡散臭い微笑を浮かべている古泉だって同じリアクションをとると断言できる。
何故って?
当たり前だ。
あの長門が、必要最小限の動きしかしない長門が、

俺を、その胸に、抱き締めたのだ!

「こうすると気が楽になる」
い、いや、それは合っていると言えば合っているが、こう、その……なんだ、見た目年の近い男女がやると色々問題が発生するんだ。
「……そう」
少し惜しい気もしたが、さすがにこれは恥ずかし過ぎる。
ほら見ろ、朝比奈さんなんかはゆでだこになっているぞ。
その後、数分に及ぶ俺の必死の説得が長門を納得させられたのか、ようやく俺は長門の薄い胸から解放された。
しかし、いきなり大胆すぎだぞ、さすがに焦っただろう。
「ジョーク」
ずいぶんパンチの効いたジョークが出せるようになったな。
「ほぇぇ~、長門さん、びっくりしましたよ~」
ああ、何故この人の言葉にはこんなに癒し効果がうまれるのだろう。
「あれ、キョン君自然に笑ってる」
え?
「元気になった?」
そういや、久しぶりにはしゃいだような気がするな。
うん、長門、やっぱりお前は良いヤツだな。
「……」
長門は二ミリ程顔を綻ばせていた。
長門でも、照れることはあるんだな。
なんか、いいものを見せてもらったよ。

「――朝比奈さん、長門、今日はありがとう」
「いえ、私は何もしていませんよ~」
「そう」
「いや、もう一度くらい言わせてもらいます……本当に、ありがとう」


二人を玄関まで送り、部屋へ戻ってベッドに体を預けた。
今日はあの二人のおかげで、大分気が晴れた。
多分、あの二人は、俺に今から何をすればいいのか考える時間をくれたんだと思う。
結局、最後は俺が締めなきゃならないんだ。
だったら、ハルヒの目が覚めたとき、あいつに答えを見せてやれる様になってやらなきゃな。

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