───毎日が同じことの繰り返し。

それは恐らく誰もが感じる事だろう、実際に俺もそうだった。
しかしてその重要性に気がついてもいないだろう、俺は今ではそんな日常が懐かしく感じる。
毎日、起きて食べて歯磨きしてこのキツい坂を上って何気なく勉強し、そして平凡な部活動にいそしみ、
疲れた体を引きずり毎日のハイキングコースを再び帰り、食べて、寝る。
真面目な学生なら寝る前に翌日の予習や今日の復習なども入れるが、このさいだからどうでもいい。
そんな生活を俺は望んでいた。
じっさい俺は違った。

それは、常識はずれでわがままで唯我独尊、はたまた気分屋な人物に振り回されているからだ。
「楽しいから」、ただそれだけの理由でいるはずのなかった宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探しあて、
一緒に遊ぶという目的だけでそいつは学校で団体を作ったのだ。
ちなみにここで部活や同好会と言わずに団体と言ったのには理由がある。
いまだ生徒会側に認められていないからな、俺の所属する団体は。
ここまで言えば、いや言わなくともわかると思うが、そう、その団体の名はSOS団。
そしてこの存在意義が存在するのかどうかも疑わしい、いまわしいSOS団の頂点にいた奇妙奇天烈という言葉似合う奴こそ、

涼宮ハルヒだったのだ。

涼宮ハルヒと出会ってもう一年がたち、入学してから一年をともに過ごした仲間達の一部にお別れを告げ、
心機一転新たな顔ぶれに身を預けるクラス替えも無事に終了し、俺は二年生になっていた。
「今年一年もよろしくな、キョン」
「なんだかんだで僕達三人、一緒でよかったよ」
そうやって無事に平穏に俺と谷口と国木田は同じクラスになり、新たな生活が始まった───

───と考えるのは間違っていた。

「キョン!今日はSOS団特別ミーティングだからかっならず来なさいよ!いいわね!来ないと死刑だから!」
そう言って一年間ずっと席替えして、そのうえクラス替えしたのにも関わらず、ずっと俺の後ろの席に座っていたそいつは俺に声をかけた
言うまでもない、涼宮ハルヒだ。
いつもだって勝手に休んだら怒るだろうがお前。
「うるさいわね!いいから来る!わかった?」
俺がはいともいいえとも返事をする前に、ハルヒはいつもどおりに、クラスを飛び出した。
古泉と長門が別のクラスになったのは正直残念だ、またクラスでは俺一人ハルヒのお守りをせねばいかんらしい。
うんざりする。
「もう好きにしろよ」とため息混じりにつぶやいた。
「今年も大変だな、がんばれよ、涼宮係」
誰かさんみたいなニヤケ顔で話しかけるな。
というかいつのまにそんな係ができたんだ、おい。

ハルヒが俺を呼んだ理由はなんとなく予想はつく、おそらくだが。
だがそのおそらくというは当たったらしい。
俺将来占い師にでもなるか?
なんて馬鹿なことを考えてもみた。

なにもない始業式後のホームルーム。
ハンドボールバカの岡部が再び俺たちの担任だ。
自己紹介もつつかなく終わり、この日のクラスでの活動は終了した
放課後、俺はかつて文芸部の部室だったドアの前でノックをした。
俺が毎日律儀にSOS団を訪れる目的の8割を占める人物に粗相がないように、だ。
「どうぞ」
天使の声が俺のノックに答える。
ドアを開けてまず目に飛び込んできたのは、我らがSOS団に所属するマイスウィートエンジェル、朝比奈みくるさんだ。
俺が部室に入り自分の定位置に座ると、満面の笑みで
「はい、どうぞ」
とくんだお茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
満面の笑みで答える。
たぶん朝比奈さんがいないと俺はとっくにハルヒによって精神病院送りにされてたね、断言できる。
一つ年上の受験生にも関わらずいまだに中学生と間違えそうな魔性の笑顔、たまりません。

ここで気がついた、今日はまだ正文芸部であっていつもは部屋の付属品のようにじっと座って本を読んでいた人物、
長門有希が来ていなかった。
珍しいこともあったもんだ、明日は雨か?
少なくとも背筋の凍るような事件だけはご勘弁願いたいものだ。
いや、ほんとに。
この時はまだ、冗談半分でそんなことを思っていた。

カチャリとドアが開き、古泉一樹が現れた。
「こんにちは、ここではお久しぶりと言った方がしっくりきますかね?」
そんなに長い間会ってないわけないだろう、ハルヒから春休み毎日呼び出しくらったじゃないか。
「まぁそうなんですが、新学期に入ったのでそれなりの言葉を変えようかと。」
そんなことをする必要はない。
それならその笑い方を変えてくれ、見ているだけでいまいましい。
「おや、珍しいですね、今日はまだ長門さんは来てないのですか。」
まったく笑顔をくずしていないことから、何かの事件に巻き込まれているということはなさそうだ。
古泉の機関から見える範囲では、だが。
「今日はバックギャモンでもどうかと」
そう言ってボードを取り出し、俺の前に広げた。
相変わらずのゲームフリークだな、おい。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
朝比奈さんから受け取ったお茶を飲みながら、ダイスを振ってゲームを開始した。

ここまではいつも通りだ。
ああ、少なくともこのときまでの話だがな。

「やっほぉ♪みんな来てるー?」

SOS団にいる時しか見せない極上の笑顔を振りまき、ハルヒは登場した。
「…あら?」
すぐにハルヒの笑顔がしぼんだ。
一人だけいるはずの人間がいなかったからだ。
長門のことである。
「…何かの用事かしら?何か聞いてる?古泉君」
「いいえ、残念ながら。」
何が残念なのかよくわからない。
というかなぜ俺には聞かない?
「あんたと同じクラスの私が知らなくてあんたが知ってるなんてことないでしょ」
勝手に決め付けるな、まぁそうなんだが。
「まぁいいわ、そのうち来るでしょ」
俺が遅刻したらそんな悠長なこと言わないくせに
「あんたと有希じゃ立場が違うの、わかるでしょそのぐらい」
長門は俺と同じでヒラだった気がする。
というか正確には文芸部だろう。
俺の記憶が間違っていなかったら、だがな。

「新入生勧誘」

そう黒板にでかでかとハルヒは書いた。
俺の予想通りになったね、この時期のイベントはそれしかないと思うから。
「どんな方法でもいいわ、とにかく団員を集めるの!」
お前なら去年朝比奈さんを強引に入団させたようにすればいいんじゃないか?

「SOS団に必要不可欠な人材ならそうするわ」

お前にとって必要不可欠な人材の定義は一体何なんだ?
両親がいなかったりIQがめちゃくちゃ高かったりとかか?
「そんなの人目じゃわかんないわよ、みくるちゃんだって何度も厳選した結果つれてきたんだから」
初耳だ。
まあ確かに朝比奈さんは我が団に必要不可欠な人材と言っていいだろうな。
ちなみに俺は不安を抱えていた。
ハルヒの不可思議な能力でまた誰か不思議な能力を持つ人間が現れるんじゃないか、と

俺のその不安を確実にするかの様に前に、部室のドアがあいた。
もうちょっと俺を休ませてくれてもいいだろうよ、現実さんよ。

そこにいたのは長門有希、ボブカットを更に短めにしたような短く灰色の髪で、いつもは部室の隅で黙々と本を読んでいる人物だ。
しかし長門は一人じゃなかった。
後ろにいたのはまだ中学生の面影がほんのり残っている男子生徒、おそらく新入生だろう。
そして長門から出た第一声は

「入部希望者」

ハルヒの顔がみるみる輝いた。
しかし俺は気づいていたね、新入生はまだSOS団なんて存在は知らないはずだから。
かわいそうに、こんにちは、ハルヒの毒牙の餌食第一号君。

「ただし文芸部の」

予想外、といえば予想外だったね。
ハルヒのあんな複雑そうな顔を見たんだから。
わかるよ、その気持ち、だが俺は今この新入生に対する同情のほうが勝っているんだ。
この少年は文芸部に入りたくてここに来たんだろう。

おそらく長門のことだから、
「文芸部に入りたいんですが」
「そう」
ですませてしまったに違いない。
かわいそうにかわいそうに、今この学校に文芸部はもう無いに等しいんだ。

ここで一つの疑問にぶつかる。

SOS団の存在を知らなかったのは思いつくが、どうして文芸部の存在を知っていたのか、ということだ。
まぁその理由は簡単なことだ。
あとで説明するのもおっくうだから今まとめて説明してしまおう。
彼は二月に学校見学でここを訪れていたらしい。

そしてその二月に俺達SOS団がやっていたことといえば、そう思い浮かぶ人は思い浮かぶだろう。
生徒会がSOS団に宣戦布告をしてきたのだ。
まぁこれも古泉じるしの暇つぶしイベントだったのだがな。
文芸部の存在意義なないために部室の引渡しを要求してきたのだ。
そのために俺達はハルヒの命令で機関紙を発行し、それでなんとかまるく治めたのだ。

実はその機関紙を置く時期が学校訪問に重なったらしい。
考えてみれば簡単なことだ。
あんな中身のバラバラな機関紙がなぜ簡単に二百部も完全に配給されたのか、
訪問していた人間の何人かが持って行ったらしい。

ごめんな、俺にも責任の一端があったらしい。
でも俺はあいにくその責任を果たす方法を持ち合わせてないんだ。

その機関紙でこの学校の文芸部に興味を持つ、なんてかなり変な思考の持ち主であることは否定できない。
実際かなりの変わり者だったからだ。
髪は綺麗な黒で、男子の髪の毛とは思えないつやを放っていた。
少し長めで、長門とハルヒを足して二で割ったような長さだ。
そして前髪は鼻まで伸びていて、目が半分隠れている。
表情が読みづらい、読みづらい、読みづらい。
体系は普通、国木田に似ている。

一通り説明したあとの彼のセリフに俺は驚愕したね。
誰だってそうだと思うぜ?
なんだったら賭けてもいい。

「んじゃSOS団に入っても、いいですか?」

正直何を言ってるのかと思ったね、説明が足りなかったのか?
あの会誌はここにいる涼宮ハルヒが作って文芸部に寄生しているSOS団というわけわからん団体が作ったものだ、
という説明じゃ足りなかったかもしれない。
だが俺は丁寧にも、SOS団がどういう目的で作られたのか、ここにいる涼宮ハルヒの理不尽さ、わけのわからなさ、
その全てを説明したはずだ。
俺の記憶が間違っているか?
それとも…
そのもう一つの予想が的中した

「だって、そっちのがおもしろそーじゃないですか!」

男子のくせに声がアルトだ。
彼はやけに女の子っぽい声でそう叫んだ。
めまいを覚えたね、だってそうだろう。
ハルヒだけならどうにかなる、実際今までそうだったからな。
だけど俺は二人もハルヒが出てくるなんて思ってもみなかったぞ。
勘弁してくれよ。
頭をかかえた俺を尻目に、ハルヒが後輩に近づく。
「あんた、わかってるわね」
何をだ、何を。
「人生の楽しみ方よ!」
あえて言おう。
「お前の人生の楽しみ方を一般人の人生の楽しみ方をごっちゃにしないでくれ」
「うるさいわね!いいじゃない!”そっちのほうがおもしろいじゃないの!”」
デジャブ、こういうときに使う言葉なんだろーな。

「あんた、名前は?」
「えっと」
チラッと長門を見た、なぜだかその時は気にもしなかったが。
「小山アキツキです」

「アキツキ君、じっくりよーっく、人生でこれ以上もないってぐらい考えるんだ」
何を?という顔で俺を見ている、純真無垢という言葉が似合いそうだな。
「夏休みを毎日毎日休みなく五百年分の遊びを体験させられたり、
変な映画の変な役割をさせられたり、冬休みに催眠にかけられたりしたいのか?」
ピクリ、とハルヒが何かを言いたそうな顔で俺をにらむ。
「あー、えーっと、でも、たのし、そうだな、と」
まぁ楽しかったことに異論は唱えない。
しかしそれ以上に疲れる、疲れることこのうえない。
恐らく八割の人間は後悔するだろうし、二割の人間は諦めるだろう、どうにでもしろよ、と。
俺は後者だがな。

「いいじゃない、本人が望んでいるんだから。
よろしくね、小山君」

そうしてSOS団六人目の団員が入部した。
長門が少し複雑そうな顔をしていたのは別の話。
まいどのことながら、やれやれ、だ。

もう、好きにしろよ。


たった一人の進入部員のおかげでハルヒの進入部員強奪大作戦はどうでもよくなったらしい。
「だってみくるちゃんだって三年ではたった一人じゃない」
三年と一年を一緒にするな。
もし朝比奈さんが上のほうの大学を目指すんだったらこの時期から勉強してなきゃいけないんだぞ。
まぁ俺にはわかってる、朝比奈さんが受験をする必要のないことぐらい。
それまでには未来に帰ってしまうだろうから。
まぁたとえハルヒと同じ大学にいくことになっても古泉や長門がどうにかしてくれるさ。

ここで俺は口走ってしまったが、そう、朝比奈みくるは未来の人間なのだ。
今この時から三年前に起こった時空振の理由を知るために過去に来て、そこで得た新たな仕事がハルヒの監視だったのだ。
今ではハルヒのおもちゃにされ、毎日毎日健気にもメイド服に着替えるというハルヒから押し付けられた仕事を全うしている。

他の団員にも、もし実際に経歴書に書いたら即座に精神病院に担ぎ込まれそうなプロフィールがある。
長門有希。
宇宙に存在する統合思念体が人間との接触用に作り出したインターフェイス。
長門が自称するには、宇宙人が製作したアンドロイドのようなものらしい。
古泉一樹。
自称超能力レンジャーの一員で、閉鎖空間という微妙に信じがたい空間で青い巨人と戦うことのできる少年だ。
いつも笑顔でニコニコし、俺をムカムカさせる。
極度のゲーム好きで、俺とよく遊ぶ。
だが九割方俺の勝ちだがな。
ハルヒの感情を感じることが可能らしい。
そして涼宮ハルヒ。
俺が奇妙奇天烈な体験をすることになった全ての元凶であり、わがままで他人の意見なんて聞いたこともない少女だ。
いまだに宇宙人、未来人、異世界人、超能力者との邂逅を望み、走り回る。
しかも困ったことに、自分の思ったとおりに世界を変える能力を持つらしい。
朝比奈さんからは時空のゆがみ、長門からは自律進化の可能性、古泉からは神とまで呼ばれた超少女だったのだ。
黙ってりゃ正直かわいい。
だが、そろそろ俺を落ち着かせてほしいと思うのだがな。

当分無理な願いか。

そして新たに入団した小山アキツキ。
髪の毛は切るのがめんどくさいという風に前髪は鼻まで伸び、そのせいで目が隠れて表情が見づらい。
だが、大して髪の毛に気を使ってなさそうに見えてかなり綺麗なツヤを放っている。
正直鶴屋さん並だ。
口調は子供。発想も子供。体格は少し小柄だ。
ハルヒを男にしたらこんな感じというなのを予想してくれたらいいだろう。
まぁハルヒと違って俺達年上には敬語を使ってくれるからまだいいが。

さて、ここでいったん話は途切れる。
いつもどおりの感覚で一ヶ月は流れた。

後輩が一人増えたからといっても俺の仕事は減らず。
むしろその後輩の世話をやく分増えた気がする
こいつは男ハルヒなだけでなく男朝比奈さんみたいなドジらしい。
せめて俺の手は煩わせないでくれよ?

男ハルヒと言っても、さすがに常識は身につけているようだ。
無茶なことは言い出さずに、様子を見ているようにおとなしい。

初めて入団した時に俺を驚かしたような、
「だって、そっちのがおもしろそーじゃないですか!」
な発言とは裏腹に、おとなしく古泉の隣でひたすらノートにシャーペンを走らせている。
俺や古泉がノートを覗こうとするとまるで母親に勉強していると見せかけてゲームをしていたのがバレたみたいな顔をしてノートを隠す。
余計に気になるじゃないか。

まぁ、予想はつくがね。
元々文芸部に所属しようとしていたんだ、小説の一つでも書くだろうさ。
ただ問題なのは、こいつが時折長門をじっと見ているんだ。
まさか長門が主人公の小説か。

そんなことを考えている時だった。

一週間後にはゴールデンウィーク。
ただしスケジュールはハルヒと古泉のせいで暇などない。
そして新入部員の小山にとっては初めての合宿である。
一週間後の荷物持ちをしている自分を思い浮かべて、俺は心底うんざりしながら、放課後の部室へと急いだ。
朝比奈さんは今日は用事で来れないらしい。
余計に肩が重く感じるぜちくしょう。
朝比奈さんがいないからノックする必要もないだろう。
そう考えて部室のドアを開いて俺は心底驚いた。

長門と小山が向かい合って会話している。

おいおい、お前が一般人と真面目に会話しているところなんて多分初めて見たぜ?
もちろん俺を除いて、だが。
「あ」
驚いたのか小山は小さく声を上げて俺を見た。
なんだ?例の小説の話か?
「よう」
ごまかすように俺は声をかけた。
いかにも気にしてませんよ、という具合にだ。
「あ、こんにちゎ」
前から思ってたが変なしゃべり方だなおい。
長門は小山の前に座っていたが、いつもの低位置に戻り本を読み始めた。
思えばこの時に思い出すべきだったのかもしれない。

そう、たとえばSOS団の部員は全員まともなプロフィールではなかったこととか、な。

今回の合宿は事件を推理するのが目的ではありません」

翌日、古泉は部室で俺に語った。
ハルヒにはもう伝えてあるという。
朝比奈さんは今日も休みで長門は本を読んでいる。
小山はいつものようにノートの落書きを楽しそうに書いている。
「そんで?今回は何をたくらんでる。」
俺は小山に聞かれないように声を潜める。
古泉はいつもの笑顔を崩さずに言い放った。

「冒険ですよ」

古泉の言うことには、今回は未開の無人島なのだという。
「もちろん、宿泊には困らないように施設は建てさせていただきましたよ」
その話を聞くと今年のゴールデンウィークのためだけに建てたような口ぶりだな。
「ええ、そのとおりです」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
お前のいる機関のバックアップはなんなんだ。
「鶴屋さんのところですね」
ああ、そうだったそうだったすっかり忘れてたぜ。
機関と鶴屋さんの家は繋がってるんだったな、そういえば。

「しかし未開であるために何がいるかわかりません」
「事前に調べたりはしないのか?」
「ええ、今回のそれは涼宮さんの提案です」
「何か危険なものがいたらどーすんだ?」
「そんな質問は無意味であることをあなたは知っていて聞くんですね?」
「心の準備ぐらいは欲しいだろう」
古泉はニッコリ笑って、
「まぁ同感です。ですが私もたまには思いきり楽しんでみたいのでね。
去年の夏と冬は私が仕掛けをしましたから、今回は純粋に活動を楽しませていただきます。」
「じゃあ危険が迫った時は思いっきり頼らせてもらうぞ」
「わかりました」
そう言い終わるかどうかのところでハルヒが来た。

「今年のゴールデンウィークは楽しみだわ!
今年は去年よりははるかに充実できそう」

それはSOS団がなかったからだろう、という俺のつっこみはまぁおいといて。
その日は当日の話をしながら締めくくった。
古泉と小山と涼宮はあっというまにいなくなった。

俺もすぐに帰ろうとした、が
「これ」
いつのまにか俺の背後にいた長門が俺に本を渡した。
心臓に悪いから気配を殺して後ろに立つのはやめてくれ。
そういえば気配というのが最初からこいつにはなかったか?
「帰ったらすぐ読む」
「そう」
長門はそう言って荷物をまとめ立ち去った。
もちろん本には栞らしいものがはさまっている。
予想はついていた、栞をめくると長門の手書きで書かれたかどうか疑わしいほど整った文字が連なれていた。

『午後七時、あの公園で待つ』

了解した、長門

家に帰ってすぐ栞を確認した俺は、即効で六時半までに飯をたいらげ、自転車をこいでいた。
目的地は、そう、長門が俺に宇宙人であることを明かした晩の、あの公園だ。

いやな予感はあまりしない。
少なくともまだ、の話だが。
俺が視界に入ると同時に長門は立ち上がった。
ここまでは前回と全く同じだった。
「ふう」
俺は自転車から降りて長門に尋ねる。
「どうした?何かあったか」
「………こっち」
長門は俺を案内する。
行き先は考えるまでもない、長門の部屋だ。

「入って」
玄関を開けてそう言うと、長門は部屋の中へ入っていった。
俺は長門のあとに続いて中に入った。
前回より少しだけ物の増えた部屋。
それでも長門らしく生活感の感じない部屋。
これで相手が宇宙人じゃなかったら、一般男子の俺は緊張してしまうだろう、実際一年前はそうだった。
俺がいつもの低位置に座ると、長門はお茶を入れてきた

「今日は何の話だ?」
俺は公園で尋ねたことをもう一度尋ねた。
とりあえずそれを聞いておかないとどうしようもないから、な。
「小山アキツキ」
「小山がどうした」
「彼について様々な情報が錯綜している」
…なんだって?
「簡単に言うならば、正体不明」
長門が理解不能であるってこと、それすなわちアラームレベル7以上だ。
今まで長門が理解不能だったことといえば、去年の世界改変のバグや雪山での遭難が思い浮かぶ。
つまり危機がせまってるってことか?

「そうではない」

長門は続ける。
「彼に対する情報が矛盾しているだけ。
今の所はそれで何か問題が起こるのかは不明」
頼むぜ、そういうのはお前が一番理解が早いんだから。
「検討はしている」
「それで、何が矛盾してるって?」
長門は少し沈黙をためて言った。
まるであまり話をするのに気乗りじゃないように。

「彼は今現在この世界にいるはずの人間」

少し言葉が飲み込めなかった。
だがすぐに尋ねなおす、どういうことだ?
「こちらの情報が正確なのならば、彼は数年前に死去している」

宇宙人?未来人?超能力者?
いや、おそらくそのどれにもあてはまらないだろうその存在は、少なからず俺に何かを予感させていた。
「彼の正体は現在のところ不明、彼に対する情報が錯綜している」
つまりどういうことだ?
俺は思った言葉をそのまま口にすることにしたよ。

彼は実態を持つ幽霊ってわけか?

「彼を実体を持つ幽霊であると確定するのは尚早」

「ただ現在の所、そう捕らえるのが最も適切かも、しれない」
長門自身、あまりよくわかっていないようだ。
こういう顔も珍しいな。

まぁ特異な存在をことごとく自分の団に入団させてきたハルヒが今の今まで入団させられなかったほどの存在だからな。

「その例は適切ではない」
長門は続ける。
「彼自身の様な特異的な存在が彼一人しか存在せず、そのために年齢という壁が理由で入団できなかっただけかもしれない」
長門は一気に言い放った。
もうちょっと待ってくれ、俺にも理解できるスピードってもんがある。
「実際今彼はSOS団に所属している」

「そうかもな」
しかしなんでもありなSOS団でもハルヒの他にも正体不明な奴がいるってのは少々不気味だなぁ、おい。
「私個人としても、彼から情報を得ようと行動している」
なるほど、昨日二人で会話してたのはそのためか。
「そう」

やっぱりSOS団でまともな人間は俺だけか。
まだまだ俺の仕事は続きそうだな、やれやれ。
正確には俺と長門と朝比奈さんと古泉の四人の仕事、だけどな。

「じゃあ、俺は今日は帰るよ。
お茶、うまかった」
「そう」
「何かわかったら携帯で連絡してくれ、頼んだぜ、長門」
「わかった」

俺は自宅へと自転車を走らせた。
行きは降っていなかったが今は結構強めの雨が降っていた。
塗れたハンドルが異様に冷たく感じた。
ただでさえ涼宮ハルヒのお守りっていう懸案事項があるのに、これ以上増やさないでほしい。

そう俺は考えていた、そのとき。

暗がりから急に現れた影に俺は驚いた。
あやうくぶつかりそうになりハンドルを切った。
が、自転車のタイヤは塗れた道路を滑り、倒れた。
軽く擦り剥いたらしい。

いてえ、急に飛び出すな馬鹿やろう!

しかし驚いていたのは向こうも同じらしい。
目を丸々と開けてこちらを見ている。
そんなに目を開くと飛び出すぜ?
「だ、大丈夫ですか?」
聞き覚えのある高めの声。
俺はハッっとして飛び出した人物を凝視した。
長い前髪、高い声、少し小柄な新入生。

今現在の最大懸案事項、小山アキツキが、そこにたっていた

雨なのにかかわらず、傘も差さずに小山は立っていた。

前髪で顔の半分が隠れていたのにも関わらず、その顔は驚いているのがわかった。
口をぽかーんと開けてこちらを見ていた。
「…驚いた」
驚いたのはこっちだ!
雨、しかも夜に傘もささずに横道から急に飛び出してきたんだ。
俺が一秒でも早く来ていたら、断言できるね、俺はこいつに衝突していた。
「いつつ…」
俺はまるでやすりで削られたように痛む腰をあげた。
軽くすりむいてやがる、痛いはずだ。

「大丈夫…ですか?」
「あまり大丈夫じゃないな」
自転車を起こしながら答えた。
カゴの部分が歪んでやがる。
「そ…ですか」
なんか軽く落ち込んでやがる。
だが俺が気にしているのは別に事故のことじゃない。
いや、事故も多少気にしているがな、うん。

「なんで、こんな時間にこんなとこにいたんだ?」

俺は小山を見た。
「………」
三点リーダで答える小山。
それは長門の専売特許だぜ?
「……わかりません」
はぁ?
まるで自分が夢遊病患者みたいな喋り方だな。
だが俺は再び小山に聞いた。
今と全く同じ質問をな。
「なんでこんな時間にこんなとこにいる?」
なんで二回もおんなじ質問したんだ俺……
小山が俺から目を逸らす。
お?
「……俺、」
小山が喋り始めた。

「俺、昔の記憶がないんです。」

「それで、毎夜毎夜、不安になって散歩するんです」
本当のことを言っているのか?
俺はもちろん疑った、だってそうだろ?
近所から貰った子猫が虎の赤ちゃんだったってぐらいのことは覚悟している。
俺にはそれだけの経験があったからな。
「正直に言え」
俺は小山の両肩を掴み、小山の前髪に隠れた目を凝視する。
「ほ、ほんとうです!」
小山は続ける。
「四年前、それ以前の記憶がないんです。」

四年前、そう聞いて思い出すのは、そう。
俺がSOS団と出会ってから三年前。
長門にとって情報爆発が起き、朝比奈さんにとっては時空振が起き、古泉にいたっては世界の始まった時。
言うまでもないな?

涼宮ハルヒが何かを起こした瞬間のことさ。

「四年前…俺は体中傷だらけで発見されたんです。
発見されてすぐ、俺は病院に担ぎ込まれました。」

小山は、観念したように自分のことについて詳しく語り始めた。
いきなり喋られたから俺は急いで頭を切り替えた。
「発見された当初は、俺は体中あらゆるところが傷だったらしいです。
生きていたのが不思議なぐらいのことだったらしいです。
顔の判別が、できないほどに。
俺を見つけてくれた夫婦の苗字が、小山だったんです。
あ、アキツキってのは俺自身の名前です。
なぜかそれだけ覚えていたんです。
俺は二ヶ月、ずっと包帯で巻かれていました。
一ヶ月後、顔の包帯だけ外して貰いました。
その時です、俺を助けてくれた夫婦はとても驚いていました。」
小山はそこで一区切り置いて、
「俺の顔は、彼ら夫婦が俺が現れるさらに三年前に失った子にそっくりだったらしいんです。」

なるほどな、長門の言ったとおりか。

死んだはずの人間。

俺は口を開く。
「たまたまそっくりだったってことはないのか?」
数秒間、小山は躊躇するそぶりを見せた。
「まぁ、その可能性も、なくはないんですが」
小山は否定ともとれる発言をした。
「これはあとで知ったんですが、俺のうなじのところにあるホクロが、その彼にもあったらしいです。」
俺は考えていた。
小山は嘘はついていない。
そう感じた。
長門の微妙な表情の変化、古泉の笑顔の変化にすら気づくことができる俺にそれを判別するのはたやすい。
いつのまにこんな微妙な特技ができてたんだろうな、俺。

宇宙人?
なんとなくだろうが違うだろうな。
未来人?
どちらかと言えば過去の人間だ。
超能力者?
死んだのに生き返る超能力なんて聞いたこともない。

そして俺は最後にもう一つの可能性に行き着いた。

それは涼宮ハルヒと俺が出会ったとき。
そう、クラスでのあの突拍子な自己紹介のことだ。
「東中出身、涼宮ハルヒ」
そう語ったのち。
「普通の人間には興味ありません。
もしこの中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところへ来なさい。」
そう、俺は気がついた、そしてこれが一番しっくりくるだろう。

小山アキツキ、こいつは異世界人だ、ってな。

結局その日、俺は小山と別れて自宅へと帰宅することにした。

別にそれで何か問題が起こるわけでもなさそうだったからな。
もちろん事故には気をつけろと耳にタコができるほど言い聞かせてやった。
どれだけの効果があったかはわからんがね。
もし何か俺がしたことになんらかの効果が出たかわかる方法があったら教えてくれ。
まぁ実際に教えてもらってもリアクションに困るが。

自宅に帰って事故で痛む体をゆっくりと湯船につけた。
そしてシャミセンを部屋の外に放り出したあと、長門の言っていたこと思い直していた。
しかし襲ってきた睡魔に勝てる見込みも無かったし、まぁ勝つ必要もなかったわけで、俺は寝た。

まぁ、懸案事項は別に小山一人じゃないわけで。
俺の頭はもう一週間後のゴールデンウィークの合宿についてに切り替わってた。
今回も小山のことを含めていろいろありそうだ、いろいろと。

おやすみ、夢の中でだけはせめて忘れさせてくれよ?

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