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ぼくは、川を作るのが得意。
スコップでぐ~っと川を掘って、バケツでどしゃ~って水を流すの。
ちゃんと傾きをつけないとちゃんと流れないから難しい。
バケツで水を汲んできて、じゃ~。
そうやって一人で遊んでいると、砂場に影がかかった。
砂場から顔を上げると、黄色いリボンをつけた女の子がぼくを覗き込んでいた。
「あんた、そんなみみっちいことやってて楽しいの?」
大きなお世話だ、ぼくは川を作るのが好きなんだ。
女の子はぼくの隣に座り込み、ぼくの掘った土で山を作り始めた。
「あんた、もっと泥をよこしなさい」
「いやだよ、ぼくは川を作ってるんだから」
「つべこべ言わないの、さっさとよこしなさい」
女の子が怖いので、泥を渡すことにする。
黄色いリボンの女の子は満足したように頷いて、砂の山に泥を塗り始めた。
「二人だけじゃあんまり進まないわね。ちょっと待ってなさい」
黄色いリボンの女の子はびゅ~っと駆け出した。
速い、ぼくでも追いつけないくらい。
しばらくして黄色いリボンの女の子は、栗色の髪の毛をしたふわふわした感じの女の子を連れてきた。
「なんなんですかー? ここどこですか、何であたし連れてこられたんですか?」
「この子はみくるちゃん。さあみくるちゃん、私と一緒に立派なお城を作るわよ」
栗色の髪の毛の女の子も手伝ってお城作りをする。
でも、栗色の髪の毛の女の子は失敗ばかり。砂の山は高くならない。
「あ~っ、もうみくるちゃんは水くみ!! 水道から水をくんでくるの!!」
黄色いリボンの女の子に怒られて、みくるちゃんは泣きそうになりながら走り出した。
やれやれ、ぼくはみくるちゃんが崩した部分を直しはじめた。

ぺたぺたと泥を塗っていると、今度は短く髪を刈った女の子がぼくを見つめているのに気がついた。
「……」
女の子は黙ったまま、本を大切そうに抱えながら、真っ黒な瞳でぼくの事を見つめている。
何も喋らないけれど、なんだかそわそわしている感じがする。
この子も一緒に混ざりたいのかな?
「一緒に砂遊び、する?」
ぼくの言葉に、女の子はこくんと頷いた。
本を持ったまま、ぼくの隣に座り込む。
「あっ、ダメだよ。本を汚しちゃダメだから、ちゃんと置いてこなきゃダメなんだよ」
短い髪の女の子はこくんと頷いて、とててと走り出した。
ベンチに本を置いて、またとててと走って戻ってくる。
ぼくみたいに爪が黒くなっていない、きれいな白い手でぺたぺたと泥を山に塗っている。
「きみ、名前なんていうの?」
「ゆき」
髪の短い女の子が小さく言った。
ぼくはそのとき、初めてゆきちゃんの声を聞いた。

「ほら、もう一人連れてきたわよ、よろこびなさい」
黄色いリボンの女の子がもう一人つれてきたのは、いいところのおぼっちゃんみたいな子だった。
「こんにちわ、ぼくはこいずみいつきっていいます」
ちゃんと挨拶もできる、いまいましいやつめ。
「ほら、こいずみくん。お城を完成させるのよ」
「しょうちしました」
こいずみも加わってお城作りが始まった。
黄色いリボンの女の子がどさーっと土をかけて、こいずみが土のかたちをととのえる。
みくるちゃんが汲んできた水で作った泥を、ゆきちゃんがぺたぺた塗る。
川を作っていたはずなのに、ぼくもいつの間にかお城のお堀を作っていた。
やれやれ。

「やった~、ついに完成したわよ!!」
太陽がオレンジ色になって、そろそろ五時になるころにお城は完成した。
黄色いリボンの女の子は、てっぺんに「SOS団」という旗を立てて満足そうだ。
どんな意味?と聞いたら、「細かいことは気にしないの」だって。
たぶん、この子も分かっていないんだろう。
「お城ができたんだから、役も決めないとね」
黄色いリボンの女の子が胸を張って言った。
ぼくは王子様がいいなぁ……
「あんたはそんなの似合わないわよ。みくるちゃんがお姫様、こいずみくんが大臣、ゆきが魔法使いで私が騎士、あんたはその下僕ね」
下僕ってなんだよ。だいたい女の子は騎士になんてなれないんだぞ。
「うるさいわね、私が悪者をどかーんってやっつけるから、あんたはその後ろについてくればいいの。文句ある」
女の子がぼくをにらむ。
ここで文句を言ったら、悪者でもないのにどかーんってやっつけられちゃいそうだから、ぼくはうなづいた。
「よ~し、それじゃあ……」
黄色いリボンの女の子が口を開けたとたん、公園のおっきなスピーカーから音楽が流れ始めた。
よいこのみなさん。おうちに帰る時間です。お母さんのお手伝いをして、勉強をして、早く寝ましょう。
黄色いリボンの女の子が不満そうな顔をする。
「もう、せっかくお城ができたと思ったのに」
「明日、また集まって遊べはいいではないですか」
こいずみが言った言葉に、黄色いリボンの女の子はそれもそうねと頷く。
「それじゃあ、また明日もここに集合ね。遅れたら死刑なんだから!!」
「しょうちしました」とこいずみ。
「わ、わかりました~」とみくるちゃん。
「……」無言で頷くゆきちゃん。
黄色いリボンの女の子はぼくの事をにらむ。
やれやれ、ぼくも言わなくちゃいけないか?
「分かったよ、ここにくればいいんだろ」
黄色いリボンの女の子は、まるでひまわりのように笑った。
「それじゃあ解散。また明日ね」
黄色いリボンの女の子の声を受けてみんな帰りだす。
「そうだ、ちょっとアンタ」
帰りかけたぼくを黄色いリボンの子が呼び止める。
「ちゃんと遅刻しないできなさいよ。あんたは私の下僕なんだから」
なんでぼくが下僕なんだよ。
そう言い返そうと思ったけれど、でも黄色いリボンの女の子がとってもいい笑顔をしていたのでうなずいてしまう。
「わ、分かったよ。ハルヒちゃん」
「ん、オッケーよ、キョン。私たちは大人になってもずっと一緒なんだから……」

昨日は何だか変な夢を見た。
SOS団で遊ぶ夢だったことは覚えているのだが、はてさて夢とは起きた瞬間からどんどん忘れてゆくもので、
北高名物のハイキング地獄坂に差し掛かる頃にはすっかりと忘れてしまっていた。
放課後、部室の扉の向こうに居たのは長門一人。
「……」
黒飴みたいな目を一瞬向けて、長門は読書を再開する。
手に持っている本は「ぐりとぐら」、長門が持っているとなかなかシュールだ。
そのうち古泉、朝比奈さんもやってくる。平凡な放課後の時間。
大騒ぎのハルヒがやってきて、朝比奈さんをいじって大騒ぎして、それを俺が止めるといういつもどおりの日々。
パタンと長門が本を閉じる頃には町は夕焼けに染まっていた。
「ねぇ、キョン」
SOS団集団下校の中話しかけてきたハルヒは珍しくおとなしい。
「夕日をみてるとさ、なんだか懐かしくてもの悲しくなることってない? 何か大切なものを忘れてきた気がして」
天下無敵の団長様にしては珍しく弱気だな。
「うるさい、私だってそんな気分になることくらいあるんだから」
そんなことじゃ不思議なことなんて見つからないぞ。
後ろばっかり振り向いてたら、目の前にある楽しいことだって見落としてしまいそうだしな。
ハルヒは「それもそうね」と言って、前を歩く長門と朝比奈さんに向かって走り出す。
「あんた、明日の探索遅刻しちゃダメだからね。遅れたら……」
ハルヒは振り返る。
ヒマワリのようにまぶしい100Wの笑顔で。
「死刑なんだから」
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