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ガラッ、という音を怪訝に思い目を向けると、ハルヒが窓を閉めていた。
おいおい、7月とはいえこの蒸し暑い日に何しやがる。文芸部室密室ミイラ化事件でも起こす気か。
俺の切実な抗議にハルヒは「黙って見てなさい」と悪戯心満載の笑顔で返すだけだった。

まあ日暮れ近くで涼しくなってきたし大事になるまでは黙っていてやるか……とか思っていたら今度は電気を消しやがった。
囲碁の盤面が見えないじゃないか。
――古泉、自分に都合よく配置換えしないように。

「どうしておわかりになったんですか?」

そりゃお前、こう薄らぼんやりと灯がついてるから……何?
電灯はさっき消したはずだ。なら、明滅しながら移動するこの光は一体?
まさかヒトダマ……

「蛍」

解答編ありがとう長門。いや、俺もうすうす気づいてたよ? マジで。
さすがにまだ幽霊と戯れる気にはならないからな。宇宙人未来人超能力者で腹一杯です。
しかし、ホタルか。それも複数で。珍しいじゃないか、こんなところに。

「さっき窓から入ってきたのよ」

だから閉じ込めて、わざと暗がりをつくって光らせようと。ハルヒ屋、お主も悪よのう。
だがこの光景は風情があって嫌いじゃない。その上、可憐に瞳を輝かせる朝比奈さんを拝めて眼福というものだ。

「わあ……きれいですねぇ」

いえいえあなたには及びませんよ。当然のことなので口には出しませんが。
ところで、手の届かないスターを見るような未来人の視線はホタルの行く末を案じさせる。
念のため未来にホタルはいるのか訊いてみたところ「禁則事項です」と案の定はぐらかされた。

非常に業腹だが、お決まりの相談事の相手には古泉を選んだ。

「このホタル、ハルヒが勝手につくったものじゃないだろうな」
「確かに珍しいことではありますが、断定はできませんね。起こり得ないことでもありませんので」

それに害は無さそうですし、もう少し観賞してはいかがでしょう――その意見には概ね同意だ。
有害どころか朝比奈さん補正で俺の中でホタルの株は赤マル急上昇だぜ。
そこにハルヒ補正も含めてやってもいい。こいつの人畜無害な笑みはそれこそプレミアものだからな。

でもって、俺は今の長門にも希少性を感じている。ページを捲る手を休めて、虚空に視線を向けている姿はかなりレアだ。
いや、無意味にぼんやりしているのではない。飛び交うホタルを眺めているのだろう。
今まで見たことないのか?

「知識としては認識している。でも、実際に見るのは初めて」

「興味があるか」
俺の問いかけに、長門は微かに首を縦に振って答える。
「似ている」静かに、そう呟いた。

さて、ホタルに似ているものか。
淡く光るもの、ゆらゆら浮遊するもの、儚げなもの……何だろうね、ヒントが少なすぎる。

まあいいか。余計なことを考えるのは無しにしよう。
総員が長門化したこの部室で、せめてハルヒが写真を撮ろうなどとはしゃぎだすまでは、

舞い降りた蛍をただ眺めているのも悪くない。

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