【読まれる前に】

この作品は一つのタイトルの中に、
一話完結のお話がいくつもあるような形式です。
それぞれのお話に繋がりはコレといってありません

淡々とした日常の中の寂しさみたいなものを
少しでも感じていただければ幸いです。




涼宮ハルヒの夏(00):涼宮ハルヒと夏


雨がひさしを激しく叩く音が聞こえる。
俺は今、ハルヒと雨宿りしてるわけだが

夏に突然の通り雨なんて珍しくもなんともない。
しかしコイツと一緒ってのがひっかかるんだよな、
これもお前が望んだことなのか、ハルヒ。


「やまないわね。」
「ただの夕立だ。スグにやむだろうさ。」

「・・・だといいけど」
「・・・・・・」

しばらく沈黙が続いた。
雨は幾分小降りになってきたみたいだな

沈黙を破ったのはハルヒだ。
「キョン、あんたアスファルトの匂いって分かる?」
アスファルトの匂い?
雨上がり独特のあの匂いのことだろうか。
「・・・まぁ分からないでもないな。突然どうしたんだ?」

「別にどうしたってほどのことでもないけど、なんていうのかしら・・・
 そう、夏の匂いよ。あの匂いをかぐと、『今年も夏が来た』って思うのよ。」

「・・・ふむ。  で?」
「それだけ。」  「なんだよそりゃ。」

ふと、気が付くと雨はいつの間にかあがっていた。
「雨、あがったわね。良かった」
遠くで陽炎がゆらめいているのが見える
さっきまでの大雨がウソのような、雲ひとつないピーカン空。
俺の隣を歩くハルヒはなんだか上機嫌だ。

アスファルトに染み込んだ雨はやがて蒸発し、雲になる。
なんだか夏の匂いがした,
・・・気がする。





涼宮ハルヒの夏(01):長門と夢


「なぁ長門、お前も夢って見るのか?」
「・・・なに?とつぜん。」
「いや、ちょっと気になってな。」

「・・・・・・」
「これもまた唐突なんだがな、
 この世界や、ハルヒや古泉達、そしてお前の存在すらも
 実は誰かの夢ってことはないか。」
「・・・・・・」
「実はこれは全部俺の夢で、本当はどこか違う世界に本当の俺が居る。
 この現実はその俺が見ている夢じゃない、といいきれるか?」

「どっちが夢か、あなたには分かるの?
 もしその夢からあなたが目覚めたとしても、あなたの目覚めたところが現実なのか
 さっきまで見ていたものが夢なのかあなたには分かるの?」
「・・・わからないな。たぶん。」
「それに夢だけとは限らない、実はこの世界は何者かによって作られた仮想現実。
 あなたも私もただのAIなのかもしれない。
 それとも、本当のプレイヤーが別の世界にいるのかもしれない。
 人はこの世界を三次元と定義しているが、それは人の勝手な定義であって実は二次元なのかもしれない。
 この世界が0と1で作られている可能性だって否定できない。」
「・・・・・・」

「重要なのは何故生きるのかではなく、どのようにして生きるのか。」
「ニーチェか。」
「・・・はくしき。」
「そりゃどうも。」
ガッ!バタン!!「おっまたせー!!ってあれ?キョンと有稀、2人で何話してたの?」

「なんでもない、とりとめのない話さ。」  ・・・コクリ





涼宮ハルヒの夏(02):朝比奈みくると蛍


「キョンくん、」
「どうしたんです、朝比奈さん。」

「実は、ききたいことがあって…」
なんだろうか、またハルヒのことか?アイツは、また何か
朝比奈さんを困らせるようなことでもしたのだろうか。

こんなことを考えていたせいで俺は、
危うく質問を聞き逃すところだった。
「蛍って何処に行けば見られるんでしょうか・・・?」
「蛍、ですか。」

蛍ってのは6月の終わりごろから
7月にかけて見られるものだろう。今はもう8月も半分終わったぐらいだから、
「朝比奈さん、残念ながら今の季節、蛍はもう見れませんよ。」
「ふぇ・・・そんな~・・・」

そう言うと今にも泣き出しそうになる朝比奈さん

「そんなに蛍が見たかったんですか?」

「・・・キョンくん、未来、つまり私が来た次元では、
 蛍はもう、映像や写真でしか見ることができない生き物なの。
 だから、この時間平面上にいる間にどうしても見ておきたくて・・・」

「そうだったんですか。」
なるほど、蛍はもう間もなくこの地上から消えてしまうわけだ。
蛍も、もう後何年かで見納めか。そう思うとなんだか寂しいな。

「朝比奈さん、来年は見にいきましょう。SOS団のみんなと一緒に。」

「来年ですかぁ、楽しみにしてたのになぁ・・・」

「一年なんてすぐに過ぎますよ。
 もう少ししたら秋が来て、あっというまにクリスマスと大晦日が来ます。
 そしたらもう春はすぐそこで、その春を追い越せば
 また、すぐ夏に会えますよ。その時見に行きましょう。」
今思い返すと、古泉も真っ青になりそうなクサイ言い回しをした気がする。

俺の言ったことを聞いても、
朝比奈さんはまだ少し悲しそうな顔をしていたが
何がおかしかったのか突然、ふふっと笑うと、

「そうですね。」と呟いた。





涼宮ハルヒの夏(03):長門と海


「長門は泳がないのか?」
コクリとうなずく長門。

「私はあまり好きじゃない。あなたは?」
「俺は、海は嫌いじゃないが、泳ぐより、眺めてるほうが好きだからな。」
「そう」
そういうと長門はサッと立ち上がり
「泳ぐ」
とだけ告げて、波打ち際まで歩いていった。
やれやれ・・・相変わらず挙動が読めない。

そういえば、長門が海で本格的に泳ぐのは今回が初めてだろうか
孤島の時も本読んでばっかだったもんな。


ちゃぷ・・・
「冷たい」

「冷たいですか?長門さん。」
コクリ・・・
「冷たいのは最初だけですよ、慣れると水の中のほうが暖かく感じます。
 まぁ僕は冷たい海のほうが好きなんですがね・・・。」
「・・・・・・」

「長門さん、たまに、こんな風に思うことはありませんか
 『実はこの世界は現実ではなく、ただの夢なんじゃないか?』とね。
 そして、考えてるうちに気づくんですよ。
 そもそもどちらが現実でどちらが夢なのか、明確に判断することはできない、
 ということにね。」
「・・・・・・」

「そんな時に海に入ると、『冷たい、ああ、いま生きているのは僕なんだな』と、
 現実を再確認することができるんです、僕はね。
 勿論、これはとても不確かなことです。実際にはなんの解決にもなっていない。
 ただ僕はこれで安心できるんですよ、この世界が夢じゃなかった、とね。」
ちゃぷ・・・

「長門さん・・・?」


急に影が出来たと思ったら、
長門が俺を見下ろしていた。

そして、ちょこんと俺の隣に腰を下ろす。

「なんだ、結局泳がなかったのか?」
「・・・私も眺めているほうが好き。」

「そうかい。」





涼宮ハルヒの夏(04):古泉と針鼠


「珍しいな。長門もまだなのか、古泉」
「そうみたいですね。でも、まぁ たまには僕達2人だけ
 というのもいいではありませんか。」
よかねえよ。
「普段できないような話もできますし。」
コイツがこういうこと言うと疑っちまうのはなんでだろうな。
ホモだけは勘弁してくれよ古泉。


「中学生の時、ですか・・・
 言っておきますが、僕は力が発揮できる場所を限定された超能力者です。
 だから、中学生の時だって今と変わらない、いたって普通の学生生活を送っていましたよ
 むしろ今のほうが変わった体験をしているんじゃないんじゃないでしょうか。
 涼宮さんのこともありますし。あなたのほうはどうなんです?」
「俺か、俺の中学生生活も・・・まぁ似たようなもんだったな。
 地元の小学校から、そのまま公立の中学校に上がって、
 普通に友達と遊んだり、ちょっと背伸びして街中まで服買いに行ったり、夏には泳いで花火して。」
「中学生らしいですね」古泉は微笑みながらそう言った。

「・・・まぁそんな普通の中学生らしいことをして3年間過ごしてきたわけだ。」

「しかし、あなたのことですからそんな日常が少々退屈だったのではないですか?」
俺は思わず「なんでだよ、それを言うならハルヒだろう」
そう言いかけて、やっぱり止めた。

「そうかもな。確かに俺は変わるようで変わらない日常に、少し退屈してたかもしれない。」
いや楽しかったといえば楽しかったんだぜ?
ずっとこのまま気楽な生活が続かないかなー、とか考えなかったわけでもないしな。
「人間ってのは矛盾した生き物でな、古泉。
 このままの生活がずっと続けばいい、って思ってても
 心のどこかでは変化を望んでるもんなのさ。」

「人間の心の矛盾、ですか。あなたの口からその言葉を聞くことになるとはね・・・」
クックと笑う古泉。なにが可笑しいんだ
「いえ、決してバカにしているわけではありませんよ。あなたの言うことはよく分かります。
 ただ、あなたも分かっているなら、そろそろトゲを落としてはどうですか?
 ハリネズミたちのジレンマにとらわれたままでは、心に生傷が絶えませんよ。」

「・・・なんのこっちゃ。」
やれやれ、まだこないのかねハルヒの奴は。





涼宮ハルヒの夏(05):そして夏の終わり


「もう九月か・・・夏が逃げてくな・・・」


(少し離れたところで)
「ねぇキョン、今日の谷口はえらく感傷的だね」
「そーか国木田、あいつはいつもあんなもんじゃないか?
 ・・・・まぁ、八月も終わりだしな、
 ああいう気分になるのも分からないでもないが。」

「夏が逃げる、ね」
「日差しの割りに風がある、涼しいな、今日は。」

「なんだか今日はキョンも感傷的だね。夏の終わりは人をセンチにさせるのかな?」
「人間なんて誰も似たようなもんさ。
 だれだって適当に優しく、適当に嫌味で。適当に怒りっぽく、適当に涙もろい。
 そして、」

「そして適当にセンチメンタルなんだね。」
「そういうことさ。   ・・・夏が逃げる、か」

「・・・」



「もうすぐ秋ね。読書に食欲、有稀にはいい季節じゃない?」
「・・・・・・」
「いい風が吹いてるわね・・・」

「・・・秋を語るには時期尚早。まだ夏は残っている」
「何か言った?」
「なにも。」

「そう。」
「そう」



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