『Short Summer Vacation』・中編

俺は次の日から、ハルヒを避けるようになった。もともと望んで入った団じゃないんだし、いまさらやめたって未練は無いと思うが、物事には順序ってもんがある。いきなり俺がやめたりしたら間違いなくハルヒは俺に食って掛かる。それじゃあ面倒くさいし意味がない。なるべく自然に、雪が積もっていくように少しずつ少しずつ、ハルヒから遠ざかっていこうと決めた。
死の宣告を受けてから、早くも1週間がたった。俺はハルヒとの会話を極力減らし、部室に顔を出す回数も不自然にならない程度に少しずつ減らしている。その甲斐あってか、このごろハルヒが俺に話しかけてくる頻度が減ってきた気がする。思った以上に上手くいっているようだ、このままなら世界を滅ぼさずにすみそうだな。誰もたたえてくれないのが寂しいが。
それにしても授業に集中できない。いや、当たり前か。もう成績なんてどうだっていいんだからな。なにやら教師が『これはセンターに絶対出るぞ』とか言って黒板バシバシたたいているが、今更どうしろというのだ、勝手に出ていろ。そもそもなんで俺は学校なんて来ているんだろうか。限られた時間を有意義に使うにはこんな無駄な時間の垂れ流しをしていないでこの広い大空のもとアイキャンフライと叫びながら飛び降りるくらいのチャレンジはあってもいいんじゃないだろうか。
ともかく俺はこうして抜け殻のように学校に行き、授業をBGMに眠り、まったく聞いていない友達の話に適当に愛想笑いで相槌をいれ、抜け殻のようにぼんやりと帰るというパターンを正確に繰り返した。期末テストがあったが俺にはもう関係のない話。俺は始まったとたんに名前も書かず眠った。0点上等、ドンと来い。テスト後にハルヒが何か言ってきた気がするが、内容は覚えていない。どうせ俺が開始早々眠りについたことに関して言っているんだろうが、もういいんだ。うらやましいだろう。
ちょうどそのころから、俺は遺品の整理を始めた。まだ俺が生きているのに遺品というのもなんだかおかしいが、ともかく見られたくないものは今のうちに処分しておこうと思ってな。俺は、ベッドの下やたんすの奥にしまっておいたエロ本やAVを取り出すと、本は縛って夜のうちに捨て、AVはラベルを剥がしてテープをぐしゃぐしゃにしてゴミ袋に入れた。誰かに形見分けすればよかったかもしれない。誰かって・・・誰だろうな?
それが済んでしまえばほかにしなければならないことなんてほとんど無いのだが、俺が死んだ後で親の負担を少しでも減らしてやりたいと思い、俺は要らない本やノート、教科書、服なんかを整理することにした。
片付けている途中で中学校の文集が出てきたりして、それを読んだり、卒業アルバムを見たりしながら片付けた。まだ未来があると思っていたころの俺の姿がなんだか懐かしくて、切なくて、かわいそうだった。そんな無邪気に笑うなよ。お前、あと数年しか生きられないんだぜ?
俺がおかしくなってきたのはそのころからだっただろうか。いや、むしろ今までの落ち着き払った様子の方がおかしかったのかもしれない。
ともかく、俺はこのころから夜眠れなくなった。眠っているとふと目が覚め、いきなり心細くなる。胸が締め付けられるような恐怖。叫びだしたくなるような絶望。そして悪夢。
それでも最初のころはまだ何とかなった。自分をだますようにして、平静を取り繕った。
しかし、絶妙なバランスで均衡を保っている天秤のような俺の精神状態を、根底から揺るがす馬鹿でかい衝撃が襲ってきた。それは、死の宣告を受けてから2週間がたとうとしていたころ。遺品整理も終わり、夏休みまであと数日と迫った日のことだった。
「ちょっとキョン、こっち来なさい」
俺はハルヒに呼ばれて屋上に引っ張り出された。懐かしいデジャヴ。いつぞやのような、かつ上げされている気分だぜ。
「あんた最近様子おかしいわよ!なんかあったわけ?失恋でもした?」
「なんでもないんだ、涼宮。心配してくれてありがとう」
俺は出来るだけ何もない風を装って、他人行儀にお礼を述べた。俺の発した『涼宮』という単語に、ハルヒの瞳が一瞬揺らいだ気がした。
「絶対変よ!!大体何?その態度!?気持ち悪いったらないわ、団長を敬うのは結構だけどね、あいにくあたしはそういうの気にしないのよ、だから今までどおりにしていなさい。で、どうしちゃったの!?」
ハルヒが俺のネクタイを引っつかみ、俺の上半身をガクガクゆすってくる。首が絞まるだろ、バカ。
「だったらさっさと白状しちゃいなさい!!」
「何も白状することなんかない」
「ウソよ!!!!」
ハルヒの怒声が響き渡った。
「あんた最近あたしのこと避けてるでしょ?気づいてないとでも思ったの!?ねえ、いったい何があったって言うの?教えなさいよ、一人で抱え込んでちゃ出る答えも出てきやしないわ。それとも一人で悩むのが格好いいとでも思ってんの?あー気持ち悪い、それ、病気よ?知ってる?中二病っていうらしいわ」
こいつの言葉なんて俺の頭に入ってはいなかった。そのときの俺は、脳裏を掠めるあのときのハルヒの姿を振り払うのに必死だった。しかし、嫌でも思い出されてしまう。あの、通夜のときに泣いてくれなかったハルヒ。
「・・・お前に分かるかよ・・・」
思わずつぶやいた。あのハルヒの姿が頭の中でエンドレス再生される。何で泣いてくれなかったんだよ、泣いてくれよ、頼むよ、だって俺は・・・――。
「やっぱり何かあったのね!!言ってみなきゃわからないわ!さあ、さっさとゲロっちゃいなさ・・・」
「お前に俺の気持ちが分かるか!!!!」
俺は叫んだ。びくっと体を震わせたハルヒは、俺のネクタイから手を離した。お前に葬式で泣いてもらえなかった俺の気持ちが、お前なんかに分かるものか。誰が泣いていなくても、お前だけには泣いていて欲しかったのに、お前だけは泣いてくれると思っていたのに。
「もう、ほっといてくれ・・・」
俺は力なくそういうと、ハルヒに背を向けて教室へと戻っていった。そして俺は気づいていた。ハルヒのことが好きだったんだと。馬鹿だ、俺は。今まで全然気づかないでいたくせに、ここまで時間が無くなって、しかもこんなどうしようもない状況になってようやく気がついたなんて、後の祭りもいいところだ。『後の祭り』なんて、昔の人もなかなかいいこと言うじゃないか。


その晩、俺は悪夢どころか眠れもしなかった。今までなんとなくぎりぎりでつながっていたつもりだったハルヒとのつながりが断たれ、俺はいよいよ独りになってしまった気がした。今までにないくらいの孤独、絶望、恐怖が俺の心をつかんで放さない。これまで感じてきたものとは規模がまるで違う。俺はベッドの上でひざを抱えていた。怖い。苦しい。辛い。切ない。このまま理性がどこかへ吹き飛んでしまって、俺は抜け殻の廃人になってしまいそうだ。このまま眠ったら、明日の朝起きることはないんじゃないだろうか。そう思うと、ますます眠れなくなった。
俺はだれかれかまわずメールを送った。真っ先に頭に浮かんだのはハルヒだったが、もう手遅れだ。俺はハルヒにはメールを送らず、それ以外の奴らから返信が来るのを待った。誰でもいいから、俺の相手をして欲しかった。一人で居るのが、強烈に怖かった。
しかし、時刻は夜の2時過ぎ。草木も眠る丑三つ時だ。誰も返してくれやしない。俺は心細い気持ちのまま、もう一度眠る努力をしてみようと布団にもぐりこんだ。
そのとき、携帯が鳴った。
『着信 長門有希』
「も、もしもし!?」
「・・・」
「あ、あの、俺・・・」
「・・・」
「夜遅くに、ごめんな・・・」
「・・・いい」
長門が、そうつぶやいた。なんだかすごく安心した。俺は一人じゃない、それが実感できたようで、すごく心が安らいだ。コイツには、助けてもらってばっかりで頭が下がる。
「ちょっと声が聞きたかったっていうか、寂しくなったっていうか・・・はは・・・」
「・・・」
「本当にごめんな、寝てるところに」
「・・・」
「じゃ、じゃあな」
「・・・まって」
電話を切ろうとした俺を、長門が呼び止めた。
「どうしたの?」
「どうって?」
「今のあなたはおかしい」
「いや、そんなこと・・・」
そういえば長門は、俺の死を知っている唯一の人間だ。そいつにこんな非常識な時間にメールを送ったら、どんな鈍感野郎だっておかしいとおもうだろうな。俺は、素直に白状することにした。
「俺・・・怖いかもしれない・・・」
「・・・」
「今までこんなこと感じなかったのに・・・俺・・・なんか、すごく怖い・・・」
「・・・」
「ひ・・・一人でいたくないんだ・・・寂しくて、怖くて・・・」
「・・・」
「なぁ、長門・・・」
「なに」
「今から会いに行っていいか・・・?」
俺は恐る恐る尋ねた。ここで拒否されたら、俺は本当に死んでしまうかもしれなかったが、答えはすぐに返ってきた。それにしても、通夜のときといい、今といい、どうしちまったんだろうな、俺は?
「いい・・・待ってる」
そういうと、電話は切れた。


長門は、マンションの外で俺を待っていてくれた。俺は長門と一緒にマンションの中へと入った。
「飲んで」
俺は、初めてこの部屋に来たときと同じように出されたお茶をすすった。温まるのは体だけではない気がした。
「俺、この前から荷物の整理始めたんだ」
「そう」
「昔のアルバムとか出てきちゃうと、片付けってなかなかはかどらないんだよな」
「そう」
「最初のうちは部屋散らかすだけで終わったようなものだったけれど、最近はだいぶ綺麗になったんだ」
「そう」
気まずい沈黙が流れた。
「・・・なんで・・・俺なんだろうな・・・」
おもわず本音が漏れた。言ったところでどうすることも出来ないからと、今まで決して口にせず、自分自身からも必死で隠してきた感情だ。それがどうして今もれたのか、よく分からない。
「俺、今まで極普通に生きてきたはずなんだ、そりゃSOS団に入ってからは、多少はおかしな経験はしたけれど、それでも普通の部類に入る人間だと思ってる」
声が震える。格好悪いったらありゃしない。
「なのに・・・どうして俺が・・・最後の最後でこんな残酷な目に・・・」
「必然」
この長門の声は、あまりにも冷たく、俺の鼓膜に響いた。
「何でだよ!?おい!!」
突然、俺は激昂した。
「長門、お前なら何とかできるんじゃないのか!?情報何とかの力で、俺を生かしてくれよ!!」
「それは不可能。許可が下りない」
「・・・っなんでだよおおおっ!!!」
俺は手元にあった湯飲みを思いっきり窓ガラスにたたきつけた。大きな窓ガラスは湯飲みで叩き割られてものすごい音を立ててあたりに散らばった。
「気が済むまで、そうしていい」
その長門の言葉が無性に頭に来て、俺は意味の分からない言葉を絶叫しながら身近にあるものを手当たり次第に破壊しまくった。
「・・・っ・・・!」
しばらくして、むなしさと、暴れることに疲れたせいとで、俺はその場に崩れ落ちた。
「・・・いっそのことさ・・・このまま俺と一緒に世界を道連れにしてやろうかな・・・?そうだ、俺一人がこんなに苦悩して馬鹿みたいじゃないか、今までどおりに何も知らなかったように過ごして、そして俺の死と同時に世界が終わるべきじゃないのか・・・?」
「選択権はあなたにある。わたしは、何も言えない」
そういうと長門は俺の前に座った。
俺が世界を道連れにして終わらせるなんて、そんなこと、出来るわけがない。確かに俺一人がこんなに苦しんでいるのは納得できない。でも、だからって、親や、妹や、友達や、ハルヒや、今目の前にいる長門や、古泉や、朝比奈さんたちを一緒に死なせるなんて、とても俺には出来ない。いや、それどころじゃない、今地球上にいる人間全員、生き物すべて、これから未来に生まれてくるであろう今はまだ形のない命、宇宙全体に広がる宇宙人たち、そいつら全員を俺のわがままで道連れにするなんて、出来るわけないだろ。俺は死んでもみんなには生きて欲しいと思う。きれいごととかじゃなくて、俺は本気でそう思っている。でも、だからこそ、俺はおかしくなりそうだ。怖くてどうすることも出来ず、だからといって思いっきり悪になりきることすらも出来ない。信じられない数の生き物の命が自分の双肩にかかっていると思うと、その重さで足元が崩れだしそうだ。俺はとんだ半端者だ。半魚人みたいだ。
だいぶ長いこと続いた静寂。俺の荒い息遣いだけが部屋に響いては、消えていった。その静寂を、唐突に長門が打ち破った。
「近頃のあなたは、とても辛そう」
俺は荒い息をしながら、それに答えた。
「・・・辛そう?・・・俺、が?」
俺は一瞬ぎくりとしながら、それを悟られまいと虚勢を張った。
「確かに今の俺はだいぶ参っちゃっているかもしれないが、それはついさっきからだ。別に自分の通夜をみてからそれほど心理的な変化があったとは思えないんだが」
ウソだ。俺はここまで来て、強がりのバレバレのウソをついた。これ以上長門に、宇宙人とは言え女の子に弱いところは見せたくなかったのかもしれない。
「表面的にはそう。死を恐れていないようにも見て取れた。しかし」
「?」
「あなたは逃げているだけ」
「それは・・・」
思い当たる節は多々あった。俺が遺品の整理を始めたあたりから、俺の心には波が立つようになったが、俺はそれを自覚しておきながらも意識しないようにしてきていたんだ。それは知っている。痛いくらいに、自覚している。
「自分の荷物を整理したことで、あなたは『それ』を少しずつ自覚し始めていたが、あなたは認めようとせず、無意識下に押しやっていた。しかし今日、涼宮ハルヒと会話したことがトリガーとなり今まで否定していたことすべてを一度に認識せざるを得なくなった。それはあなたが耐えられる情報量の限界を超えていた。否定することも出来ず、あなたは死に向き合った。現実を見た。だから怖い」
「うるせえ・・・」
俺は、自分の心理状態を的確に言い当てられてなんともいえない惨めな気持ちになっていた。
「怖いのは当然。むしろ今までのあなたの方が心理学的にありえない行動をとっていた」
「知ったような口を、きくなっ!!!!」
「怖い?」
「怖くねえ!!怖くなんかねえ!!!」
「恐怖している」
「うるさい!!黙れ!!黙れ黙れ黙れ!!!」
俺はいつの間にか長門を押し倒し、首に手をかけていた。長門は顔色一つ変えずに俺を見つめている。
「こうすることであなたの苦しみが消えるなら、いい。殺して。わたしを好きにして」
「・・・っ!!」
俺はそれ以上どうすることも出来ず、長門に馬乗りになった格好でしばらくこう着状態が続いた。そして、長門が、言った。
「わたしは、人間に生まれたかった」
俺はその言葉に心底驚いた。
「わたしは有機生命体の死の概念についてよく理解できない、よって、あなたの悲しみもよく理解できない」
「・・・」
「・・・悔しい」
信じられない。長門が悔しいなんていう言葉を発するなんて、夢にも思わなかった事態だ。俺は呆然として、長門を見下ろした。
「あなたの悲しみをともに感じることが出来ず、とても、哀しい」
いつの間にか、長門の首にかけられた俺の手は外れ、長門は上体を起こしていた。俺は長門にしがみつく。俺の口から言葉が自然に、ぽろぽろとこぼれ始めた。
「・・・怖い・・・すごく怖い・・・この気分、ほ、本当は今日が初めてじゃないんだ、前々から、怖いとは思ってて、でも、なんとかそれを無視してて、でも、俺には時間が・・・あと、2週間しか・・・」
言葉は無尽蔵にあふれ出してくる。今までずっと溜め込んできた不安を、俺はここぞとばかりにぶちまけた。
「い、今まで考えないようにしてきたけれど、本当はハルヒだって無視したくなかった・・・残りの時間、出来ることなら全部笑ってすごしたかった、でも、世界がかかってるとか言われちゃ、俺、どうすりゃいいのかわからないし・・・」
長門が俺を抱きしめる。細い体に見合ったか弱い力で、それでも一生懸命に俺を抱きしめる。
「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は泣いた。こんなに大泣きしたのはいつ以来だろうか、堰を切ったよう涙があふれ出た。


「なあ、俺はどうすればいいんだ?」
「・・・」
長門が綺麗に直した部屋で、俺は長門に尋ねた。
「今までは、ハルヒを無視してすごしてきたけど、もう、そういうのは嫌なんだ。哀しいし、怖い」
「そう。それでいいと思う」
「でも、世界が消えるのは、お前だって困るだろ?」
「好きに生きて。あなたが辛い思いをした結果に続く世界だったら、いらない。世界が終わっても、あなたには最期まで笑っていて欲しい」
その晩は長門の家に泊まった。俺は長門を抱きしめたまま眠った。宇宙人製抱き枕だ。とくに何があったというわけではないのが俺らしいといえば俺らしいのかもしれない。俺が悪夢で目が覚めるたびに、長門が『大丈夫、わたしがここにいる』といってくれたおかげでなんとか眠れた。
朝、俺は一旦家に荷物を取りに行かなくてはならなかったので、早めに長門の家を出て自宅に向かうことにした。
「長門、いろいろごめんな」
「いい」
「その・・・また、寂しくなったら、来ていいか・・・?」
ここで意外な答えが返ってきた。
「ダメ」
「次からは、涼宮ハルヒの元へ行くことを推奨する」
「なんっ・・・」
俺が口ごもったのは、長門がキスしようとしたからで、俺はそれを、反射的に顔を背けてよけてしまった。長門は哀しそうな表情をして(少なくとも俺にはそう見えた)俺を見つめ、そして、言った。
「今ので証明された。あなたが好きなのは涼宮ハルヒであってわたしではない」
「いや、これは・・・その・・・」
いくら好きな女でもいきなりキスされそうになったらそりゃよけるだろ?
「いい、無理しないで。それに、彼女とともにいたほうがわたしといるよりも安息が得られる。それがあなたのため」
「いや、でもな・・・」
「本来ならあなたたちだけで解決するのが望ましいが、時間がないのでわたしが代弁する」
「・・・な、何を・・・」
「涼宮ハルヒはあなたに好意を持っている。そしてあなたも。ここに他者の介入する余地はない」
俺は世界がひっくり返るんじゃないかというくらいに驚いた。あのハルヒが、俺を好きだと?
「あのな・・・」
正直それは嬉しいんだがな、にわかには信じられないんだ、長門。だってそうだろ?あの通夜でのアイツを、俺は忘れたわけじゃないんだ。好きな男が死んで、泣かないやつがいるか?
「理由がある」
理由って・・・。
「信じて。わたしも二人には付き合って欲しいと思っている。あなたの笑顔が見られるのが、一番嬉しい」
「・・・そうか・・・」
「そう」
俺は、今まで的確なアドバイスをしてきてくれていたこの小柄な宇宙人端末を信じることにした。今までさんざん当てにしておいて、今回だけ信じないなんておかしいよな。
「なんか・・・ごめんな、長門。いろいろ世話ばっかりかけて」
「いい」
「おれ、ハルヒに言ってみるよ、世界がどうなるかは分からないけれど、お前が言ったとおりに俺もしたいと思ってたんだ、きっと、心の奥底ではな。でも、一人だと怖くて・・・思い切れなくてな・・・」
「自信を持って。一刻も早い関係修復を強く推奨する」
「ああ、そうか、まず謝るところからだな。分かった。じゃ、また学校でな」
そして、俺は長門の元を去っていった。
その後で、長門が俺の後姿を見送って、涙を流したことなど、俺には知る由も無かった。
「・・・それでもわたしは、あなたが好きだった・・・」


俺がこれからどうすればいいのか、もう分かっていた。前に古泉が『自分に突然超能力が身についたとき、なぜかその使い方も分かっていた』と言ったが、まさにそんな感じだ。理屈ではなく、どうすればいいのかが分かる。
俺は放課後にハルヒを呼び出した。場所は、昨日ハルヒと話した階段だ。今までずっと逃げていたが、俺の死へのカウントダウンは半分を切りそうだったが、なぜか心は晴れやかで、すべてがここから始まる気がする。
「どうしたのよ、キョン?あたしだって忙しいんだからね!つまんない用だったらぶっ飛ばすわよ」
「ハルヒ、まず昨日のことなんだが・・・悪かった、謝る」
俺は単刀直入に謝罪の言葉を述べた。ハルヒは俺が謝ったということに心底驚いた様子だった。
「な、なによ、そんなこと気にしてたの・・・あたしはアレくらいぜんぜん気にしてないわよ!?なんてったって心の広い団長様だものね」
「そうか・・・ありがとうな」
「い、いいのよ、もう」
ここで少し沈黙をはさんだ。俺はなかなか話しが切り出せないでいた。
「話ってそれだけ?」
「いや・・・」
俺はまた口ごもった。ハルヒは黙って俺を見ている。何で顔赤いんだ?こいつ。
「なあ、ハルヒ、真剣に聞いてくれ」
「な、なによ、いきなり改まって!勿体つけないでさっさと言いなさいよ、どうせあんたのことだから・・・」
「ハルヒ!!」
俺は少しだけ声を荒げた。ハルヒは驚いてしゃべるのをやめ、俺を見つめる。
「すまん。俺の話を、真剣に、最後まで聞いてくれ」
「わ、分かったわよ・・・」
「俺はな、ハルヒ」
俺はハルヒの両肩をつかんで、
「お前のことが、ずっと好きだった。自分でもいつからかなんて分からないくらいに、ずっと前から、お前のことが好きだったんだ」
自分で自分の顔が赤くなっているのが分かる。さっきから赤かったハルヒの顔が、人間の顔はこんな色になるのかというくらいに真っ赤になっていく。ハルヒはコクリ、とうなずくと
「キョン・・・あ・・・あたしも・・・あんたのこと・・・好き、よ・・・」
これを聞いて、俺は心底安堵した。普通の高校生の告白だったらこれでおしまい、ハッピーエンドなはずだ。だが、俺の場合はそうは行かない。まだ、続きがある。できることならここで話をやめてしまいたい。普通の高校生カップルとしてあと2週間過ごすのもいいんじゃないか?俺だって一高校生なんだから、それくらい許されるんじゃないのか?
俺は、そんな頭の中の甘ったれた考えを必死で振り払った。友達や家族の顔が頭の中に浮かんでは、消える。俺の大好きな人たちを生かすために、俺の知らない、俺を知らない数多の命のために、俺は声にならない声を絞り出して、続けた。
「ありがとう・・・でも、な・・・」
がんばれ、俺。
「続きがあるんだ」
きょとんとするハルヒに向かって、俺は、ゆっくりと言葉をつむいだ。
「俺は・・・あと2週間で・・・死ぬ」
俺の必死で搾り出した告白を、ハルヒは一笑に付しやがった。まあ、当然のリアクションと言える。
「はぁ?あんたバカでしょ?なに浸ってんの!?やっぱり中二病ね、昨日変な映画でも観たんでしょ?セカチューとか冬ソナとか。あんたのやりそうなことだわ、あのね、やるんだったらもっとネタ仕込んで・・・」
俺は何も言わずにハルヒの目を見つめ続けていた。真剣に、ずっと。ハルヒはしばらくあきれたように笑っていたが、あまりに長い間俺が真剣なまなざしで見つめていたせいか、徐徐に表情から余裕が消えていった。どうでもいいが、セカチューや冬ソナとは微妙に系統が違うぞ。
「・・・ウソでしょ・・・?ねえ、今なら許してあげるわ、本当のこと言いなさいよ・・・」
「ああ。俺は、2週間後に、死ぬ」
「・・・ウソ・・・」
「俺だってウソだったらどれだけいいかと思ってる。でも、本当だ」
そこから俺は、前もって考えておいたウソを並べ始めた。
俺は世界でもほんの数例しかない超レアな病気にかかってしまった。それが分かったのは1ヶ月前で、今まで俺はそれを一人で抱えてたが、ようやく人に打ち明ける気になった。のこり時間はあと2週間で、2週間後、俺はぽっくり逝っちまう。ただ、それまでは普通の人と同じように過ごせて、ある時間になるといきなり死んじまう世にも奇妙な病気だ、という、まぁ俺にしては良く考えたウソだ。・・・よく出来てるよな?
「だから、ハルヒ。残りの時間は、お前と一緒にいたいんだ」

パアン!!

突然、ハルヒが俺の頬をひっぱたいた。いってえ・・・。
「・・・んで・・・なんでそんなこと言うのよ!!そんな話聞いてあたしがなんとも思わないとでも思った!?せっかく、せっかくキョンと付き合えて、これから楽しいこといっぱいあるのかとか思ったのに、こんなのって・・・ひどい・・・」
目に涙をいっぱいにためたハルヒは怒っていた。それはそれは哀しそうに、辛そうに、怒っていた。
「だったら告白なんてしないで欲しかった!!あんたの気持ちをしらないで、あんたが勝手に死んだ方が、よっぽど傷つかなかったわ!!バカ、バカキョン!!」
ハルヒはそういうともう一発俺をはたいて、走り去っていってしまった。
「・・・辛い・・・」
はたかれたことなんてどうでもいい、ただ、『あんたが勝手に死んだ方が、よっぽど傷つかなかった』なんて、それがすごいクリティカルヒットだ。やっぱり俺は、余計なことをしてしまったのだろうか。前みたいに少しずつハルヒから遠ざかっていた方が良かったんだろうか。
そのとき、俺の携帯に着信が入った。古泉だ。
「・・・はい」
「どうも。ちょっと困ったことになりましてね、ええ、閉鎖空間なんですがね、ちょっと規模も数も僕らだけでは対処しかねていまして・・・またあなたと涼宮さんがらみのものだと推察しますが?」
何をのんきな、少しは俺の気持ちも・・・ああ、そうだった、コイツにはまだ話していなかったな。俺のことを。あれ?そういえば昨日は閉鎖空間は出現しなかったのだろうか。それとも俺に報告することのないほどの規模だったのかもしれない。
「出来れば涼宮さんと仲直りしていただけませんかねえ・・・っと、僕は次の神人を刈らねばなりませんので、失礼します。くれぐれも、頼みましたよ」
そういうと、一方的に電話は切れた。
どうすればいいんだ?一度は覚悟したはずなのに、たったこれだけのことで戸惑ってしまうなんて、俺は、なんてもろい・・・。
そのとき、俺は背後に人の気配を感じた。俺はふりかえり、その人物を確認する。
「来ちゃった」
朝比奈さん(大)はペロッと舌を出してそう言った。
「大丈夫?」
「・・・わからないんです・・・」
俺は正直にそう言った。そして、今起こったことを朝比奈さんにすべて話した。
「俺、どうすればいいんだか・・・」
「・・・ごめんなさいね、キョン君」
そういうと朝比奈さんは、俺の頬をひっぱたいた。本日3回目だ。
「今のキョン君は、わたしが見た中で一番かっこ悪いわ」
「・・・」
「どうするか、決めたんじゃなかったの?決めたんでしょ?」
俺は黙ってうなずくしかなかった。
「なのに、こんな中途半端なままでいいの!?勝手に死んだ方がいいなんて、あの涼宮さんが本気で言うとでも思ってるの?」
正直あいつなら言いかねないな、と思ったが、今そんなことを言ったら4度目のビンタをもらってしまう。
「このままあと2週間すぎても、何も変わらないわ。確かにキョン君が涼宮さんから徐々に離れていけば世界は滅びなかったかもしれないわね。でも、あなたは違う方法を選んだの、もうやり直せないのよ?だったら、今出来るうちで最善を尽くすしかないでしょう?」
朝比奈さんはにっこりと笑って、続けた。
「たたいちゃってごめんなさいね、でもね、涼宮さんをもっと信じて・・・それから・・・未来人のわたしがこんなこと言ってもいいのか分からないけれどね」
コホン、と咳払いした。
「わたしのいる未来が、あなたが苦しみながら守った未来なのだとしたら、わたしはそんな未来要らないわ」
これと似たような言葉を、俺は何時間か前に聞いた気がする。
「だから、涼宮さんにすべてを打ち明けたあなたを、わたしは支持するわ。この時代にいるわたしも、長門さんも、古泉君も、きっとそう言うと思うわ」
胸がぎゅっと締め付けられたような気がした。嬉しくて、本当に嬉しくて、そして俺はまた泣いた。泣き止むころにはすっかり夕日が沈み、下校時刻もとっくにすぎていた。
「本当に大丈夫?」
朝比奈さんが心配そうに俺に尋ねた。
「はい」
大丈夫だ、もう、大丈夫。俺は一人じゃない。
「今更って思うかもしれないけれど、涼宮さんに『さっきのは全部ウソなんだ』って言って、幸せに、普通の高校生カップルとして最後の2週間を送ったっていいのよ?」
「それ、本当に今更ですね」
俺がそういうと、朝比奈さんはくすっと笑い、ほんとね、とつぶやいた。
「涼宮さんなら、まだ部室にいるはずよ。わたしに出来るのはここまでね・・・頑張って・・・」
そう言って朝比奈さんは俺に背を向けた。
「朝比奈さん!!」
俺は思わず叫んだ。
「・・・その・・・俺、きっとあなたが生きられるように、頑張ってみます。だから・・・」
安心して未来で待っててくださいね。


ハルヒはいすに腰掛け、窓枠に頬杖ついて外を見ていた。俺が部屋に入ったことにも気がついていたはずだが、まったく反応しなかった。
「もう、夜だな」
無反応。
「帰ろうぜ・・・」
無視。
「遅くなるぞ・・・?」
反応は、なし。蝋人形とかいうオチじゃないよな?俺は無視を決め込むハルヒを無視して話し出した。無視を無視するっていうのも、新しいな。
「俺・・・夜が怖いんだ・・・」
今度は少し動いた気がした。
「一人でいるのが、すごく怖い・・・お前に見栄張ってもしょうがないから言うけど、最近もう、ろくに寝れていないんだ」
特に昨日はひどかったぞ、お前のせいでな。いや、お前のせいにするのはお門違いか。
「夜が怖いんだ。一人になるのが、静かなのが、真っ暗なのが。死んだらこんな感じなのかって思ったら・・・それこそ死にそうだ・・・」
いつの間にかハルヒは俺の方を向いて俺の話を聞いていた。
「だから、誰かに聞いて欲しかったけれど、それを口にするのも怖くて・・・でも、今日やっとの思いでお前に言えたんだ、夜一人のとき、一番に聞きたいのがお前の声だと思ったし・・・後悔して死ぬのは嫌だったんだ・・・俺、勝手で、ごめんな」
「・・・な・・・い・・・」
ハルヒが何かつぶやいた。
「ご・・・さい・・・ごめんなさい・・・」
涙がこぼれる臨界点まで、ハルヒは目に涙をためていた。
「勝手に死んだ方がよかったなんて・・・本当に、ごめんなさい・・・あたし、キョンがそんなに苦しい思いしてるなんて思わなくて・・・キョンのこと何にも考えてあげられなくて・・・ただ、自分のことばっかり・・・」
そういうと、今までぎりぎりでこぼれずにいた涙を泣きながらハルヒは俺に歩み寄ってきた。
「あたしにはキョンの気持ち分からないの・・・ごめんね・・・でも、今のキョンの話聞いただけで・・・あたしまで、怖いわ・・・。そうよね・・・怖い、よね・・・誰かに頼りたいよね・・・」
ハルヒは泣きながら俺にしがみついてくる。
「キョン・・・あたしでいいの・・・?」
「ああ・・・俺は、お前に、いて欲しいんだ・・・お前と一緒だと、どんな恐怖でもあっちから逃げていっちまいそうだしな」
「・・・バカキョン・・・」
「お前こそ、いいのか・・・?俺、これからどんどん取り乱したりとか、お前に八つ当たりしたりとか、そういうの、すごくあると思うんだ・・・」
「あんたって、ほんとバカね」
ハルヒは俺の鼻にでこピン食らわして、そういった。
「それであんたの気が収まるんなら・・・あたしはかまわないわよ。あたしを好きにしなさい!」
そういうとハルヒは俺に抱きついた。そして、ふいに俺に顔を近づけてきた。俺は、逃げずに受け止めた。ハルヒと、何度もキスをし、何度もお互いの名を呼び、何度の愛の言葉をささやいた。
どれくらいそうしていただろうか。俺たちは、どちらが言い出したわけでもなく、手をつないで下校した。部室を出てからハルヒは一度も俺から手を離さず、俺の家まで送ってきてくれた。
「いい?夜中に不安になったら、夜の2時だろうが3時だろうがバンバン電話してきなさい、このあたしが何時間でも話し相手になってあげるわ!!」
ハルヒはいつもの威勢のいい表情でそういうと、急にしおらしい顔になって俺に寄りかかってきた。
「キョン・・・・・・頑張って、じゃなくて・・・無理しないで、っていうか・・・その・・・」
言葉が見つからないんだろう。俺だってこういうときなんていえばいいのかわからない。なんて言われたいんだろう?俺は。
次の瞬間、ハルヒの口から出た言葉は、俺にとってとてもすばらしい言葉だった。そうだ、俺は、こういうことを言って欲しかったのかもしれない。
「甘えなさい、あたしに」


その日の夜、古泉と朝比奈さんに出てきてもらって、いつもの喫茶店で長門と一緒に俺のことを全部話しておいた。俺があと2週間で死ぬことはもちろん、ハルヒには病気だとウソをついたことも含めて。そこを話しておかないとあとあとややこしいことになるからな。もっとも、俺が俺自身の通夜を見に行ったことや、この件に朝比奈さん(大)がかかわっていたことなどは秘密にしておいた。別にしゃべる必要があったとも思えないし、わざわざ朝比奈さん(大)が来たということはそれなりに未来人の思惑があるんだろうし。しゃべらなくても二人とも信じてくれたしな。
二人とも、俺が思っていた以上にあっさりと信じてくれた。もともと未来人と超能力者という、むしろこっちが信じられないようなキャラ設定の二人なだけに、信じられない話には慣れているようだ。
「そうですか・・・それは・・・お気の毒としか、言いようがありませんね・・・」
そう言ったのは古泉だ。さすがにいつものにやけ面はなく、いつになく真剣な面持ちで俺の話に耳を傾けていた。この状況でにやけ続けていたら、それはそれで尊敬に値する。
「僕に出来ることであれば、何でもおっしゃってください。世界のためなら『機関』も援助は惜しみません。あなたが求めるようなたいていのことであれば、『機関』の力で実現できるはずですから。もちろん、僕は機関云々抜きに、一個人としてあなたをサポートするつもりです」
朝比奈さん(小)は、冷静な古泉とは対照的にひたすらに涙を流し続けていた。
「そ・・・そんなっ・・・うぐっ・・・き、キョン君があぁ・・・ぐすっ・・・」
俺のために泣いてくれるのは嬉しいんですがね、朝比奈さん、まだ死んでませんよ?いまからそれじゃあ葬儀のときが思いやられます。
「とにかく今一番考えるべきことは、あなたが残りの時間をどうすごすかということです」
「ああ、そうだな・・・」
そう、考えるべきは、そこなんだよな。
「おそらく明日あたりに涼宮さんからあなたのことについて我々に告知があるでしょうから、僕と長門さん、朝比奈さんはそのとき初めて知った、ということにしておきましょう。涼宮さんのことです、あなたが勝手に話したと知ればへそを曲げかねません」
「ああ。そうしよう。それから俺が死んだ後のことなんだが・・・」
「それはあなたが心配することではない」
長門が口を挟んだ。
「事後処理はわたしたちが責任を持って行う。あなたの両親と涼宮ハルヒ、その他友人たちとの間に話の食い違いが発生しないよう的確な処置を施す」
そうか、大丈夫なのか?それ。
「上手くやる」
「なんか・・・悪いな、俺が死んだ後まで迷惑かけるなんて・・・」
「何を言っているんですか?普通死後のことには関与できないんですからここは遠慮なく僕たちに任せるべきですよ」
「ぐすっ・・・そ、そぉですよぉ~、キョン君が・・・まも、守った世界を、わたしたちも守りますからぁ、ね?」
「死人に口無し」
長門、それは・・・。
帰り際に、古泉が俺に話しかけてきた。
「今日は助かりましたよ、あ、閉鎖空間の話です。まさかあんなにさっぱりと収まるとは思いませんでしたよ。今のところ再発の兆候はなさそうですが・・・」
少し困ったような顔で古泉は言った。
「正直、あなたがそのようなことになってしまったとなると、薄氷の上を歩いているような状態ですね、その・・・2週間後が迫れば、それだけ涼宮さんの精神も不安定になるでしょう」
「・・・なあ古泉、頼みがあるんだが」
「珍しいですね、あなたから僕に頼みがあるなんて」
「二つほど、聞いてくれるか?」
「あなたの頼みとあれば、無理にでも」
古泉は、いつもの笑顔で、そう言った。
その日一番困ったのは、実は夜中に1時間おきにかかってくるハルヒからの電話だ。だがおかげで、俺は何とか眠ることが出来た。困りはしたが迷惑ではなく、むしろ嬉しすぎて寝付けなかったくらいだ。


次の日、SOS団緊急集会が行われた。実際は全員がすでに知っていたわけなんだが、ハルヒはそれを知らないのでみんなが上手くあわせてくれた。実際古泉は見事な演技をしてみせたし、朝比奈さんはまるで初めて聞いたみたいにして泣きじゃくっている。これは演技ではないのだろう、いや、ぜひともそう思いたいね。自分のために美人が泣いてくれるのは、不謹慎かもしれないが悪い気はしない。事態を一番良く知っている長門は、いつもの無表情。ただ、少しだけ哀しそうな顔をしてくれたような気がしなくもない。
「ほら、みくるちゃん、泣かないの!まだあと2週間もあるじゃないの!!カゲロウなんて2,3日で死んじゃうのよ?それと比べれば長い長い!!天と地の差よ」
ハルヒはそう勢いよく言ってのけた。あえて死ぬことをぼかさず、ストレートに向き合ってくれていることが、俺は嬉しかった。
「とはいえそれほど長い期間ってわけでもないわね。そこで、SOS団団員には明日から全員夏休みに入ってもらうわ!!」
なんだ?夏休みって・・・?夏休みが始まるのはあと2日後だぞ?
「キョン、セミは地上にいる2週間、ひたすら鳴き続けて子孫を残すの、無駄なことはしていられないわ!!大体キョン、あんた無駄な時間使いすぎよ、まったく、縁日の金魚みたいになっちゃって・・・」
それは無気力ってことか?じゃあお前だったらどうするっていうんだよ。
「あたしだったら『アイキャンフライ!』とか叫びながらビルからダイブするわね、何事も経験だし」
それは俺も考えたな。だがな、俺もお前もあいにく俳優じゃない。たぶん、生きては帰れないぞ。
「いい?明日からここにいる全員、夏休みよ!!そして、遊んで遊んで遊びまくってひと夏の思い出を作るのよ!!」
完全に破綻してやがる・・・。俺は、自分のためにやってくれていることだとは分かっていながらも、それでもハルヒの奇行に頭を痛めていた。
「早めの夏休みですか、それは面白いですね」
団員一のイエスマン、古泉が言った。
「ちょうど僕も早めの思い出が作りたいと思っていたところでして、ちょうどいい機会ですよ」
どういう思い出だ?早めの思い出ってのは?え?分かりやすく30文字以内に収めて説明してみろ。
「ほかのお二方はいかがです?」
「・・・いい」
そう言ったのは長門だ。
「ちょうど2ヶ月遅れの五月病にかかっていたところ。学校には辟易していた」
おい長門、2ヶ月遅れの五月病ってなんだ?ハルヒのギャグがうつったか?あと2日くらい耐えろよ。
「わ、わたしもぉ、今、クラスが受験ムードでピリピリして居辛いな~なんて思ってて~ぇ・・・」
朝比奈さん、まだ7月ですよ。もうピリピリしてたら神経持ちませんって。
「じゃあ、全員参加でけって~い!!さーて、次はスケジュールだけれども・・・」



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