「大変な名演技でしたね」
「お前がやらせたんだろう」
「ですが、涼宮さんは御満悦のようですよ」
「何、勝手なこといっるの古泉君。満足なんてしてないわ。
なんでよりによって、副長がキョンなのよ。SOS団の副団長は
古泉くんなのに。おまけにどさくさにまぎれて勝手にキスされるし。
最低だったわ」
「あんなこといってるぞ、古泉」
「言わせておけばよろしいのでは?実際、あなたは浸水が完了する前に、
つまり、溺死する前にこちらの世界に戻って来られました。
5人があっちの世界に行き、5人が無事戻って来ました。誰れも死亡は愚か、
怪我さえしませんでした。涼宮さんが満足している証拠ですよ。
大成功です」
「わけの解らないこと言ってないで、つぎに行くわよ」

次のアトラクションはセンター・オブ・ジ・アース。平たく言うと
地下ジェットコースターだ。このアトラクションは待っている間も退屈しないように
順番待ちの列にも豊富な展示物がある。ハルヒは展示物の前でもいちいち
盛り上がっていてうるさいったらない。それにしても、本当に楽しそうだな、ハルヒ。
いっそのこと、TDR(東京ディズニーリゾート)に住んだらどうだ。
お前は作り物の不思議なんて鼻も引っかけないと思ったがな。

かなり長い待ち時間の後、更にエレベーターに誘導される。このエレベーターに
乗ってるのはたまたまSOS団の5人だけ。エレベーターからおりると既に
俺たちは閉鎖空間に足を踏み入れたらしく、5人とも奇妙なコスチュームに
着替えている。アトラクションに乗る前にもう、閉鎖空間に移行か。
準備良すぎだなハルヒ。目の前には、先頭にドリルなんかがついた、
いかにも地底探検車って感じの装甲車が一台。

「全員搭乗。出発するわよ」
はいはい、どうせお前が隊長だろ。
「決まってるじゃない。今度は副隊長は古泉くんね」
「光栄です」
良かったな。古泉。今度はお前がハルヒにキスしてやれ。
俺は今度はパイロット役らしく、操縦席に座らされている。
「発進!」
とハルヒがいうんだからそうなんだろう。アクセルを踏んで、レバーを
前に倒すと、ドリルは地面を掘り始めた。轟音と振動。
地底を進んでいく探検車。

「まずいことになった」
「なんだ、有希」
「現実世界にいる我々の分身が消えかけている」
「どういうことだ?」
「つまり、涼宮さんは現実世界に戻る気を無くされたのでしょう。
このまま、ここにいた方が幸せだと」
「なんでそうなる」
「さっきのアトラクションでのあなたの演技が素晴らしすぎたのでしょう。
涼宮さんはこのアトラクションの中の閉鎖空間が気に入ったんでしょうね」
「なんてわがままなやつだ。満足できなければお約束の神人登場の閉鎖空間を
作ったり、人を何度も殺したりするくせに、気に入りすぎたら
今度は帰りたくなくなっただと!自分勝手にも程がある」「まあ、落ち着いて下さい。涼宮さんも意図的にやっているわけでは
ありません。彼女は自分の力をまったく認識してないのですから」
「何、落ち着き払ってるんだ古泉。帰れなくていいのか」
「それは困りますが当面、打つ手は何もないので」
「話すぞ」
「何をですか?」
「全部だ」
「全部とは」
「全部は全部だ。おまえが超能力者で長門が宇宙人で朝比奈さんが未来人で
おまけに本人は、自立進化の可能性、兼、時空の歪み、兼、神、だってことを」
「それはまずいのでは」
「彼女の反応が予測できない。非常に危険」
「他にどういう方法があるんだ?要するに現実世界はあいつが思っているより
何倍もおもしろくて、こっちにいる必要なんか全然無いってことを
認識させるんだ。それ以外に、現実に戻る方法は無い!」
「そこまでおっしゃるのでしたら止めませんが、何が起きても知りませんよ」
「いいから操縦を代われ」

「ハルヒ」
「何よ、ここでは隊長と呼びなさいよ。そういう設定でしょうが」
「いつまでここにいるつもりだ」
「いつまでってアトラクションが終わるまでよ」
「いつ終わるんだ」
「そんなこと知らないわよ。いいじゃない、いつだって。今のままだって
充分楽しいんだし。地底よ、地底。前人未到の地底体験なのよ。
きっと目をみはるような不思議がいっぱいあるわ。あー、考えただけでわくわくする!」
「現実は小説より奇なりって話を知らないのか?」
「なによ、いきなり」
「こんなのは、お前が頭の中でつくり出したまがい物の現実に過ぎない。
あっちの世界、お前が捨て去ろうとしている世界の方がよっぽど
おもしろいことが一杯あるんだぞ」
「何いってるのよ。向こうの世界は退屈なだけじゃない。こんなわくわくすることは何
も..」
「長門は宇宙人だ」
「へ?前もあんたそんな狂ったこといったことがあったわね。そんなこと信じられないって
いったはずよ。大体、有希が宇宙人だなんて本人の前でよくまあそんなことを」
「わたしは宇宙人だ」
「え、今なんて言ったの?」
「わたしは宇宙人。正確には情報統合思念体が作りだした、対有機生命体コンタクト用
ヒューマノイドインターフェイス」
「何、狂ったこと言ってんのよ、有希。そんなことあるわけ...」
「朝比奈さんは未来人だ」
「な、何をいいだすのよ。みくるちゃん、とうとうキョン、気が狂ったみたいよ」
「ごめんなさい。わたし、本当に未来人なんです。遠い未来から来ました。
この時間平面は私が本来属する場所ではありません」
「みくるちゃんまで。どうなってんの一体。みんなでぐるになってあたしを
からかうつもり?こんなことして、わたしがおとなしくだまされるとでも...」
「涼宮さん、かくいう僕もただの人間ではありません。超能力者です」
古泉は右手を掲げると赤い球体を出現させてみせた。
「それはこのアトラクションの特殊機能じゃないの?」
「違います。ここがあなたがつくりだした閉鎖空間だからです。
僕の超能力はあなたが作りだした閉鎖空間でだけ、有効になるのです」
「わかったか、ハルヒ?おまえの知らない間におまえの望みはあっちの世界で
かなえられていたんだ。宇宙人、未来人、超能力者とおまえは毎日遊んでたんだ」
「うそうそうそ、うそよ。そんな、願っただけで望みがかなうわけ無いわ。
閉鎖空間って何よ。超能力者?宇宙人?未来人?そんなの本当にいるわけ無いじゃない」
「そうだな、ハルヒ。本当ならその通りだな。だがな、お前には願ったことを
現実にする特殊能力があるんだ。宇宙人、未来人、超能力者が出現したのは
おまえがそう望んだからだ。彼らはおまえが暴走しないように監視するために
それぞれの組織から送り込まれた監視員みたいなもんなんだよ」
「そんなこといったって信じないんだから。じゃあ、あんたは何よ。
有希が宇宙人で、みくるちゃんが未来人で、古泉くんが超能力者で、
あたしが望みを現実化するスーパーパワーの持ち主だっていうなら、
あんたはなんなのよ」
「おれは普通の一高校生だ」
「ほら、みなさい。ネタ切れで自分がなんだかおもいつかないから適当なことを...」
ハルヒは口では強がっていたが、相当動揺しているのは間違いなかった。
その証拠に地底探検車の内壁はすでにぼやけはじめていた。あとひと押しだ。
「おれはただの普通人だが、おれがここにいる理由はおまえがおれを選んだからだ」
「何いってんのよ、あんたを選んだおぼえなんかないわよ。1回くらい
キスしたくらいで、しかも、演技でキスさせてあげたくらいでうぬぼれないでよね」
「ハルヒ、俺がお前にキスしたのは海底二万マイルのアトラクションが初めてじゃない」
「何言ってんの?いつしたっていうのよ」
「お前は1年の5月に悪夢をみて一晩眠れないことがあっただろう?夢の中で
俺はおまえにキスしたはずだ。あれが一回目だ。海底二万マイルは二回目なんだよ」
「夢の中でキスしたのを数えるなんておかしいわよ。ていうか、なんであんた
そんなことしってんのよ」
「あれは夢じゃないんだ。今、俺たちがいるここと同じ閉鎖空間だ。
お前が現実から逃避するために作り上げた異世界だ」
「うそうそうそ、そんなのうそよ。100歩ゆずって、あんたのいうことが
本当だとしても、なんであっちに戻らないといけないのよ。
こっちに宇宙人、未来人、超能力者はみな来てるんでしょ?もどる意味なんか無いじゃない。
あんたはこの状態が不満なの?」
「不満じゃないさ」
「え?」
「不満じゃない。もし、人類が滅亡の危機にに瀕して、5人だけ生き延びることが許されたら、
俺は迷うこと無くこの5人を選ぶよ。でもなあ、ハルヒ、お前が戻らないと、
向こうの世界は消えてしまうかも知れないんだ。そうなったら、国木田や谷口や鶴屋さんや阪中さんや
その他、もろもろの人々が消えてしまう。俺が戻りたいんじゃない。もどらなきゃいけないんだ、
おまえは。わかってくれ」
「いやよ、絶対、嫌。こんなに楽しいのに、どうしてもどらなきゃいけないの、
そんな与太話絶対信じないわよ」
驚いたことにハルヒの目は涙でいっぱいだった。この女でも涙を流すことなんかあるのか。
だが、同情はできない。俺たちはもどらないわけにはいかないんだ。
「ハルヒ」
「何よ」
「おまえはあの悪夢の翌日、ポニーテールにしてきただろう」
「そうだったかしら、覚えてないわ。いきなり、何の話よ」
「俺はなんでおまえがポニーテールで来たか知っている。
夢の中で俺がおまえに何か言ったからだ」
「何の話よ。わからないわよ」
「俺は言った。
『俺はポニーテール萌えなんだ。いつかのおまえのポニーテールは
反則的なまでに似合っていたぞ』って。だからお前は次の日の朝、
ポニーテールで登校したんだ」
「そんな、そんなことって、どうして?あれは夢じゃなかったの?」
「ハルヒ、俺はお前に選ばれた『鍵』としてお前に命ずる。あっちの世界へ、
現実世界へもどるんだ、いますぐ!」
探検車の壁が激しく揺らいだ。全ては闇に包まれ、何も見えなくなった。



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