TDR(東京ディズニーリゾート)では園内で弁当を広げてはいかんと
いうことになっている。それはひとつには、「園内でおにぎりなんかパクつかれたら
雰囲気ぶちこわし」ってことだろう。従業員をキャスト、来場者をゲストと
呼ぶセンス、清掃要員さえ真っ白なコスチュームを着せてあくまで
ゲストをもてなすための一要素として活用しようとするポリシーから
すれば無理もない。また、一方では、「園内で食べ物を買ってもらうのも
入場料のうち」ってこともあるだろうな。なにせ、パスポートを買ってしまえば
基本的にアトラクションは無料で乗り放題だ。後は食費やお土産代で稼ぐしか無い。

とはいっても、標準的な一家4人の家族にとっては4人分のパスポート代だけだって
馬鹿にならない出費なわけで、弁当完全禁止ってのもリアルな選択肢とはいえない。
で、園外の入口そばにこんな「お弁当エリア」が設定されているわけだ。
俺はと言えば、朝比奈さんが腕によりをかけて作ってくれた弁当を食べて
幸せの極致だ。朝比奈さんが笑いながら「ハイ」って言いながら、
コップにお茶をついでくれる瞬間は本当に癒される。
あとこれから、何回死ななくてはいけないかも解らない身の俺としては
本当に心休まる一時だ。

「このままではまずい」
「どういうことでしょうか?」
「わたしの計算では、彼はあと20回ほど死亡を経験する」
「それは随分と多いですね。アトラクションの数はそんなに無いと思いますが」
「死亡は1アトラクションあたり1回とは限らない」
「それはお気の毒としか言いようがありませんね」
「肉体的な損傷は無くても、精神的なダメージは大きい。
有機生命体の精神は一生の間に複数回の死亡を経験することを
想定して作られてはいない。短時間に10回以上の死亡を経験した
ばあいのダメージは予測不能」
「彼はどうなるのですか?」
「有機的な情報処理システムに回復不能のダメージをうける可能性がある」
「と言われますと?」
「通俗的な言い方では精神に異常をきたすおそれがある」
「....。もともと、今回のプランはあなたが設計したものではありませんか?」
「彼の死亡回数の計算を誤った」
「それはまた、なぜですか?」
「涼宮ハルヒがこれほど多数回、彼の死亡を望むとは予測できなかった」
「彼の死亡は涼宮さんが望んだことだと」
「そう」
「なんでまた?」
「理由は不明。推測は可能」
「お聞きしたいですね」
「これは、普段の彼の煮え切らない言動に対する涼宮ハルヒの不満が実体化したもの」
「なるほど。あの鈍感男に対するはらいせ、ということになりますか?」
「通俗的な言語ではそうなる」
「つまり、彼が煮え切らない態度を改めれば、彼の死亡回数は減少すると」
「そう」
「では、その様なアドバイスを彼になされればいいのはありませんか?」
「その解決方法には問題がある」
「どのような?」
「彼が煮え切らない態度を改めて涼宮ハルヒを受け入れることを、私という
個体が望んでいない」
「....。で、御自分では言えないので僕に言えと」
「そう」

「なんだと!」
僕が彼に事情を説明すると、彼は激しい拒否反応を示した。
「そんなことできるか」
「選択権はあなたにありますが、御自分の身を守るためには必要な
ことではないかと」
「具体的にどうしろっていうんだ」
「あちらの世界で告白して頂ければいいと思います」
「そんなことはできん」
「所詮は、向こうの世界の話です。彼女の異世界創造能力は
急激に上昇しています。カリブの海賊では涼宮さんは、本来、
アトラクションに存在しないジャックスパロウまでつくり出しました。
これは今までに無い傾向です」
「何が言いたい?」
「つまり、あなたの死亡シーンもよりリアル度を増すことが予想されます」
「....」
「一方で、涼宮さんはあれほど現実的な異世界を作りながら、
それがアトラクション内部のできごとであることに異常なまでに
固執しています。ある意味では閉鎖空間でのできごとは「現実」な
わけですが、彼女は無意識のうちのあれが「現実」であることを断固、
拒否しています」
「だから?」
「要するにですね、あっちの世界であなたが彼女にコクッたところで、
それは彼女にとってはアトラクション内の出来事に過ぎないと解釈される
だろうということです。こっちの世界に戻って来たときには尾をひかない
可能性は高いです。涼宮さんは、あの世界であなたと楽しい時をすごすことを
切望してアトラクションのコンセプトを実体化している。しかし、あなたが
彼女が期待する役柄を充分に演じてくれないためにストレスが溜っています。
で、自分の期待どおり行動するキャラクター(カリブの海賊のジャックスパロウ
のことですが)を生成した」
「いいじゃないか。俺はお払い箱ってことだろう」
「しかし、結局、涼宮さんはスパロウとの世界より、あなたとのこの世界を
選択したのですよ。代役は代役に過ぎません。やはり、本命が活躍して頂かないと」
「気持ち悪いこと言うな。誰れが本命だ」
「ここであなたが涼宮さんのことを「本当は」どう思っているかというような
ことを追求するつもりはありません。所詮はアトラクションの中での話です。
彼女が望むような役をちょっと演じて差し上げればいいだけです。
簡単じゃないですか?」
「断る」
「なぜでしょう?あなたは前回、その様な役をみごと演じきったではありませんか。
おかげでこの世界は救われた。今度は御自分のためです。それともあれは『演技』
ではなかったんですか?」
「うるさい!」

古泉の馬鹿がへんなこといったおかげで、安らぎの時間の安らぎの時間たる
属性はすっかり失われてしまった。次のアトラクションでおれはどう振る舞えば
いいんだ?全く何もかもお前のせいなんだぞ、ハルヒ。お前は何を考えている?
本当のお前の望みってなんなんだ?教えてくれ。



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